第1120話 おじさんちの母親は強権を発動する
「ふぃ~」
聖女である。
おじさんちの露天風呂でリラックスしている。
頭の上にはタオル。
どっかりと寄りかかって完全に弛緩していた。
ダンジョンを攻略した後の話だ。
さすがに悪臭たっぷりのあの部屋にいた面子はげんなりした。
なので、今日の学生会はおじさんちで行なうことにしたのだ。
と言っても、もはや温泉がメインだけど。
「臭かった-」
ケルシーは未だにあの臭いがダメなようだ。
ちょっと顔色が悪い。
「ちょっと、思い出させないで!」
アルベルタ嬢も顔を青くしている。
ルミヤルヴィ嬢、イザベラ嬢も同じだ。
「エーリカ、あの魔法はもう禁止なのです」
パトリーシア嬢が言う。
「えー! あれめっちゃくちゃ効果あるじゃん!」
確かにそれを否定する者はいない。
ものすごく効果的だ。
生き物であるのなら。
だが――すごく傍迷惑なのである。
「エーリカ、禁呪指定というやつですわ!」
なので、おじさんが助け船をだす。
「き、ききき……もっかい言ってリー!」
「禁呪指定ですわ!」
「いいいぃぃぃやっふううううう!」
聖女が歓喜の声をあげた。
「禁呪! 禁呪指定魔法を使う聖女!」
わははは、と笑い声をあげている。
いや、それはそれでどうなんだと思わないでもない。
聖女の闇落ち感が半端ないのだから。
「だから、使ってはいけませんわ! 禁呪なのですから」
「そうか! まちがえた!」
「禁呪持ちの聖女なのです!」
パトリーシア嬢が言う。
ちょっとパワーワードに引かれたのだろう。
「そう! いいこと言ったわね、パティちゃん」
「ちゃんづけはやめるです」
ちょっとうんざりするパトリーシア嬢であった。
「それにしても……色々あった一年よね……」
キルスティがぼそりと呟いた。
最終学年となった去年の春。
前会長のルルエラの後を引き継いで、希望を胸にしていた。
しかし、おじさんという規格外が入学してきたのだ。
で、問題を起こしまくる王太子。
それに――蛮族の聖女までいた。
「王都の襲撃もありましたしね……」
アルベルタ嬢が言う。
「対校戦の優勝もあったよね!」
セロシエ嬢も参加してくる。
おじさんはニコニコして聞いていた。
確かに色々とあったな、と。
「あら? リーちゃん」
声をかけてきたのは母親である。
また少し大きくなったお腹。
「お母様、体調は問題ありませんの?」
「ええ、大丈夫よ」
と、言いながら露天風呂に入ろうとする母親だ。
その手をとるおじさん。
「ありがとう」
ふぅと一息吐く、母親である。
学生会の面々は何も言わず、すっとおじさんと母親のためにスペースを空けた。
「赤ちゃん、おっきくなってる」
じゃばじゃばとお湯をかきわけてケルシーが母親のお腹にそっと触れる。
日課みたいなものだ。
「でしょう!」
「元気に生まれてくるんだぞー」
エルフは長命種である。
村でいちばんの若年がケルシーだ。
だから、身近な人が出産するというのが珍しいのだろう。
「ケルシーも楽しみにしてくれてるのよね」
「うん、一緒に遊ぶんだー」
邪気のない笑みである。
思わず、ケルシーの頭をなでる母親であった。
「ふふ……この子はお姉ちゃんがいっぱいね」
きっと世話を焼きたがる者がいっぱいでる。
そう思う母親であった。
ちらりと聖女を見る母親である。
「エーリカ」
はい! と返事をする聖女だ。
「聞いたわよ」
淑女教育のことだろう。
だって、お付きの侍女がついてきていたのだから。
無言で首肯する聖女だ。
「そうね、あまり堅苦しいことは言いたくないけど。せめて公の場ではしっかりなさい。使い分けができるのなら、私の場では許します」
母親からの許可がでた。
きょとんとする聖女だ。
「エーリカ、よかったですわね」
よく意味がわかっていないのだろう。
だから、おじさんがフォローを入れた。
「ん? どういうこと?」
「蛮族でいていいってことなのです。ただし、公の場ではちゃんと礼儀を守りなさいってことなのです」
パトリーシア嬢が解説した。
「え? いいの?」
「だから、ちゃんと使い分けをしなさいと仰せになっているのです」
「いいいぃぃぃやっふううううう!」
またもや歓喜の声をあげる聖女だった。
「ふふ……そうじゃなくちゃね」
聖女の姿を見て、笑う母親である。
蛮族を見るのが楽しかったのだろう。
「いいのですか? あちらにはなんと説明します?」
おじさんが聞く。
「ヴェロニカが言っていたといえばとおるわ」
それもそうか、と思うおじさんだ。
母親は王国にその人在りとも謳われるほどの人だから。
「うちにいるのなら、うちのやり方でやるだけよ」
にやりと微笑む母親である。
「そういうことだから伝えてきなさいな」
すっと侍女の一人が動いた。
聖女のお付きに伝えにいったのだろう。
「わははー! なんて日だ! いいことあったどー!」
聖女が叫んでいる。
「真面目にやってきてよかったー!」
いつ、誰が真面目だったというのだ。
そんな思いを、聖女以外が抱く。
ただ、嬉しそうにしている聖女を見て思うのだ。
まぁいいか、と。
「それにしても……リーちゃん」
母親はおじさんに向き直る。
「学園長とは本気でやるの?」
あのお願いの件だ。
おじさんはきちんと報告していた。
「もちろん。それが願いですから」
「……そう。仕方ないわね」
ふぅと息を吐く母親だ。
「ただ、出せる範囲でという形になりますわね」
「それもそうね……きっちり引導を渡してくるのよ」
「学園長も一区切りつけたいのでしょう」
おじさんと母親が目を合わせて、ふっと笑う。
「ねぇねぇなんの話?」
ケルシーがおじさんを見ている。
「二日後、学園長と本気の試合をします」
「ほ、本気? どういうこと」
「魔法もありということですわね。ただし見世物ではありませんので、誰かに見せるということもしません」
先に釘を刺しておくおじさんだ。
どうせ蛮族たちは見たいと言うのだから。
「うちのリーに勝てるわけないじゃんか!」
聖女が言う。
「ですわね。リー様の勝利をここにいる全員が確信しておりますわ」
アルベルタ嬢以下が全員が立ち上がって、おじさんに頭を下げる。
「そんなに気負うことでもありませんから」
おじさんは平常運転であった。
勝つとか負けるとか、そういうのとはちがうから。
学園長の気持ちに区切りをつけるための戦いだ。
「少し、ほんの少しだけですけど。わたくしも楽しみではありますの」
ふっと頬をゆるませる。
「よおおし、やったらあああ!」
聖女が拳を突き上げた。
「うおおおお!」
ケルシーも同調する。
「あなたたちは何もしませんけど」
冷静にツッコむアルベルタ嬢であった。
あけましておめでとうございます
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