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新たな王都ブルッケン(3)

 ――名ばかりの旧王都奪還作戦。その全貌が今、明らかに!

 まず夜明けと共に、ラスク率いる第一部隊が魔法の槍を頭上から降らせる。続いて壊れている城壁から、スルト率いる第二部隊が侵入し王城に乗り込む。その間にナナ率いる第三部隊が、人間族の攻撃から身を守るために、上空からの攻撃を防ぐために保護結界(シールド)を展開。後はラスク率いる第一部隊もなだれ込み、そのまま王都の敵戦力を剥いでいく。

 なるほど、なるほどね。それが魔王軍の戦闘方法――特攻あるのみ、ね。

 一介の社会人――戦略や戦術、それらについて無知な俺にでも分かる。この戦闘は必ず負ける、と。


「何かご質問はございませんでしょうか?」

「……ちなみに聞くけど、その方法で全戦全敗している訳ですよね?」

「違います。今回は上空からの攻撃を防いでおります」

「……そりゃ、すごい。これなら勝てそうですね。はっはっは」


 俺は皮肉を言ったつもりなのだが、どう捉えたのかナナは満足そうな表情をしていた。

 だが、そうとは言っていられない。このままでは今回も負け戦、ナナとラスク、更にはスルトまで敵の手に落ちてしまう。

 そして取り残された俺が、それもたった一人で果たして何ができる?

 いや、何も出来ない。ただ毎日をのんびり過ごす他ない。そんな光景しか浮かばない俺は、顔を両手で覆い、肘を長机について突っ伏した。このままでは不味い。本格的に滅亡の道しかない、と。


「……ナナ、その作戦だと今回も負けると思う」

「はい? 先ほどは勝てると言っておりましたが?」

「ごめん、あれは皮肉だ。……言いにくいが、ここは敢えて正直に言う。旧王都を奪還する前に、もっと先にやるべき事があると俺は思う。例えば、魔力不適合者(魔族モドキ)を導入するための訓練、大まかな敵戦力の調査、現在の進攻具合。細かい点を解決し、敵の主力部隊を凌駕するだけの力をつけて、初めて旧王都奪還が可能だと俺は思う」

「で、ですが我らの故郷を、それも人間族に好き勝手をさせるには――」

「時期が尚早だと俺は言っているだけで、奪還はいつか決行する。それまで待つことは出来ないのか?」

「いや、素晴らしい! 流石は魔王様ですぞ! このスルト、魔王様のお考えに賛成いたしますぞ!」


 ナナは不満そうにしているが、スルト賛成の意を表した。言葉には出していないが、ラスクもまた腕を組んで頷く。いかにナナでも、周囲の反対を押し切る事はなく、眉をしかめて食い下がった。

 取り敢えずは当面の危機は脱したが、この行為は問題を先延ばしにしているに過ぎない。いつかは人間族と正面から激突し、なんとしても結果を残さなければ、次に兵士として前線に送られるのは俺だ。


「そうと決まれば行動は迅速に。さっきは魔力不適合者(魔族モドキ)を三十名、それも追々と言いましたが、集められるだけ集めてほしい。もちろん本人の意思を優先し、集まった者には基礎体力の向上を図る。その中から優秀な者、九名(・・)を選抜してほしい。次に、周囲の現状を把握するため、密偵を送り込みたい。前線の戦力、進行具合、落とされた村の状況、戦争とは情報が命! くれぐれも手を抜かないように注意し、得られる情報は一つでも多くをモットーにして下さい。当たり前だが、情報を得るために君たちが前線に行くことのないように」

「はっはっは! 心配ご無用ですぞ、魔王様。ワシの優秀な部下を送りますぞ」

「なら密偵の件はスルトさんに任せます。それでしたら魔力不適合者(魔族モドキ)を集めて訓練するのがラクスさん、捕虜から情報を聞き出すのがナナさん。その役回りでいいですか?」


 各々の賛成の意を聞き、初めての会議は幕を閉じた。

 会議室からの帰り道、廊下をパタパタ飛んでいるスノーと出くわした。新王都に到着してから、あれだけ暴走していたスノーとの会話がない。何気なく「よっ、スノー。調子はどうだい?」と聞いた所、全力で逃げられた……。ありゃ?


 そんな事もあったが、本日の魔王業も無事に終了した。

 魔王っぽい事を何もしていないと思われがちだが、仕方もない俺は仮の魔王だ。正規の魔王じゃない俺に、そんな重大な仕事は振られていない。

 まぁ何もしないのも暇だし、城内をうろついては下女(メイド)のお手伝いをしてみたり、城下町に繰り出そうとすれば下女(メイド)に禁止されたり、こっそり抜け出そうとすれば取り押さえられる。

 以前にスノーに頼んでいた『スキル書』を読もうとしたが、文字が複雑すぎて読み書きを覚えるのも断念。

 つまり新王都に到着した二日目の夕方、この時点で俺は早くも暇を持て余している。

 仕方ない。こうなったら酒でも――と、戦利品から拝借した酒に手をかけ、やめた。暇だから酒を飲むって、二十代そこそこの若者の行動じゃない。異世界でアルコール中毒とか、夢も希望もファンタジーも何もない。


「けど、暇だしな……。こう、ゲームみたいに技を使ってスキル上げとか、ダンジョンに潜ってレベル上げとか、魔王に捕らわれたお姫様を救うとか、そういった要素が不足しているよね。せっかくの異世界だし、遊びの要素が一つぐらいあっても――って、それが戦争なのか? ちょっとヘビー過ぎやしないか?」


 などと、暇すぎて独り言まで呟きだした時だった。


 ――バン!


 ノックなしに盛大にドアが開かれ、そこに立っていたのは――。


「スノー? 突然どうした?」


 そこにはスノーが立っていた。

 緊急事態でも発生したのかと思いきや、その表情から察するに、どうも違うらしい。相手が鳥なのに、表情も判断できる日が来るとは思ってもいなかった。

 そんな事よりスノーはプルプルと震え、その表情は怒りに燃えていた。

 いや、現に燃えている。口から火を噴いて。


「魔王様の、おたんこなす!」

「えっ? 突然どうした?」

「突然ではありません! このスノーは悲しみを超え、こうして怒っております!」

「いや、まぁ怒っているのは見れば分かるけど、どうしてまた?」

「まぁまぁまぁ、白々しい。実に白々しくて呆れますわ!」


 はてはて、俺には全く身に覚えが……ない訳ではないが、そこまで起こる事か?

 だって俺の面倒を見なくてもいい。そう言っただけで、決して俺に近寄るなとは言っていない。ましてや俺を避けていたのはスノーで、俺に対する怒りも不当な物だと思う。


「んまぁ! その顔は理解していない様ですね! 信じられませんわ!」

「まぁそう怒るなよ。ほら、スノーの大好きな頭コリコリするから、それで機嫌直してよ」

「ぐっ! 何と卑怯な手を……。ですがこのスノー、そんな見え透いた罠に引っかかるほど愚か者ではありません!」

「そうか? スノーがそう言うなら……」

「ぐっ! 誘惑に負けて火が勝手に……。あぁ、口元まで……。ですが心までは――駄目ですわ! もう駄目、これ以上は限界ですわ……」


 口から噴いていた火は徐々に弱まり、それと同時に口元がほころぶ。そうこうしていたら、パタパタ羽ばたいて定位置にすっぽりと収まった。

 なんだよ。素直じゃないやつだな。

 頭をコリコリ。悶えるスノー。

 口元をコリコリコリ。震えるスノー。

 お腹をコリコリコリコリ。泣き出すスノー。

 スノーの怒っていた理由は、結局はよく分からない。それでも今は喜んでいるようだし、それはそれで良かった。



「それで、スノーはどうして怒っている訳だ?」


 スノーが満足するまで体全体をコリコリし、ストレスが発散されたのか毛並みが艶々になった。それだけではない。頬は赤く染め、瞳は潤み――そう、女性の色気を出した。

 相手が小鳥なのだが、そんなスノーに俺は……とは決してならないが、機嫌も直った様だし、膝の上でくつろいでいるスノーに問いかけてみた。


「魔王様がいけないのですよ! そう、それは昨日の事です。魔王様に『身の回りの世話はいらない』そう言われましたが、私は諦めませんでした。魔王様に見つからない様に、それでも見つかって欲しい願望から、それは大胆にお世話をしました。魔王様が入浴なされた際は、髪を流している時にシャンプーを流し込みました。魔王様が食事をされる際には、全ての料理を毒見し、お疲れだと思い塩分を少々高めに調整しました。魔王様が就寝なされる際は、奇襲に備えて魔王様の胸元で見つめていました。そんな私に魔王様は気づく事はありませんでした。ですが私も諦めず、ナナちゃんに相談をしたのです。その時にナナちゃんは『押してもダメなら引いてみたら? きっと独占欲が刺激され、魔王様も追いかけてくれるわよ』と、アドバイスをいただき、午前中に実践をしました。偶然を装って魔王様に出くわし、せっかくの魔王様との会話も我慢して、私は慌てた様子で逃げました。きっと後ろから追いかけてくれる。きっと抱きしめてくれる。きっと謝ってくれる。そして魔王様が追いかけてくれたら、全力で甘えよう。……そんな淡い期待を胸に秘めて、廊下の角から覗き込んで待ちました。結果はどうでしょうか? 追いかけてくる所か、私とは反対の方向を歩いて行ったではありませんか! それでも私は信じました。一時の気の迷いから生んだ結果で、時間が経てば私を探しに来てくれる。……待ちました。ですが魔王様は下女(メイド)と楽しそうにお喋りし、城下町に繰り出そうと外に出て、失敗しても挑戦し……。気が付けば自室に引きこもりました。私は悲しかったです。私は悔しかったです。そして私は怒りました。どうして魔王様は私を邪魔者扱いするのか、と。そして今に至ります。……結論から言います。魔王様の側近としての役割――身の回りの世話を始めとし、本日から床を共にする事を、この場で認めて頂きたいと思います。麗しき乙女の心をないがしろにし、踏みにじった罪は重いです。本来なら軟禁の罪に問われますが、魔王様は特別です。この程度で許されるのであれば、お安いとは思いませんか?」


 ふむ。昨日の一連の不可解な出来事はスノーの仕業だったのか。

 必死な表情で訴えてくるスノーを一瞥し、俺はそっとため息をついた。

 スノーと距離を取った本当の理由。『ヒロインちゃん大作戦』に支障が出そうだが、ここで無下な対応を取るほど俺も鬼ではない。

 本当に男ってバカだよね。昨日からの行動は全て演技で、計算されたスノーの筋書きかもしれない。そんな疑心も芽生えるが、それを口に出すことは出来ないし、泣かれたらもう何も言えない。本当に男って大バカだよね。


「……分かった。一緒に寝るのは認めないけど、それ以外のお世話はスノーに頼むよ。お手柔らかに頼むな」

「はい、喜んで」


 にっこり微笑むスノー。

 全く、これだとスノーがヒロインみたいじゃないか。けど無事に仲直りできて、本当に良かった。一緒にいると騒がしいけど、何だかんだ一緒にいると楽しいのも本音。

 そんなスノーの笑みが伝染し、膝の上から見上げてくるスノーの頭を優しく撫でた。

 スノーは気持ちよさそうに目を細め、俺と視線が被ると恥ずかしそうに頬を染める。

 そして窓から差し込む夕日に照らされ、影が部屋を埋め尽くす。

 この光景を見た第三者は、きっと微笑ましく思うだろう。


 そんなスノーに笑みを浮かべて俺は思う。

 こいつ我慢できなくて漏らしたな、と。

ここまで見ていただきありがとうございました。

甘口から辛口の感想やご意見、お気軽に下さると嬉しいです。


以前の執筆した作品なので当分は毎日投稿となります。

よろしくお願いします。



混乱する前にプチ登場人物紹介

・【スノー】妖精族の小鳥?、女性。魔王の側近。魔王に恋する一人の女性。

・【ナナ】妖精族のエルフ、女性。ラスクの嫁。魔王直属の臣下。魔法特化型。

・【ラスク】妖精族のエルフ、男性。ナナの夫。魔王直属の臣下。魔法特化型。

・【スルト】爬虫類族のサラマンダー、男性。魔王直属の臣下。防御力と俊敏性に優れている。

・【ショウグン】昆虫族のカマキリモドキ、男性。魔王直属の臣下。←消息不明。

・【ドルガ】鳥獣族のグリフォン、男性。魔王直属の臣下。←戦死。


・【ジョン・サンダー】人間族の男性。十三部隊の部隊長。仲間は全員戦死。←捕虜

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