29話
第29話 帰り道は恋の嵐
禁書庫を出た瞬間、恋の空気が生まれることもある。
禁書庫の扉が閉まった瞬間、レティシアは深く息を吐いた。
(疲れた)
出生の真実。
影の一族。
運命の相手。
魔力の安定。
頭がいっぱいで、胸がざわざわしている。
そんなレティシアの横でヴィクトール公爵が、妙に静かだった。
「レティ」
「は、はい?」
「さっきの運命の話だが」
「忘れてください」
「忘れられない」
「忘れてください!!」
「忘れられない!!」
レティシアは真っ赤になった。
(なんでこの人はわからないのよ!)
アレクシア、胃痛で倒れそうだった。禁書庫の扉にもたれかかっていた。
「もう無理です」
「視察官殿、大丈夫ですか?」
ハンスが心配そうに声をかける。ちなみにハンスは公爵副官。常識人だが、ヴィクトールの奇行に振り回される25歳。
「大丈夫じゃありません。禁書庫で恋愛騒動を起こす人間、初めて見ました」
「ですよね」
「あなたも胃が痛いのですか?」
「ええ、閣下のせいで」
「私もです」
二人は静かに頷き合った。
◆
王宮の廊下を歩く一行。
メイドたちはテンションMAXだった。
「レティ、さっき閣下に抱きしめられてたよね!!」
「完全に恋人」
「いや、夫婦」
「結婚式いつ?」
メイドたち、恋バナで帰り道を破壊する。
「もう、やめてください!!」
レティシアは赤ら顔で叫んだ。
(本当におしゃべりだわ)
ヴィクトールは顔を赤くしながら言う。
「レティ結婚式」
「閣下!!」
「違うのか?」
「違います」
「違わない」
「違います!!」
「違わない!!」
「私の運命に影響され過ぎです」
ドロシーが腕を組んで言った。
「まあまあ、レティ。閣下があんたに惚れてるのは全員知ってるんだから、もう観念しなさい」
「惚れてません」
「惚れてるわよ」
「惚れてません!!」
「惚れてるわよ」
「惚れてる!!」
ヴィクトールが即答した。
「閣下!!」
ドロシーは笑った。
「あははは、ほらね」
ドロシーは恋愛を豪快に語った。
その点ウォーレスはいつも通りに、紅茶を飲みながら言う。
「いやあ、禁書庫で恋が芽生えるなんてロマンチックだね」
「ロマンチックじゃありません。禁書庫ですよ」
「ロマンチックだよ」
「ロマンチックじゃありません!!」
「ロマンチックだよ」
「もう、やめてください!!」
レティシアはさらに赤くなる。
一方アレクシアは頭を抱えた。
この人たち、恋愛の話しかしないのかと思う。
帰り道、レティシアと公爵が二人きりになるチャンスが訪れる。
王宮の庭園を通る道で、メイドたちが突然叫んだ。
「視察官殿!! 王宮の騎士団が恋バナに興味津々です!!」
「興味津々じゃありません!!」
「興味津々です!!」
「興味津々じゃありません!!」
「興味津々です!!」
「やめてください!!」
アレクシアは騎士団に引っ張られる。
メイドたちも騎士団に質問攻めにされた。
ウォーレスは紅茶をこぼし、ドロシーは騎士団を追い払っていた。
結果的にレティシアとヴィクトールだけが取り残された。
(二人きりに)
レティシアの心臓が跳ねた。
ヴィクトールも顔を赤くしている。
「レティ」
「は、はい?」
「さっきの運命の話だが」
「忘れてください。あれは書かれたあったことです」
「忘れられない」
「忘れてください!!」
「忘れられない!!」
レティシアは真っ赤になった。
「閣下」
「レティ私は」
ヴィクトールが言いかけた、その瞬間。メイドたち、全力で邪魔する
「レティーーーー!!」
「閣下ーーーー!!」
「二人きりにしちゃダメよ!!」
「恋が進む!!」
「結婚しちゃう!!」
「もう、やめてください!!」
メイドたちが全力で走ってきた。レティシアはいつものように叫んだ。
「なんで邪魔するのよ」
「恋が進むと面白くなくなるからよ」
「恋はじらすのが一番」
「じらしてじらしてじらすのよ」
「いい加減に、やめてください!!」
レティシアは構ってしまう。
(やはりみんな来たのは間違いです)
ヴィクトールは怒鳴った。
「邪魔するな。これはレティシアとの問題だ」
「邪魔します」
「邪魔するな」
「邪魔します」
「恋愛の話は禁止にして!!」
レティシアはさらに混乱する。
アレクシアが戻ってきた。
「あなたたち!! 王宮の庭で恋愛騒動を起こすなと言ったでしょう!!」
「起こしてません」
「起こしてます」
「起こしてません」
「起こしてます」
アレクシアは頭を抱え、視察官なのに、なぜ恋愛の仲裁をしているのかと考える。恋愛の仲裁で倒れそうであった。
騒動が一段落した後。
レティシアはヴィクトールの隣を歩いていた。
「レティ」
「はい?」
「私は、君が怖がるなら無理に言わない。でも君が嫌じゃないなら私は君の運命になりたい」
レティシアの心臓が跳ね、閣下の言葉に胸が揺れる。
(閣下)
「わ、私は」
言葉が出ない。
でも、胸が温かい。
(嫌じゃない)
その時。
「レティーーー!! 閣下ーーー!! 恋が進んでるーーー!!」
「邪魔です、やめてください!!」




