【第26話 見えない網】
「……全部、止められている」
佐吉の声は、重かった。
坂井新之助は、地図を見つめたまま答える。
「ああ」
主要な流れ。
すべてが、寸断されている。
(見事だ)
無駄がない。
一点ではなく——全体。
(個人じゃない)
(組織だ)
———
「どうする」
商人が問う。
苛立ちを隠さない。
「このままじゃ、終わりだぞ」
沈黙。
だが——
新之助は、静かだった。
(終わらない)
(終わらせない)
「……使う」
短く言う。
「何をだ」
「止められていないものを」
空気が変わる。
———
「あるのか?」
商人が問う。
新之助は、地図を指した。
「ここだ」
ざわめき。
「……細いな」
そこは——
主要ではない、脇の道。
小さな流れ。
「だからだ」
短く言う。
「見られていない」
———
「全部を一度に動かすから、止められる」
新之助は続ける。
「なら——」
一歩踏み込む。
「小さく動かす」
沈黙。
(分散)
(隠す)
———
「さらに」
新之助は言う。
「情報を逆に使う」
空気が変わる。
「……どういう意味だ」
「流す」
短く言う。
「偽の情報を」
ざわめき。
「相手に、追わせる」
沈黙。
(見えていると思わせる)
(だが、本当は違う)
———
数日後。
動きが変わる。
小さな荷。
少量の流れ。
細い道を通る。
「……通ってるな」
佐吉が呟く。
「見つかってねえ」
新之助は頷く。
(第一段階)
———
同時に。
「こっちは、どうだ」
商人が聞く。
「流した」
偽の情報。
大きな荷。
主要ルート。
———
数日後。
「……来たぞ」
見張りが言う。
「主要ルート、止められてる」
沈黙。
「……食いついたか」
新之助は、小さく呟く。
———
「だが、それだけじゃねえだろ」
商人が言う。
その通りだ。
(守るだけでは、勝てない)
ならば——
「探す」
短く言う。
「……何をだ」
「中を」
空気が変わる。
———
「……内通者か」
誰かが呟く。
新之助は、否定しない。
(ここまで正確に止めるには)
(中の情報が必要だ)
———
「どうやって見つける」
問いが投げられる。
新之助は、静かに答えた。
「分ける」
「……またか」
商人が苦笑する。
「ああ」
短く頷く。
「情報を分ける」
沈黙。
「それぞれに、違うことを伝える」
空気が変わる。
「どこが漏れるか、見る」
———
数日後。
結果が出る。
「……ここだ」
新之助が指したのは——
一つの拠点。
沈黙。
「間違いねえのか」
商人が問う。
「ああ」
短く答える。
「そこだけ、漏れている」
———
夜。
静かな闇。
その拠点に、人影。
「……来たな」
低い声。
待っていた。
———
捕らえる。
抵抗は、なかった。
「……誰の指示だ」
新之助が問う。
男は、しばらく黙っていた。
やがて——
「……言えねえ」
低い声。
だが——
その目は、揺れている。
「家族がいる」
———
沈黙。
新之助は、ゆっくりと息を吐く。
(またか)
同じ構図。
金か。
圧力か。
———
「……いい」
短く言う。
全員が、驚く。
「解く」
「……何だと?」
ざわめき。
「放す」
沈黙。
「だが——」
一歩踏み込む。
「伝えろ」
空気が変わる。
「何をだ」
「こちらは、止まらない」
短く言う。
「そして——」
その目が、鋭くなる。
「次は、こちらから行く」
———
夕暮れ。
新之助は、一人で立っていた。
(守りは終わりだ)
(ここからは——攻め)
視線を上げる。
止まっていた流れが、少しずつ戻り始めている。
「……いい」
小さく呟く。
「見せてやる」
——本当の戦いを。
――続く




