1116 おじさんは学園長から大切なお話をされる
おじさんの魔道具講義は和やかに終わった。
昼食を経ての実践講義である。
「さて、どうしましょうかね」
おじさんは少し眠そうにしている蛮族たちを見ながら言う。
食堂棟で昼食をたくさん食べたのだ。
いつもと同じである。
蛮族たちは限界まで食べるのだ。
それが正義とでも言うように。
「あー悪いんだが-」
男性講師が教室に入ってきて声をかける。
「午後からはこっちで受け持つからー」
なんですって! と抗議の声をあげたのは狂信者の会である。
彼女たちはおじさん以外を認めないのだ。
「いや、そう言われてもなー。まぁ楽しくやろうじゃないのー」
なんとかなだめようとする男性講師である。
だが――狂信者の会はツーンと顔を背けていた。
案外、こいつらもかわいいところがあるな、と思う男性講師だ。
「わたくしは……」
と、言いかけてピーンときたおじさんだ。
「学園長ですか」
そのとおり、と男性講師が首肯する。
「承知しました。では、わたくしは学園長のところへ参ります」
「頼むなー」
おじさんと男性講師が入れ替わる。
「ってことで、午後からは試験な!」
「戦争かー!」
蛮族二号が立ち上がる。
ケルシーは試験が大嫌いなのだ。
「戦争じゃああ!」
蛮族一号も立ち上がった。
聖女も試験が大嫌いなのだ。
「やるぞー!」
「やらいでかー!」
蛮族たちは意気投合していた。
そのまま教室の中をずんずん歩いて――退室しようとする。
「なにをするだー!」
蛮族たちの首根っこを掴んだのはメーガンであった。
「あんたたちこそ、しれっと逃げようとしないの」
「ほら、騒いでないで座れー」
ぱんぱん、と手を叩く男性講師だ。
「試験とは言ったが、学科とは言ってないだろー」
なぬ!? と目を見開く蛮族たち。
そして――脳筋三騎士たち。
「いいかー。今日は学園の迷宮で試験なー」
と言っても、と男性講師が少し間を空ける。
「成績に直結するもんじゃないからー。とりあえず三階層まで攻略なー」
はい、といい返事だ。
「男子の班分けはいつものとおりー。女子組は面子入れ替えでなー」
ということで、にわかに試験が始まるのであった。
いや、試験でもなんでもない。
ただの実践講義である。
でも、そういった方がいいと男性講師が判断しただけだ。
策士であった。
一方でおじさんである。
「失礼します」
学園長の部屋に入る。
「よくきてくれたのう」
人払いがされているのか。
本日の学園長室には他に人がいない。
なので――おじさんが手ずからお茶の用意をする。
ささっと宝珠次元庫から茶器をだす。
「ビブリオバトルの件でしょうか?」
流れるような動作でお茶を淹れるおじさんだ。
「ああ――それもある」
「それも?」
お茶請けをだして、腰を落ち着けるおじさんだ。
礼を言って、口をつける学園長である。
「んむ……銀霜茶か」
「ご存じでしたか」
「うちの領地では滅多に手に入らんのじゃがな」
「ちょっとした伝手ができましたので」
おほほ、と笑って誤魔化すおじさんだ。
本当は産地であるロクロスの裏を牛耳っているだけである。
使い魔が。
学園長は同級のセロシエ嬢を思い浮かべていた。
彼女の実家の領地だから。
「うむ……久しぶりに飲んだが美味いな」
「お口にあったようでなによりですわ」
おじさんもお茶を含む。
実はかなり気に入っているのだ。
「ビブリオバトル……なかなか面白そうじゃな」
白鬚をしごきながら学園長が話す。
「でしょう? 皆、本は好きですから」
「うむ。思えば、これまでは武に偏っておった気がするな。こうした智の面でも催事があれば、より学生生活に身が入ろうというものじゃ」
かかか、と笑う学園長だ。
「今回のビブリオバトルの評判が良ければ、主題を変えて月に一度くらいは開催してもいいかもしれませんわね」
「そうじゃな。代替の案もなさそうじゃし……結果次第では考えよう」
「お勉強そっちのけでビブリオバトルにのめりこまれても困りますけどね」
ほほほ、と軽やかに笑うおじさんであった。
少し雑談をする。
主に学園長の体調面のことだ。
おじさんの目にも特に不調なところはないように見える。
お茶のおかわりを用意するおじさんだ。
学園長が戸棚から、お茶請けをだしてくる。
王都の貴族御用達、高級焼き菓子だ。
「あら、こっちも合いますわね」
「じゃろう? この控えめな甘さが良い感じに合う」
ぬははは、と笑う学園長だ。
「で、本題はなんですの?」
ことりとカップを置いて、おじさんが言う。
つるりと禿頭をなである学園長。
ほんの少し、間を空けてから学園長が口を開いた。
「リー」
「なんですの、改まって」
「今代の王国最強の力を見せてほしい」
「ん? どういうことですの?」
「……ワシと本気の立ち会いをしてほしいということじゃ」
「ですから、どういうことですの?」
おじさんは意味がわからなかった。
なぜ、そんなことをする必要があるのだ、と。
というか王国最強? そんなものはどうでもいい。
「そうじゃな。知りたくなったのじゃよ」
学園長がスッと立ち上がった。
「スランから聞いた。百鬼横行を治めてきたことを」
「あれは、わたくしだけでやったわけではありません」
「で、あるな。じゃが……ワシは知りたくなった」
学園長が室内をぐるりと回るように歩く。
「今まで、リーとは魔法なしで立ち会ったことはある。が、魔法ありで立ち会ったことはない」
おじさんも首肯する。
立ち会ったというか、学園長がちょっかいをかけてきた、という方が正しいが。
「だから、今回は魔法ありの立ち会いじゃ」
「よくわかりませんわね。今までどおりならダメなのですか?」
「ダメじゃな。ワシはリーの力を知っておきたい」
真っ直ぐにおじさんを見る学園長だ。
「……本気、なのですか?」
戯れではないのか、と問うおじさんである。
「うむ。本気も本気じゃ」
ニカッと笑う学園長だ。
そこにあったのは無邪気さだけである。
ふぅと息を吐くおじさんだ。
「……仕方ありませんわね。どうせお断りできないのでしょう?」
朗らかに首肯する学園長である。
「リーには悪いが、こればかりは譲れんのじゃ」
「まったく、仕方ありませんわね。では、闘技場ダンジョンで行いましょう。あそこなら怪我の心配をしなくてもすみますから」
「で、あるな」
がばっとおじさんに頭を下げる学園長だ。
「すまぬな、リー。無理を言うておるのは百も承知。じゃが、それでも、どうしてもやらねばならんのだ」
「頭をあげてくださいな、学園長。どういう事情がお有りになるのかはわかりません。ですが、そうしたいとお望みなら叶えます」
「ま、そういうことじゃ」
かかか、と笑う学園長だ。
「勝負は二日後。それまでにワシはしっかり整えておく」
準備をしておくと言うことだろう。
それは学園長が本気の証左である。
「いかようにでも。悔いが残らないように万全の準備をなさってくださいな」
「ほほほ。それではまるでワシが挑戦するようじゃな」
いや、間違っていない。
そう学園長は思った。
「言葉がおかしかったですわね。わたくしが言いたかったのは」
わかっておる、と学園長がおじさんを手で制した。
「リーや。王国の次代を担う力、みせておくれ」
「承知しました。ご存分に」
おじさんもまた学園長に頭を下げるのであった。
誤字報告いつもありがとうございます。
助かります。




