【今更戻ってこい?】「お断りです、法的に」
【今更戻ってこい?】「お断りです、法的に」
「死ねぇぇぇっ! タクミィィィィッ!!」
血走った目を剥き出しにし、泥と錆にまみれた剣を振り下ろす勇者ゼロス。
だが、その刃が俺に届くことは永遠になかった。
ガキィィィンッ!!
「……っ!?」
ファミレス店内に響き渡ったのは、金属が砕け散る甲高い音。
俺の前に立ち塞がったキャルルが、交差させた特注のダブルトンファーで、ゼロスの剣をあっさりと粉砕したのだ。
「な、俺の……俺の剣が……!」
「腐っても勇者なら、もうちょっとマシな武器のメンテくらいしなよ。……あぁ、それも全部、タクミさんに押し付けてたんだっけ?」
キャルルのウサギ耳がピンと逆立ち、その小さな身体から『バチバチッ!』と紫電の雷光が溢れ出す。
彼女が履いているのは、タローマン製の特注安全靴。そのつま先には、ニャングルが裏ルートで仕入れた『雷竜石』が仕込まれている。
「ウチの村の大恩人に、泥だらけの靴で斬りかかるなんて。——村長として、最高の『ヤキ』を入れてあげる」
キャルルがクラウチングスタートの姿勢をとる。
月兎族の圧倒的な脚力に加え、雷竜石のエネルギーと彼女自身の闘気が極限まで圧縮されていく。
「ひ、ひぃっ……! ま、待て、俺は勇者……」
「——飛べっ!!」
ドンッ!!
床のタイルが爆散する音と共に、キャルルの姿が消えた。
マッハ1に迫る圧倒的なトップスピード。そのまま空中で一回転し、すべての運動エネルギーを乗せた飛び蹴りが、ゼロスの腹部に深々と突き刺さる。
「超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)ッ!!」
「ゴブァァァァァァァァァッ!?」
約277トンもの破壊力と一億ボルトの雷撃を乗せた、通称・雷神の流星脚。
ゼロスの身体は『くの字』に折れ曲がり、自動ドアのセンサーが反応する間もなく開いた出入り口から、砲弾のように屋外へと吹き飛ばされた。
ズゴォォォォォォンッ!!
村の広場を数十メートルにわたって削りながら転がり、ゼロスは白目を剥いて大の字に倒れ伏した。
『うおおおおっ! 村長つええええええっ!』
『なんだ今のキック!? スパチャ投げとこ!!』
『勇者(笑)、ワンパンで撃沈www』
リーザの配信チャンネルでは、キャルルの圧倒的な強さに視聴者が熱狂し、コメントと投げ銭が滝のように流れている。
俺はコーヒーカップをテーブルに置き、ゆっくりと店外へ出た。
「げほっ、がはっ……!!」
全身の骨が悲鳴を上げ、全身から焦げた煙を上げながら、ゼロスが這いつくばって俺の足元へとすり寄ってきた。
先ほどまでの殺意と傲慢さはどこへやら、その顔には惨めな哀願の色が浮かんでいる。
「た、タクミ……! 悪かった、俺が悪かった……! さっきのは、ちょっとした冗談だ! スポンサーから見放されて、気が動転してたんだ……!」
「……」
「俺たち、最高のコンビだっただろ!? お前が兵站を回して、俺が敵を倒す! お前がいないと、俺はダメなんだ! 頼む、パーティに戻ってきてくれ! 今までの扱いは謝る! 給料だって倍……いや、三倍払ってやる! だから、また俺の裏方として……っ!」
泥にまみれた手で、俺のズボンの裾を掴もうとする勇者。
俺は一歩下がり、その手を冷酷に見下ろした。
「——お断りだ」
「なっ……なんでだよ! 三倍だぞ!? お前みたいな裏方が、一生遊んで暮らせる金だぞ!?」
「金の問題じゃない。法的な問題だ」
俺はタブレット端末を開き、無慈悲な事実を突きつけた。
「俺とお前の間の労働契約は、お前の『一方的な解雇通告』によってすでに解除されている。不当解雇の撤回有効期間も過ぎた。つまり、俺とチビの勇者殿は、法的に赤の他人というわけだ」
「そ、そんな……! 頼む、俺を見捨てないでくれ! お前がいなきゃ、俺は……俺のPVは……!」
「それに、戻ってこいと言われても困るんだ。俺は今、このポポロ村の開拓と、ファミレスの『秋の新作スイーツ』の開発で忙しいんでね。お前の泥臭いヤラセ配信に付き合っている暇はない」
完全に切り捨てられたゼロスは、絶望に顔を歪めた。
だが、彼への『精算』はこれだけでは終わらない。
背後から、パチパチと算盤を弾く軽快な音が近づいてきた。
「タクミっちの言う通りや。ワイらは忙しいんやで。……せやけど、赤の他人やから言うて、タダで帰すわけにはいかんわな」
煙管を吹かしながら現れたニャングルが、一枚の長い羊皮紙をゼロスの目の前に突きつけた。
「な、なんだこれは……」
「『請求書』や。今回の威力業務妨害、ファミレスへの不法侵入と器物破損未遂、ウチの村人への精神的苦痛。それに……あんたがけしかけた死蟲機を処理した『自動迎撃対空魔砲』の弾薬費とシステム稼働費や」
ニャングルはニコリと商人の笑みを深めた。
俺が『銅貨一枚(100円)』で出した防衛システムだが、ニャングルが算盤で弾き出した請求額は、この世界の市場価格(正規レート)に基づいていた。
「——〆て、金貨10万枚(約10億円)。一括で払うてもらうで」
「じゅっ、十万!? 払えるわけないだろそんな額!! ふ、ふざけるな!」
ゼロスは泡を吹きながら絶叫した。
スポンサーのワイズ神から融資を止められ、借金まみれの彼にそんな金があるはずもない。
だが、窮鼠猫を噛む。完全に追い詰められたゼロスは、懐からギラギラと輝く『赤い宝石』を取り出した。
「なめるな……! 俺にはまだ『裏口座』がある! 神界の税金対策で隠し持っていた『特級魔宝石(課金石)』だ! これを俺の【マネー】スキルに全ツッパすれば、ステータスを限界突破して、お前ら全員を皆殺しに……!」
ゼロスが狂ったように宝石を掲げた、その時だった。
「——おや? 隠し財産をお持ちで?」
ファミレスの入り口から、スマホとマイク代わりのフライドポテトを持ったリーザが、ステップを踏みながら現れた。
その瞳には、アイドルとしての純真な輝きと、そして……ブラックホールのような『絶対的な強欲』が渦巻いている。
「アイドルは、お金を持ってるファンを、絶対に見逃しませんのよ……♡」
元人魚姫の、この世界で最も恐ろしい『集金ライブ』が、今まさに始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「キャルルの流星脚強すぎィ!」
「法的な正論でバッサリ切り捨てるの最高にスカッとする!」
「100円の弾薬費を10億円で請求するニャングルえげつないww」
「隠し財産を出した瞬間、リーザに狙われるの草」
と、勇者の完全な詰み(ざまぁ)を楽しんでいただけましたら、ぜひ画面下(または上)にある
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次回、第11話「【Love & Money】強欲アイドル、全てを奪う」
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