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【第21話 任せる者】

「……全部は、見きれねえな」


商人の男が、苦笑した。


坂井新之助は、その言葉に静かに頷く。


「ああ」


短い返事。


だが、それは重い現実だった。


村は増えた。


流通は広がった。


交易も始まった。


(限界だ)


一人で見るには、大きくなりすぎた。


———


「どうする」


問いが投げられる。


新之助は、少しだけ考えた。


(抱えるか)


(……違う)


首を振る。


(任せる)


「分ける」


短く言った。


「……何をだ」


「責任を」


空気が変わる。


———


数日後。


主要な者たちを集める。


農民、商人、運び。


全員が揃う。


「話がある」


静かな声。


「これからは——」


一呼吸置く。


「任せる」


ざわめきが広がる。


「……どういうことだ」


新之助は答える。


「役割ごとに、責任者を置く」


沈黙。


「農」


「商」


「運」


指を立てる。


「それぞれに、決める」


———


「……誰がやる」


商人が問う。


新之助は、ゆっくりと視線を巡らせる。


(見てきた)


誰が、何をしてきたか。


誰が、動けるか。


そして——


誰が、信じられるか。


「佐吉」


名を呼ぶ。


空気が変わる。


「お前は、運びを見ろ」


佐吉が、固まる。


「……俺が、ですか」


「ああ」


短く答える。


「できる」


沈黙。


その目に、不安と決意が混じる。


「……やります」


小さく、だがはっきりと。


———


「農は——」


一人の男を指す。


長く田を見てきた者。


「お前だ」


男は、黙って頷く。


———


「商は——」


あの商人の男。


苦笑しながら、肩をすくめる。


「仕方ねえな」


———


「……本気か」


誰かが呟く。


「失敗したら、どうする」


沈黙。


新之助は、静かに答えた。


「失敗する」


空気が止まる。


「だが——」


一歩踏み込む。


「それでいい」


ざわめき。


「一人でやるより、速い」


「そして——」


「強くなる」


沈黙。


———


数日後。


変化が現れた。


判断が速くなる。


現場で決まる。


動きが、滑らかになる。


「……回ってるな」


商人が呟く。


新之助は頷く。


(これだ)


——組織。


———


だが、そのとき。


「……問題がある」


佐吉が言う。


表情は、真剣だった。


「何だ」


「村ごとに、やり方が違う」


空気が変わる。


「統一されてねえ」


沈黙。


(当然だ)


任せれば、差が出る。


「どうする」


問いが投げられる。


新之助は、少しだけ考えた。


(縛るか?)


(……違う)


首を振る。


(軸を作る)


「決める」


短く言う。


「……何をだ」


「ルールだ」


———


翌日。


再び集める。


「共通の決まりを作る」


新之助は言った。


・品質の基準

・取引の記録

・報酬の配分


一つずつ、定める。


「これを守る」


沈黙。


「それ以外は——」


一呼吸置く。


「任せる」


空気が変わる。


———


夕暮れ。


新之助は、一人で座っていた。


(ここまで来た)


人を集め。


流れを作り。


組織を作った。


だが——


(まだ足りない)


そのとき。


「……新之助」


役人が来る。


表情は、重い。


「また、動きがある」


空気が変わる。


「今度は?」


新之助が問う。


役人は、低く答えた。


「……もっと上だ」


沈黙。


「幕府筋が、関心を持っている」


———


空気が、一瞬で変わる。


(……そこまで来たか)


新之助は、ゆっくりと立ち上がる。


「分かった」


短く答える。


視線を上げる。


遠くを見る。


(ここから先は——)


「別の戦いだ」


——物語は、さらに上の段階へ。


――続く

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