【第25話 崩れる流れ】
「……おかしい」
最初に気づいたのは、佐吉だった。
坂井新之助は、その声に顔を上げる。
「何がだ」
「物が、来ない」
短い一言。
だが——重い。
「遅れてるのか」
新之助が問う。
佐吉は、首を振った。
「違う」
沈黙。
「……止まってる」
———
空気が、一瞬で変わる。
「どこでだ」
「分からねえ」
苛立った声。
「途中までは来てる」
「でも、その先がねえ」
沈黙。
(……遮断か)
新之助は、静かに考える。
———
すぐに、情報を集める。
村。
拠点。
街道。
すべてを確認する。
そして——
「……同時だな」
商人が呟く。
「全部のルートで、起きてる」
空気が凍る。
(狙われている)
しかも——
(計画的だ)
———
「盗みか?」
誰かが言う。
新之助は、首を振る。
「違う」
短く言う。
「規模が違う」
———
そのとき。
役人が、駆け込んでくる。
「……新之助!」
息を切らしている。
「何だ」
「命令が出た」
空気が変わる。
「どこからだ」
「上だ」
沈黙。
「……幕府だ」
———
全員が、固まる。
「内容は」
新之助が問う。
役人は、低く言った。
「流通の一部停止」
———
空気が、凍りつく。
「……何だと」
商人が声を荒げる。
「ふざけんな!」
当然だ。
ここまで積み上げてきた流れ。
それを——止める?
「理由は」
新之助が問う。
役人は、紙を差し出した。
「“混乱を防ぐため”」
沈黙。
(建前だな)
新之助は、目を細める。
(誰かが動かした)
———
その夜。
新之助は、一人で座っていた。
紙を見つめる。
止められたルート。
動いているルート。
繋がり。
(……狙いは何だ)
考える。
線を引く。
消す。
そして——
(ここか)
一点に、視線が止まる。
「……中枢」
小さく呟く。
(流れの中心)
そこを止めれば——
全部が止まる。
———
「……誰だ」
低く言う。
そのとき。
「……教えてやろうか」
背後から声。
新之助は、振り向く。
そこにいたのは——
見慣れない男。
だが、その装いは、ただ者ではない。
「……何者だ」
新之助が問う。
男は、わずかに笑った。
「ただの、商人だ」
沈黙。
「だが——」
一歩近づく。
「お前のやっていることは、困る」
空気が張り詰める。
「……誰の差し金だ」
新之助が問う。
男は、答えない。
代わりに——
「止めろ」
短く言う。
「今なら、まだ間に合う」
沈黙。
「このまま続ければ——」
その目が、冷たく光る。
「全部、潰す」
———
空気が、凍る。
だが——
新之助は、動じない。
「断る」
一言だった。
男の目が、細くなる。
「……そうか」
小さく笑う。
「なら——」
踵を返す。
「覚悟しろ」
———
静寂。
男は、消えた。
残ったのは——重い空気。
(完全に、敵に回った)
新之助は、ゆっくりと息を吐く。
(しかも——上と繋がっている)
最悪だ。
———
だが。
「……いい」
小さく呟く。
「やるだけだ」
視線を上げる。
止まった流れ。
崩れた仕組み。
(ここで終わるか)
(……終わらない)
その目が、鋭くなる。
「取り戻す」
短く言う。
———
外。
夜の闇。
静かに、だが確実に。
大きな力が動いている。
———
そして。
その中心には——
まだ見えない“黒幕”がいた。
――続く




