28話
第28話 禁書庫で恋が暴走する
王宮の禁書庫は、本来なら静けさが支配する場所だった。
古い書物が積まれ、魔法の封印が施され、王族と高位官僚しか入れない神聖な空間。
そのはずだったのだが。
「レティーーー!! 危ない」
「閣下、落ち着いてください」
「落ち着けるか!」
「落ち着いてください!」
「落ち着けるか!!」
「やめてください!!」
禁書庫の静けさは、すでに粉々である。
アレクシアは頭を抱えた。
「どうしてこうなったのか。視察官として情けない」
他が騒いでいる中、レティシアは古い棚の前で一冊の本を見つけた。
「アレクシアさん、この本影の血族って書いてあります」
「それです!! それを探していました!!」
アレクシアは本を受け取り、ページをめくった。
出生の記録、ついに発見か。
「レティシア・アレン。影の一族の末裔。母は影の巫女と呼ばれた人物」
レティシアは息を呑んだ。
(私、本当に影の一族みたい)
アレクシアは続ける。
「そして影の巫女の娘は、強い魔力を持つ者と結ばれる運命にある」
「え?」
レティシアは固まった。
「つまりレティは強い魔力を持つ相手と恋に落ちる運命ってこと?」
ドロシーがニヤリと笑った。何かを察知した顔だった。
「閣下じゃないの」
「違います」
「違わないわよ」
「違います」
「違わないわよ」
「やめてください!!」
(ドロシーさん、お願いですからやめて)
ヴィクトールは本を覗き込み、顔を赤くした。
「レティ運命?」
「違います」
「違わない」
「違います」
「違わない」
アレクシアがため息をついた。
「閣下。あなたは魔力量が王宮でも上位です。つまり、記録上は該当者です」
「該当者」
公爵は、運命の一文に反応するとレティシアは真っ赤になった。
「該当しません!!」
「該当する!!」
「該当しません!!」
「該当する!!」
「やめてください!!」
(こんな文書、あてになるのか)
発見された文書で、メイドたちは大興奮だった。
「レティ、運命の相手が閣下って書いてあるわよ」
「書いてません」
「書いてるようなものよ」
「書いてません!!」
「書いてる!!」
ウォーレスが紅茶を飲みながら言う。
「いやあ、運命っていいよね。禁書庫で恋が始まるなんてロマンチックだ」
「ロマンチックじゃありません!!」
「ロマンチックだよ」
「ロマンチックじゃありません!!」
「ロマンチックだよ」
「もう、やめてください!!」
(来たのが失敗だった)
アレクシアは本を読み進めようとしたが、周囲の騒がしさで集中できない。
「静かにしてください!! ここは禁書庫です!! 恋バナは禁止です!!」
「恋バナじゃないわよ、運命の話よ」
「それが恋バナです!!」
アレクシアは頭を抱えた。
私、視察官なのに、なぜ恋愛の仲裁をしているのと思わず疑問になった。
アレクシアにとって調査を進めたいのに恋愛が邪魔をする。
その時、棚の上から本が落ちてきた。
「危ない!!」
ヴィクトールがレティシアを抱き寄せた。
――ドン。
レティシアは閣下の胸に倒れ込む形になった。
「レティ怪我はないか?」
「な、ないです」
距離が近い。
近すぎる。
レティシアの心臓が跳ねた。
レティシア、公爵と二人きりになる。
(ち、近い!)
ヴィクトールの顔も赤い。
「レティ」
「は、はい?」
「運命かもしれないな」
「違います!!」
レティシアは全力で離れた。
(運命ですかこれは)
そんなところをメイドたちは、恋の瞬間を見逃さない。
「今の見た? 閣下がレティを抱きしめた」
「完全に恋人!!」
「いや、夫婦!!」
「結婚式いつ」
「運命と結びつけないでよ!!」
レティシアは叫ばずにいられない。
この時、アレクシアは頭を抱えてしまう。
「禁書庫で恋愛騒動を起こす人間、初めて見た」
素直なアレクシアの感想。
ゴタゴタを無視して、アレクシアは本の最後のページをめくった。
「あら?」
「どうしたの?」
「ここにもう一つ書かれているわ」
アレクシアは読み上げた。
「影の巫女の娘は、運命の相手と出会うと、その者の魔力を安定させる」
「魔力を安定?」
ヴィクトールが固まった。
「レティ。君が来てから、私は感情が安定している気がする」
「えっ」
「昔はもっと暴走していた。でも、君が来てから私は」
レティシアは顔が赤くなる。
(本当なら嬉しい)
「つまり、レティは閣下の精神安定剤ってことね」
ドロシーが言って、恋愛を一刀両断する。
「精神安定剤じゃありません!!」
「でも安定してるでしょ?」
「安定してる!」
「閣下までも!!」
メイドたちは禁書庫で盛り上がり、閣下は赤くなり、レティシアは混乱してしまう。
アレクシアは胃を押さえ、いつものようにウォーレスは紅茶を飲み、ドロシーは笑っていた。
禁書庫の静けさは、完全に崩壊していた。
(出生のこと怖いけど、閣下がいて、みんながいて私は前に進める。




