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【第11話 動き出す権力】

「……報告は以上です」


低く、抑えた声が響いた。


広間の空気は重い。


畳の上に並ぶ家臣たちの視線が、一点に集まっていた。


上座。


そこに座る男が、静かに口を開く。


「つまり——」


ゆっくりと言葉を選ぶ。


「市が、勝手に作られたと?」


「はい」


家臣が頭を下げる。


「しかも、既存の市場から人を奪っております」


沈黙。


「……ほう」


わずかに目が細くなる。


「誰の許しを得た」


空気が凍る。


「……確認中ですが」


「おそらく、無許可かと」


静かな怒気が広がる。


「勝手な商い、か」


その一言で、場の温度が下がった。


———


同じ頃。


新之助は、市の様子を見ていた。


人は増えている。


売上も伸びている。


だが——


(静かすぎる)


違和感があった。


「どうした」


商人の男が声をかける。


「……来る」


新之助は短く答えた。


「何がだ」


「上だ」


その瞬間——


「——お触れだ!」


鋭い声が響いた。


役人たちが、市に入ってくる。


人々がざわつく。


「何だ?」


「どうした?」


役人が紙を掲げる。


「この市は、無許可である!」


空気が凍る。


「よって——」


一拍置く。


「本日をもって、停止とする!」


ざわめきが爆発する。


「そんな……」


「ふざけるな!」


怒号が飛ぶ。


だが——


役人は動じない。


「従わぬ場合」


低く言い放つ。


「罰を与える」


沈黙。


圧倒的な力。


それが、権力だ。


———


人々の視線が、新之助に集まる。


「どうする……」


誰かが呟く。


新之助は、ゆっくりと前に出た。


役人と向き合う。


「理由を聞こう」


静かに言う。


役人は冷たく答える。


「許可がない」


「それだけだ」


「……それで人の営みを止めるのか」


新之助の声は、低かった。


「決まりだ」


即答。


「例外はない」


沈黙。


(典型的だ)


新之助は理解する。


(ルールで縛る)


だが——


(ルールは、使える)


「ならば聞く」


新之助は言った。


「許可を得れば、問題ないのか」


役人の眉が動く。


「……理屈の上ではな」


「どこに申請すればいい」


沈黙。


やがて——


「藩だ」


短く答える。


空気が変わる。


———


その夜。


新之助は、一人で考えていた。


(来たな)


権力との正面衝突。


だが——


(ここで潰れるわけにはいかない)


静かに息を吐く。


(方法はある)


机の上に紙を広げる。


情報を書き出す。


人、物、金。


そして——


(正当性)


「……作る」


小さく呟く。


「ルールを、こちら側で」


———


翌日。


新之助は言った。


「藩に行く」


ざわめきが起こる。


「正気か?」


「潰されるぞ」


当然の反応だ。


だが——


「交渉する」


言い切る。


沈黙。


「勝てるのか?」


商人の男が問う。


新之助は、わずかに笑った。


「勝つ必要はない」


全員が顔を上げる。


「認めさせればいい」


空気が変わる。


「そのための材料は——」


紙を叩く。


「揃っている」


———


数日後。


城下へ向かう道。


新之助は、静かに歩いていた。


背中には、村の未来が乗っている。


(相手は権力)


(だが——)


目を上げる。


城が見える。


「……いい」


小さく呟く。


「やってやる」


その目に、迷いはなかった。


——次の戦いは、“交渉”。


――続く

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