決意の始まり(5)
さてさて、何でもスノー曰く「人間族の武器を入手するとは流石は魔王様!」つまり戦争が始まって以来の快挙らしい。おいおい、どれだけ人間族に圧倒され続けていたのやら。
まぁそんな事はどうでもいい。まずは自動小銃が使えるかどうか、そこが問題だ。
先ほどは全く反応を示さなかったし、きっと安全装置が発動していたに違いない。まずは安全装置の解除を手探りで見つける必要がある。
と、いう訳で手あたり次第のボタンやらレバーを移動してみたが、どういう原理なのか自動小銃は全く反応してくれなかった。その時にマガジンが外れて弾薬が残っているのを確認し、弾切れが原因でもなかった。
うん、こりゃお手上げだ。ジョン・サンダーに聞いた方が手っ取り早いかもしれない。まぁ素直に答えてくれるとは思えないけど……。やっぱりそうなると拷問? 嫌だなぁ~。
ちなみに自動小銃の動作確認をしている時、俺のスキル【常時自動通訳】の弱点を発見してしまった。なんと、文字は翻訳してくれないようだ! まぁスキルの名前が通訳となっている訳だし仕方がないけど、それぐらいおまけで教えてくれてもいいと思う。こりゃブーイングだわ、全く……。
気を取り直して次のリサーチに移ろう。
そう、ヘルメットのリサーチだ。ジョン・サンダーはグルグル巻きにされているし、軍服は入手できないのは残念だが、それは追々でいいだろう。まずはヘルメットの性能チェックだ。
が、どうにもこうにも人のヘルメットに顔を突っ込むのは気が引ける。さっきもヘルメットを脱いだ時に額に汗を流していたし、きっと汗臭いに違いない。麗しい女性なら……いや、勘違いしないでほしい。汗臭い男性と麗しい女性とで天秤にかけた話で、麗しい女性の汗ならクンクンするとは一言もいっていない。
脱線したから話を戻すが、もしかしたらヘルメットにも秘密があるかもしれない。そうでないと魔力を自在に操る魔族が、ここまで一方的にやられるとは思えない。
と、いう訳で――。
「スノー、ちょっといいか?」
「あぁ、私の魔王様。あなた様のスノーに何か御用ですか?」
「……ちょっと地面に立って」
「へ? 分かりました。一体なにをなさるおつもりで?」
疑問に思いながらも忠実にスノーは地面に立ち――俺はすぐさまスノーにヘルメットをかぶせる。
突然の事にビックリしたスノーは暴れ出して「ま、魔王様! 魔王様! って、あああああぁあぁぁぁぁ!」とヘルメットの中で騒ぎだす。
「どうだ、スノー? ヘルメットに異変はないか?」
「く、臭いです! 臭いです! 早く、早く出して! 魔王さまぁぁぁぁ!」
よし、スノーを生贄にしてリサーチも終了。
ヘルメットを退かすとスノーは勢いよく飛び出し、体に臭いが移っていないか確認をする。ちょっと汗臭さが移ったのか、すぐさま近くの木に体を擦りつけて脱臭を試みていた。何だか悪い事をしてしまったが、まぁこれも未来の魔王軍のため。こればかりは仕方ない。
「魔王様! 酷いではありませんか!? とっても臭かったですよ! お戯れもほどほどにして下さい!」
「ごめん、ごめん。それでヘルメットの中身はどうだった?」
「え?」
「え?」
「……臭くて中身までは――」
そうして再びスノーの叫び声が当たりに響き渡った。あぁ、可哀想なスノー。水浴びをしたら優しく抱いてあげよう。それまでは距離を置いてもらうけど……。
ちなみにスノー曰く「電池切れマークが端に出ていました」との事らしい。ヘルメットのリサーチも追々になりそうだ。それにしても電池切れのマークって……。これは実に夢が膨らむ。中々の掘り出し物ではないだろうか?
* *
人間族の装備品を回収に向かわせて約一時間半後。
俺の足元はとんでもない事になっていた。まずジョン・サンダーが持っていた自動小銃、これの同型が三十丁。自動拳銃が二十九丁、まずジョン・サンダーが隠し持っていると間違いないだろう。そうなると三十丁と思っておこう。次に軍服が十着、先の戦闘でほとんどが大破し、ジョン・サンダーが着用しているのと合わせて十着しか確保できなかったようだ。そしてヘルメットも同様で、綺麗な状態で見つかったのは十個。
さて、ここからがニューアイテムだ。先に説明したのを省き、人間族が所持していたリュックが一つある。中身はまだ確認していないが、パンパンに膨らんだリュックにワクワクが止まらない。
皆の視線を集め、俺が代表としてリュックの中身を確認する事になった。
「よし、出すぞ!」
恐る恐るリュックの中に手を突っ込み、中身を一つずつ地面に並べていく。――のだが、正直にいってハズレだった。期待ハズレもいいところだ。
まず最も多かった荷物が酒類である。というより荷物の七割を占めており、中には空になった瓶も含まれている。ゴミを持ち帰っているのは素直に評価できるが、戦場で酒とは魔族も随分と舐められている……。次に予備のマガジン二割ほど、最後に何かの錠剤が入った小さいケースが数点。以上だ!
確かジョン・サンダーは俺に、救急薬を持っていないか訪ねてきた。この中の一つはそれで間違いないと思うが、残りの錠剤は何なのだろうか? 怪しい物でなければいいのだが……。
まぁ何事も上手くいくはずもない。この現実を受け入れて荷物の事は忘れよう。
となると、後はナナとラスクが目を覚ますのを待つのみとなった訳だが。治療を終えて二時間ほど経過した今も一向に目を覚まさない。呼吸で胸が上下に動いているので、治療に間に合わずに息を引き取った訳ではなさそうだ。
大量の戦利品とジョン・サンダーの身柄で既に手一杯なのに、ここに気を失ったナナとラスクの運搬をしないといけないとか無理難題である。むしろ二名にも運搬に手伝ってもらわないと、全てを運び出すのに何往復もしなければならない。そんな面倒はまっぴらごめんだし、集落の蜥蜴人にやらせるのも気が引ける。
かといって悠長にしている時間もあまりない。ここまで来るのに片道で三時間ほど。帰りは大荷物で移動スピードに体力と、時間のかかる要素があり過ぎる。ボチボチにでも出発しなければ日が沈んでしまう。それは、つまり――寝坊を意味する!
俺の予想が正しければ、現実世界と異世界は昼夜逆転していると思う。現実世界に太陽が昇っていたら異世界では夜、異世界に太陽が昇っていたら現実世界は夜。といっても、異世界での今朝を考えると微妙に時間の変化は感じ取られた。まぁその点はさすが異世界だね! その魔法のような言葉で済ませよう。
話を戻すが、何にせよこのままでは俺の社会人生活に大きなダメージを負う事になる。断固として阻止せねばならないし、現実世界あっての異世界だ。魔族には申し訳ないが、現実世界を捨てて異世界にのめり込むほど俺に財力は無い。
「スノー、悪いけどナナとラスクの目を覚ましてやってくれないか? いい加減に出発しないと日が暮れそうだし」
「あぁ、私の魔王様。今すぐにでも起こすことを約束します! ……その暁には、ご褒美として私を抱いてはいただけないでしょうか?」
「えっ? 汗臭いから嫌だよ」
「あぁん、魔王様ったらいけずなお方ですわ……。だけどそんな魔王様も素敵。いやん!」
言いたい事だけを言って、恥じらいなのか判断はつかないが、スノーは全力でナナとラスクの元に駆けて行った。それより抱いてって……。今までの様に胸元に、って意味だよな? そうでなければ困るのだが……。
まぁいいや、ナナとラスクの事はスノーに任せて、俺は戦利品の運搬の準備を始めよう。
まず最大のネックは自動小銃が三十丁だろう。大体一丁の重さが三キロから四キロほどで、男手が最大で五名。単純で割れば一人頭六丁。ご丁寧に紐もついているし、それならまだ何とかなるだろう。きっと集落につく頃には肩こりが酷い事になっていると思うけど……。
次に自動拳銃が二十九丁……いや、出発前にジョン・サンダーから没収するとして三十丁。手頃な縄でもあれば引金の囲いでまとめて、腰にでもぶら下げれば問題は解決する。……流石に危ないか。そうなるとヘルメットの中に収納して持ち運ぼう。一つのヘルメットに自動拳銃を三丁。それで問題は解決する。後は女性陣にも手伝ってもらえれば問題ない。
後はリュックと軍服、更にはジョン・サンダーのツタ番が一名。まぁこれに関しては問題ないだろう。肩に自動小銃、背中にリュック、問題ない。軍服も一枚が薄いから一人で難なく持てる。残ったジョン・サンダーは叩き起こして自分で歩かせ、後ろから伸びているツタで抑え込めば逃げられない。
うむ、中々に良い感じにまとまった。後はナナとラスクが目を覚ましてくれれば問題は解決するのだが……。スノーに頼んだのは人選ミスか?
「……おぃ、スノー」
「あぁ、魔王様! 中々起きてくれません! これは困りました……」
そりゃ起きないよ! だってナナとラスクの上でピョンピョン跳ねているだけだし! その構図は一見して、休日のお父さんの上に飛び乗る子どもの様にしか見えない。もちろん重さを全く感じない仕様で。
やれやれ、仕方ないから俺が起こすしかないか。
――が、俺は大きな過ちをしでかした。そんな事を今の俺は全く気が付かず……。
「おぃ、起きてくれ! おーぃ、起きろ~!」
まずはナナの肩をゆさゆさと揺すり、ほどなくして瞼がゆっくりと開かれる。ナナの上に乗っているスノーは「あぁ、魔王様! なんて手際の良い事でしょうか。このスノーを起こすときは頬に優しくキスを――」などと興奮状態に陥っているが無視しよう。着々とスノーの好感度だけ上がっているが、何とも微妙な感じだ。
完全に目を覚ましたナナは何度も目をパチクリさせ、頭を揺すりながら体を起こす。その衝撃で胸元に立っていたスノーはコロコロ転がり落ち、慌てた様子で抱きかかえる。
「もしかしてスノーちゃんが助けてくれたの? ……ん? なんだかスノーちゃん汗臭い。ちゃんと水浴びしているの?」
「ナナちゃんのお寝坊さん! いったい私がどれだけ苦労したのやら……。それに私は汗臭くないの! これは魔王様が無理やり」
「えっ! 魔王様ですって!? もしかして魔王様がここに!?」
「そうよ。ナナちゃん達を助けるために魔王様が――あぁ、思い出しただけでも胸のトキメキが!」
「そう、だったの……。それで、魔王様にお礼が言いたのだけれど、魔王様はどちらに?」
「あっ! ナナちゃんでも私の魔王様は渡さないからね!」
「なーに? もうそんな関係なの? スノーちゃんの大事なお方に私が手を出すはずがないじゃない。それに大丈夫よ。ほら、私にはラスクって旦那がいるでしょ? 彼ったら直ぐにヤキモチ焼くじゃない。だから大丈夫。……それで、魔王様は?」
「本当に? 本当の本当に?」
「本当よ。……それで、魔王様は?」
「信じるからね!」
「あー、はいはい。分かった。分かったから、いい加減に魔王様の居場所を教えて」
「む~。……魔王様ならナナちゃんの隣にいるよ」
「えっ これは失礼しました! この度は――って、憎き人間族! 貴様に蹂躙された仲間の仇、てめぇーをぶっ殺してやる!」
よっぽど憎かったのだろうか、先ほどまでのスノーとの会話をしていた笑顔が消え去り、今は美形が崩れるほど表情を歪ませて俺を睨んでいる。慌てた様子でスノーが「ちょっと待ってナナちゃん!」と仲裁に入ろうとするが、それよりも早く俺の胸元に拳を突き立てる。
一瞬の出来事に何が起こったか理解するよりも早く、目の前でスノーが青ざめている方が先に視野に入った。ブラウン色の羽毛が青く変色する様は異常で面白かった。さすがは夢のファンタジー世界。何でもありだな。
それよりどうしてスノーが青ざめているのか、その真相を確かめるために俺はナナの拳に視線を移し――俺は絶句した。拳ではなく、隠し持っていたナイフを俺の胸元に突き立てていた。
それを脳で理解した瞬間。傷口は熱を帯びて、視界がグニャーンと歪んでいく。それと同時にくる吐き気と寒気。
ただ薄れゆく意識の中で、ナナの歪んだ表情が実にリアルだった。それはナナが心から人間族に対して憤怒、私怨、憎悪、殺意、様々な心境が歪んだ表情から垣間見たからだ。
そこでやっと俺は理解した。人間族と魔族の共存は今後、もう何があっても叶う事はない、と。それほど魔族は憎しみを募らせ、日々攻め入る人間族に向けているのだと。
――身をもって知る。
現実世界では人間族、異世界では魔族。両方の種族を共有し、平和な解決を俺は望んでいた。スノーは無理だと言った。もう溝が埋まることは無い、と。だけど心のどこかではそんな事はない。そう思っていた。
だけど違った。スノーの言ったことの方が正しかった。それを俺自身の身が証明し、そして気づかせてくれた。魔王として戦うのなら、夢から覚める手段がないのなら、そして戦争となった理由――人間族が非道に走っているのなら、魔王として呼ばれた以上はそれに答えるべきではないのだろうか?
何より俺自身の身を守るためにも、俺自身が非常に走る事もあるだろう。だがそれも仕方ないと割り切ろう。そうでなければ俺の身も、この世界で仲良くなったスノーの身も、集落で世話になった蜥蜴人も、そして魔界の住民、全てを無くす――死を意味する。それだけは阻止しなければならないし、これ以上の被害も抑えなければならない。
死と隣り合わせになった事で俺は気づかされた。この異世界を取り巻く憎悪の大きさに……。
ここまで見ていただきありがとうございました。
甘口から辛口の感想やご意見、お気軽に下さると嬉しいです。
以前の執筆した作品なので当分は毎日投稿となります。
よろしくお願いします。




