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死神のしごと~タナトスの場合~【オムニバス短編連作】  作者: ミズアサギ
第3章 あなたと手を繋ぐのは私だけ

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第2話

 

 困ったことに、その直後、同じような体験をセレスティーヌもしていた。

 人とぶつかり、ワインでドレスを汚してしまったセレスティーヌ。

 そこに偶然通りかかったエドワードが、自分のジャケットを差し出したのだ。それがきっかけで、セレスティーヌも彼に対して恋心を抱いた。



 本来ならば、正式な婚約者がいる二人は恋心をそっと胸に仕舞っただろう。しかし、目撃者や口の軽い人たちのせいで、お互いが同じ人に恋心を抱いていることがわかってしまった。

 そうなると、倫理に反すると理解しながらも、二人は恋心を燃やしに燃やした。


 二人同様、エドワードにも婚約者がいる。お相手はクララ・メルフィールドという男爵家の娘。こげ茶色の髪と瞳の、ごく平凡な容姿の娘。ある意味、エドワードにはお似合いの相手だ。

 しかし、二人は思ってしまった。「奪える」と。



 そこからは、社交界で絡む二人がよく見られるようになった。目も合わさなかった二人が、一人の子爵令息を挟んで嫌味の応酬をしている。

 初めは、二人の婚約者に対する当て付けかと思われたが、同時に二人がクララを責める姿も目撃された。

 両侯爵は、娘たちを激しく叱った。醜聞も悪い上に、この先の結婚にも差し支える。


 しかし、反対されればされるほど、エドワードへの二人の恋心はグラグラと燃え上がる。

 その結果が、あの転落事故なのだ。





「涙なしには語れないし、聞けないでしょう?」


 目頭をハンカチで抑えたレオノーラがタナトスを見る。タナトスは興味なさそうに自分の爪を見ていた。


「ちょっと、あなた聞いていらした?!」


 レオノーラがタナトスの態度に憤る。


「自業自得ってことはわかった」


「「……」」


 二人は真っ赤になり黙る。図星を突かれたのだ。


「何を知りたいのかわからないけど、君たちのためにも早く行った方がいいよ」


 タナトスが二人の手首に再び手を伸ばす。二人はワルツを優雅に踊るように、タナトスの手からするりと逃げた。


「「触らないでっ」」


 ピタリと口を揃える二人にうんざりした様子のタナトスは、後ろの大木に寄りかかると腰を下ろした。



「あっ」


 レオノーラが突然大きな声を出すと、自分が納められた棺を見て目を見開く。セレスティーヌもつられてそちらを見る。

 少し離れたこちらからでも、レオノーラの両親であるヴァレンティン侯爵夫妻が確認できた。


「お父様、お母様」


 さっきまで威勢の良かったレオノーラが、泣き出しそうな声を出す。レオノーラが今にも二人の元へと駆け出そうとした時、侯爵の鋭い声が響いた。


「本当にバカが……」 


 悼むというより蔑みを含んだ冷たい声に、レオノーラは固まった。


「婚約してやっと落ち着いて、ようやく侯爵家の役に立つと思った矢先に」


 父はまるで放り投げるように、レオノーラの棺に一輪の花を投げ入れると、足早にその場を去った。母は泣くだけで、献花すらせず父の後を追った。

 あまりの光景に、さすがにセレスティーヌも揶揄う気にもなれなかった。


 レオノーラの両親が去ると、婚約者家族が棺の前に立った。彼は侯爵家の長男。深いことはあまり話したことがなかったが、結婚すればそれなりに幸せな家庭が築けただろうか。レオノーラは黙って彼を見つめた。

 献花を終え、婚約者が家族と共にレオノーラの前を通り抜ける。


「残念だが、こうなったことはお前にもうちにも良かったんじゃないか」


 婚約者の父親が言うと、母親も頷く。


「他の男性にお熱だって噂を立てられて、どれだけうちが恥ずかしい思いをしたか。次の婚約者選びは間違えないわよ」



 レオノーラの足がガクガクと震えた。

 初めての恋に溺れ、何も考えずに行動していた。少し考えばわかることだったのに……。自分が起こしてしまった事の重大さに青くなったレオノーラは、婚約者の顔を見た。


 その顔には悲しみの色は一切なく、むしろ面倒臭そうにすら見えた。レオノーラは俯いてしまい、動かなくなった。


「まぁ、仕方ないわ……」



 しばらくして、やっと口を開いたセレスティーヌが急に黙る。どうやら、セレスティーヌも参列者の中に両親を見つけたようだ。セレスティーヌはまっすぐに両親を見つめる。

 淡々と献花を終えた両親は、顔色一つ変えずにセレスティーヌの目の前を横切る。セレスティーヌも無表情にそれを見送った。


「ね、あんたのご両親も……なかなかアレね」


 いつの間にか、すぐ後ろに立っていたレオノーラが言葉を濁す。セレスティーヌは黙って、両親の後に現れた一組の男女を見つめた。


「セレスティーヌのことは残念だ。こうなった以上、僕は今まで以上に君を大切にするよ」


 セレスティーナの婚約者が隣の女性の手を握る。


「お可哀想なお姉様。私もお姉様に代わって、しっかり貴方をお支えしますわ」


 目に涙をいっぱいに浮かべた女性が、婚約者に体を寄せる。肩を抱かれた女性と婚約者は、支え合いその場を後にした。



「あれ、あんたの妹じゃないの?」


 驚くレオノーラに、セレスティーヌは顔色ひとつ変えず答える。


「ええ。昔からよ。最近では婚約相手をどうやって妹に変えるかが、うちの最重要課題だったわね」


 レオノーラは絶句した。二人はしばらく、無言で献花の様子を眺めた。タナトスは何かを探しているのか、木の根本に夢中だ。


「あらっ」


 レオノーラが高い声を出す。

 だいぶ少なくなった参列者の中に、憧れの君であるエドワードを見つけたようだ。セレスティーヌも慌てて視線を動かす。


 エドワードは高級品ではないが、きちんと黒い礼服を着ている。二人の婚約者の方が、明らかに女性にモテる容姿をしている。が、二人はうっとりとエドワードを見つめた。

 

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