【サウナと不倫メロンの怪】「大人の恋愛(錯覚)と、100均の耳栓」
【サウナと不倫メロンの怪】「大人の恋愛(錯覚)と、100均の耳栓」
ポポロ村の農業特区、第三ビニールハウス。
ここは、村の長閑な風景とは裏腹に、世界で最も『業が深い』農作物が栽培されている魔境である。
「ねぇ……社長さん。最近、奥さんとうまくいってないんでしょ? 私でよければ、朝まで愚痴、聞いてあげる……♡」
「おおぉっ、メロロンちゃん! 俺には……俺にはもう、お前しかいないんだぁぁっ!」
ハウスのど真ん中で、隣国から買い付けに来た恰幅の良い中年の豪商が、床に膝をつき、抱きしめた『網目模様の高級メロン』に向かって号泣していた。
「あなた!? 正気ですか! 相手はメロンですよ!? 私という妻がいながら、植物にうつつを抜かすなんて!」
「うるさい! お前みたいにガミガミ怒鳴る女より、俺の傷ついた心を癒やしてくれるメロロンちゃんの方が何百倍もいい女だ! 俺は、俺はこのメロンと駆け落ちする!」
「キィィィィッ! 慰謝料、金貨一万枚請求してやりますからね!!」
修羅場である。
それも、人間と人間の泥沼の愛憎劇ではない。人間と『メロン』の不倫現場だ。
ポポロ村特産・怪異野菜『メロロン』。
極上の甘味と芳醇な香りを持つ高級メロンだが、完熟すると『銀座のNo.1ホステス』や『魔性のキャバ嬢』のような幻惑テレパシーを放ち、収穫に訪れた男たちを片っ端から骨抜きにしてしまうという、極悪非道な魔植物である。
「……また泥沼夫妻が揉めてるな」
ハウスの入り口で、俺は視察用のバインダーを片手にため息をついた。
俺が【100均】スキルで出した『農業用ハイグレード肥料』のせいか、最近メロロンたちの『接客スキル(糖度)』がさらに上がり、家庭崩壊するモブ商人が後を絶たない。
「タクミさん! 見てください、あの商人の旦那さんの目を!」
俺の隣で、月兎族の村長・キャルルが、ウサギ耳をピンと立てて興奮気味に身を乗り出していた。
「地位も名誉も家族もすべて投げ打って、ただ一つの愛に生きようとするあの姿……! す、すごいです! これが……これが『大人の恋愛』というやつなんですね……っ!」
「いや、ただメロンの幻惑魔法で脳髄が溶けてるだけだぞ」
「私、感動しました! 恋には、あれほどまでの情熱と、強引さが必要だったんだって……!」
キャルルの瞳の奥で、何かがメラメラと燃え上がっていた。
しかも悪いことに、今日は『満月』である。
月兎族は満月の夜が近づくと、野生の本能が活性化し、情緒が極端にハイテンション——端的に言えば『発情期』に突入する種族なのだ。
「……タクミさん。私、村長として、もう一歩『大人』になろうと思います♡」
「……ん? おー、頑張れよ。俺はそろそろ仕事上がって、サウナ行ってくるから」
頬を赤く染め、熱を帯びた視線を向けてくるキャルル。
俺はそのヤバすぎる気配を意図的に見なかったことにして、足早にルナミスーパー銭湯へと避難した。
「ふぅ……。資本主義の疲れが、全身から溶け出していくでぇ……」
「まったくだ。やっぱり労働の後はこれに限るな」
ルナミスーパー銭湯、VIP専用・超高温ロウリュサウナ。
ヒノキの香りが漂う薄暗いサウナ室の最上段で、俺と商人ニャングルはタオルを頭に巻き、滝のような汗を流していた。
温度計は100度を指している。静寂の中、熱波だけが肌をジリジリと焦がす、至高のデトックス空間だ。
——ガラッ。
その時、サウナ室の重厚な木の扉が開いた。
入ってきたのは、分厚いサウナ用ポンチョをすっぽりと被った、小柄なシルエット。
「ん? VIPルームは貸し切りにしてたはずやけど……」
ニャングルが不思議そうに目を細めた瞬間。
ポンチョのフードの下から、暗闇の中で赤々と輝く『捕食者の目』と、ピンと立ったウサギ耳が覗いた。
「ヒッ……!?」
ニャングルの全身の毛が、一瞬にして逆立った。
商人の危険察知能力が、警報をガンガンと鳴らしているのだ。
「(タ、タクミっち! アカン! なんや知らんけど、尋常やない『重い愛』を持ったバケモンが入ってきたで! ワ、ワイは命が惜しいから水風呂に逃げるわ! あとは健闘を祈る!)」
ニャングルは這うようにしてサウナ室から逃亡した。
バタン、と扉が閉まり、密室に取り残される俺と、ウサギ耳の影。
キャルルは無言のまま、ゆっくりと、だが確実に、俺が座る最上段へと歩み寄ってきた。
満月の影響で完全にリミッターが外れた彼女の口元には、妖艶で、どこか狂気を孕んだ笑みが浮かんでいる。
「……見つけましたよ、タクミさん♡」
キャルルは俺の隣にピタリと座り、退路を断つように壁に手をついた。
いわゆる、サウナ室での『壁ドン』である。
尋常ではない熱気の中、彼女の甘く、熱い吐息が耳元に吹きかかる。
「昼間のメロロンを見て、私、決心したんです。タクミさんの周りには、ジャージの女神様とか、騒がしいアイドルとか、変な虫がいっぱいいますよね……? だから、私……」
キャルルの声が、一段と低く、ねっとりとしたものに変わる。
「私だけのものに、しちゃおうかなって。この熱いサウナ室で、二人の心も体もドロドロに溶かして、もう私以外、誰も見られないように……ふふっ、タクミさん、逃がしませんよ……♡」
ヤンデレ度1000%。
普通の男なら、恐怖と興奮で心臓が破裂していてもおかしくない、極限の密室シチュエーション。
キャルルは目を潤ませ、俺の唇を奪うべく、ゆっくりと顔を近づけてきた。
残り10センチ。
残り5センチ。
触れ合う寸前——。
「——よし、12分経ったな。そろそろ水風呂に行くか」
俺は、キャルルの存在など一ミリも認識していないかのように、スッと立ち上がった。
「…………へ?」
空振りに終わったキャルルが、間抜けな声を漏らす。
俺は立ち上がったついでに、サウナストーンに柄杓でアロマ水をジャバッと掛け(セルフロウリュ)、強烈な熱波を発生させた。
「あちちっ!? な、なんですか突然!」
「あー、いい汗かいた。やっぱサウナは『無音』に限るな」
俺は首をポキポキと鳴らしながら、自分の両耳に指を突っ込み、スポンッ、と『オレンジ色の物体』を引き抜いた。
「これ、マジで優秀なんだよな。インストール——『100均の工業用・高密閉ポリウレタン耳栓』。遮音性35デシベル。これさえ着ければ、外の雑音なんて一切聞こえなくなる。サウナでの瞑想には必須アイテムだ」
そう。俺はサウナ室に入った瞬間から、100均の最強耳栓を装着し、目を閉じてひたすら己の精神と向き合っていたのだ。
キャルルのヤンデレ発言も、甘い吐息も、ニャングルの悲鳴すらも。
俺の耳には『完全な無音』として処理されていたのである。
「え……? ええええっ!?」
キャルルは顔を真っ赤にして、ワナワナと震え出した。
「そ、それじゃあ、私がさっき決死の覚悟で言った、あんな恥ずかしいセリフや、こんな熱いアプローチは……!?」
「ん? どうしたキャルル、顔が真っ赤だぞ。のぼせたのか? 水分補給はしっかりしろよ」
「ちっ、ちがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
キャルルの悲鳴がサウナ室にこだました。
俺は不思議に思いながらも、「お先」と片手を上げてサウナ室を出た。
キンキンに冷えた水風呂に入り、外気浴のインフィニティチェアに深く腰掛ける。
夜空には、美しい満月が浮かんでいる。
「はぁ〜……ととのったぁ〜……」
俺の視界の端で、サウナ室からフラフラと出てきたキャルルが、恥ずかしさのあまり頭から煙を噴き出して倒れ込んでいるのが見えたが。
まあ、サウナの入りすぎだろう。
ポポロ村の騒がしくも愉快な夜は、100円の耳栓一つで、完璧な静寂と平和に守られているのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「メロロンの不倫現場ヤバすぎるww」
「キャルルのヤンデレモード発動! 壁ドン!」
「からの、100均の耳栓で全スルーは草」
「タクミ、絶対に気づいててわざとやってるだろ(笑)」
と、ヤンデレヒロインの空回りと、100均アイテムの鉄壁の防御(?)に笑っていただけましたら、ぜひ画面下(または上部)にある
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次回、第17話「【事故のような来訪者】神のオーラと、気絶するモブ」
ついに村の利権を狙う悪徳コンサルが登場!……するも、ルチアナとラスティアの神気に当てられて入店1秒で瞬殺!? お楽しみに!




