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婚約破棄された雑用係の私、公爵様の甘々な求愛に無自覚なまま愛されすぎている件  作者: おーちゃん


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16話

第16話 視察官アレクシア、過去を暴く


 王宮視察官アレクシアが屋敷に滞在して三日目の朝。

 ラインハルト公爵邸は、もはや日常という言葉から遠く離れた場所になっていた。

 アレクシアは朝から晩まで屋敷を歩き回り、メイドたちに質問を投げかける。

 レティシアの動きを逐一観察し、そして公爵ヴィクトールの行動を厳しく監視していた。

 屋敷の空気は、まるで冬の嵐の前のように張りつめている。


(今日も、嫌な予感しかしない。アレクシアが来てからは)


 レティシアは洗濯物を抱えながらため息をついた。事実、この後に大きな試練が待っているのだった。

 視察官は猛烈に細かく朝からレティシアを監視を緩めない。


「雑用係レティシア。今日もあなたの勤務を拝見します」


 アレクシアは、まるで影のようにレティシアの後ろに立っていた。


「えっあの」


「遠慮はいりません。いつも通りに」


(少しは遠慮してほしいんですけど、この女!)


 レティシアは心の中で叫んだ。

 洗濯物を畳む。

 アレクシアが横から覗き込む。


「その畳み方王宮式ではありませんね」


「雑用係式ですと教えましたが」


「雑用係式は独特ですね」


 アレクシアは眉をひそめた。


(なんでそんなに真剣に見るのよ!)


 次に、床掃除。

 レティシアがモップを動かすと、アレクシアがメモを取る。


「動きが速い無駄がない」


「昨日も観たと思うけど?」


「評価しています」


(それなら褒めてよ!!)


 3日もいると、メイドたちは視察官に怯える日々になった。


「やはりレティ視察官、怖い」


 エリンが震えながら近づいてきた。


「目が鋭すぎる」


「魂まで見透かされそう」


「レティが連れて行かれたらどうしよう」


「閣下が暴走するわね」


「戦争が起きるかも」


「だから、戦争はやめてください!!」


 レティシアは頭を抱えた。

 その時、ハンナが静かに言った。


「あなたたち、仕事に戻りなさい」


「「「はいっ!!!」」」


 全員が一斉に散っていった。


(ハンナさん、頼り2なります。勉強になります)

 追及を止めない視察官は、ついに公爵の過去に触れることになる。


 その日の午後。

 アレクシアは公爵執務室にヴィクトールを呼び出した。

 レティシアは廊下で待機していた。少し不安なレティシア。

 扉の向こうから聞こえる声に、胸がざわついた。


「公爵閣下。あなたは昔からある問題を抱えていたと聞きました」


「誰から聞いた」


「王宮の記録です」


 レティシアは記録と聞いて何かなと思った。


(閣下の過去?)


「あなたは若い頃、感情の制御に問題があった。怒り、悲しみ、喜びすべてが極端に強く、時に周囲を巻き込むほどだったと」


「それは昔の話だ」


「本当に?」


 アレクシアの声は冷たかった。


「今のあなたは、雑用係レティシアに強く依存している。彼女がいなければ朝も起きられず、彼女がいなければ情緒が不安定になる」


「違う。推論だな」


 ヴィクトールの否定。


「私は私は」


 その声は震えていた。


「レティがいなくなるのが怖いだけだ」


 レティシアの胸が締め付けられた。


(閣下、そんなに私を)


 アレクシアは静かに言った。


「公爵閣下。 あなたの感情の問題は、王宮でも把握されています。そして」


 アレクシアの声が確信みいたものになる。一呼吸おいて、ズバリ言う。


「あなたの婚約破棄事件も」


 レティシアの心臓が跳ねた。


(婚約破棄?)


 ヴィクトールの声が震える。


「やめろ。その話はやめなさい」


「あなたがかつて婚約していた女性。彼女はあなたの感情の暴走に耐えられず、婚約は破棄された」


 レティシアは死にそうになった。


(閣下婚約していたの?)


「その後、あなたは感情を封じる訓練を受けた。鉄血公爵と呼ばれるようになったのは、その後です」


 レティシアの胸が痛んだ。


(閣下そんな過去が。だから鉄血公爵になったと)


「そして今、あなたは再び、感情を暴走させようとしている」


「違う。暴走はしていない!」


 ヴィクトールの叫びが響いた。


「私はレティを守りたいだけだ!」


 アレクシアは静かに言った。


「それが暴走なのです」


 声が聞こえたレティシアは、扉の前で震える。


(閣下そんな過去があったなんて。知りませんでした)


 レティシアは胸に手を当てた。

 ヴィクトール公爵が、自分の感情を抑えるためにどれほど苦しんだのか。

 どれほど孤独だったのか。

 そして今、自分のせいで再び感情が揺らいでいるのだとしたら。


(私のせい?)


 胸が痛む。


 静かになった。視察官はレティシアに告げることになる。

 扉が開いた。

 アレクシアが出てきた。

 その表情は冷たく、しかしどこか哀しげだった。


「レティシア」


「はい」


「あなたは、彼にとって危険な存在です」


「危険ですか」


「あなたは彼の感情を揺らし、彼の心を乱します。彼の過去を呼び覚ましている」


 レティシアは震えた。


「私はその、その」


「あなたが悪いわけではありません。しかし」


 アレクシアの瞳が鋭く光る。


「あなたがここにいる限り、公爵閣下は再び暴走する可能性がある」


 レティシアの心臓が止まりそうになった。


(私が閣下を暴走させる)


 レティシアは胸に手を当てた。


(私どうすればいいの?)


 悩んでしまうと、執務室の中から、ヴィクトールの声が聞こえた。


「レティ行かないでくれ」


 レティシアの心臓がドクドクする。


(閣下、私の責任なのですか)


 アレクシアは静かに言った。


「あなたの選択が、彼の未来を決めます」


 レティシアは震える手を握りしめた。


(私はどうすればいいのか。いない方がいいのか)


 彼女はまだ知らない。

 この選択が、彼女自身の運命を大きく揺るがすことを。

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