新たな王都ブルッケン(1)
更新が遅くなりすいません。
次の日の早朝。
窓から差し込む清々しい朝日に目が覚め、眩しさに目を細めて大きく伸びをする。
いや、ついさっき現実世界で寝た訳で、あまり睡眠をとった気にはなっていない。
充実感が不足しているというか、現実世界と異世界を合わせれば思考のフル活動をしている。そのせいだろうか? あまり睡眠に頓着しなくなった。
が、それをポジディブに考えれば、人より三倍近く物事に浸れる。現代社会に忙しい社会人には、願ったり叶ったりの事ではないだろうか?
そしてこの生活も、最初は戸惑いこそあったものの、それなりに順応し始めてきた。
まぁたまに現実世界で小鳥を見ると『あれ? もしかして喋るのでは?』と混乱する事も多々あるし、本名で呼ばれても反応が出来ない事もある。それに関しては異世界のキャラが濃くて、ついつい異世界に寄ってしまうのだから仕方がない。
それはそうと、本日は新王都に旅立つ日だ。
今思えば寄り道を繰り返し、今こうして集落に身を寄せているが、それも今日まで。まぁその寄り道で救われた命、戦利品の獲得、プラスになった事の方が多い。それはそれで良かった。
「それでは村長さん、少しの間ですがお世話になりました。この集落が戦場にならない様に、魔王として務めを果たしたいと思います」
「ま、魔王様! 頭をお上げください! こちらこそ魔王様にご無礼を働き、あまつさえ頼みまで聞いていただきました……。魔王様の寛大なお心、そして老いぼれの頼みを聞いて下さったご恩、この集落の村長――いえ、蜥蜴人を代表して心から深い感謝の気持ちを」
「いえ、これも魔王の務め。ただ当たり前の事をしたに過ぎません。……それより、本当にこれを頂戴しても……?」
「感謝の気持ちでございます。ご迷惑でしょうか?」
「いえ、とてもありがたいのですが……」
村長に頂戴した物を一瞥し、俺は恐怖のあまり体を震わせる。
そこには馬車――なのだが、馬車ではない。馬の代わりに繋がれているのは、体長が二メートルはあろうモンスターだった。つまりモンスター車と比喩した方が正しいだろう。
姿形は狼を連想させるが、そんな生易しい動物ではない。
全体を黒い剛毛で覆い、閉ざされた口から伸びる二本の鋭い牙。四本の足は体長とは不釣り合いな――成長したツキノワグマの様にずっしりしている。極めつけは尾で、細くて長い尾が四本も生えている。そんなモンスターは荷台に繋がれて不機嫌なのか、先ほどから頻りに威嚇音を上げている。
大量の戦利品を運搬するには非常に助かるのだが、それ以外が心配だ。触ろうものなら腕ごと喰いちぎられそうだし、襲ってこない保証もない。
正直に言おう。有難迷惑、だと!
「はっはっは、そこまで警戒しなくても大丈夫ですよ。その種は比較的に大人しいです。ほら、今も甘えた声を上げているでしょう?」
え? 威嚇じゃないの?
村長は実践とばかりにモンスターを撫でた。モンスターもそれが嬉しかったのか、額を村長に擦りつけており、その姿は大型犬が主人と戯れる様だった。
それを見せつけられては、もう何も言えない。スノー達も特に気にした様子はないし、村長の言っている事の方が正しいのだろう。
人間族のジョン・サンダーは不安一色だが、それは仕方ない。言葉も分からないし、相手は自分たちの脅威であるモンスターだ。恐れて当たり前だ。
「そ、そうですか? それならお言葉に甘えて……」
「この子の事を大事にしてやって下さい。……お前も元気で過ご――うっ。今までありがとう、ジュリン。……うぅぅ」
最後の別れに泣き出す村長。
そんな村長の背中を優しく撫でる夫人。
元主人の流れる涙を舐めるモンスター。
何だよ、これ?
村長一家以外は冷めきった目で見ているし、とんだ茶番劇もいいところだ。
愛犬ならぬ愛モンスターを、本当に手放していいのか?
そんな疑問を他所に、茶番劇もクライマックスを迎えようとしていた。
村長を見かねた数名の住民が、両脇を抱えて引きずっていく。引きずられる村長は未練がましく「ジュリン! ジュリン!」と、頻りに名前を呼び続け、そのまま家の影まで連行されていった。
「……俺たちも行こうか」
呆気にとられた仲間たちに言い放ち、村長が追いかけてくる前に、俺たちは集落を後にした。
ただ最後にハルカが俺の元にやってきて「マエケンさん――いえ、魔王様。あなたの事は忘れないわ」と、ハグをしてきた。そして別れ際に俺の頬にキスを一つ。
どうやら茶番劇はまだ続いていたらしい。
どんな集落だよ!
と、まぁ集落の一件はここまで。
暖かい日差し、涼しいそよ風、日光で輝く川、森から聞こえる鳥の声。そんな清々しい陽気に当てられながら、川沿いをモンスター車で走らせる。
移動型の魔法陣までは目と鼻の先で、十分程度で到着する事ができた。
この移動型の魔法陣は、発動する者の魔力値によって移動距離が左右される。今まではスノーの魔力値で移動してきたが、今回からは違う。スノーとは比べ物にならない、数十倍の魔力値を持つナナとラスクがいる。この二名の手にかかれば、いかに遠い目的地でも一発で到着するだろう。
ちなみに魔法陣の中に全身を入れなくても大丈夫らしい。体の一部でも入っていれば、図体の大きなモンスターでも問題なく目的地につくらしい。ホッとしたような、そうでないような……。
そうして最も魔力値の高いラスクが魔法陣の中心に立ち、囲むように各々の体の一部を魔法陣に入れる。
同時に薄っすらと赤く輝いていた魔法陣が徐々に輝きを増し、次の瞬間には目も開けられないほどの閃光を放つ。
何度経験しても慣れない事に、ジーンっとする目頭を押さえて頭を振る。
周囲は水の滴る音が響き渡るが、それ以外は静寂に包まれていた。そして先ほどまでの暖かい日差しも今は無く、それどころか冷たい風が流れ込み体を包む。
徐々に慣れてきた目をゆっくりと開いていくと、そこには地下通路が広がっていた。その造りは人間族に襲撃され、無残な姿となった旧王都を沸騰させた。
「あぁ、魔王様。やっと目的地に到着しました! 到着予定を大幅にくるいましたが、こちらは新王都――ブルッケンです。もうお分かりだと思いますが、そうです! こちらが私と魔王様の新居です! 寝室は旧王都より少し狭いですが、まぁそこは肌を寄せれば問題はありません。いえ、むしろ寄せましょう! 想像しただけ……ハァハァハァ」
「こらこら、スノーちゃん。魔王様と一緒に寝られるはずがないでしょう? スノーちゃんには――」
「あぁ、ナナちゃん! それは内緒の約束でしょ!?」
どうやら俺は騙されていたらしい。
スノーは昨晩『私は魔王様の側近でございます。床も同じにするのが務めであり、先代からの大事なお仕事なのです!』と言っていた。今の会話から昨晩の発言は真っ赤なウソ。魔王に平気でウソをつくとか、今後のスノーの発言は少し考え物だ。
「あぁ、魔王様。今晩が待ち遠しいですわぁ~。あぁ、早く魔王様の生肌に――」
「スノー?」
「はい? どうかなされましたか?」
「一緒に寝ないからな?」
「……はぃ? すいません、どうにも耳の調子が悪いようでして、もう一度お願いします」
「一緒に寝ないよ。俺は一人で寝るし、その他もろもろの世話だって必要ない」
「……つまり、お風呂のお世話も? お食事のお世話も? おトイレのお世話も? マッサージのお世話も?」
「……今までの魔王様は子供だったのか? よくもまぁそこまで……」
「ご冗談ですよね? 大好きな女の子に悪戯して、注意を惹こうとする男の子の心境ですよね?」
それに対して俺は無言で答える。
全てを悟ったスノーは力なく夢に倒れ込み「いやあぁあああぁぁぁぁぁ!」 と、全力で叫ぶのであった。無情にもその叫び声は廊下に響き、叫び終わった後もこだました。
スノーには悪いが、俺は子どもじゃない。何が嬉しくて身の回りの世話を――しかも小鳥にされなければならないのか。全く嬉しくないし、余計に時間がかかってしまう。
と、いうのは建前で、本音は違う。
そう、まだ見ぬヒロインの為にも俺の時間を――スノーに邪魔される訳にはいかない。良心が今もヒシヒシと痛むが、ここで鬼にならずして何時なる! 待っていろよ、ヒロインちゃん! 俺が今から迎えに行くからな! はっはっは!
「魔王様? 何か良からぬ事をお考えで? その……言いにくいのですが、顔が少々――いえ、だいぶ悪い表情をしておりますぞ?」
おっと、いかん。表情を引き締めなければ! ラクスが不振がっている。
「そ、そうか? ほら、先を急ごうか。きっと皆も心配しているだろうし」
「……確かにそうですな。では、先を急ぐとしましょうか。ほら、お前たちも早く荷台に乗れ。出発するぞ」
ラスクの掛け声で荷台に乗り込み、モンスター車は再び走り出した。荷台では力なく倒れ込み、抜け殻の様に動かないスノーをララが慰める。そんなララと視線が合うと、悲しそうに失笑されてしまった。
待ってくれ! 冗談だよ! と、言いたい気持ちをグッと堪え、俺は逃げるように前方に視線を移した。
そんな傷まれない空間は十分ほど続いた先、玄関先と思われる開けたホールへと繋がっていた。そこではおそろいのエプロンを身に着け、様々な種族の女性――なのかは分からないが、それぞれ仕事に終われていた。
そこに俺たちの登場だ。場は静まり返り、同時に不審人物の登場に緊張が走る。が、ラクスは実に堂々と荷台から降り、そして告げる。
「貴様らは何をしている!? 魔王様がご帰還されたのだぞ! 今すぐ魔王様の臣下共を呼んでまいれ!」
その言葉が引き金となり、一気に玄関ホールは喧騒に包まれた。
ラスクの指示通りに臣下を呼びに行った者、荷台から降りるのを手伝う者、荷台の戦利品を整理しようとする者。
事前に打ち合わせをした訳ではないのに、それぞれが元々の役割だったと思わせるほど、それほど各自の行動に迷いが無かった。よっぽど厳しく指導されており、本物のプロフェッショナルとは彼女らを差すのだろう。
それから数分後の事だった。
床が抜けるのでは? そう不安に思うほど、ドタバタと足音が響き、それから間もなくの事だった。召喚初日に見かけた五名のうち一名、背中の炎を揺らめかせたサンショウウオ――サラマンダーが現れた。
名前が思い出せないので【常時詳細確認】のスキルでカンニングしてみると、スルトと出た。
確かあの場にはナナとラスク、今現れたスルトの他に二名いたはずだけど、今は留守にしているのか?
「魔王様! よくご無事で……戦死したと聞いたナナとラスク、更には人間族の捕虜まで! このスルト、この背中の炎が消えようとも、生涯をかけて魔王様についていきます!」
これはまた暑苦しいキャラが増えた。
それはそうと、背中の炎が消えたら……それってただのサンショウウオになるよね?
「……えっと、それで今は君しかいないのかな?」
「それにつきましては……。くっ、我が親友のドルガは、避難民の誘導の際に……。更にはショウグン殿の消息は未だに不明です。……運が良くて敵の捕虜、最悪の場合は戦死したかと……」
誰だ、ドルガとショウグンって? 全く思い出せないけど、あの場にいた二名の事だろう。確かグリフォンとカマキリモドキだっけ?
それにしても高レベルが呆気なく戦死とは、本格的に負け戦じゃないだろうか? 勝てる要素が見当たらない。
俺の心境とは裏腹に、玄関ホールは静寂に包まれ、一堂に悲しみを味わっている。ラスクもナナを抱き寄せ、ドルガの戦死に涙を流していた。
「そうか……。彼らの事は残念だったと思う。彼らの為にも俺たちは戦い、そして仲間の仇を晴らそうじゃないか」
「くっ、そうですな。魔王様のおっしゃる通り! 悪の化身――人間族をこの手で滅ぼし、共に平和な日常を取り戻しましょう! 魔王様に万歳! 万歳!」
スルトの掛け声に合わせ、ナナとラスク、周囲の下女も声を張り上げて「万歳!」と叫ぶ。その声は玄関ホールに、しまいには城の外にまで響いた。
どうやら本日は茶番劇の日らしい。
マジで勘弁してくれ。
ここまで見ていただきありがとうございました。
甘口から辛口の感想やご意見、お気軽に下さると嬉しいです。
以前の執筆した作品なので当分は毎日投稿となります。
よろしくお願いします。
混乱する前にプチ登場人物紹介
・【スノー】妖精族の小鳥?、女性。魔王の側近。魔王に恋する一人の女性。
・【ナナ】妖精族のエルフ、女性。ラスクの嫁。魔王直属の臣下。魔法特化型。
・【ラスク】妖精族のエルフ、男性。ナナの夫。魔王直属の臣下。魔法特化型。
・【スルト】爬虫類族のサラマンダー、男性。魔王直属の臣下。防御力と俊敏性に優れている。
・【ショウグン】昆虫族のカマキリモドキ、男性。魔王直属の臣下。←消息不明。
・【ドルガ】鳥獣族のグリフォン、男性。魔王直属の臣下。←戦死。




