【焦燥と陰謀】「スポンサー(邪神)の怒り」
【焦燥と陰謀】「スポンサー(邪神)の怒り」
「ふざけるなよ、ゼロス。君のチャンネル、さっき確認したけど視聴者が『ゼロ』ってどういうことだ?」
天界の神々が使う魔導通信機『エンジェルすまーとふぉん』の画面越しに、炎上神ワイズの冷酷な声が響いた。
専用のマイタンブラーに入れたカプチーノをすするワイズの目は、全く笑っていない。
冷たい雨が降りしきる泥だらけの森の中、ゼロスは這いつくばるようにして画面に向かって土下座していた。
「わ、ワイズ様! も、申し訳ありません! 突然、あのポポロ村とかいう辺境の配信に視聴者が全部吸い取られてしまいまして……!」
「君が追放した雑用係の配信だろう? 見たよ。極上の食事に、巨大なサウナ、そして可愛い獣人の女の子たちとのスローライフ。……それに比べて君の配信はなんだ? ゲロの匂いがしそうなレーションを食って、泥水すすって、ボロボロの装備で震えているだけ。誰もそんな底辺の惨めな姿なんて見たくないんだよ」
ワイズの言葉が、ゼロスの肥大したプライドをズタズタに引き裂く。
「僕はね、君に『勇者としての圧倒的な無双』と『悲劇からの逆転劇』というエンタメを期待して、僕の無限の予算から【マネー】のスキルでステータスを貸し与えているんだ。このままPVが稼げないなら、契約は打ち切りだ。……ああ、今までの融資(課金)分は、マグローザ漁船に乗って身体で返してもらうからね」
「マ、マグローザ……!? そ、それだけは! お待ちください! 必ず、必ず起死回生の大企画をやりますから!」
「……ふん。三日だ。三日でトップランキングに返り咲けなければ、君は終わりだよ」
ブツッ、と無慈悲に通信が切れた。
ゼロスはガクガクと震える手でスマートフォンを握りしめ、ギリッと歯を食いしばった。
「くそっ……くそおおおっ!! なんで俺がこんな目に!」
本来なら、自分が世界で一番輝いているはずだった。
それが、あの裏方がいなくなっただけで、すべてが崩壊した。兵站は崩れ、食糧は最悪、装備はガラクタ。自分の力だけでは、何一つ維持できなかったという事実が、ゼロスを狂気に駆り立てる。
「……こうなったら、力技でPVをもぎ取ってやる。あのポポロ村を火の海にして、俺が颯爽と魔物を倒して村人を救う『ヤラセ』をやるしかねぇ!」
ゼロスは血走った目で、魔王軍の幹部である魔人ギアンの裏回線へと通信を繋いだ。
「あー、くそっ! またガチャ爆死した! なんでSSレアのスアイ様のプロマイドが出ねぇんだよ!」
アバロン魔皇国の薄暗いモニタールーム。
魔王軍幹部・魔人ギアンは、ピザを片手にコーラをあおりながら、スマートフォンを乱暴にタップしていた。
道化師の仮面を被り、巨大な鎌を操る狡猾な指揮官……というのは表向きの顔。実態は、安全な部屋に引きこもってジャンクフードを貪るただのゲーマーである。
『——ギアン! 俺だ、ゼロスだ!』
「あん? なんだよ勇者サマ。こっちは今、機嫌が悪いんだよ」
ギアンは面倒くさそうに応答した。
『ポポロ村に死蟲機の群れを差し向けろ! 数は多ければ多いほどいい! 村を襲わせたところを、俺が助けに入って撃退する手はずにするんだ!』
「はぁ? なんで俺がそんな面倒なこと……」
『報酬は払う! 金貨一万枚だ!』
ギアンの指がピタリと止まった。
「……金貨一万枚? マジで言ってんのか? それだけあれば、最新の魔導ゲーム機も、限定フィギュアも、課金石も買い放題じゃねぇか……!」
『俺のスポンサーからの前借り(リボ払い)で何とかする! だから、今すぐポポロ村を包囲しろ! いいな!』
「ひひっ、毎度あり! そういうことなら、とっておきのヤツらを出してやるよ。体内の可燃ガスを放つ『死放屁虫型』に、空から強襲する『死蟷螂型』……全部入り(フルコース)で送ってやる。せいぜい派手に立ち回って、PV稼いでくれや!」
ギアンは悪辣な笑みを浮かべ、コントロールパネルの起動ボタンを叩いた。
地響きと共に、地下深くに眠っていた死蟲機の軍団が、ポポロ村を目指して進軍を開始する。
ゼロスの歪んだ復讐心と、ギアンの強欲が交差する。
彼らは自分たちが、絶対に手を出してはいけない『要塞』に牙を剥こうとしていることに、まだ気づいていなかった。
「——ふむ、少し雲行きが怪しくなってきたな」
その頃、ポポロ村。
ルナキン(ファミレス)のテラス席で、俺は食後のポポロ・コーヒーを飲みながら空を見上げていた。
ポツポツと、冷たい雨粒が落ちてくる。勇者たちが泥まみれで震えているのと同じ雨だ。
「あー、雨降ってきちゃったね。せっかくお外で遊ぼうと思ってたのに」
「タクミ様、雨宿りしますの? それとも、スーパー銭湯に駆け込みます?」
キャルルとリーザが、残念そうに空を見上げている。
俺はタブレット端末を取り出し、銅貨一枚(100円)を指で弾いた。
「いや、せっかくのオープンカフェだし、雨避けを設置しよう。インストール——『透明ビニール傘(超強化魔導防壁・全天候型ドーム)』」
シャラァァァァン……!
俺のスキルが発動した瞬間、ポポロ村全体を覆うように、透明で巨大なエネルギーのドームが出現した。
本来なら、地球の100均で買えるただの透明なビニール傘だ。だが、このアナステシア世界に最適化された結果、それは『数千万ボルトの雷撃も、隕石の直撃もノーダメージで弾き返す、国家防衛レベルの超魔導シールド』へと変貌していた。
雨粒がシールドに当たり、綺麗な波紋を作って弾かれていく。ドームの中は快適な温度と湿度が保たれていた。
「おぉぉ……! 雨が降ってこない! さすがタクミさん!」
「これ、ちょっと薄暗いから、ついでに照明もつけるか。インストール——『LEDイルミネーションライト(超高出力対空レーザー・オートエイム機能付き)』」
村の防壁や監視塔の至る所に、キラキラと輝く美しいイルミネーションが飾り付けられた。
一見すると、夜のテーマパークのように華やかで美しい。
しかしその実態は、接近する敵対生物を自動で捕捉し、マッハの速度で焼き尽くす極悪非道な自動迎撃レーザー網である。
「うわぁ、綺麗ですわー! まるでライブステージみたい!」
「タクミっち……お前、また無自覚に村の防衛レベルをカンストさせたな……。ワイの算盤、もう物理的に桁が足りへんのやけど……」
リーザが無邪気に喜ぶ横で、ニャングルが煙管を震わせながら遠い目をしていた。
「さて、雨も防げたし、イルミネーションを見ながらもう少しのんびりするか。リーザ、なんか歌ってくれよ」
「はいですわ! 絶対無敵のスパチャアイドル・リーザの特別ステージ、開幕ですのー!」
俺たちは美味しいコーヒーとケーキを楽しみながら、平和な午後を満喫していた。
この鉄壁の【雨避け】と【イルミネーション】が、まもなく訪れる勇者の『ヤラセ襲撃』を、文字通り“一瞬で蒸発させる”ことになるとも知らずに。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ヤラセのために借金(リボ払い)する勇者ww」
「100均のビニール傘が国家防衛レベルのシールドに化けるの好き!」
「次回、勇者のヤラセ大失敗の予感しかしない!」
と、ワクワクしていただけましたら、ぜひ画面下(または上)にある
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次回、第8話「【無自覚な蹂躙】防衛結界? 100円のビニール傘ですが」
勇者のヤラセ部隊がポポロ村に到達! しかしそこには、100均チートの理不尽すぎる防衛網が待ち受けていた……! お楽しみに!




