【無自覚な蹂躙】「防衛結界? 100円のビニール傘ですが」
【無自覚な蹂躙】「防衛結界? 100円のビニール傘ですが」
ポポロ村を見下ろす小高い丘の上。
冷たい雨に打たれながら、勇者ゼロスは草むらに身を潜め、手元の『エンジェルすまーとふぉん』で配信カメラのセッティングを行っていた。
「よし、画角は完璧だ。ポポロ村の全景と、俺の勇姿がバッチリ映る位置だぜ」
ゼロスはニヤリと下劣な笑みを浮かべた。
彼の視線の先では、魔人ギアンが差し向けた『死蟲機』の大群が、土煙を上げてポポロ村へと迫っていた。
その数はざっと五百。空を覆い尽くすほどの『死蟷螂型』と、後方から爆発性の可燃ガス弾を放つ『死放屁虫型』が陣形を組む、本気の殲滅部隊だ。
「ひははっ! いいぞ、ギアンの野郎、気前よく大軍を出しやがったな! あれなら、あの小生意気な村なんて一瞬で火の海だ!」
ゼロスの配信チャンネルには、タイトルに『【緊急事態】魔物の大群がポポロ村を襲撃!? 勇者ゼロスが駆けつける!』と銘打たれ、ヤラセに釣られた野次馬の視聴者が少しずつ集まり始めていた。
「さぁ、泣き叫べ! 絶望しろ! 逃げ惑う村人たちの前に、スポンサーの力(リボ払い)でステータスを限界突破させたこの俺が颯爽と登場し、魔物を一掃してやる! そうすればPVは俺の独り占めだぁっ!」
ゼロスが歓喜に震える中、ついに死放屁虫型がその巨大な腹部を上空に向けた。
ボフッ! ボフッ! ボフッ! と連続して発射された可燃ガス弾が、放物線を描いてポポロ村のド真ん中へと降り注ぐ。
直撃すれば、ファミレスもスーパー銭湯も木端微塵になるはずだ。
「よしっ、いけぇぇぇっ!!」
ゼロスがガッツポーズをした、その瞬間。
——ピキィィィィィンッ!!
ポポロ村の上空に、巨大な『透明のドーム』が可視化した。
降り注いだ無数のガス弾は、そのドームの表面に触れた途端、ポムッ、ポムッ、という間抜けな音を立てて弾き返され、村の外で虚しく爆発して散った。
「……は?」
ゼロスの顔から笑みが消える。
空から強襲を仕掛けた死蟷螂型の群れも、その鋼鉄の鎌をドームに叩きつけたが、傷一つ——いや、波紋一つ起こせない。それどころか、反発するエネルギーによってカマキリの腕がバキバキと砕け散っていく。
「な、なんだあの結界は!? なんであんな辺境の村に、大国の王都レベル……いや、それ以上の超魔導フィールドが張られてるんだ!?」
ゼロスには知る由もない。
それが、タクミが「雨避け」として銅貨一枚(100円)で召喚した、『透明ビニール傘(超強化魔導防壁・全天候型ドーム)』であるということに。
そして、絶望(ヤラセの失敗)はそれだけでは終わらない。
『——不審な害虫のドームへの接触を検知。イルミネーション(迎撃)モード、起動します』
村の監視塔や防壁に飾り付けられていた『LEDイルミネーションライト』が、チカチカと七色に輝き始めた。
「今度はなんだ!? イルミネーション!?」
ゼロスが目を凝らした直後。
ピカピカと可愛らしく光っていたLEDから、極太の『超高出力対空レーザー』が無数に発射された。
ズバババババババババババッ!!
「ギシャアァァァァッ!?」
凄まじい光の雨が、夜空を埋め尽くしていた死蟲機たちを次々と貫いていく。
回避不能。防御無効。
地球の100均で売っている「音感センサー付きLEDライト」の概念が極悪にバグった結果生まれた『オートエイム機能付き迎撃レーザー』は、文字通り“虫を焼く”ように、魔王軍の精鋭たちを瞬く間に塵へと変えていった。
「あ、あ、あああ……っ!?」
五百の軍勢が、ものの数十秒で蒸発していく。
ゼロスは顎を外し、手からスマホを取り落としそうになった。
「わぁぁーっ! タクミ様、外のイルミネーション、すっごく綺麗ですわー!」
その頃、ポポロ村のルナキン(ファミレス)店内。
俺たちは、ガラス張りの窓から外の景色をのんびりと眺めていた。
「音感センサー付きだからな。リーザの歌声に合わせて、光の色や点滅のパターンが変わるようになってるんだ」
「すごいですの! まるで花火みたいに外でピカピカ弾けてますわ! これなら最高のライブ配信になりますわね!」
リーザはマイク代わりのフライドポテトを握りしめ、ゴッドチューブの配信カメラに向かって上機嫌で歌い始めた。
「雨の日だって関係ないわ〜♪ 私の愛とスパチャで、夜空もキラキラに輝くの〜♪」
キャルルもフライドポテトをかじりながら、「うんうん、綺麗だねー!」と無邪気に拍手している。
だが、一人だけ、テーブルの隅でガタガタと震えている男がいた。
「(……花火ちゃう。あれ、花火ちゃうで……!)」
商人ニャングルは、自慢の動体視力(猫耳族の特性)で、外で何が起きているのかを正確に把握していた。
「(魔王軍の死蟷螂型が……金貨千枚は下らん上位魔物が、100円の光でゴミみたいに消し飛ばされとる……。タクミっち、お前、ただのイルミネーションやと思っとるけど、それ世界を滅ぼせる火力の兵器やぞ……!)」
ニャングルは恐怖のあまり、煙管をくわえることすらできず、ブルブルと首を振っていた。
しかし、俺は「100均のLEDも最近は優秀だな。防水機能までついてるなんて」と感心しながら、食後のコーヒーをすすっていたのだった。
「う、嘘だろ……。俺の、俺のPV稼ぎの大作戦が……」
再び、丘の上のゼロス視点。
空を覆っていた魔物の大群は、すでに一匹残らず消滅していた。村は無傷。かすり傷一つ負っていない。
悲鳴もない。絶望もない。
あるのは、無敵の透明ドームの中でファミレス飯を楽しみ、キラキラ光るイルミネーションをバックに歌う、楽しげな村人たちの姿だけ。
ゼロスが『颯爽と助けに入る』タイミングなど、一秒たりとも存在しなかった。
そして、足元に落ちたゼロスの配信スマホの画面には、残酷なコメントが滝のように流れていた。
『は? 魔物、瞬殺されてて草』
『村の防衛力エグすぎww 勇者いらなくね?』
『てか勇者、震えながら遠くで見てるだけで草』
『ヤラセ失敗おつかれーww リーザちゃんの配信見に行こっと』
「あ……ぁぁ……」
視聴者数が、またしても急速に減っていく。
それと同時に、ワイズ神から借り受けていた【マネー】の課金バフが、シュウゥゥゥッと音を立ててゼロスの身体から抜けていくのを感じた。
PVが稼げなかったことで、スポンサーがステータスの融資を強制ストップしたのだ。
「ま、待て……待ってくれ! 俺から力を奪わないでくれぇぇっ!」
ゼロスの身長が縮み、厚底ブーツの魔法が完全に切れ、元の冴えないチビな男へと戻ってしまう。
「ふざけるな……ふざけるなぁぁぁっ!! こんなの認めねぇ! 俺が、俺が本物の勇者なんだ! あんな100円の小細工ばかりする裏方野郎なんかに、俺が負けるわけねぇだろぉぉっ!!」
完全に理性を失い、逆ギレしたゼロス。
彼は泥だらけの剣を握りしめ、もはや魔物もいない、鉄壁の要塞と化したポポロ村へと、単身で突撃を開始した。
「待ってろタクミ! お前を力ずくで俺の奴隷(裏方)に戻してやる! そうすれば、俺の栄光もPVも戻ってくるんだぁぁっ!」
それは、飛んで火に入る夏の虫。
超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)の餌食となる哀れなピエロの、最後の悪あがきであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「100円のビニール傘強すぎ(笑)」
「イルミネーション(対空レーザー)で魔物瞬殺ww」
「ニャングルだけが真実に気づいてるの草」
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次回、第9話「【遅れてきたピエロ】え? 魔物はどこだ?」
発狂した勇者がついにポポロ村にカチコミ! しかし、ヤラセの証拠はすでに100均グッズでバッチリ撮られていて……!? お楽しみに!




