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決意の始まり(4)

 二十分あまり。

 この時間は魔王軍の上層部――魔王直属の臣下が生きられる僅かな時間だ。指揮をとっていた部隊は人間族に敗れ全滅。残された指揮官は人間族の十三部隊に果敢にも挑み、その結果は十三部隊の全滅と一矢報いる。

 ただ相手が悪かった。人間族は一切の魔力を持たないのだが、それを補う技術力に優れている。一人ひとりの戦闘力は魔族とは比べられないほど貧弱ではあるが、裏を返せば己の力量を把握しているとも言えよう。それを把握しているが故、相手が単独でも複数で連携を取る。その人間族同士の連携――繋がりこそが最も脅威なのかもしれない。

 逆に魔族は己の力を過信し過ぎる傾向がある。今でこそ戦争で争っているが、以前の平和な世界でも魔族は人間族を見下す傾向があった。体格は小さく、ちょっと突いただけで肌が切れるほどもろい。更には魔力を持たない人間族には魔法もスキルも使えない。それで何を脅威にすればいいって話になる。

 そんな彼らの戦闘だ。魔王直属の臣下が二名に対し、人間族の十三部隊は総勢三十名。一見すれば銃や爆発物を主力戦力として扱い、連携に優れた人間族の方が優位に立てる状況である。だが蓋を開けてみれば、そう上手い具合に事は進まなかった。その要因として立地が関係している。

 確かにアサルトライフル――自動小銃は人間族も含め、全種族に対して殺傷能力の高さから脅威となりうる。開けた場所では一方的に虐殺も容易ではあるが、戦場となった場所は木々が密集し、雑草が生い茂る森の中である。そんな森の中では取り扱いも容易ではない。自動小銃を振りかざせば木々に当たり、敵を認識しても迅速に攻撃に移る事は出来ない。

 逆に魔法やスキルを使いこなす魔族には多少の影響はあるものの、それでも身軽さから武装した人間族と比べ、この立地に限っては移動手段や攻撃手段は格段に勝る。

 ただ、それだけでは人間族の十三部隊を壊滅にまで陥る要因にはならない。そうなれば残すは種族の問題となる。例えば爬虫類族であれば、全身を鱗で覆う者、そうでない者でも比較的に肉厚で防御力に優れている。例えば鳥獣族、唯一空中を自在に移動できるのに加えて俊敏性に優れ、こと空中戦においては全種族で最も優位に立てるだろう。

 そして今回の相手は妖精族のエルフであった。森の番人とも言われる彼らにとって、木々が密集しようが雑草が生い茂ろうが全く脅威ではない。むしろ長年の生活から逆に居心地すらいいと思えるほどでもあった。

 木々を巧みに移り渡り、隙を見つけては魔法を放つ。魔力が底を尽きれば森の素材から弓を自作し、立地に影響されずに敵を仕留めていく。

 一人、また一人、人間族の戦力はあっという間に削がれる。当初の三十名は気が付けば二十名に、更に気が付けば十名に……。

 かといって人間族も一方的にやられる訳にはいかない。祖国のため、そこで待つ身内のため、今も戦場で戦う仲間のため、彼らは奮闘した。敵に居場所を悟られるのを覚悟の上で爆発物を惜しみなく使い、次戦の事も考えずに弾薬を惜しみなく使い、その甲斐もあって二十九名の犠牲を出すものの、人間族の勝利として幕は閉ざされた。



『なるほど、そのような経緯があった訳ですか……。それでしたら、昨晩は徹夜で敵の排除に?』

『あぁ、そりゃな。戦場のど真ん中で寝られるほど肝が据わってねぇーよ』

『では私が監視をしていますので、隊長殿は少しお休みになられては?』

『いいのか? それは助かる。俺もそろそろ限界だったからな。ほら、この銃を使え。弾薬はそれで最後だし大事に使えよ?』


 それからほどなくしてスース―と寝息を立て、ジョン・サンダーは眠りについた。よっぽど眠かったのだろうか、その場で丸まって眠る彼は猫のようだった。

 さて、この世界にやってきた時に見かけた妖精族のエルフ、ナナとラスクを一瞥する。

 今も体力値(ヒットポイント)が徐々に低下している。このまま放置すれば二十分後には取り返しのつかない事になるだろう。というより、王都戦で戦死したと兵士が報告にきていたけど、まさかこんな所にいたとは思いもよらなかった。そこに俺らが立ち寄るとは何とも運がいい二人組だろうか。

 と、まぁそんな事はどうでもいいか。まずは仲間のナナとラスクの身の安全を確保しないといけない。そして未だに埋まらないヒロインの座をナナに明け渡し……いやいや、そんな下心では……だが、しかし。いや、しかし。う~む、後々が楽しみですな!


「おい、大丈夫か?」


 取り敢えず女性優先でナナの肩を叩いて意識の確認。こんな時に何を見ているのかと怒られるかもしれないが、以前は平伏していたので容姿までは見ていなかった。そして今回が初なのだが、一言で表せば美しいに尽きる。鼻筋が通った高い鼻が最も印象的で、それに見合ったほっそりとした顔立ち。目は閉ざされているが、きっと目力は相当なものだろう。ジョン・サンダーもそうだが、この世界では美に対して一定の指数を叩き出しているのだろうか? そうなると未だに自分の顔を拝見していないが、きっとこれは期待が持てそうだ。

 それはそうと、ナナの意識は一応だがあった。何かを俺に伝えたいのか目を薄っすらと開いて口をパクパクし、体は全く動きそうにないのか指先をぴくぴくさせるだけで、虫の息と表現するのが一番手っ取り早いだろう。

 はて、何を伝えたいのか気になり口元に耳を近づける。……うむ。聞かなかった方がよかった。こんなに美しい女性が「てめぇーをぶっ殺してやる」と時間をかけて俺に言ってきた。……そりゃないよ。ヒロインの座はまだまだ先のようだ。

 ちなみにラスクの方も似たような感じだった。人間族と勘違いしている俺に暴言を吐き、それに加えて耳まで嚙もうとする始末だ。まぁ虫の息だから痛くはないと思うが、男にそれをされると違う意味でダメージを負いそうだ。


 ナナとラスクは共に暴言を吐けるほど元気だから一安心。ちょっと心にダメージを負ったが、【擬人化】スキルで人間族に化けているため仕方がないと思う事にした。

 といっても体力値(ヒットポイント)は未だに低下気味で、命の危険は脱している訳ではない。運の良い事に待機している蜥蜴人(リザードマン)の中には神官がいる。彼に頼んで傷を癒せば何とか持ちこたえるだろう。

 そうと決まれば善は急げ。ジョン・サンダーを起こさないように注意を払い、生い茂る雑草の中で待機中のスノーの元に駆け寄る。

 いち早く俺の姿を確認したスノーは胸元に飛び込み、すりすりと頬を擦りつけてくる。


「魔王様ご無事でスノーは安心しました!」

「しっ、静かに。向こうに仲間が二名重傷だ。神官さんは二名の治療。残った者は俺と一緒に人間族の拘束。あまり時間はないから迅速な行動をとってほしいが、人間族は寝ているがあまり騒がず行動するように」


 俺の指示に一同は頷いて承諾の意を表す。足元に細心の注意を払い、人間族の元へと皆で急ぎ移動する。

 戦死と聞かされていたナナとラスクの姿にスノーは驚いていたが、俺の言いつけ通り騒ぐことはなかった。

 神官はすぐさまにナナとラスクの治療を始めたが、ここで一つ困った問題が発生した。二名の事だけを考えて行動したが、どうやってジョン・サンダーを拘束するかまで考えていなかった。都合よく縄を持参している訳ではないし、集落まで取りに行く時間もない。

 無計画とは時に命を救うが、同時に新たな問題が発生する。その事に悔やんでいる時間もなく、俺の指示を残ったメンバーは固唾を飲んで待つ。


「……あっ、そういえば。……よし、男性の君たちは罠に使われていたツタの回収をしてきてくれ。くれぐれも罠に足を取られないように気を付けて。ハルカは俺たちと一緒に人間族の監視役だ」

「はい、分かりました」


 蜥蜴人(リザードマン)の足に引っかかるほどの耐久力があるツタだ。人間族を拘束出来ないはずがない。

 仮に頑丈なツタを獲得したとしよう。その次の問題点は拘束中にジョン・サンダーが目を覚まし、隠し持っている武器で反撃してこないか、となる。この対策は実に簡単な話なのだが、平和ぼけした俺には非常に難しい――というより、良心が痛む。

 実に簡単な事だ。目を覚ましたら行動される前に、自動小銃で両腕を撃ち抜けば済む話だ。アクション映画などでは自動小銃のお尻(銃床)で頭部を殴ったりするが、そんな事をすれば頭蓋骨骨折をやりかねない。良くて後遺症、悪くて殺人となる。そこまでのギャンブルは俺には出来ない。

 というより、あまり深く考えてはいなかったけど、自動小銃を手にしている事に今更ながらビビってきた。学生の頃は|ファーストパーソン・シューティングゲーム《FPS》にのめり込み、有名どころの自動小銃の名前ぐらいは知っているし、用途に合わせて使いこなさなければならないのも知っている。だがそれはあくまでゲームの世界で、当たり前だが現実世界では手にした事も現物を見た事もない。至近距離の的に撃つぐらいなら俺にもできるが、その的が人間だと思うと……。考えただけでも夢――は見ないけど、記憶に深く刷り込まれ、ふとした拍子にフラッシュバッグでその光景が浮かび上がりそうだ。


 などと考えていた時、ツタを手にした蜥蜴人(リザードマン)が帰ってきた。

 手渡されたツタを引っ張り強度の確認をしてみる。どこから調達したか分からないが、予想以上の強度にツタはびくともしなかった。これならツタで縛っても大丈夫そうだな。

 再びツタを蜥蜴人(リザードマン)に手渡し、俺は背後から銃口をジョン・サンダーに向ける。

 深呼吸を一つし、アイコンタクトで結ぶように指示を送る。男の蜥蜴人(リザードマン)二体がかりで起こさないように作業を進めていく。

 残念なことにツタはそれほど長くはない。できる事なら両手、両足、両腕を加えた胴体まで縛りたかったが、長さ的に両腕を加えた胴体を縛るほどしかなかった。それでは多少の心配はあるが、事前に縄を持参しなかった俺たちの責任だ。これ以上の贅沢は言っていられない。

 そんな時だった。作業を進めていた蜥蜴人(リザードマン)が、ジョン・サンダーの足につまずいて転んだ。確かこいつは罠にも引っかかっていたような……。男のドジキャラは募集していない。性別を変えて出直してこい!


『んっ……、マ、マエケンか? 何かあったのか?』


 寝ぼけた様子でジョン・サンダーは目を覚ました。寝起きに見つかるのを恐れ、二体の蜥蜴人(リザードマン)はすぐに背後に移動したのは良かった。まとわりつくツタにも気が付いていない様子だが、もう時間の問題だろう。

 一気に場の空気に緊張が走り、そして俺は腹をくくった。反撃を食らう前に先手必勝だ。銃口を足に照準させ、高鳴る心臓を無視して引き金を引く。


 ……ん? 引き金を引く。

 …………あれ? 引き金を引く。

 ………………ちょっと! 何で撃てないの!?


『ツ、ツタ? ……お、おぃ! 何がどうなっている!?』


 しまった! そんな事をしている間にジョン・サンダーが目を覚ましたようだ。一種のパニック状態に陥り、ツタを解こうとジタバタと暴れ出した。

 こうなっては仕方がない。すぐさま二体の蜥蜴人(リザードマン)に指示を送り、ジョン・サンダーを仰向けに固定させる。


『っ! マ、マエケン! どうしてトカゲ野郎と!?』

『すまんな』


 一言詫びを入れ、ジョン・サンダーのみぞおちに自動小銃のお尻(銃床)を叩き込む。

 ミシリと骨がきしむ音が響き『うっ!』とジョン・サンダーがうめき声を上げる。そうしてその場に倒れ込んだ。【常時詳細確認】を展開して確認すると、状態欄が気絶となっていた。咄嗟の行動とはいえ、何とか危機を脱する事ができた。まぁ骨折したジョン・サンダーには悪いけど、足を撃ち抜かれるより良心的だよね?

 さて、気絶したなら後の行動は早い。ジョン・サンダーを座らせ、グルグルと力を込めて縛っていく。あっという間に縛り終え、ジョン・サンダー巻きの完成である。


 ナナとラクスの治療を担当している神官に目を向けると、既に治療を終えたのか神官は俺たちを見ていた。今は気を失っているナナとラクスだが、体力値(ヒットポイント)は満タンまで回復している。何はともあれミッション終了だな。


「よし、取り敢えずは大丈夫そうだな。ナナとラスクが目を覚ましたら行動を開始する。その前に男手は人間族の武器の回収を頼みたい。できれば綺麗な死体から軍服の回収と、荷物があれば一緒に持ってきてくれ。ハルカは気を失っているエルフの二名を看病し、俺とスノーは人間族の監視をする」

「はい! 分かりました!」


 そして各々の持ち場に駆けて行った。

 三体の蜥蜴人(リザードマン)には悪いが、戦場を生き抜くには情報が必要だ。少しでも人間族の技術力を知るため、使えそうな物はしっかりと持ち帰らないといけない。話を聞く分には十三部隊は総勢三十名。持ち帰るのも一苦労だと思うが、これも仕方のない事だ。俺も踏ん張ろう。


 その前に、俺の周りでパタパタ羽ばたいて「まぁ、魔王様。あぁ、魔王様。何て凛々しいお姿でしょうか! このスノー、身分の壁がありながらも、魔王様にときめいてしまいました! あぁ、魔王様。何て――」とお喋り小鳥が騒ぎ立て、騒々しいのを何とかする方が先みたいだ。

 もてる男は辛いねぇ~。……小鳥限定だけど。

ここまで見ていただきありがとうございました。

甘口から辛口の感想やご意見、お気軽に下さると嬉しいです。


以前の執筆した作品なので当分は毎日投稿となります。

よろしくお願いします。

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