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婚約破棄された雑用係の私、公爵様の甘々な求愛に無自覚なまま愛されすぎている件  作者: おーちゃん


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18話

第18話 夜の侵入者、揺らぐ灯


 夜の屋敷。

 夜のラインハルト公爵邸は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 廊下のランプは淡い光を落とし、影は長く伸び、屋敷全体が深い眠りに沈んでいるように見える。

 しかし静けさは、どこか不自然だった。

 風が窓を叩く音が、やけに鋭く響く。

 遠くで犬が吠える声が、妙に胸に引っかかる。


(落ち着かない夜)


 レティシアは、洗濯室の片付けを終え、廊下を歩いていた。

 視察官アレクシアの言葉が、まだ胸の奥に残っている。

 あなたは彼にとって危険な存在ですと言った。

 彼女の言葉は、昼間よりも重く、暗闇の中でさらに深く沈んでいく。


(私本当に、閣下を苦しめているの?)


 足が止まる。

 胸の奥が、じわりと痛む。

 影の気配があった。

 カサッ。

 窓の外で、何かが動いた。


(風?)


 そう思いたかった。

 次の瞬間。


 スッ。

 影が横切った。

 人の形。

 しかし、動きは異様に静かでまるで闇そのものが滑るように移動している。


(誰?)


 レティシアは不思議に感じる。

 影は、屋敷の外壁を伝い、まっすぐ公爵の部屋の方へ向かっていた。


(閣下!)


 胸が跳ねる。

 足が勝手に動き出した。

 走る、ただ走る

 廊下を駆け抜ける。

 ランプの光が揺れ、影が乱れ、

 レティシアの心臓は早鐘のように鳴っていた。


(何かあったらどうしよう)


 視察官アレクシアの言葉が頭をよぎる。

 あなたは彼にとって危険な存在ですと言った。


(危険なのは私じゃない。 今は外の影!)


 階段を駆け上がり、

 公爵の部屋の前にたどり着く。

 扉の前には、夜勤のメイドが立っていた。


「レティシアさん? どうしたんですか、そんな顔で」


「誰かが外から!」


 言い終わる前に、窓ガラスが震えた。

 コン。

 小さな音。

 しかし、確かに外からの合図のように響いた。

 レティシアは嫌な予感から行動に出ると、侵入者が現るのだった。

 ガシャン!

 窓が割れた。


「きゃああああ!!」


 メイドの悲鳴が響く。

 割れた窓から、黒い影が飛び込んできた。

 全身黒ずくめ、顔も覆面で隠されている。

 その動きは、まるで訓練された兵士のように無駄がない。


(誰なのよ?)


 レティシアは後ずさった。

 侵入者は、迷いなく廊下を走り抜け公爵の部屋の扉に手を伸ばした。


「やめて!!」


 レティシアは叫んだ。

 侵入者が振り返る。

 覆面の奥の瞳が、鋭く光った瞬間、レティシアは悟った。


(この人、普通の泥棒じゃない)


 動き、気配、視線。

 すべてが訓練された者の動きだった。いったい何者なのかと疑う。

 侵入者が扉を開けようとしたと同時に。

 ガチャッ!

 扉が内側から開いた。


「レティ何があったか?」


 ヴィクトール公爵が姿を現し、直後に侵入者が飛びかかった。


「閣下!!」


 レティシアは咄嗟に飛び出した。

 侵入者の腕が振り下ろされる。

 レティシアはヴィクトールを突き飛ばし、自分が代わりに受け止める形になった。

 ドン!

 衝撃が肩に走る。


「レティ!!!!!!!」


 ヴィクトールが叫んだ。

 侵入者は一瞬だけ動きを止めた。

 その隙に、ヴィクトールがレティシアを抱き寄せる。


「大丈夫か?」


「だ、だ、大丈夫です!」


 しかし、侵入者はすぐに体勢を立て直し、二人に向かって再び飛びかかろうとした。

 危険な状況になり、そこで先輩メイドのハンナが静かに現るのだった。

 パシッ。

 乾いた音が響いた。

 侵入者の腕が、何かに絡め取られた。


「そこまでです」


 静かな声。

 ハンナだった。

 いつの間にか背後に立っていた彼女。

 侵入者の腕を布で縛り上げ、まるで子どもを扱うように動きを封じていた。


「あなた、王宮の者ですね」


 ハンナの声は低く、冷たかった。

 侵入者は何も言わないものの、沈黙が肯定に聞こえた。


「視察官殿の差し金ですか?」


 ハンナの問いに、侵入者の肩がわずかに揺れた。


(アレクシアの?)


 レティシアは助かったと思ったけど、疑惑に思う。

 今のハンナの会話。その視察官アレクシアが姿を現すのだった。


「その必要はありません、ハンナ」


 廊下の奥から、アレクシアが歩いてきた。表情は、いつもの冷たさとは違う。

 どこか、苦しげで、迷いを含んでいた。


「その者は私の部下です」


「やはり」


 ハンナは目を細めた。


「説明していただけますか?」


 アレクシアは深く息を吸った。


「公爵閣下の感情の暴走を確認するため、あえて危険を与える必要がありました」


「危険?」


 レティシアは疑問がよけいに深まる。


「あなたが閣下を守るかどうか。閣下があなたを守るかどうか。その反応を見るためです」


「そんな!」


 レティシアは言葉を失った。

 ヴィクトールは怒りで震えていた。


「ふざけるな!!」


 声は、廊下を震わせた。


「レティを危険に晒すなど許さない!!」


 アレクシアは目を伏せた。


「覚悟の上です。私は、王宮の命令に従っただけです」


 レティシアは、胸に手を当てた。


(私は閣下を守りたい。でも私がいることで、閣下が苦しむなら)


 アレクシアの言葉が蘇る。

 あなたは彼にとって危険な存在ですと。


(私はどうすればいいの?)


 悩んでいると、ヴィクトールがレティシアの手を掴んだ。


「レティ。君がいなくなる方が私は苦しい」


 レティシアの心臓がドクドクと高まる。


「だから行かないでくれ」


 その声は震えていた。

 しかし、確かな想いが宿っていた。


(閣下、私は行きませんよ)


 レティシアは、ゆっくりと頷いた。


「はい」


 レティシアは、そっと微笑んだ。

 しかし

 彼女はまだ知らない。

 この侵入者事件が、

 王宮と公爵家の関係を大きく揺るがし、そして彼女自身の運命をさらに深い渦へと引き込むことを。

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