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【第29話 開かれた流れ】

「……止まらねえ」


それが、最初の反応だった。


黒舟組の男が、吐き捨てるように言う。


目の前の帳面。


そこに並ぶ数字。


増えている。


増え続けている。


「何だ、この量は」


別の男が言う。


「全部、追えねえぞ」


沈黙。


———


一方。


「……流れてるな」


佐吉が、息を吐いた。


坂井新之助は、静かに頷く。


「ああ」


村から村へ。


町から町へ。


そして——藩を越えて。


流れは、止まっていない。


むしろ——


(増えている)


———


「新しい連中も、入ってきてる」


商人の男が言う。


「知らねえ奴ばっかだ」


だが、その顔には笑みがある。


「いい」


新之助は言った。


「それでいい」


———


「だが、危なくねえか」


佐吉が言う。


「管理できてねえ」


沈黙。


新之助は、否定しない。


「できていない」


短く言う。


「だが——」


一歩踏み込む。


「それでも、回る」


空気が変わる。


———


その頃。


「……潰せ」


低い声。


黒舟組の中枢。


影の中で、男が命じる。


「主要な拠点を叩け」


「流れを切れ」


命令が、飛ぶ。


———


だが。


「……無理だ」


部下が言う。


「どこが主要か、分からねえ」


沈黙。


「全部、細かく分かれてる」


「潰しても、別が動く」


空気が重くなる。


———


「……なら、締め上げろ」


別の声。


「参加してる連中を」


———


数日後。


圧力がかかる。


脅し。


引き抜き。


締め付け。


「……来てるな」


商人が言う。


「かなり強い」


沈黙。


———


だが。


「離れてねえ」


佐吉が言う。


「誰も」


空気が、わずかに変わる。


「なぜだ」


誰かが呟く。


———


「見えてるからだ」


新之助は言った。


沈黙。


「何がだ」


「利益だ」


短く言う。


「そして——」


一呼吸置く。


「自分の場所が」


———


開かれた流れ。


誰でも入れる。


だが——


誰でも、役割がある。


———


「閉じた流れは」


新之助は続ける。


「選ばれた者だけだ」


「だが——」


一歩踏み込む。


「こちらは違う」


沈黙。


「自分で、立てる」


———


その頃。


黒舟組。


「……離れていくな」


一人が言う。


「締めても、戻ってこねえ」


沈黙。


「なぜだ」


誰かが問う。


答えは、出ない。


———


「……変わったな」


中枢の男が、低く言う。


その目は、冷たい。


「流れが」


———


夕暮れ。


市場。


人が行き交う。


物が動く。


声が響く。


——止まらない。


———


新之助は、静かに立っていた。


(勝ったか)


そう思いかけて——


首を振る。


(違う)


「……変わっただけだ」


小さく呟く。


———


「新之助」


佐吉が声をかける。


「これで、終わりか」


沈黙。


新之助は、少しだけ考え——


「いや」


と答えた。


———


「始まりだ」


その一言。


———


空は、赤く染まっている。


流れは、広がり続ける。


止まらない。


誰にも、止められない。


———


そして。


影の中。


黒舟組の男が、静かに言った。


「……次だ」


その目は、まだ死んでいない。


——戦いは、形を変える。


だが——


一つだけ、確かなことがある。


——流れは、開かれた。


――続く

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