【遅れてきたピエロ】「え? 魔物はどこだ?」
【遅れてきたピエロ】「え? 魔物はどこだ?」
ウィーン……『ご来店、ありがとうございます』
ポポロ村の中央にそびえ立つ、24時間営業のファミレス『ルナキン』。
その自動ドアが間の抜けた電子音と共に開き、一人の男が店内へと足を踏み入れた。
「ぜぇ……っ、はぁ……っ! 見つけたぞ、タクミィィィッ!!」
暖かな照明と、ハンバーグやコーヒーの良い香りが漂う店内に、泥水とゲロの悪臭を放つ男の絶叫が響き渡る。
泥だらけのボロ布を纏い、濡れたネズミのように小刻みに震えている小男。
かつて『聖人君子』ともてはやされた勇者、ゼロス・ディバインの成れの果てだった。
ファミレスの特等席で食後のコーヒーを飲んでいた俺は、呆れたようにため息をついた。
「……誰かと思えば、ゼロスか。悪いが、泥だらけの靴で上がらないでくれ。ドワーフの清掃員がワックスをかけたばかりなんだ」
「ふ、ふざけるな! 俺を誰だと思ってる! 勇者ゼロス様だぞ!!」
ゼロスは血走った目で店内をギョロギョロと見渡した。
彼の目には、信じられない光景が広がっていただろう。
村は火の海になるどころか、村人たちが幸せそうにドリンクバーを楽しみ、フライドポテトをつまんでいる。魔物の『ま』の字すら存在しない、完全な平和。
「な、なんで誰もパニックになってねぇんだよ!? さっきまで、空を覆うほどの死蟲機がいたはずだろ!? 俺が、俺が颯爽と助けに入って、村人から感謝されてPVを稼ぐはずだったのに!!」
「……お前、自分の口でヤラセの台本を暴露してるぞ」
俺が指摘すると、ゼロスはハッと口を押さえたが、もう遅い。
隣の席では、リーザが『8K超高画質・自動追従AI搭載スマホ』をゼロスにバッチリ向けて、全世界に向けて絶賛生配信中だったのだ。
『皆様、見えますでしょうか!? これが噂の炎上勇者、ゼロスさんですわ! なんだか泥だらけで、すっごく臭いですの! 画面越しに匂いが伝わらなくて本当によかったですわー!』
「う、映すな! 俺をそんな惨めな姿で映すんじゃねぇ!!」
ゼロスが顔を隠しながら怒鳴るが、リーザの配信チャンネルのコメント欄は、かつてないほどの盛り上がりを見せていた。
『え、勇者チビすぎん?』『厚底ブーツの魔法切れてて草』『ヤラセ失敗して自分からネタばらしするピエロww』と、嘲笑の嵐である。
「く、くそっ……! こうなったら力ずくだ!」
ゼロスは腰から、錆びついた泥だらけの剣を引き抜いた。
かつてのオリハルコンソードの残骸だ。
「タクミ! お前が抜けたせいで、俺の部隊の兵站はメチャクチャだ! 結界もメシも装備も、全部ダメになった! お前には俺の裏方として働く義務がある! 今すぐ俺のパーティに戻って、元の快適な環境を用意しろ! そうすれば、この無礼も許してやる!」
上から目線の、あまりにも身勝手な要求。
キャルルがウサギ耳を逆立てて立ち上がろうとしたが、俺はそれを手で制した。
「……お断りだ、と言いたいところだが。その前に一つ、お前に見せたいものがある」
「あぁ? なんだよ!」
俺はタブレット端末を操作し、ファミレスの壁に設置された大画面モニター(これも100均で召喚したスマートテレビだ)に、ある映像を映し出した。
『——ギアン! 俺だ、ゼロスだ!』
『ポポロ村に死蟲機の群れを差し向けろ! 村を襲わせたところを、俺が助けに入って撃退する手はずにするんだ!』
『報酬は払う! 金貨一万枚だ!』
ノイズ混じりだが、はっきりとゼロスと魔人ギアンの『襲撃の裏取引』の音声と、丘の上から村を見下ろすゼロスの顔が、高画質で再生された。
「なっ……!? な、なんで俺の通信が……!?」
ゼロスが目を剥いて驚愕する。
その後ろで、ニャングルが信じられないものを見る目で俺を見た。
「タ、タクミっち……お前、いつの間に勇者を盗聴しとったんや!? えげつなっ!」
「人聞きの悪いことを言うな。俺はただ、村の防衛のために銅貨一枚(100円)で『超小型防犯ドライブレコーダー(空飛ぶドローン型)』を周辺に飛ばして巡回させていただけだ」
「100円で空飛ぶ自動追尾型の盗聴ドローン!? アカン、もうこの世界の常識が息しとらん……!」
ニャングルが頭を抱える横で、リーザの配信カメラは、大画面モニターに映し出された『決定的な証拠』を世界中に垂れ流していた。
『皆様、お聞きになりました!? 勇者ゼロスは、自分で魔王軍にお金を払って、この村を襲わせようとしていたんですの! 最低のヤラセ、いえ、ただのテロリストですわ!』
配信のコメント欄は、もはやお祭り騒ぎを超えて、大炎上の渦と化していた。
『うわ、ドン引き』『マッチポンプの証拠出たー!』『勇者(笑)』『スポンサーの神様、息してるー?』。
「あ、あ、あああ……っ!」
ゼロスは顔面を蒼白にし、後ずさった。
彼の胸ポケットで、エンジェルすまーとふぉんがピロリン、と無慈悲な通知音を鳴らす。
『スポンサー【炎上神ワイズ】様より、契約の完全解除が通達されました。借金(リボ払い)の残高、金貨100万枚の取り立てのため、まもなくマグローザ漁船(蟹工船)行きのエージェントが派遣されます』
「お、終わった……。俺の勇者としての人生が……俺の栄光が……!」
完全に退路を断たれ、世界中から見世物にされ、莫大な借金を背負わされたゼロス。
すべてを失った男の目には、もはやドス黒い殺意しか残っていなかった。
「……お前のせいだ。お前が俺の元から逃げ出したから! お前がこんな村に引きこもっているからぁぁっ!!」
ゼロスは発狂したように叫び、錆びた剣を振り上げて俺に向かって突進してきた。
「死ねぇぇぇっ! タクミィィィィッ!!」
俺は席に座ったまま、コーヒーカップを口に運んだ。
避ける必要はない。俺の横には、すでに限界まで怒りを溜め込んだ『最強の村長』がいるのだから。
「——誰の村で、誰の大切な人に剣を向けてるの?」
ドンッ!!
空気が爆発するような音が響いた。
いつの間にか俺の前に立ち塞がっていたキャルルが、タローマン製の特注安全靴で床を強く踏みしめていた。
そのウサギ耳はピンと張り詰め、瞳には満月の夜のような鋭い光が宿っている。
「てめぇのヤラセのせいで、ウチの村人が危険に晒された。その上、ウチの村の大恩人に逆恨みで斬りかかる……?」
キャルルの全身から、紫電の雷光と凄まじい闘気がバチバチと溢れ出した。
「——万死に値するよ、三流勇者」
ポポロ村の村長にして、元レオンハート獣人王国の近衛騎士隊長候補。
彼女の怒りの鉄槌が、ついに哀れなピエロに下されようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ヤラセの証拠映像、世界配信はエグいww」
「100均のドラレコ(ドローン)優秀すぎる!」
「ついにキャルル村長のヤキが入るぞ!」
と、ゼロスの完全敗北と絶望にスカッとしていただけましたら、ぜひ画面下(または上)にある
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皆様の「★」が、次回のブチギレお仕置き展開の執筆スピードを爆発させます!!
次回、第10話「【今更戻ってこい?】お断りです、法的に」
(※物語の都合上、次回でキャルルの必殺蹴り&法的論破が炸裂します!)
哀れな勇者の最後をお楽しみに!




