【事故のような来訪者】「神のオーラと、気絶するモブ」
【事故のような来訪者】「神のオーラと、気絶するモブ」
ポポロ村の入り口に、周囲の長閑な風景とは明らかに不釣り合いな、成金趣味の極悪な装飾が施された高級馬車が停まった。
「ひははははっ! ここが噂のポポロ村か。辺境の分際で、ルナミス帝国やアバロン魔皇国から莫大な外貨を吸い上げているという生意気な村は」
馬車から降り立ったのは、ギラギラとした装飾品を身につけ、嫌味な笑みを浮かべる小太りの男。
大陸最大規模の商業ギルド『ゴルド商会』の裏派閥に属する悪徳コンサルタント、ゲスマンである。
彼の背後には、威圧感を与えるための屈強な武装ゴロツキたちが数十人、ニヤニヤと下劣な笑みを浮かべて控えていた。
「いいかお前ら。この村の代表は、どこぞの勇者パーティを追い出された『ただの雑用係』らしい。法的にグレーな買収契約書を突きつけ、少し脅してやれば、ビビって泣きながら全権を譲り渡すに決まっている」
「へへっ、ゲスマンの旦那。あの『ルナキン』って店や『サウナ』ってのも、全部俺たちのモンになるんすね?」
「当然だ。村の女たちも、まとめて俺たちの慰み者にしてやる。さぁ、村のど真ん中にあるファミレスとやらに乗り込むぞ。たっぷりと絶望を味わわせてやろう!」
ゲスマンは、己の完璧な買収(乗っ取り)計画に酔いしれながら、自信満々にファミレス『ルナキン』の自動ドアへと向かって歩き出した。
彼らは知る由もなかった。
この村が、すでに人間の手に負えるレベルの場所ではないということに。
ウィーン……『ご来店、ありがとうございます』
間の抜けた電子音と共に、ゲスマンとゴロツキたちがルナキンの店内へと足を踏み入れた。
「おい、この村の責任者はどこだ! 泣く子も黙るゴルド商会の——」
ドヤ顔で大声を張り上げようとしたゲスマンの言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
——ズンッ!!!!!!
「……あ?」
店内に一歩足を踏み入れた瞬間。
ゲスマンたち数十人の全身を、目に見えない『物理的な質量の暴力』が叩き潰した。
息ができない。空気が重い。重力が通常の数十倍に跳ね上がったかのように、膝がガクガクと震え出す。
「な、なんだ……!? なんだ、この……圧倒的で、絶望的な、死の気配は……っ!?」
ゲスマンが脂汗をダラダラと流しながら、震える首をギギギ……と動かして店内を見渡す。
そして、見てしまった。
ルナキンの最奥、VIP専用のボックス席。
そこには、地球の100円ショップで売られている『特大すり鉢』に盛られた、暴力的なカロリーの山(二郎系ラーメン・全マシマシ)を、無言で、一心不乱に貪り食う『二人の女』の姿があった。
「ズズズズズズズズズズッ!!」
「ハフッ、ズルルルルルルッ!!」
色褪せた芋ジャージ姿の女(世界神ルチアナ)と、ゴスロリドレスの少女(魔王ラスティア)。
彼女たちは、己の器を満たす至高の一杯に全神経を集中させているため、無意識のうちに己の持つ『神気』と『魔力』のストッパーを完全に外してしまっていたのである。
空間が歪んでいる。
二人の背後には、宇宙の真理を司る『千手観音のような神のオーラ』と、世界を終焉に導く『巨大な暗黒竜のオーラ』が、幻影としてハッキリと可視化されていた。
「(……美味い! 今日の豚神屋のスープ、いつもより乳化が進んでて極上じゃない!)」
「(ルチアナなんかに食べるスピードで負けないわ! ニンニクの刺激が魔王の血を滾らせる……っ!)」
ただラーメンを食っているだけ。
だが、その『食への執念』が放つオーラは、常人の精神を破壊するには十分すぎるほどの濃度だった。
「あ、あ、あああ……っ……」
ゲスマンは白目を剥いた。
脳が、本能が、DNAが「これ以上ここにいたら存在が消滅する」と警鐘を鳴らし、安全装置を強制的にシャットダウンしたのだ。
「ゴフッ……」
ゲスマンは口からカニのように白い泡を吹き、白目を剥いてその場にバタンッと倒れ込んだ。
それを見た背後のゴロツキたちも、「ひぃぃぃぃぃっ!」「あばばばばばばっ!」と次々に奇声を発し、ドミノ倒しのように全員が床に崩れ落ちた。
入店から、わずか『1秒』の出来事である。
「……ん?」
厨房のカウンターで、100均の『マイクロファイバーふきん』を使ってグラスを磨いていた俺は、入り口で起きた謎の集団昏倒事件を見て、不思議そうに首を傾げた。
「おい、ニャングル。あいつら誰だ? なんか突然、全員泡吹いて倒れたんだが」
レジカウンターの下に避難し、両耳を塞いでガタガタと震えていたニャングルが、顔だけをひょっこりと出してツッコミを入れた。
「ダ、ダホかお前! あのジャージ神とゴスロリ魔王の放つ『神威』をモロに浴びたんや! 一般人があんなもん至近距離で食らったら、ショック死せんかっただけでも奇跡やで!」
「神威って……あいつら、ただラーメン食ってるだけだろ?」
「その『ただラーメン食ってるだけ』のオーラが、世界を滅ぼせるレベルなんや! なんでお前は平然としとるんや! お前のメンタル構造どうなっとるねん!」
ニャングルが涙目で喚いているが、俺にはよく分からない。
確かにルチアナたちの周りの空気が少し陽炎のように揺れている気はするが、前世の満員電車の息苦しさに比べれば、どうということはない。
「まぁ、いい。なんか手に紙(買収契約書)を持ってるが、どうせロクな客じゃないだろ。……おい、キャルル」
「はいっ! お呼びですか、タクミさん!」
裏口から、デッキブラシを持ったキャルルがウサギ耳を揺らして飛んできた。
「入り口にゴミ(モブ)が数十人転がってて、他のお客さんの通行の邪魔だ。悪いが、まとめて外の駐車場の隅っこにでも転がしておいてくれ」
「了解です! 燃えるゴミですか? 燃えないゴミですか?」
「とりあえず資源ゴミ(後で何か請求できるかもしれない)として、縛ってまとめておいてくれ」
「はーい!」
キャルルは鼻歌を歌いながら、気絶している悪徳コンサルとゴロツキたちの襟首を掴み、まるでボウリングのピンでも片付けるかのように、ズルズルと外へ引きずり出していった。
村の利権を奪い、俺たちを絶望のドン底に突き落とすはずだった大いなる陰謀。
それは、身内(神と魔王)の『飯テロの余波』という、完全なる不慮の事故によって、俺の耳にすら届くことなく一瞬で物理的に消滅したのである。
「ぷはぁぁぁぁぁっ! 食ったぁぁぁぁっ!」
「ごちそうさま! はぁ……細胞が生き返るわ……!」
その頃、ようやくラーメンを完食したルチアナとラスティアが、丼をカウンターに上げて満足そうに息を吐いていた。
「あ、タクミ君! お冷のおかわりちょうだい! ……あれ? 今入り口で、なんかドタバタしてなかった?」
「いや、ただの迷い犬だ。気にするな」
俺は100円のプラスチックコップに氷水を注ぎ、ルチアナの前にドンと置いた。
「迷い犬? ふーん。あ、そうだ。食後のデザートに、リーザちゃんが作ってるっていう『まかないサラダ』を少し分けてくれない?」
ルチアナが何気なく口にしたそのリクエスト。
それが、この後、ポポロ村史上最大の『放送事故』を引き起こす引き金になるとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「悪徳コンサル、ドヤ顔入店から1秒で泡吹いて気絶は草ww」
「神と魔王のラーメンのオーラだけで全滅するモブ(笑)」
「タクミの『邪魔だから転がしといて』の塩対応が最高!」
と、モブの瞬殺(事故死)にスカッとしていただけましたら、ぜひ画面下(または上)にある
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次回、第18話「【就活お祈り野菜の誤爆】折れたスのトラウマと、泣き崩れる世界神」
ルチアナがリクエストしたサラダに、リーザが間違えて『アレ』を混入!? 天界のトップがファミレスの床で大号泣の異常事態へ! お楽しみに!




