花火行かないか?
屋上には女の子がぽつんと。
寂しそうに食事をするその姿は昔の自分と重なる。
今は逆に一人になりたくて屋上に来たのだから贅沢なものさ。
「ねえ君一年生? 」
ついミツキちゃんに話しかけるように軽い感じで。
本来の第三の山田とはかけ離れたその積極性に自分でも驚いている。
一年前なら目礼し離れて弁当を食うのがやっと。
「はい。クラスに居場所がなくて…… 」
どうやら入学したばかりで友だちがいないのだろう。孤独な女の子だ。
僕と同じような立場。教室が嫌になり屋上に逃げて来たに違いない。
「かわいいね」
「そんな…… 」
「悪い。お弁当なんだけど」
つい慣れ慣れしくしてしまう。でもどうせ今日限りの関係だからいいさ。
「先輩は三年生ですか? 」
「ううん。教師だよ。今お弁当ついでに見回りをしてるところだ」
少しからかってみる。どんな反応を見せるかな?
「もう嘘ばっかり! 」
そんな風に笑う彼女。確かに廊下ですれ違っても記憶に残らない影の薄い子だ。
特段かわいい訳でもきれいな訳でもない。だが静かな子。大人しい子。
言うことを何でも聞いてくれそうな子。でもそんな子を探していた。
だって僕は第三の山田だから。姑息なのさ。いやクズなのかもしれないな。
「ねえその焦げた玉子焼きらしきものは何? 」
「それは…… 」
恥ずかしがって黙る。別に大したことじゃないから答えてくれよ。先に進めない。
「ごめん。答えたくなかったらそれでいい。でも一つ交換しよう」
提案と言うか図々しいお願い。構わずに応じるなら凄くいい子に違いない。
「いいですよ。そのお肉を一枚」
焦げて苦い玉子焼きの代わりに肉を取るとは信じられない。
これでは全然計算が合わないじゃないか。図々しい。ミツキちゃんレベルだな。
「君は随分と図々しいんだね。それで名前は? 」
なぜか上から。でも先輩だからいいよね?
「私は華枝。光岡華枝って言います」
意外にもフルネーム。どっちかだけでいいんだけどな。できれば名前で。
「華枝? だったら華ちゃんだね」
まずい。ついミツキちゃんと話してるみたいになってグイグイ行ってしまった。
これは嫌がられたかな? いきなり距離を縮めては拒絶されても仕方がない。
「ええ…… 華ちゃん? 初めて言われた」
苗字だけでしか呼ばれたことがないと。大げさだな。
でもお友だちからは…… いや余計なことを聞くのはよそう。
「華ちゃんは嫌? 」
「いえ…… それで構いません」
照れて音が籠る。
「じゃあ華ちゃんで。僕は会長か元気とでも呼んでくれ」
「会長? 」
「ああ…… サークルのトップ。会長になったばかりだから慣れてなくて……
よし弁当も食べ終わったことだしそろそろ戻るわ。また今度ね」
「ハイ会長! 」
いい響き。うーん。離れたくないがそうもいかない。先生に呼ばれてる。
まずい…… 自己紹介しただけで肝心の勧誘するのを忘れた。
まあいいか。きっと月曜日には会えるさ。
こうして金曜日は過ぎて行った。
土曜日。生憎の空模様。雲が広がりすっきりとしない。
仕方ないのでベッドでゆっくりしてることに。
気持ちいいな。これで碓氷さんがいてくれたら最高なんだけどな。へへへ……
ダメだ。あれだけ嫌われていてもつい妄想してしまう。
「また元気が嫌らしい妄想してる! しかも私以外で」
どこかで聞いたような…… まさかね。またなのか? 何度目だよ?
「華ちゃん…… 」
「ちょっと華ちゃんて誰よ! 」
まずい。つい昨日の女の子を思い出してしまった。
「いや…… 単なる間違いで…… ミツキちゃん頼むよ」
「最低! 」
怒って言い訳も聞きやしない。困ったな。
でも最低なのは勝手に入ってくるミツキちゃんの方だ。
週末になるとたまにやって来るんだけど勝手に上がり込むから厄介。
しかも朝早くに僕が寝てる時に。それではどうすることもできない。
「華ちゃんはね帰り道によく見かける子猫なんだ」
「はあ? 化物田華子さんでしょう? その正体は碓氷さんってお兄ちゃんから」
ミツキちゃんがおかしなことを言う。全然違うだろう?
仮に碓氷さんでも何一つ…… そうか碓氷さんにだけは間違えられたくないか。
女の子って複雑だよね。おっと…… 睨みつけてますね。
「だからネコなんだって! 」
「違うでしょう? ほら早く! 」
「えっと…… 実は新入生なんだ。勝手に入って来たお前も侵入生だ! 」
「ふふふ…… つまらないこと言ってないで嘘は止めて!
嘘も隠しごともなし。そうでなければ仲間じゃない! まして恋人などなれない」
「酷いな。だったらミツキちゃんも全部さらけ出せるの? 」
「できる。望むならすべてをあなたに」
「うーん。遠慮します」
「ちょっと! 元気のくせに生意気! 」
「ははは…… かわいいなミツキちゃんは」
「ぶっ飛ばすわよ! それで華ちゃんがどうしたって? 」
まだ忘れてない様子。意外にも拘るな。大した話じゃないだろう?
さあどうするかな?
「違う! 今年の夏に花火に行こうって話だったろう? 忘れたのか? 」
「そうだっけ…… 」
「いや…… ミツキちゃんが嫌なら光と行くからいいけどさ」
「はあ? お兄ちゃんと三人? 」
「当たり前だろう? 三人で行こうって話を光から聞いてないのか? 」
「聞いてない! 」
それはそうさ。今さっき思いついた訳で。これでどうにかごまかせただろう。
「それで元気は花火が好きなの? 」
「ああ大好きさ」
「私よりも? 」
「それは…… 比べるものでもない」
「どっちがかわいい? 」
「ミツキちゃんに決まってる! それでそのかわいいミツキちゃんは何でいる?」
「元気が落ち込んでたから…… 」
そんな風に泣いて見せる。嘘泣きなのは分かってるが放っておけない。
「ありがとう。でも勝手に入って来るなと言ったろ? 驚くじゃないか」
かわいいミツキちゃん。できたら朝の目覚めのキスぐらいして欲しいな。
そんなおかしな妄想してると頬に軽くキスされる。うーん悪くない。
碓氷さんとの関係が悪化しついミツキちゃんに依存してしまう。
悪いと思ってるがどうしてもやめられない。危うい関係。
「ミツキちゃん…… それだけ? 」
ついおかわりを求めてしまう。相当疲れてるんだろうな。
「もう元気ってば嫌らしいんだから! 」
「へへへ…… かわいいよミツキちゃん」
煽てるとどうなるのかな?
「もう分かりました! 」
そう言ってきちんとキス。これが朝の挨拶の基本だ。
続く




