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【第24話 見られる者】

「……全て、出せ」


低い声だった。


坂井新之助は、その言葉に静かに頷く。


「はい」


短い返事。


だが、その場の空気は張り詰めている。


——幕府の役人。


前に座る数名の男たち。


その視線は、冷たい。


「隠し事は許さん」


一人が言う。


「結果も、失敗もだ」


沈黙。


(試されている)


新之助は、ゆっくりと紙を広げた。


———


「まず、現状です」


声は落ち着いている。


「流通は拡大しました」


「だが——」


一呼吸置く。


「問題も出ています」


ざわめきが起こる。


「ほう」


興味の色。


「申せ」


———


「遅延」


「情報の遅れ」


「盗難」


「利害対立」


一つずつ並べる。


隠さない。


すべて出す。


空気が変わる。


「……正直だな」


誰かが呟く。


———


「対応は」


別の男が問う。


新之助は答える。


「分割しました」


地図を広げる。


「区域ごとに管理」


「拠点を設置」


「情報伝達の役を配置」


「ルートを分散」


沈黙。


男たちが、じっと見る。


考えている。


———


「結果は」


短い問い。


新之助は、紙を差し出す。


「改善しています」


数字。


時間。


損失。


すべてが記されている。


「……確かに」


一人が呟く。


「減っているな」


空気が、わずかに動く。


———


だが。


「それでもだ」


低い声。


「なぜ、そこまでして広げる」


核心だった。


沈黙。


全員の視線が、新之助に集まる。


——答えるしかない。


「必要だからです」


静かに言う。


「何に」


「国に」


空気が止まる。


———


「今のままでは」


新之助は続ける。


「地域ごとに、無駄が出ます」


「余る場所と、足りない場所がある」


「それを繋げば——」


一呼吸置く。


「全体が、豊かになる」


沈黙。


「……理想論だな」


誰かが言う。


新之助は、首を振る。


「違います」


短く言う。


「現実です」


空気が変わる。


「すでに、成果が出ています」


紙を叩く。


「一部では、です」


———


長い沈黙。


やがて——


「……大きすぎる」


一人が言った。


「一つの藩では、扱えん」


沈黙。


「だから——」


新之助は言う。


「分けました」


短く。


「全体を、一つで見るのではない」


「繋げるだけです」


空気が変わる。


———


「……なるほど」


上座の男が、初めて口を開いた。


その目は、鋭い。


「支配ではなく——連携か」


新之助は頷く。


「はい」


———


再び、沈黙。


長い沈黙。


やがて——


「……いいだろう」


一言だった。


空気が動く。


「続けろ」


ざわめき。


「ただし——」


その目が鋭くなる。


「監視はつける」


沈黙。


「問題があれば、止める」


新之助は、迷わず答えた。


「構いません」


———


外に出る。


空気が、軽い。


だが——


緊張は解けない。


「……どうだった」


商人が問う。


新之助は、短く答えた。


「通った」


沈黙。


次の瞬間——


「……すげえな」


小さな声。


———


夕暮れ。


新之助は、一人で立っていた。


(認められた)


だが——


(自由ではない)


監視がつく。


責任も重くなる。


「……いい」


小さく呟く。


「それでいい」


前に進めるなら。


それでいい。


視線を上げる。


(次は——)


その目が、さらに遠くを見る。


「仕組みを、完成させる」


——戦いは、終わらない。


むしろ——ここからが本番だ。


――続く

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