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魔力不適合者(1)

 作戦会議から数日が経ち、その間は特に問題もなく平穏な日々を過ごしていた。いや、暇な日々を過ごしていた。

 結局、王城に到着して何かが変わった訳ではない。それは俺自身のレベルにも言えた事で、未だに一レベルで【最弱魔王】の称号は現在も健在だ。

 別に何もしなかった訳ではない。スノーは以前に『軍事訓練だけで二十前後までレベルが上がる』と、教えてくれた。生きるために必要だと、俺は密かに訓練を開始したのだが、これが中々に上がらない。一朝一夕(いっちょういっせき)でレベルが上がると、初めから思ってもいないし、ご都合主義の世界だと思ってもいない。

 のだが、上がらない。ゲーム感覚なら低レベルはすくすく成長し、高レベルは廃人使用と相場は決まっている。

 だが結果はどうだろうか? 召喚された状態の一レベル。

 もしかしたら一晩経てば、そう思った時期もあったが、次の日には思い知らされた。

 つまりスノーの言った『軍事訓練だけで――』って話は、生涯の軍事訓練を通した結果、それを差すのではないだろうか?

 それなら話は簡単だ。訓練なんぞ意味はなさない。

 そう、俺は面倒事が嫌いだ。生涯の軍事訓練で二十レベルになっても、きっと【最弱魔王】の称号は消える事は無いだろう。いや、もちろん称号の為にレベルを上げている訳ではない。身を守るために上げようと奮闘したのだ。

 そして俺は一つの答えに行きついた。

 七十レベルを超えるナナ達が、人間族相手に手も足も出ないのなら、別に一レベルでも問題ないのでは? と。

 その答えを導き出し、訓練――いや、レベルなんぞ意味はなさない。軍事訓練なんて時間の無駄で、限りある時間を頭脳に回して、戦況をひっくり返す作戦を考えた方が賢い。そう結論付けた。

 もちろん新たなスキル、魔力値(マジックポイント)の底上げ、それらを取得できないのは惜しい。

 だが俺のスキル【擬人化】は時間制限がないし、【迷彩】に関しては一度も使ったことはないが、きっと似たようなものだろう。それなら別に魔力値(マジックポイント)を増やす必要性は見いだせない。


 と、いう訳でレベル上げに過度な期待は捨て、上がったら好都合だな。そんな程度で暇な日常を繰り返していた。

 違うな。圧倒的に不利な戦況を覆す、それこそ人間族に恐怖を刻む作戦を模索していた。

 のだが、これが中々に無茶難題であり前途多難でもある。

 そう、手詰まりなのだ。

 そもそも魔族には技術力がない。この数日で身をもって知った。

 まず魔界には車は存在しない。それの代用となるのが、集落の村長から譲り受けたモンスター(ジュリン)である。燃料を必要としないメリットはあるが、デメリットも大きい。定期的な休憩を必要とし、こちらがどれだけ急いでいても走らす事は出来ない。それが戦況を大きく左右する時でも、だ。

 そして俺は大きな勘違いをしていた。それは『電気』である。

 以前スノーは『生活でも魔力を活用する』と言っていた。俺はそれを『生活の一部(・・)でも魔力を活用する』と思い込んでいたが、実際は『生活の全て(・・)に魔力を活用する』だった。

 なるほどね、魔力不適合者(魔族モドキ)が毛嫌いされる本当の理由はそこか。


 そんなこんなで、本日も俺は自室に引きこもって頭を悩ませていた。

 自室の定位置――窓際に置かれた椅子に腰かけ、机には先ほど下女(メイド)に淹れてもらった珈琲が湯気を上げ、そんな俺の膝元にはスノーが昼寝を楽しむ。

 そうそう、スノーが激怒して以降、その反動からか今まで以上に懐かれた。

 本来の側近としての仕事をたまに放棄し、下女(メイド)の目を盗んではサボりにやってくる。そんなスノーに対して下女(メイド)は特に口を出さない。スノーの目を盗んで理由を聞いてみると「スノーは成長途中――いわば赤ん坊に過ぎません。今だけは好きなようにやらせております」と返ってきた。

 その言葉に隠された本当の意味は分からないが、それで下女(メイド)たちが納得しているのなら、別に俺から何かを言う事もない。スノーの好きなようにやらせるだけだ。


 ついつい脱線したが、本日も頭を悩ませていた理由、それは――。


 ――コンコン。


「はい。どうぞ」

「失礼します。魔力不適合者(魔族モドキ)と兵士との間でトラブルが発生し、そこから暴動へと発展しました。それにより、双方合わせて十名の負傷者が出た模様です。同時に一部で不満を募らせ、結果として魔力不適合者(魔族モドキ)の離脱者が二十八名。それにより現在は十三名まで数を落としております。いかがなさいましょうか?」

「その前に、トラブルの原因は?」

「現場に居合わせた下女(メイド)によりますと、兵士が魔力不適合者(魔族モドキ)に暴言を吐き、あおる発言をしたと証言しております」

「……またか。取り敢えず治療が終わり次第、本日の訓練は中止。責任者のラクスを俺の元まで読んでほしい」

「畏まりました」


 そう、俺の頭を悩ませていた理由はそれだ。

 魔力不適合者(魔族モドキ)にラスクは軍事協力の募集を行った。その結果、集まった数は二百名を超え、その結果に夢を膨らませていた――のだが、初日の訓練から今のようなトラブルが発生。それが毎日のように続き、当初の数が九割に、八割に、五割に、減る事を知らない。

 だが俺はラクスを信用して軍事訓練を任せた。そこに俺が横から口を挟めば、きっとラクス自身もやり難いだろう。そう思って今までは「指示はラクスから」その一点張りを決め込んでいたが、その結果がこれである。

 もちろんラスクが忙しい身だと理解している。軍事訓練とは別の、元々の役割があるのも知っている。

 それでも、だ。何事にも限度がある。仮にこれが現代社会を生きるサラリーマンだったら、同じ過ちを三回繰り返した時点で上司に呼ばれ、それはもう長々とお説教を食らうだろう。


 それから待つこと数分、部屋のノックと共にラクスがやってくる。

 その表情はどこか暗く、今から叱咤されるのを悟ったからだろうか。


「私をお呼びでしょうか?」

「うん、そうだね。呼んだよ」

「あの、もしかして私は打ち首……でしょうか?」


 わぉ。スゲー話が飛躍しているな。

 もしかして歴代の魔王様は、これぐらいの事で打ち首にしていたのだろうか?

 仮にそうだとしたら、それこそ命は幾つあっても足りないし、よくそれで暴動が起きなかったと疑問すら覚える。


「……いやいや、別に打ち首にするつもりはないよ。もちろん、今後も決して行わない」

「寛大な処置、心からお礼申し上げます。それでしたら、どうして私を?」

「いや、ね。魔力不適合者(魔族モドキ)の軍事訓練の事だけど、もしラクスの手に余る――いや、時間が取れないようなら俺が引き受けようか?」

「魔王様! お言葉を返すようですが、魔力不適合者(魔族モドキ)どもは調子に乗っております。彼らは何も思っておりません。自分たちがいかに無力で、周囲にどれだけの迷惑を――」

「ちょっと待って」

「はい? どうなされましたか?」

「そこから間違っていると俺は思う。もしかしたら無力かもしれない。もしかしたら周囲に迷惑をかけているかもしれない。だけど、それと軍事訓練――違うな。そんな彼らに馬頭を繰り返し、挑発する事は正しいのか?」

「はい。私はそう思います。彼らは心から腐っており、それを叩きなおすには武力を持ち――」

「それならラクスには任せられない。今後の軍事訓練は俺が引き受ける。もう下がってもいいぞ」

「納得できません! 理由をお聞かせ下さい!」

「君たち魔族は同志を大切にするのだろう? 確かに彼らは中途半端な立場にいる。それでも彼らは同志であり、彼らにしか出来ない事を今からやってのける。むしろ彼らこそが、魔力不適合者(魔族モドキ)こそが魔界を救う。そう俺は思う。……それを理解せず、無意味に兵力を落とした。十分な理由だと思わないか?」

「くっ! ……分かりました。それでは引継ぎを――」

「必要ない。下がっていいぞ」


 そうしてラクスは表情を曇らせて「失礼しました」と言い残し、一礼の後に部屋から出て行った。


 うおおおおぉぉぉ! 今の態度は魔王っぽかったぞ!

 この数日、密かに練習を重ねた結果が現れた!

 くぅ~! 俺の晴れ姿を高画質で録画したかった!


 それはそうと、ラクスの言い分も理解した。

 つまり『舐められる前に叩き込め!』を実践したのだろう。確かに悪くない方法だとは思う。こちらが下手に出て、相手が『自分らが必要』そう勘違いを防ぐのには効果があるだろう。仮にそうなってしまえば、兵士と魔力不適合者(魔族モドキ)の溝は深まり、同じ魔族の同士、そこから逸脱してしまう可能性が生まれる。

 一つのやり方だと思えば間違ってはいない。ただ、調節や限度が間違い、魔力不適合者(魔族モドキ)の不満が爆発した。そんなところだろう。


 済んだことは今となっては過去の話。それよりこれからの話だ。

 その場の雰囲気で魔王っぽい事を口走ったけど、果たして俺に軍事訓練の指導は務まるのか?

 ……不可能だな。ただ安易に問題を増やし、自分の首を絞めただけだ。

 まさに、後悔先に立たず。その言葉が今の俺にはお似合いだ。

 あー、マジでどうしよう……。取り敢えずインターネット大先生のお力を借り、何となく軍事訓練を遂行し、彼らの力を借りて結果を残さなければならない。

 前途多難とはこの事だろう……。

 膝の上で今もなお睡眠中のスノーが妬ましい……。

 だが仕方ない。全ては己の発言が生んだ結果で、口に出してしまった以上は結果を残す必要がある。そうでなければ役割から外したラクスに顔向けが出来ない。


 と、なれば今日中に色々と準備が必要で、スノーを軽く揺すって起こしにかかる。魔王の側近として、スノーにも軍事訓練の協力を求めるためだ。


「……あぁ、魔王様。まぁまぁ、魔王様。いつも口を酸っぱくして言っておりますが、レディーを起こす際は目覚めのキス、もしくは胸元に抱きしめるように、と。それでは私は寝たふりをしますので、どうぞお好きな方を選んでください。個人的には前者がおススメです。……くぅくぅ。……すやすや」

「……お休み、スノー」


 寝たふりをして薄目で様子を伺うスノーを椅子に寝かせ、俺は部屋のドアから顔を出し、仕事に終われている下女(メイド)を捕まえる。

 その下女(メイド)に幾つかのお願いをした。

 記憶の隅に埋もれている軍事訓練の映像を思い出し、きっと必要であろう品物の準備をお願いしたのだ。

 もちろんインターネット大先生のお力を借りるが、事前の準備は早い方がいいし、当日に注文されても準備が出来ない可能性もある。やっぱり何事にも時間の余裕は必要だよね。特に果てしない仕事を抱え、毎日時間との勝負を繰り広げる下女(メイド)の方々には。


 さて、明日からの軍事訓練は頑張ろう。

まず初めに、すいません。

数日は諸事情により連続更新をストップします。

物自体のストックはありますが、ルビ振り、誤字脱字の確認、などをする暇がありません。

たぶん来週の月曜日には更新できると思います。

次回の更新を楽しみにしていただけたら幸いです。

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