1117 おじさん不在で行われる蛮族たちの迷宮攻略
おじさんと学園長が楽しくお話をしている頃だ。
蛮族たちは学園の迷宮にきていた。
おじさんが作った迷宮である。
学園生用の初心者向けダンジョンだ。
ただし、魔物もいれば罠もある。
下手をすれば命を落とすこともあるだろう。
その危険性は低いが。
今、薔薇乙女十字団たちは、おじさんが用意した装備を身に纏っている。
大量に手に入った森ワニの素材を使ったものだ。
脳筋三騎士たちには軽鎧一式。
他の女子組には胸甲と手甲と足甲とローブ。
アルベルタ嬢、ケルシー、ルミヤルヴィ嬢、聖女、イザベラ嬢。
この五人が今回の班である。
シャッフルの結果だ。
今回は蛮族二人が揃っている。
面子としては悪くない。
前衛にルミヤルヴィ嬢、中衛にアルベルタ嬢と聖女、後衛がケルシーとイザベラ嬢という組み合わせになるのだから。
「ふふーん!」
聖女が元気になっていた。
なぜなら迷宮にはお付きの侍女はついてこないから。
雑談しながら、迷宮をうろうろするのはおじさんと侍女くらいものだ。
「ふふーん!」
一号が元気になると、二号も調子づく。
二人で鼻歌をうたいだす始末だ。
「よっぽど鬱憤がたまっていたのね」
蛮族たちの楽しそうな姿を見て、アルベルタ嬢が息を吐いた。
「気持ちはわからないでもないわ……」
ルミヤルヴィ嬢が答えた。
彼女は脳筋三騎士の一人。
あまり小うるさいことを言われると、げんなりするのはわかる。
だって、彼女も実家ではそうなるのだから。
淑女として振る舞え、と。
幸か不幸か、彼女は騎士になることは反対されていない。
「お母様がご苦労なさったというのに……」
ああ、とアルベルタ嬢が頷く。
イザベラ嬢の母親がコーデリアだ。
侯爵家の奥方が信頼を置く者の一人である。
「でも、イザベラのお母様も匙を投げてしまったのでしょう?」
アルベルタ嬢が聞く。
それに対して、はぁとため息を吐くイザベラ嬢だ。
「お母様も、それに年が同じということで私もエーリカの教育に付き合いました。ですが、まぁ察してくださいな」
「……ご苦労様でした。では、今は侯爵家の奥方様が?」
「ええ……そう聞いています」
のんびりと会話しているところに、ルミヤルヴィ嬢の声が響く。
「皆、警戒! 正面に敵影!」
ゴブリンだ。
ここは由緒正しい地下迷宮そのものである。
おじさんがそう作ったのだ。
石壁の通路が迷路になっている。
横幅は一メートル半ほど。
だいたい軽自動車の最大幅と同じくらいだ。
つまり――体感的に狭い。
「だらっしゃああああ!」
聖女が吼えた。
同時に、走り出す。
前にいたルミヤルヴィ嬢を追い越して行く。
「ちょっと、エーリカ!」
「くっ……イザベラ、お願い!」
「任せて!」
イザベラ嬢が正面奥にむかって風を吹かせる。
聖女にとっては追い風、ゴブリンにとっては向かい風だ。
ゴブリンは目視で三体。
手には棍棒を持っている。
腰巻きだけをつけた姿だ。
「はいやー!」
聖女が跳んだ。
追い風に乗るような形で、跳んだのだ。
そのままドロップキックを先頭のゴブリンに決める。
「ルミヤルヴィ! すぐに援護!」
アルベルタ嬢が声をかける前に、ルミヤルヴィ嬢も走っていた。
ただし、彼女もまたぎょっとしてしまう。
なぜなら隣をケルシーが走っていたから。
「ケルシー!?」
役割は後衛のはずだ。
だが、前衛に出てきている。
「おらああああ!」
ケルシーも跳んだ。
聖女の真似をしたのである。
右側のゴブリンに向かって、ドロップキックだ。
顔面にケルシーの両足がぶつかる。
「ちょっと! なんでこう予定にない行動ばっかり!」
アルベルタ嬢が指示を出そうとしても間に合わない。
だから、ルミヤルヴィ嬢は自分で判断をくだした。
残っている左のゴブリンに狙いを定めたのだ。
身体強化をかけて、一瞬で間合いを詰める。
ルミヤルヴィ嬢の片手剣がゴブリンの首をはねた。
同時に、聖女とケルシーを見る。
聖女はゴブリンともみ合っていた。
が――馬乗りになっている状況だ。
「泣いても、謝っても許してやらないだからね!」
聖女が拳を振り下ろす。
それがゴブリンの顔を潰した。
一方のケルシーは笑っていた。
わははは、と高笑いしている。
ゴブリンが顔を蹴られたダメージでよろよろと立ち上がる。
「もらったあああ!」
そこへ風弾を飛ばすケルシーだ。
ゴブリンの身体に、どちちとハデな音を立てて穴が穿たれた。
「いよっしゃっらああああああい!」
「らあああああい!」
蛮族がハイタッチをして喜んでいた。
「イザベラ、後方を警戒して。ルミヤルヴィは前方の警戒」
二人は頷くと、すぐに動く。
「ちょっと! 一号、二号! こちらへきなさい!」
大きな声をだすな、という話である。
迷宮内の魔物に聞かれれば、集まってくるかもしれない。
その危険性を問おうとしたのだ。
だが、そのアルベルタ嬢自身が大声をだしていた。
どの口が言うねん、という状況である。
「ふふーん! ゴブリンなんか敵じゃないもんに!」
「もんに!」
わははは、と高笑いする蛮族たちであった。
「後方は問題ありませんわ」
ふぅと息を吐く、アルベルタ嬢だ。
怒りを逃がして気持ちを切り替えたのである。
「一号と二号、ルミヤルヴィは前衛。私が中衛、イザベラが後衛。この編成に切り替えます」
了解、とイザベラ嬢とルミヤルヴィ嬢から返答があった。
一号と二号はもう既に歩き出している。
「まったく。この迷宮だからいいものの、難易度が上がったらと思うと怖いですわ」
一号と二号が言うことを聞かないから。
きっと、かしこさが二十ないのだろう。
「ちょっと! 一号、二号、先に進みすぎ!」
バタバタと慌てて、追いかけて行くアルベルタ嬢たちだ。
「ぬわああああ!」
一号と二号の姿が消えた。
落とし穴に落ちたのだ。
ただ、この迷宮は初心者向け。
命を奪うような深さではない。
底に杭が打っているわけでもないのだ。
「ちょっと!」
三人が走って行く。
「一号、二号! 大丈夫ですの?」
「わはははは!」
返事の代わりに笑いが返ってきた。
なぜ笑っているのか。
「びっちょびっちょ!」
落とし穴の底には水がたまっていたらしい。
膝くらいの高さだ。
「もう! ほら、さっさと上がってきなさい」
アルベルタ嬢がロープを垂らしてやる。
「あなたたちはまったく」
でへへと蛮族たちが笑っていた。
「さぁ攻略するわよ!」
「わよ!」
ずんずんと進もうとする蛮族たち。
「ちょっと待ちなさい」
蛮族たちに清浄化をかけるアルベルタ嬢だ。
おじさんに教えてもらった魔法である。
ぬっちょぬっちょの靴を乾かしたのだ。
「ねぇねぇ」
ケルシーが言う。
「この迷宮ってちょっと変わってない?」
そうなのだ。
以前、攻略したときと道が変わっている気がする。
「はぁ……」
イザベラ嬢が息を吐いた。
「リー様のお話を聞いてなかったのですか? 定期的にここは経路が変わるのですって」
ほええ、と蛮族たちが口を開けていた。
「ねぇねぇ、じゃあ、あの玉は?」
願い玉のことである。
七つ集めると学園長が願いを叶えてくれるというアイテムだ。
おじさんの遊び心であった。
「ああ――どこかに隠されているのでしょうね」
「見つけるもんに!」
ケルシーが走って行く。
「アタシが見つけるの!」
聖女もだ。
「だから、迷宮内を走るなって言ってるの!」
先が思いやられるアルベルタ嬢たちであった。




