【女神のお忍び】「ラーメンとポポロシガー」
【女神のお忍び】「ラーメンとポポロシガー」
炎上勇者ゼロスがマグローザ漁船へとドナドナされてから数日。
ポポロ村には、これまでにないほどの穏やかな平和と、そして圧倒的な活気が満ちていた。
「いらっしゃいませー! ルナキンへようこそですわー!」
ファミレスの入り口で、リーザが元気な声で客を案内している。
村は今、三国(ルナミス帝国、アバロン魔皇国、レオンハート獣人王国)の兵士や商人たちが連日訪れる『超巨大リゾート・インフラ拠点』として大繁盛していた。
俺の100均チートで生み出した施設とはいえ、これだけの規模になれば俺一人では回せない。だが、ニャングルが巧みな算盤さばきで人材を配置し、キャルルが自警団を率いて治安を完璧に維持してくれているおかげで、俺は悠々自適なスローライフを堪能できていた。
「ふぅ、今日は『豚神屋』の厨房に入るか」
俺はルナキンに併設したラーメン専門のモジュールに立ち、寸胴鍋をかき混ぜていた。
その時だった。
「ちょっとラスティア! だから言ったじゃない、あっちのタローマンで売ってる作業着、月人君のライブに着ていくのにピッタリだって!」
「なによルチアナ! 月人君のファンクラブ会員第一号はこの私よ!? アイドルのライブにガテン系の服で行くなんて解釈違いだわ! 私は絶対、フリフリの魔法少女風で行くの!」
カランコロン、とドアベルを鳴らして、ひどく喧しい二人組の女性が店に入ってきた。
一人は、色褪せた芋ジャージに健康サンダルを突っかけた、気怠げな美女。
もう一人は、ゴスロリと地球のアイドルグッズをキメラのように合体させた奇抜な服装の、永遠の17歳(自称)といった風貌の美女。
「い、いらっしゃいま……ひゃっ!?」
案内に出たリーザが、二人の姿を見た瞬間に『ビクッ!』と全身の毛を逆立て、後ずさった。
無理もない。その二人、服装こそ完全に『休日の干物女とオタク』なのだが……その身体から漏れ出ている魔力(神気)のプレッシャーが、尋常ではないのだ。
息をするだけで空間が歪み、世界そのものが彼女たちの存在に平伏しているような、絶対的な格の差。
「おや、お客さん。ウチは一見さんにはちと厳しいで? まずは席料として金貨……」
商魂たくましいニャングルがヘラヘラと近づいていったが、ジャージ姿の女がジロリと睨んだ瞬間。
「ヒッ……!?(こ、この二柱……ただ者やない! 神話級のバケモンや!!)」
ニャングルは猫耳をペタンと伏せ、生まれたての小鹿のようにガタガタと震え出した。自慢の算盤を取り落とすほどの恐怖。
「あー、腹減った。……お兄さん、ここの名物、あの動画でやってたヤツ頂戴!」
「私も! 胃袋にガツンとくるヤツをお願い!」
二人はカウンター席にドカッと座り、俺に向かって元気よく注文した。
俺は寸胴鍋の火加減を調整しながら、静かに頷いた。
「あいよ。……呪文は?」
「ニンニクマシマシアブラカタメで!!」
「私も同じので!」
その淀みないオーダー。只者ではない。
俺は地球の100均で買った『超硬質テボ(湯切りザル)』に、米麦草から打った極太麺を放り込んだ。
シープピッグの背脂をたっぷりと溶かし込んだ濃厚な豚骨醤油スープを丼に注ぎ、茹で上がった麺をブチ込む。その上に、富士山のように茹で野菜を盛り付け、頂上に強烈な刻みニンニクと、雪のような背脂をドサッ! と乗せた。
仕上げに、ホロホロに煮込まれたシープピッグの極厚豚肉を二枚添える。
「お待ち。豚神屋特製・二郎系超回復ラーメンだ」
ドンッ! とカウンターに置かれた暴力的なまでのカロリーの山。
二人の美女は、目を輝かせた。
「うおおおっ! 画面越しで見てたアレだわ!」
「いただきますっ!!」
二人は割り箸を割るなり、野菜の山を切り崩し、極太麺を下から引きずり出して(天地返し)、凄まじい勢いで喰らいついた。
「ズズズッ! ふほっ、あふっ……! う、うっまぁぁぁぁぁっ!!」
「ガツンとくるニンニク! 濃厚な背脂! なのにスープの旨味が深くて、箸が止まらないわ!!」
ジャージ姿の女とアイドルオタクの女が、汗をだらだらかきながら、一心不乱にラーメンをすすり続ける。
神気を放つ美女が、健康サンダルを脱ぎ捨てて二郎系ラーメンと格闘する姿は、なんともシュールだった。
たった五分。二人はスープの最後の一滴まで飲み干し、プハァァァァッ! と天を仰いで息を吐いた。
「……食ったぁ。生きててよかった」
「マグマみたいに熱いのに、細胞の隅々までエネルギーが行き渡るわ……」
食後、二人はルナミスーパー銭湯でサウナと水風呂をキメてきたらしく、ホカホカに上気した顔で再びファミレスのテラス席に戻ってきた。
ジャージ姿の女は、懐から『ピアニッシモ・メンソール』を取り出し、カチッと火をつける。
「いやー、最高だったわ、タクミ君」
「……お粗末様。口に合ったなら何よりだ」
俺が食後のポポロ・コーヒーを二人の前に置くと、ジャージの女は紫煙を細く吐き出しながら、ニヤリと笑った。
「私の名前はルチアナ。この世界を管理している『世界神』よ。で、こっちのアイドルオタクがアバロン魔皇国のトップ、魔王ラスティア」
「ぶっ!? げほっ、ごほっ!!」
少し離れた場所で様子を伺っていたニャングルが、泡を吹いて気絶した。
リーザとキャルルも、「せ、せ、世界神様と、ま、魔王様ぁぁっ!?」と抱き合って震えている。
だが、俺は淡々とコーヒーカップを拭きながら頷いた。
薄々感づいてはいた。あの異常なプレッシャーと、ゴッドチューブの配信でゼロスのスポンサー(ワイズ)を黙らせた権威。
何より、あの山盛りの二郎系ラーメンを、涼しい顔で五分で完食できる胃袋は、どう考えても人間のものではない。
「そうか。神様と魔王様がお忍びとは、光栄だな。……それで? 俺の100均チートが世界のバランスを崩しているから、消しに来たのか?」
「まさか!」
ルチアナは笑って手を振った。
「あんたのおかげで、ゴッドチューブの『アナステシア世界』のPVが爆上がりして、私の予算が潤ったのよ! あのバカな炎上勇者と違って、あんたの村づくりの配信は見てて最高に面白いわ」
「私も同感よ! 特にあのサウナと『タローマン』の品揃え! 国の予算を溶かしてでも通いつめたいくらいよ!」
魔王ラスティアも興奮気味に身を乗り出してくる。
「それにさ」
ルチアナはタバコの灰を落とし、真剣な目を俺に向けた。
「あのままゼロスがヤラセを続けてたら、いずれ世界に修復不可能な歪みが出てた。あんたがアイツの『兵站』を切り捨てて、物理的にも社会的にも完璧に潰してくれたおかげで、神界の手を煩わせずに済んだのよ。感謝してるわ」
世界神からの、直々の称賛。
俺は少しだけ肩の力を抜き、微かに笑った。
「俺はただ、自分の快適なスローライフを守りたかっただけだ。ヤラセに付き合うのも、ゲロオムレツの管理をするのも、もううんざりだったからな」
「あははっ! 言うわね! ……だから決めたわ」
ルチアナは立ち上がり、テラス席からポポロ村の全景を見渡した。
100均チートで作られた防衛網、温泉、ファミレス。平和に暮らす村人たち。
「今日からこのポポロ村を、『神認可の絶対中立地帯』に指定するわ。どの国も、どの魔物も、この村に手出しすることは許さない。もし手を出したら、私と、ガオガオンと、魔王軍が全力で叩き潰す!」
「ちょっと! なんで私の軍を勝手に使うのよ!」
「いいじゃない、ラーメンの恩返しよ!」
ルチアナのその一言で、俺の拠点——ポポロ村の絶対的な安全が、神の権威によって確定した。
もはや、勇者の残党だろうが他国の野心家だろうが、この村に手出しできる者は存在しない。
「ありがとう。これで心置きなく、ファミレスの新作メニュー開発に専念できそうだ」
「期待してるわ! あ、次来た時は『サケスキー』をボトルで入れさせてもらうからね!」
「月人君のライブビューイングもこの大画面でやらせてよね!」
ジャージの女神とゴスロリ魔王は、満足げに笑い合いながら、空間転移の光に包まれて消えていった。
「……はぁ。まさか、ホンマに神様が来るとは……。ワイの心臓、寿命が十年縮んだで……」
「でも、これで村は絶対に安全だね! タクミさんのおかげだよ!」
「タクミ様! 私、これからも絶対無敵のアイドルとして、この村の魅力を世界に発信し続けますわ!」
気絶から復活したニャングルがぼやき、キャルルとリーザが俺の腕に抱きついてくる。
「おいおい、引っ張るな。……ほら、客が並んでるぞ。ルナキンは24時間営業なんだ、休んでる暇はないぞ」
俺がそう言うと、三人は顔を見合わせ、楽しそうに笑い声を上げた。
理不尽な追放から始まった、俺の異世界生活。
一見ゴミのような【100均】スキルは、実は世界をバグらせる規格外のチートだった。
可愛い仲間たちと、最高のインフラ、そして極上の飯。
俺の『最強の裏方スローライフ』は、神々のお墨付きを得て、これからさらに面白く、快適になっていくのだった。
(第一章・勇者パーティ崩壊編 完)
第一章、これにて完結です!
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
「二郎系ラーメンを食う女神ww」
「神のお墨付きでスローライフ完全確定!」
「タクミの無双とざまぁ、最高にスカッとした!」
と、少しでも楽しんでいただけましたら、これからの執筆の最大の励みになりますので、ぜひ画面下(または上部)にある
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第二章からは、絶対安全圏となったポポロ村でのさらなる「規格外なインフラ構築」や、他国の思惑を100均チートで軽々とへし折る展開が待っています!
引き続き、タクミたちの活躍をお楽しみに!




