表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/36

【第22話 上からの視線】

「……江戸から、だ」


役人の声は、いつになく低かった。


坂井新之助は、その言葉にわずかに目を細める。


「来たのか」


短い返事。


だが、その意味は重い。


——中央。


幕府。


ここまでの動きが、ついに上に届いた。


「使者が来ている」


沈黙。


「お前に会いたいと」


空気が張り詰める。


(指名か)


逃げ場はない。


「分かった」


———


城の奥。


これまでとは、明らかに違う空気。


静かだが——重い。


部屋の中央。


一人の男が座っている。


装いは質素。


だが、その存在感は、場を支配していた。


「……坂井新之助」


名を呼ばれる。


新之助は、静かに頭を下げた。


「はい」


男は、しばらく黙っていた。


見ている。


測っている。


その視線が、鋭い。


「面白いことをしているな」


不意に、そう言った。


沈黙。


「農を整え」


「流通を作り」


「他藩と繋ぐ」


一つずつ、なぞるように言う。


「誰に教わった」


問いは、核心だった。


新之助は、一瞬だけ考え——


「現場です」


と答えた。


男の目が、わずかに動く。


「……ほう」


興味が混じる。


———


「だが」


声が変わる。


「過ぎる」


空気が冷える。


「一つの藩の者が、ここまで動く」


「均衡を崩す」


沈黙。


(来たな)


新之助は、静かに受け止める。


「その通りです」


あえて、認める。


空気がわずかに揺れる。


「ならば——」


男が続ける。


「なぜ止めぬ」


沈黙。


——答えは、決まっている。


「止めれば——」


新之助は言った。


「衰退します」


空気が変わる。


「民が、持ちません」


静かに、だがはっきりと。


「それでも、止めるべきかと」


———


沈黙。


長い沈黙。


やがて——


「……理は通る」


男が口を開いた。


「だが、それだけでは足りん」


新之助は、目を上げる。


「何が必要でしょうか」


男は、わずかに笑った。


「視点だ」


沈黙。


「一つの藩ではない」


「全体だ」


言葉が重い。


「他がどう動くか」


「どう影響するか」


「それを考えろ」


——中央の視点。


新之助は、静かに頷いた。


「はい」


———


「そこでだ」


男が言う。


空気が変わる。


「試す」


沈黙。


「……何をですか」


「お前をだ」


一言。


「一つ、任せる」


ざわめきが広がる。


「複数の藩にまたがる、流通だ」


空気が止まる。


「これを整えろ」


———


それは——


今までとは、桁が違う。


一つの藩ではない。


複数。


利害も違う。


思惑も違う。


(……本気だな)


新之助は、静かに息を吐く。


「失敗すれば?」


あえて問う。


男は、淡々と答えた。


「責任を取らせる」


沈黙。


(当然だ)


——だが。


「やります」


迷いはなかった。


空気が、わずかに動く。


「……いいだろう」


男が頷く。


「見せてみろ」


———


外に出る。


空気が、重い。


だが——


新之助の表情は、変わらない。


「……どうだった」


商人が問う。


新之助は、短く答えた。


「広がる」


沈黙。


「さらに、だ」


———


夕暮れ。


新之助は、一人で立っていた。


(ここから先は——)


別の世界。


藩ではない。


地域でもない。


(“全体”)


視線を上げる。


遠くを見る。


「……いい」


小さく呟く。


「やってやる」


その目には、確かな覚悟があった。


——物語は、ついに中央へ。


――続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ