1121 おじさんは学園長との戦いにむけて色々と動く
明けて翌日である。
昨日はお泊まりした学生会の面々だ。
おじさんは今日も平常運転である。
朝のルーティンをこなし、朝食を食べ、学園へ。
「それにしてもさー」
教室で聖女が言う。
「リーんちの侍女さん、強すぎない?」
「ん? サイラカーヤのことですか?」
おじさんは首を傾げる。
公爵家にいる使用人たちは手練れだ。
もちろん庭師や厨房の人間など戦闘に関わらないのなら、その限りではない。
が――従僕や侍女などは例外なく戦える。
「そう! 今日は組み手の相手をしてもらったけどさー。シュシュンって感じ」
なんのことやら。
まったく意味をなさない聖女の言葉だ。
ただ、雰囲気は伝わってくる。
「サイラカーヤは金級の冒険者でしたからね」
「ほええ」
と、口を大きく開ける聖女であった。
「エーリカと似たタイプですから。サイラカーヤに教えてもらうのもいいと思いますわよ」
「うん。それ、お付きの神官にも言われた」
「そうなのですか」
「侍女さんと同級生らしいよ?」
へえと頷くおじさんであった。
世間は狭いものである。
「おー今日も全員いるなー」
男性講師だ。
ぐるりと見渡してから、おじさんのところ視線をとめる。
「今日も頼むなー。あ、それとビブリオバトルの件だけどー詳細を三日後までに提出しといてくれー」
「承知しました」
アルベルタ嬢が答える。
「頼むー」
そう言って、男性講師は慌ただしそうに去って行く。
「本日の講義は――」
おじさんが教壇に立って、口を開いた。
昼食時である。
食堂棟の一角を占拠したおじさんたち。
「うひょう! うまそー」
蛮族たちがガツガツと食べている。
本日の食堂棟は、肉がメインのシチューだ。
それにパンがついてくる。
「リー様、明日のことですが」
アルベルタ嬢が真剣な面持ちで口を開いた。
「やはり私たちにも見せていただけませんか?」
学園長との試合のことだろう。
「見世物ではありませんから」
そう。
誰かに見せるためのものではない。
この試合の本質は、学園長の気持ちに折り合いをつけることだ。
「それはわかります。ですが……」
と、口ごもるアルベルタ嬢だ。
「リー様。よろしいでしょうか?」
ニュクス嬢が発言する。
首肯で応えるおじさんだ。
「私たちは純粋に勉強させていただきたいのです」
言わんとするところはわかる。
おじさんと学園長の本気の試合。
それは一生に一度あるか、ないかのものだ。
この機会を逃したくはない、ということだろう。
ふぅと息を吐くおじさんだ。
ニュクス嬢の言わんとするところは理解できた。
確かに勉強にはなるだろう。
「……わかりました。ただ、これはわたくしの一存で決めていいことではありません。学園長と相談の上、返答します。それでいいですか?」
ふわりとした笑みを見せるおじさんであった。
その笑顔にきゅんきゅんするアルベルタ嬢たち。
おじさんの笑顔は反則なのだ。
「では、午後からの講義ですが、本日は闘技場ダンジョンに行きましょう。男子たちにもそう告げておいてくださいな。わたくしは少し学園長とお話をしてきますが、あそこなら問題ないでしょう」
「畏まりました」
代表してアルベルタ嬢が頭を下げるのであった。
闘技場ダンジョンへと皆を送り届けたおじさんである。
監督者には黒騎士を選んだ。
建国王に頼んでおけば、まちがいない。
学園へととんぼ返りするおじさんだ。
その足で学園長の部屋へ。
「ふむぅ……」
学園長が白鬚をしごく。
「観覧する者を入れる、か」
少し思案して、学園長は口を開いた。
「見世物ではないんだがのう」
おじさんと同じことを言う学園長である。
「……じゃが、その気持ちもわからんではない、か」
ぐびりと湯飲みからお茶をのむ。
最近、おじさんからプレゼントされたのである。
いわゆる備前焼の湯飲みだ。
素朴な風合いのものである。
「よかろう。ただし、指定した者たちのみじゃ」
「指定?」
「三公爵家の当主夫妻、陛下夫妻、おまけでリーの級友たちでどうじゃ?」
「わたくしはかまいません。学園長がよろしければ取り計らいましょう」
「うむ。リーに任せても良いか?」
「そのくらいのことであれば問題ありませんわ」
「なら、頼む」
頭を下げる学園長だ。
「ところで……準備は整っていますか?」
「うむ。そちらも問題ないわい」
呵々と大笑する学園長だ。
「では、明日の放課後ですわね」
スッと立ち上がるおじさんだ。
「そうそう。お母様から伝言ですわ」
と、おじさんが微笑む。
「悔しいけれど、身重だからリーちゃんに譲ってあげる」
ふふ、と笑う学園長だ。
「ヴェロニカらしい」
「ということで失礼いたしますわね」
きれいにカーテシーを決めるおじさんであった。
一方で闘技場ダンジョンである。
「……」
息を荒げ、聖女は床に寝っ転がっていた。
どくどくと心臓が脈打っている。
「どうじゃ?」
そんな聖女を覗きこんでくるのは黒騎士だ。
「……うん。スゴかった」
黒騎士が朗らかに笑った。
「聖女としての資質は十分。じゃが、まだまだ甘いな」
黒騎士に挑んだのだ、聖女は。
どうにも、ウズウズしていたのである。
おじさんと学園長の話を聞いて。
どこか遠くの世界のようでもある。
でも、そこに近づく必要があるのだ。
だって、おじさんは心の友なのだから。
友だちをひとりぼっちにさせるわけにはいかない。
同じ場所には立てないかもしれない。
だけど、少しでも近づきたい。
そう思ったのである。
「こんちくしょー!」
聖女が叫ぶ。
イラつくのは自分が弱いこと。
「かかか。ワシで良ければ、これからも付き合おう」
くるりと踵を返す黒騎士だ。
その背に向かって聖女が言う。
「絶対、勝つもんに!」
「いつでも受けてたとう」
少し嬉しくなった建国王だ。
おじさんの周りにいる者たちは、かつての自分の部下たちと同じ目をしているから。
――強くなる。
そう思ったのだ。
「さて、次は誰かな?」
と、黒騎士が聞く。
だが、次の挑戦者は既に舞台に立っていた。
「やったるもんにいいい!」
ケルシーだ。
「エルフの娘か。良かろう!」
と、黒騎士が構えた瞬間だった。
ケルシーが魔法を発動させたのは。
「ぬおおお!」
少し驚いた黒騎士である。
「汚いな、さすがエルフきたない」
ぼそりとこぼす聖女だ。
「エーリカ! エルフじゃなくてケルシーと言いなさい!」
とんだ風評被害になる。
アルベルタ嬢はそう思ったのだ。
そう。
主語をでっかくするのは良くないのである。
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