【ルナキンの客層がバグる】「推し活の神と魔王、ファミレスでガチ喧嘩」
【ルナキンの客層がバグる】「推し活の神と魔王、ファミレスでガチ喧嘩」
24時間営業、年中無休。
俺の【100均】スキルが産み出した、アナステシア世界最大のオーバースペック・ファミレス『ルナキン』。
ここは今や、ポポロ村の住人だけでなく、噂を聞きつけた周辺国の商人や兵士たちが憩いを求めて集まる、世界最高峰のインフラ拠点となっている。
だが、どんなに素晴らしい施設でも、客層がバグれば地獄と化す。
「だから言ってるでしょ! その『月人君』のライブ限定シークレットアクリルスタンド、私のダブった通常版アクスタ三個と交換しなさいよ!」
「はぁ!? あんたバカじゃないの!? シークレットの封入率知ってて言ってんの!? 通常版三個で釣り合うわけないでしょ! 最低でも今回のツアーの限定缶バッジ十個は積みなさいよ!」
ドンッ!! と、テーブルが壊れんばかりの勢いで叩かれた。
ルナキンの奥にある四人掛けのボックス席。
そこで向かい合って座っている二人の女性から、空間を物理的に歪ませるほどの凄まじいプレッシャー(オーラ)が漏れ出していた。
一人は、色褪せた芋ジャージに健康サンダル、手には『ピアニッシモ・メンソール』を持ち、傍らに『月人君』の缶バッジがびっしりと敷き詰められた重さ十キロはありそうな【痛バッグ】を置いている気怠げな美女。
——この世界を管理する絶対的な存在、世界神ルチアナ。
もう一人は、黒を基調とした豪奢なゴスロリドレスに身を包み、テーブルの上に大量のアイドルグッズを並べて『祭壇』を構築している小柄な美少女。
——アバロン魔皇国を統べる恐怖の象徴、魔王ラスティア。
神話の時代から続く因縁の二柱……ではなく、単なる『同担拒否気味の限界オタク仲間』が、ファミレスの席で推しのグッズトレードを巡ってガチの口論を繰り広げていたのである。
「だいたいね! ラスティアはアバロンの国庫(税金)を横領してグッズを箱買いしてるからシークレットが出たんでしょ! 私なんか、限りある予算(お小遣い)をやり繰りして……っ! その一個を引くためにどれだけ苦労したと……!」
「うるさいわね! 国の威信を懸けた推し活の何が悪いって言うのよ! どうしても欲しいなら、その神界の権限で『月人君のサイン入りチェキ』でも創造して持ってきなさいよ!」
「神の力で推しのグッズを錬成するとか、オタクとして一番やっちゃいけない御法度でしょーが!! 推しへの冒涜よ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!
二人の感情の高ぶりに呼応して、ファミレス内の気圧が急激に低下していく。
窓ガラスがビリビリと共鳴し、ドリンクバーのメロンソーダが勝手に沸騰し始め、天井の照明(100均のLEDライト)がチカチカと明滅する。
神気と魔力がぶつかり合う、文字通りの『世界終焉クラス』の喧嘩だ。
「ヒッ……!? ひぃぃぃぃっ!?」
少し離れたレジカウンターの裏で、猫耳商人のニャングルが頭を抱えてガタガタと震えていた。
「アカン……! アカンて! なんでウチのファミレスに神様と魔王様が入り浸っとるんや! しかも、なんやねんその『月人君』って! アイドルの板切れ(アクスタ)一枚で、世界が滅ぼうとしとるで……っ!」
ピキッ……パキィッ!
ニャングルが胸に抱きしめていた、ドワーフの名工が打ったという超硬質ミスリル製の算盤が、二人の放つプレッシャーに耐えきれず、自壊してヒビ割れてしまった。
「あああああ! ワイの算盤がぁぁぁっ! 耐えきれへん! タクミっち、早くなんとかしてくれぇぇぇっ!」
涙目で俺のズボンの裾を引っ張るニャングル。
周りの客たちも、神と魔王のオーラにあてられ、白目を剥いて次々と気絶し始めている。
俺はため息をつき、おぼんに二つのコップを乗せた。
「……たく。せっかくの新作スイーツの試食会をしようと思ってたのに」
俺はポケットから銅貨を取り出し、スキルを発動する。
「インストール——『100均の割れないプラスチックコップ(業務用)』、および『製氷機の氷(限界まで増量)』」
チャリン、という音と共に、無骨なプラスチックコップになみなみと注がれた冷水と、溢れんばかりの氷が出現した。
俺はそれを片手に持ち、ハルマゲドンが勃発しているボックス席へとスタスタと歩いていった。
「いい加減にあのシークレット渡しなさいよ! じゃないと、アバロン魔皇国にメテオストライク落とすわよ!」
「やれるものならやってみなさいよ! 黙示録の業火で天界ごと焼き尽くして……」
ドンッ!!
ルチアナとラスティアの目の前に、氷がたっぷり入ったプラスチックコップを、わざと大きな音を立てて叩きつけた。
ピチャッ、と冷たい水滴が、ヒートアップしていた二人の頬に跳ねる。
「……あ?」
「……なによ?」
世界神と魔王が、同時に俺をギロリと睨みつけた。
一般人ならその眼力だけで消滅するレベルの殺意。だが、前世で理不尽なクレーマーと毎日戦っていた元社畜ディレクターの俺にとって、オタクの痴話喧嘩などそよ風にも等しい。
「言っておくがな」
俺は冷たい目で見下ろし、淡々と、しかし絶対的な威圧感を持って言い放った。
「ウチはファミレスだ。大声を出して他の客に迷惑をかける奴は、神だろうが魔王だろうが……『出禁(ブラックリスト入り)』にするぞ」
ピタッ。
その一言で、ルチアナとラスティアの動きが完全に停止した。
「ルナキンの新作『濃厚宇治抹茶パフェ』も、豚神屋の『二郎系ラーメン』も、ルナミスーパー銭湯の『極上サウナ』も、出禁になったら二度と利用できない。……それでもまだ、その板切れ(アクスタ)一枚のために、店を壊すつもりか?」
俺の静かな脅迫に、二人の顔からサーッと血の気が引いていく。
彼女たちにとって、ポポロ村のインフラ(特に飯とサウナ)は、すでに日々のストレスを解消するための『生命線』となっていたのだ。
それが、自分のオタ活のせいで永遠に絶たれるとしたら——。
「あっ……えっと、その……」
「ご、ごめんなさい、タクミ君……ちょっと熱くなっちゃって……」
シュウゥゥゥゥ……。
先ほどまで空間を歪ませていた神気と魔力が、風船がしぼむように一瞬で霧散した。
ルチアナは痛バッグをそっと足元に隠し、ラスティアは祭壇のグッズを慌ててポーチに片付け始めた。
「分かればいい。……次、店内でオーラを漏らしたら、本気で塩を撒くからな」
「はい……気をつけます……」
「出禁だけは許して……宇治抹茶パフェ、食べたい……」
世界神と魔王が、シュンと肩を落としてプラスチックコップのお冷を両手ですすっている。
まるで、親に怒られた小学生だ。
「おい、ニャングル。気絶してる客を外のベンチに運んどいてくれ。……ルチアナ、ラスティア、抹茶パフェ二つでいいな?」
「うんっ! 白玉多めでお願い!」
「私、黒蜜だくだくで!」
すっかり大人しくなった二人に背を向け、俺は厨房へと戻った。
「……タ、タクミっち」
レジカウンターの裏で、ニャングルが割れた算盤を抱きしめながら、信じられないものを見る目で俺を凝視していた。
「お前……神様と魔王様に凄んで、ファミレスの接客マニュアルで黙らせたんか……。お前のメンタル、絶対オリハルコンで出来とるやろ……」
「接客業の基本だろ。どれだけ偉い奴でも、ウチの敷居を跨げばただの『客』だ。ルールを守れないなら帰ってもらうだけさ」
「ホンマにお前が一番恐ろしいわ……」
ニャングルが呆れ半分、畏敬半分の表情で震える中。
ボックス席では、ルチアナとラスティアが運ばれてきた『濃厚宇治抹茶パフェ』を前に、「美味しい〜♡」「白玉モッチモチ〜!」と、先ほどの殺し合いが嘘のようにキャッキャと笑い合っていた。
世界を滅ぼす力を持つ神々すらも、100均インフラとファミレスの魔力には逆らえない。
俺の最強の『裏方スローライフ』は、今日も絶対的な権力者たちを手玉に取りながら、平穏無事に過ぎていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「神と魔王の争いの理由がアクスタww」
「ニャングルの算盤がまた壊れた!」
「出禁の一言で神々を大人しくさせるタクミの社畜メンタル強すぎ(笑)」
と、ファミレスでのドタバタな日常を楽しんでいただけましたら、ぜひ画面下(または上)にある
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次回、第16話「【サウナと不倫メロンの怪】大人の恋愛(錯覚)と、100均の耳栓」
村の怪異『メロロン』の魔力に当てられたキャルルが、満月の夜に暴走!? お楽しみに!




