【強欲の歌姫】「パンの耳からファミレス飯へ」
【強欲の歌姫】「パンの耳からファミレス飯へ」
ポポロ村の朝は早い。
死蟲機の襲撃を銅貨一枚(百円)で退けた翌日、俺は村の広場に立ってタブレット端末を操作していた。
「さて、防衛網は完成したし、次は村のインフラ整備だな。まずは食環境の改善と、俺の快適な拠点作りから始めるか」
「タクミさん、おはよう! 朝から何見てるの?」
「おう、兄ちゃん。今日もまた景気のええバグ技見せたるんか?」
朝のパトロールを終えたキャルルと、算盤を片手にしたニャングルがやってきた。
俺はタブレットの画面を二人に向けた。
「村の中心に『ルナキン(ルナミスキング)』を作ろうと思ってな。いわゆる24時間営業のファミレスだ。これの建築モジュールをインストールする」
「フ、ファミレスの建築を!? いやいや兄ちゃん、家一軒建てるだけでも大工のドワーフを呼んで金貨数百枚は飛ぶで!? まさかそれも……」
「もちろん、銅貨一枚(100円)だ」
「この世界の経済、絶対怒るでホンマに!!」
ニャングルが頭を抱えて叫ぶ中、俺は銅貨を空中に弾こうとした。
——が、ふと視界の端、広場の隅にある植え込みの影で、何かがモゾモゾと動いているのに気がついた。
「ポッポォ……ッ!」
「シャアァァッ! 渡さないもん! このパンの耳は私の今日のメインディッシュなんですのよ! 鳩風情が私とタメ張ろうなんて百年早いですわ!!」
見れば、色褪せた『芋ジャージ』に『健康サンダル』という、昭和のヤンキーか深夜のコンビニにいるフリーターのような格好の少女が、野良鳩とマジの喧嘩を繰り広げていた。
青みがかった美しい水色の髪と、整った顔立ち。
だが、その手にはスーパーの袋に入った大量の『パンの耳』と、その辺で摘んだと思われる『食べられる雑草』が握りしめられている。
「……なんだ、あの野生動物は」
「あーっ!? リーザちゃん! なんでこんなところにいるの!?」
キャルルが驚いた声を上げて駆け寄った。知り合いらしい。
少女——リーザと呼ばれた彼女は、キャルルを見るとハッと我に返り、慌ててパンの耳をジャージのポケットにねじ込んだ。
「き、奇遇ですわねキャルルさん! 私は今、次なる新曲のインスピレーションを得るために、大自然と……ええと、対話をしておりましたの!」
「鳩とパンの耳の奪い合いをしてたようにしか見えなかったけど……。リーザちゃん、ルナミス帝国でシェアハウスしてた時は、一応アイドルとして活動してたよね? なんでこんな村まで?」
「そ、それは……キャルルさんが村長として赴任したと聞いて、陣中見舞いに……」
ぐきゅるるるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ。
リーザの腹の虫が、ドラゴンの咆哮のような絶大なる音を奏でた。
彼女は顔を真っ赤にしてうつむく。
「……家賃が払えなくて、夜逃げしてきましたの。炊き出しの列にも並び損ねて、丸三日、パンの耳とドクダミ草しか食べてませんわ……」
「うわぁ……」
聞けば、彼女は海中国家シーランの元人魚姫らしい。
アイドルに憧れて国を飛び出したものの、悪徳事務所に騙されて地下アイドル化し、日々の食事にも事欠く極貧生活(ポイ活・無料試食・炊き出し・雑草食い)を送っていたのだという。
「……キャルル、お前の友達か?」
「うん。すごくいい子なんだけど、ちょっと……運と要領が悪くて。タクミさん、リーザちゃんにご飯、食べさせてあげられないかな?」
「構わないぞ。ちょうどファミレスを建てるから、そこでご馳走しよう」
俺は親指で弾いた銅貨を空中に投げ、スキルを発動した。
「インストール——『ルナキン・モジュール(ポポロ村支店)』」
ズゴゴゴゴゴォォォォォッ!!
突如として地面が平らに均され、何もない空間から巨大なプレハブ建築が瞬く間に組み上がっていく。
ガラス張りの外壁、輝くネオンサイン、空調の効いた快適な店内、そして無尽蔵に湧き出るドリンクバーの設備。
たった数秒で、荒野の広場に『24時間営業のオアシス』が出現した。
「ひゃあああっ!? な、なんですのこれ!? お城が……お城が生えてきましたわ!?」
「建・築・費・百・円……! ワイの算盤が……ワイの常識が粉々に……!」
腰を抜かすリーザと、白目を剥いて泡を吹くニャングル。
俺は呆然とするリーザの襟首を掴み、涼しい店内のソファ席へと放り投げた。
「座ってろ。今、一番カロリーの高いものを作ってやる」
厨房設備も魔導オートメーション化されているため、俺がタブレットでメニューを選択するだけで料理は完成する。
「お待たせした。ルナキン名物『ハンバーグ・ルナミス風(ソーリーフソース仕立て)』と、ライス特盛りだ」
ジュウゥゥゥゥゥッ!!
熱々の鉄板に乗せられた、巨大なハンバーグ。
ロックバイソンの挽肉に、みじん切りにしたタマンネギを練り込んだ極上の肉塊。そこへ、ソースの味がする『ソーリーフ』を煮詰めた濃厚なデミグラス風ソースがたっぷりとかけられている。
付け合わせには、太陽芋とマヨ・ハーブのフライドポテトが山盛りだ。
「あ、あ、あああ……っ!」
リーザの瞳孔が開き、口から滝のようによだれがこぼれ落ちる。
彼女はフォークも使わず、割り箸を割るなり、ハンバーグに喰らいついた。
「はぐっ……!? ふほっ、あふっ……! あふひぃっ!!(熱い)」
口いっぱいに広がる、溢れんばかりの肉汁。タマンネギの甘みと、濃厚なデミグラスソースの暴力的な旨味が、三日間雑草しか食べていなかった彼女の胃袋を強烈に刺激する。
「お、おいひぃぃぃぃぃぃぃっ! なんですのこれ! お肉が口の中で溶けますわ! パンの耳じゃない! 雑草じゃない! 本物の、お肉ですわぁぁぁぁっ!!」
ボロボロと大粒の涙を流しながら、リーザは特盛りライスを凄まじい勢いで掻き込んでいく。
ものの三分で巨大なハンバーグとライスを平らげた彼女は、ドリンクバーのメロンソーダを一気飲みして、ぷはぁっ! と天を仰いだ。
「生き返りましたわ……! 素晴らしい……なんて素晴らしいお食事と施設! これを、貴方様がたった一人で!?」
「まあ、俺のスキルだからな。ここは自由に飲み食いしていい。俺の拠点の『看板娘』として働いてくれるなら、毎食、賄い(まかない)で好きなものを食わせてやるよ」
俺がそう提案した瞬間。
リーザは猛然と立ち上がり、俺の足元にスライディング土下座をキメた。
「一生ついていきますわダーリン!!」
「いやダーリンって」
「私の歌も、愛も、全て貴方様に捧げます! だから……だからもう、雑草は食べたくないんですの! 毎食ハンバーグとドリンクバーをお願いしますわぁぁぁ!」
「わ、わかった。泣きながら俺のズボンの裾で鼻水を拭くな」
こうして、村の防衛力に続いて、俺の拠点にポンコツだが可愛らしい専属アイドル(兼・居候)が加わったのだった。
——一方、その頃。
勇者ゼロスのパーティは、底なしの飢えと不快感に苦しんでいた。
「くそっ……! まともな食い物はねぇのか!」
悪臭を放つ『ゲロオムレツ』で部隊が壊滅状態に陥った後、ゼロスたちは近くの川で魔獣『ピラダイ』を捕獲していた。
ピラニアの群れと死闘を繰り広げ、兵士数人が負傷しながらも、なんとか肉を確保したのだ。
「ゼロス様、焼けました! これでなんとか飢えを凌げます!」
「おおっ! でかした!」
ゼロスは木の枝に刺して焼いた魚の肉に、勢いよくかぶりついた。
——しかし。
「……ま、マズい。なんだこの泥臭さは……! 塩は!? 臭みを消すハーブはないのか!?」
「そ、それが……調味料の類はすべて、タクミ殿が独自のスキルで管理していた『マヨ・ハーブ』や『醤油草』に依存しておりまして……現在の我々の野営キットには、一切の調味料が残っておりません……」
タクミが提供していた「当たり前の調味料」が消え失せたことで、ただでさえ泥臭い魔獣の肉は、血生臭さとドブの味しかしない最悪の物体と化していた。
味気ない泥肉を吐き出しそうになりながら、ゼロスは血走った目で虚空を睨みつける。
「た、タクミの野郎……! 覚えてろよ……俺は勇者だ! 俺のPVを、絶対に奪い返してやる……!!」
勇者の怨念がこだまする中、その姿を映すゴッドチューブの配信画面には、『塩すらないの? 草』『飯マズ勇者乙』という辛辣なコメントだけが、虚しく流れていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「リーザの雑草生活が可哀想すぎる(笑)」
「100均でファミレス建つのはバグ!」
「塩すら失った勇者ざまぁwww」
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次回、第5話「【バグる経済】ポポロ村、世界一のインフラ拠点へ」
ニャングルの商魂が爆発し、ポポロ村がとんでもないことに……!? お楽しみに!




