【Love & Money】「強欲アイドル、全てを奪う」
【Love & Money】「強欲アイドル、全てを奪う」
「ひははははっ! 見ろタクミ! これが俺の隠し財産! 神界の税務調査から逃れるために、オフショア口座(裏ダンジョン)に隠し持っていた『特級魔宝石(課金石)』だ!」
泥だらけの勇者ゼロスは、血走った目で真っ赤に輝く宝石を天高く掲げた。
彼が持つユニークスキル【マネー】は、文字通り『財産(課金)』を消費することで自身のステータスを一時的に爆上げする能力である。
「この石一つで、金貨数万枚の価値がある! これを全部スキルに突っ込めば、俺のステータスは限界を突破し、キャルルだろうがお前の100均防衛網だろうが、すべて粉砕できるんだよぉぉっ!」
ゼロスの身体が、不気味な赤いオーラに包まれ始める。
起死回生を狙う勇者の最後の悪あがき。
だが、その『金貨数万枚』という言葉に、この世界で最も敏感に反応する少女がいた。
「——金貨、数万枚……!?」
ピクッ、とリーザの頭のアンテナ(アホ毛)が激しく反応した。
元人魚姫であり、パンの耳と雑草で命を繋いでいた極貧の地下アイドル。
彼女はマイク代わりのフライドポテトを握りしめ、キラキラとした、しかしどこか深淵を覗き込むような『強欲』の瞳でゼロスを見つめた。
「アイドルは、お金を持ってるファンを、絶対に見逃しませんのよ……♡」
「な、なんだお前は! 引っ込んでろ!」
「ふふっ、ステージに上がったアイドルは、誰にも止められませんわ! さぁ、私の歌を聴いて、貴方の『すべて』を私に捧げてくださいな!」
リーザはスマホの配信カメラに向かってウインクを飛ばすと、どこからともなく『お賽銭箱型掃除機』を取り出した。
木製の古びた賽銭箱に、掃除機のノズルがついた謎の魔導具。
それこそが、彼女のユニークスキル【貧乏神】の具現化であった。
「ミュージック、スタートですわ!」
チャリーン♪ という軽快なSEと共に、リーザのライブが幕を開ける。
『五円! 五円! 御縁! 御縁! ハイ!』
『五円! 五円! 御縁! 御縁! ハイ!』
「な、なんだこのふざけた歌は……! え? ……ひっ!?」
ゼロスが掲げていた『特級魔宝石』が、突如としてパラパラと崩れ始めたではないか。
崩れた宝石は無数の『五円玉(真鍮の硬貨)』へと姿を変え、宙を舞い、リーザの構える『お賽銭箱型掃除機』のノズルへと凄まじい勢いで吸い込まれていく。
『銅でもない 銀でもない』
『狙い打つのは 真鍮のゴールド!』
『穴の向こうに 未来が見える』
『覗いてみてよ 私とキミのディスタンス!』
「あ、あぁぁぁっ!? 俺の課金石が! 俺のステータスの源が吸い込まれていくぅぅっ!?」
ゼロスは慌てて宝石を胸に抱え込もうとしたが、無駄だった。
リーザの【貧乏神】スキルは、対象の『運気』『能力』『全財産』を強制的に没収し、弱体化させるという極悪非道なデバフ能力。
ひとたび彼女の『集金ライブ』のターゲットになれば、隠し財産はおろか、電子マネーの残高に至るまで、一円残らず吸い尽くされるのだ。
「や、やめろ! 返せ! それは俺がヤラセで稼いだ血と汗の結晶だぞ!」
「『ちょっと重いかな?』って五十円!」
「『重すぎて無理!』って五百円!」
「身軽な愛をジャラジャラさせて、私の配信投げ込みカモン!」
ズゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!
掃除機の吸引力がさらにアップする。
ゼロスの懐から、財布、隠し持っていた金貨、さらには彼のスキル【マネー】に蓄積されていた『ステータスポイント』までもが、黄金の粒子となってリーザのお賽銭箱へと吸い込まれていく。
ちなみに、吸い込まれた財産はリーザの懐に入るわけではなく、文字通り『無(虚無)』へと還る。純粋な破壊である。
『絶対無敵のスパチャアイドル!』
『五円が積もれば山となる!』
『御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ』
『推しの生活 支えてちょーだい!』
「あ、あああ……俺の……俺の口座残高が……! ゼロに……マイナスになっていく……!!」
ついに特級魔宝石は完全に砂と化し、ゼロスの身体から湧き上がっていた赤いオーラも完全に霧散した。
そればかりか、着ていた衣服(辛うじて残っていた魔導服の残骸)すらも価値を吸い取られ、ただのボロボロの麻布へと変わってしまった。
『ハイ! ハイ! スパチャよろしく!』
キュイィィィン……ポンッ!
掃除機のスイッチを切り、リーザはカメラに向かって完璧なアイドルスマイルとピースサインを決めた。
世界中に配信されていたそのライブ映像には、『リーザちゃん可愛い!』『スパチャの吸引力ダイソン超えww』『勇者の財産全ロスしてて草』と、爆発的なコメントが寄せられている。
「……あ、あ……」
広場に崩れ落ちたゼロスは、もはや立っていることすらできないほどに弱り果てていた。
【マネー】のスキルを完全に無力化され、ステータスは一般人以下。体力も筋力もなく、文字通り『スッカラカン』のチビな男に成り下がったのだ。
「いやー、素晴らしいステージやったでリーザちゃん。ワイの算盤も感動して震えとるわ」
パチパチパチ、と嫌味な拍手をしながら、ニャングルがゼロスを見下ろした。
彼の手には、先ほどの『金貨10万枚の請求書』が握られている。
「さて、勇者……いや、ただの無一文のオッサン。この金貨10万枚、どうやって払うてくれるんや? 隠し財産もゼロになったみたいやし、臓器売っても足りへんで?」
「うぅ……ひぃっ……」
ゼロスは恐怖に顔を引きつらせ、ガタガタと震えながら後ずさった。
だが、彼に逃げ道はない。
突如として、ゼロスの背後の空間がグニャリと歪み、そこから『サングラスをかけ、黒のスーツを着た筋骨隆々のレスラー体型の男たち』が二人、無言で現れたのだ。
「ひっ!? な、なんだお前ら!」
天界の借金取り——神々のクレジットカード滞納者や、悪質な契約違反者を連行するために遣わされる、通称『黒服』である。
ワイズ神への借金(リボ払い)が焦げ付いたゼロスを回収しに来たのだ。
「ゼロス・ディバイン。スポンサー契約解除に伴う債務不履行、および度重なる不正行為を確認。……これより、強制労働施設への連行を執行する」
黒服の男たちは、ゼロスの両脇をガシッと掴み、軽々と持ち上げた。
「は、離せ! 俺は勇者だぞ! こんな扱いが許されると……!」
「行き先は、シーラン海沖合の『マグローザ漁船』だ。借金を返し終わるまで、船内通貨『K(ケツフキのK)』でチンチロでもしながら、一生魚の餌付けをしてこい」
バカッ! と、黒服の一人が巨大なスーツケースを開き、ゼロスを物理的に折りたたんで無理やり中に詰め込み始めた。
「や、やめろぉぉぉっ! 狭い! 臭い! 助けて! タクミ、助けてくれぇぇぇっ! お前が一声かければ、この村の金で俺の借金を……!」
スーツケースの隙間から、涙と鼻水にまみれたゼロスが俺に向かって絶叫する。
俺はタブレット端末から視線を上げ、冷ややかに言い放った。
「悪いが、金はない。俺のスキルは『100円』をバグらせるだけで、現金を生み出すわけじゃないからな。……それに、俺はファミレスの『秋の新作・マサカ茸の和風パスタ』の原価計算で忙しいんだ。達者でな、元・勇者殿」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」
バタンッ!
ジッパーが容赦なく閉められ、ゼロスの絶望の悲鳴はスーツケースの中に封じ込められた。
黒服たちは一礼すると、スーツケースを担いで歪んだ空間の中へと消えていった。
理不尽な追放劇から始まった、炎上勇者ゼロスとの因縁。
それは、彼自身の身勝手さと強欲さ、そして俺の『100均チート』と仲間たちの前で完全にへし折られ、マグローザ漁船行きという哀れな末路をもって、完全な幕引きを迎えたのである。
「ふぅ。これでやっと、静かなスローライフに専念できそうだな」
「お疲れ様タクミさん! 今日はルナキンで祝勝会だね!」
「よし! ワイがとびきりのサケスキー(高級酒)を開けたるわ! もちろん、タクミっちの奢りでな!」
「私は食後のデザートに、ハニーかぼちゃのパフェをお願いしますわー!」
すっかり日常の平和を取り戻したポポロ村。
俺は仲間たちの笑顔に囲まれながら、ようやく手に入れた『最高の居場所』で、ゆっくりと背伸びをしたのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「リーザの貧乏神スキル強すぎるww」
「ステータスも財産も全ロスは最高のざまぁ!」
「マグローザ漁船(蟹工船)へスーツケース詰めでドナドナされる勇者(笑)」
ついに勇者ゼロスのざまぁが完全決着いたしました!
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次回、第12話。
ゼロスの脅威が去り、平和になったポポロ村に、なんと『ジャージ姿の女神様』たちがお忍びでご来店……!? 神々をも虜にする100均スローライフの続きをお楽しみに!




