1221 おじさん不在の学生会室で聖女が熱く語る
引き続き、学生会室である。
きゃいきゃいと騒ぐ薔薇乙女十字団。
さもありなん。
聖女が持ちこんだ野蛮な遊びが新鮮だったのだ。
ルールはシンプル。
床にカードを叩きつけて、おかれているカードをひっくり返す。
それだけである。
そもそも王国貴族は脳筋の血を引く者が多い。
あのおじさんとて、そうした側面があるのは否めないだろう。
つまり――蛮族の素養があるわけだ。
誰しもが。
ましてや聖女基準で言えば、中学二年生か三年生。
そりゃあもう蛮なる遊びは楽しいわけである。
しかも家のように他人の目がないのだ。
少しくらい羽目を外してもおかしくない。
そういう状況が整えられていたのだ。
「はりゃあああ!」
ふだんは大人しいジャニーヌ嬢。
薔薇乙女十字団の料理人が声を荒げる。
びたーんとメンコが床にたたきつけられた。
だが、ひっくり返らない。
「くうう! 思っていたよりも難しいですわね!」
実に楽しそうな笑顔を見せる。
それは他の御令嬢たちも同じであった。
しかし、そんな中で一人ペラペラとホルダーを見ている者がいた。
キルスティだ。
聖女がおじさんにねだったメンコ。
様々な魔物の絵が描かれているのだ。
それを興味深そうに見ていたのである。
「ほおん……色々な魔物がいるのですねえ」
などと独り言を言いながら。
ただ、ピタリとキルスティの指が止まった。
そこのページは他のものとは違っていたからだ。
なにやら豪華な装飾が施されたメンコが並んでいたのである。
「エーリカ、ちょっといいかしら?」
「あによ!?」
キルスティの声に反応する聖女だ。
とことこと歩いて、隣の席にストンと腰を下ろす。
「このページの魔物は? すごく豪華な装飾が施されているのですが」
そもそも魔物の面が七色に輝いているのだから。
明らかにもう見た目からしてちがう。
「ふふーん! よくぞ気づいたわね、パイセン!」
聖女がふんすと鼻を鳴らす。
そして――一枚のメンコを取りだした。
「これは? 魔導師とか書いてありますけど」
キルスティの目には魔物に見えない。
そこには愛らしい姿の少女が描かれていたから。
「ふふーん。これはね! 黒魔導師少女!」
「……少女なのですか?」
「そうよ! そういうアレなの!」
あれってどういうことだ? と思う。
だが、たぶん詰めてもいいことはない。
聖女だから。
蛮族だもの。
だから話を変える。
「こっちは? 先ほどの少女と似ていますけど?」
「こっちはね! 黒魔導師! さっきの少女の師匠なの!」
師匠?
ますますわからなくキルスティだ。
魔物が師弟関係を結ぶのか、と。
ちらりと聖女を見る。
実に嬉しそうな表情だ。
ここで水を差す必要はなかろう。
そう判断したキルスティは次の魔物にいく。
こっちはまぁ人型の魔物っぽい。
やけに首が長いが……そこに魔物っぽさがある。
ただ、トゲトゲのついた衣装を着ているのが気になった。
魔物なのに、こんな服をどこで用意したのだ、と。
「これはね! 人造人間・精神衝撃男!」
「じ、じんぞう?」
もはやよくわからないキルスティだ。
いや、そもそも人間を作るというか――それって当たり前なのでは、と。
だって、男女でごにょごにょをしたら――。
「ふふーん! スゴいでしょ!」
「そ、そうですわね」
苦笑まじりに答えるキルスティだ。
ぱらっとページをめくる。
「この壺の魔物は怖そうですわね!」
壺のお腹の部分に顔が描かれているものだ。
ちょっと笑顔が怖いと感じたのである。
「ほほーん。なかなかお目が高いわね、パイセン!」
「そうなのですか?」
「これはね! ある意味で禁じられた札なのよ! その名も、がめつい壺!」
まぁなんとなくわかる。
それっぽい。
「こっちは? 腕だけのようですけど? そういう魔物なの?」
「にーはははは! これはね、こうよ」
聖女が別のページからメンコをとりだす。
合計で五枚。
顔と上半身、右足、左足、右腕、左腕。
五枚のカードがそろって全貌が見えた。
それはとても凶悪そうな魔物である。
なんだかよくわからないけれど強そうだ。
「むふふ! 封印されし魔神! エグゾーダス!」
ようやくそれっぽいのがきた。
ふんふんと納得するキルスティである。
「エーリカがいちばん気に入っているのはどれなのですか?」
キルスティの質問に聖女は、フッと笑った。
そして――くわっと目を見開く。
「パイセン、いい質問ね! グウウウッッド!」
ビッと親指を立てる聖女。
そして――一枚のメンコを抜き出した。
机の上にそれをビターンと置く。
そいつは白銀の竜が描かれていた。
ただ、余り聞いたこともないような形である。
王国にもドラゴンはいるのだ。
ただ、遭遇率がものすごく低い。
そして――ものすごく強いらしいのである。
いわゆるこの世界における強者だ。
その姿に関する噂は聞いたことがあるけれど――。
最も遭遇率が高いのが地竜である。
おじさんと学園長が狩った魔物だ。
ただ――そいつは竜種の中では最弱とも言われている。
いや、飛竜とかに比べると強いのだけど。
「むふふ……これはね、伝説の竜! 青目白銀竜よ!」
「ほおん」
「この青目白銀竜はね! 強いのよ! 最強なのよ!」
最強と言われても……だ。
キルスティは寡聞にして知らない。
そんな竜がいたのか、と。
王国において竜の上位になるのが龍だ。
その龍で有名なのが天空龍である。
あの、おじさんに求婚した。
空気を読めないバカ。
「ん~強いというのは、札をひっくり返しやすいとか?」
キルスティからしたら当然のことだろう。
なにせ強いと言われても知らないだから。
そっちに取ったのだ。
「ちがうわよ! この竜が強いの!」
「なにが強いのです?」
「んとねー! なんかすごいブレスとか吐く!」
まったく話が伝わってこない。
よくわからないのだ。
曖昧すぎて。
「……他に好きな札はありませんの?」
とにかく話を変えるキルスティだ。
だが、聖女は完全にヒートアップしていた。
「仕方ないわね! じゃあ、これよ」
今度もまたドラゴンのようだ。
「こっちは赤目漆黒竜よ!」
確かに目の色と身体の色がちがう。
「さっきの青目白銀竜とはなにがちがうのですか?」
「ん~これはね、キノコかタケノコかってことなの!」
またもや意味不明なことを口走る聖女だ。
「キノコ? タケノコ?」
首を傾げるキルスティ。
その様子を見て、聖女が息を吐く。
「いい? パイセンはどっちが好きよ?」
「私ですか? ん~私は白銀竜の方が好きですわね」
それはだって、おじさんの色だから。
うっすらと青みがかった白銀の髪に、アクアブルーの瞳。
「私もそっちのが好き。だけどさ、どっちが好きって言ったら割れるのよね」
「……漆黒竜がですか」
「そうなのよ! こっちもこっちで格好良いでしょうが!」
「……まぁ確かに」
聖女の言うことはわかる。
だが、キルスティには確信があった。
学生会では、絶対に意見は割れない、と。
だって、おじさんの色だもの。
「エーリカ、他の皆にも聞いてみたらどうです?」
キルスティが提案する。
キノコとかタケノコとか言い出さないように。
「いいけど……絶対に割れるわよ」
「私は割れないと思いますわよ」
聖女の目がきらりと光った。
「ふふーん! なにか賭ける?」
「いいですけど」
「じゃあ、今日の差し入れを賭けるわ! オールインよ!」
と言いながらも、聖女がパンパンと手を叩いて注目を集める。
ざっくりと説明をして、言う。
「さあ! どっち!」
薔薇乙女十字団は全員が白銀竜を指さした。
おじさんの色だもの。
同時に――膝から崩れ落ちる聖女であった。




