【大食いヤラセの共犯者】「カツ丼10杯チャレンジの裏側」
【大食いヤラセの共犯者】「カツ丼10杯チャレンジの裏側」
『みんなー! こんキュラ〜☆ 天界から舞い降りた君の専属エンジェル、キュララだよっ!』
ポポロ村の絶対安全圏、24時間営業ファミレス『ルナキン』の奥に設けられた特設配信ブース。
俺が【100均】で召喚した『配信用防音パーテーション』と『女優ライト付きスマホスタンド』に囲まれた空間で、今日も下級天使のキュララが甘ったるい声を上げていた。
『今日はなんと! ルナキンさんの特別メニュー【特盛・背脂ガーリックマヨカツ丼】の10杯完食チャレンジをやっちゃいまーす! パチパチパチー!』
キュララの目の前の長机には、洗面器のようなサイズの巨大な丼が十個、ズラリと並んでいる。
揚げたての分厚いロースカツを卵でとじ、さらにその上から豚神屋特製の背脂と、俺が100均で出した『悪魔のカロリーマヨネーズ』を親の仇のようにぶっかけた、一杯あたり3000キロカロリーを優に超える暴力的な食べ物だ。
配信のコメント欄は、開始早々から凄まじい勢いで滝のように流れている。
『うわっ、カロリーの暴力ww』『天使の胃袋壊れちゃうよ!』『キュララちゃん細いのに大丈夫!?』『無理しないでね! スパチャ投げるから!』
「……なぁ、タクミっち。ホンマにええんか、あれ」
少し離れた厨房のカウンターから、ニャングルが煙管を吹かしながら呆れた顔で配信の様子を眺めていた。
「もしあのヤラセがバレたら、炎上どころの話やないで? 『ゴッドチューブの規約違反』で、最悪アカウントBAN(凍結)や。ウチのファミレスの宣伝塔が潰れるのは痛手やで」
「問題ない。カメラの画角は完璧に調整してある。それに、需要と供給が完全に一致した『Win-Winのビジネスモデル』だからな。……見ろ、始まるぞ」
俺が顎でしゃくった先。
配信画面の中では、キュララが「いただきまーす♡」と可愛らしく手を合わせ、カツ丼の一口目を小さな口に運んでいた。
『ん〜っ! サクサクのカツと背脂マヨが絡み合って、最高に美味しい〜! これなら10杯でもペロリといけちゃいそう!』
キュララが満面の笑みで食レポをする。
しかし、その実態は『完全なフェイク』だ。
『あ、ちょっと待ってね。熱いからフーフーするね♡』
キュララが、カメラの画角からギリギリ外れる位置——『机の下(テーブルクロスに隠れた死角)』へと、丼をそっと下ろした。
その瞬間である。
ズズズズズズズズズズッ!!!!!!!
バキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!
机の下から、巨大な掃除機……いや、ブラックホールがすべてを吸い込むような、おぞましい吸引音が響き渡った。
『はいっ! フーフー終わり! 一杯目、完食でーすっ☆』
キュララが再び机の上に丼を戻すと、洗面器サイズの丼の中身は、米の一粒、背脂の一滴すら残さず、綺麗に空っぽになっていた。
時間にして、わずか『3秒』。
『えっ!? 早すぎwww』
『カメラから見切れた瞬間に消えたぞ!?』
『キュララちゃん、実は時空魔法使ってる!?』
『神喰いの天使ww 凄すぎるww スパチャ投げとこ!!』
視聴者たちは「編集の魔法」か「天使の奇跡」だと勘違いし、怒涛のスーパーチャットを投げまくっている。
だが、俺とニャングルには、机の下で何が起きているのかがはっきりと見えていた。
「(……げふっ。マヨネーズが……マヨネーズが五臓六腑に染み渡りますわ……っ! 圧倒的カロリー! 生きている実感!!)」
机の下で、野生の獣のように四つん這いになって潜んでいたのは、色褪せた芋ジャージ姿の元人魚姫・リーザだった。
昨日、キュララに太客(山田さん)と大トロを奪われ、雑草しか食べていなかった彼女は、極限の飢餓状態にあった。
そんな彼女に、キュララが悪魔の囁き(業務提携)を持ちかけたのだ。
『リーザ先輩、私と一緒に大食い企画やりません? 先輩は机の下に隠れて、私が下ろしたカツ丼を食べるだけ。お腹いっぱいタダ飯が食べられて、しかもスパチャの収益を10%分けてあげますよ☆』
『や、やりますわ!! 泥水すすってでもやりますわぁぁっ!!』
昨日あんなに大乱闘を繰り広げていたくせに、利害が一致した瞬間のこの連携である。
リーザはダイソンも真っ青の驚異的な吸引力で、キュララが机の下に下ろしたカツ丼を、文字通り『丸飲み』していた。
『どんどん行くよー! 二杯目、いただきまーす!』
(ズゴゴゴゴゴゴッ!!)
『はーい、三杯目もペロリ♡』
(デュルルルルルルルッ!!)
『みんなの応援のおかげで、もう五杯目だよっ☆』
(バキュゥゥゥゥゥゥンッ!!)
キュララの上半身の完璧なアイドルスマイルと、机の下で顔中をご飯粒と背脂まみれにしながら獣のようにカツ丼を貪るリーザの必死の形相。
その高低差が激しすぎて、俺は淹れたてのコーヒーを吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。
「……あいつら、ホンマに仲ええんか悪いんか分からんな」
「究極の共犯関係だな。キュララは『大食い天使』の称号とスパチャをノーリスクで手に入れ、リーザは命を繋ぐカロリーを得る。……だが、あのカロリー爆弾を連続で胃袋にブチ込むのは、さすがに人魚の胃袋でも限界が来るぞ」
八杯目を超えたあたりから、机の下のリーザの様子がおかしくなってきた。
最初は歓喜の涙を流してカツ丼を吸い込んでいたリーザだったが、今やそのお腹は、妊娠十ヶ月かバランスボールかというほどにパンパンに膨れ上がり、芋ジャージのファスナーが弾け飛んでいた。
「(う、うっ……ぐるじい……ですわ……っ。油が……背脂が喉まで逆流して……もう食えませ……)」
(おい! バレるでしょ! 気合で飲み込みなさいよ貧乏神!)
机の下で、キュララが笑顔のまま足でリーザの頭をグリグリと踏みつけて押し込んでいる。アイドル界の闇である。
(む、無理……水……お水を……)
リーザが白目を剥いて痙攣し始めた。
このままでは放送事故(嘔吐)になってしまう。
「仕方ないな……」
俺はため息をつき、ポケットから銅貨を取り出した。
「インストール——『100均のシリコン製折りたたみ水筒』」
俺は水を入れた水筒を、カメラの死角を縫って床に滑らせた。
シュルルッ! と机の下に滑り込んだ水筒を、リーザがゾンビのように掴み取り、一気に喉に流し込む。
水を得た魚……いや、水を得た人魚姫は、最後の力を振り絞った。
『さぁ、いよいよラスト! 十杯目いっくよー!』
キュララが最後の丼を机の下へ。
「(ウォォォォォォォォッ!! アイドルの意地、見せてやりますわぁぁぁぁっ!!)」
ズゾォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
リーザの命を燃やした最後の一気食い。
『——ぷはっ! ぜんぶ、完食でーすっ!!』
キュララが空っぽになった十個の丼をカメラに向けた瞬間、配信のコメント欄は爆発した。
『うおおおおおお! 伝説達成!』『キュララちゃんマジ神!』『スパチャの雨を降らせろぉぉっ!!』『ぽいっ(金貨100枚)』『ぽいっ(金貨500枚)』
『みんな、本当にありがとー! これからもキュララを応援してね! それじゃ、バイキュラ〜☆』
プツッ。
カメラの録画ランプが消えた瞬間。
「……お疲れ様でしたーっ! いやー、今日のスパチャ(売上)、軽く金貨三千枚は超えましたよ!」
キュララは悪びれもせず、エンジェルすまーとふぉんの収益画面を見てホクホク顔だ。
その足元で、ボトッ……と、丸々と膨れ上がった肉の塊が机の下から転がり出てきた。
「あ……あぅぅ……。し、死にますわ……。胃袋が……爆発しますわぁぁぁっ……」
リーザは腹を抱え、カエルのように手足をバタバタさせて床をのたうち回っている。
限界を超えたキャパオーバー。完全に自業自得である。
「はいはい、リーザ先輩もお疲れ様! 約束通り、収益の10%は現金で払ってあげますからね。あ、源泉徴収は引いときますね☆」
「あ、悪魔……! せめて……30%は……げふっ!!」
ゲロッ、と限界を迎えそうになるリーザ。
俺は慌てて銅貨を取り出し、スキルを発動した。
「インストール——『二日酔い・食べすぎに効く! 100均の粉末胃薬(大容量)』」
俺は苦すぎる胃薬の粉末を、もがくリーザの口に無理やり流し込み、コップの水をぶっかけた。
「にっが!? げほっ、ごほっ! ヴぇぇぇぇっ! なんですのこれ! ドブの味がしますわ!」
「黙って飲め。暴発されてファミレスの床を汚されたら困るんでな。……ちなみにこの胃薬代、お前のギャラ(10%)から天引きしとくからな」
「そんなぁぁぁぁぁぁっ! 結局私の手元に一円も残りませんわーっ!!」
絶叫するリーザと、アハハと笑うキュララ。
そして、それを見て「タクミっちが一番えげつない悪魔やな」と呆れるニャングル。
モブが入り込む隙間など一ミリもない、俺たちの騒がしくもくだらない『身内コメディ』は、こうして莫大な利益を生み出しながら平和に続いていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「リーザの吸引力、ダイソン超えww」
「机の下での地獄絵図と、上のアイドルスマイルのギャップがひどい(笑)」
「結局胃薬代で全額没収されるリーザ、不憫すぎるww」
と、二人の見事なヤラセコンビネーション(?)に笑っていただけましたら、ぜひ画面下(または上)にある
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次回、第15話「【ルナキンの客層がバグる】推し活の神と魔王、ファミレスでガチ喧嘩」
平和なファミレスに、あの「ジャージ神」と「ゴスロリ魔王」が来店! オタ活を巡る争いで、ニャングルの算盤が砕け散る!? お楽しみに!




