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特別な二人の時間の終焉

彼女と行きも帰りも隣同士。どれだけ幸せなことか。

感謝の気持ちをきちんと伝えてるつもりだがなかなか理解してくれない。

このままでいい気もするしもっと近づけれたらなと思うことも。

修学旅行はやっぱり特別で僕たちだけでなく何だかんだ皆浮かれている。

本来辛いはずの男六人組だって奏子先生がいるから輝いて見える。

幸せそうだ。もちろん僕たちだって負けてない。

この旅行の間に二人の距離がぐっと縮まった気がする。

ただ心の距離はと言うとあまり変化がないのかな。

ネガティブはよくないが冷静に分析すればそう言うことになる。


「もう一度お願いします」

「はあ? 何を言ってるの? 元気のくせに生意気! ふざけないでよ! 」

ふざけないでまで加わって恐ろしいことに。しかし堪らない。

碓氷さんが僕に夢中だ。こんなことが未だかつてあっただろうか?

ははは…… 大げさかな? きっと前にもあったはず。たぶん……

このまま二人の関係が続いてくれたら。そんな風に願っている。

さあもう少しだけでも二人きりの時間を楽しもう。


「分かりましたか? 」

「もう難しいんだって! 今集中してるんだから話しかけないで! 」

うわ…… 逆効果。これは答え探しではなく二人の力を合わせて楽しむもの。

できなくたっていいんだよ。第一の山田お気に入りの意地悪問題なんだからさ。

きっと負けず嫌いなんだろうな。だからって僕を構わないのはあり得ない。

「でしたら特別に答えを教えて差し上げましょう」

「ええ…… 分かるの? 」

憧れの眼差しの彼女。悪くない。最高だ。しかし僕が分かる訳ないじゃないか。

ただ答えを暗記してるだけ。さあどうしようかな?


二人っきりで楽しんでるところに邪魔が入る。

「ねえ朱里ってば! 」

どうやら行きのように二人だけの世界とは行かない。

もう碓氷さんは僕とお話する暇はないよう。

残念だな。実に残念だよ。これで僕たちの関係は元通り。

そう運命づけられている。それが分かっているからこそ抵抗せざるを得ない。


「あの碓氷さん…… 車掌が見回りに来てますよ」

まったくのホラではない。車掌と客が何か揉めている。

うるさい訳ではないが目に付く。

車内は逃げられない大きな密室。そもそも何かあってもすぐには停車できない。

ただ大して親しくないとは言え大勢の仲間がいるから例え何が起ころうと大丈夫。

最悪先生が盾になってくれるさ。今時珍しい生徒思いの立派な先生だから。

だから心配ない。だけどいきなりだと対処のしようがない。

意外にもトラブル発生で緊張が走る。

担任が確認へ。だが大した話ではなくよくある日常のトラブルらしい。


「どうしたの元気? 」

碓氷さんを独占しようとあの手この手を使ったがトラブルも有効と見た。

だがそれは危険な賭けであると充分理解した上で利用すべき。

そうしないととんでもない災難が降り掛かることになる。

「その…… 」

ちょっと緊迫感を持たせる。そうすれば心配して僕を頼ってくれるんじゃないか?

男らしさに惚れ直すんじゃないか? そんな邪な考えに支配されてしまう。

「はっきりしてよ元気! 」

ああこれで元気も聞き納めか。もう年末ならそれでもいいが今はまだ春だからな。


「では問題です。車掌と客は一体何を揉めていたのでしょうか? 」

ライブ感のある問題。レベルは低いが三択ではないので難しい?

「はあ? 何を言ってるの? 」

「クイズですよ。暇つぶしにはいいでしょう? 」

暇つぶしの言葉に碓氷さんが機嫌を損ねる。

「どうしたんですか? もしかして馬鹿だから分からないとか? 」

核心を突いてみる。でも言い方に気を付けないと怒りがエスカレートするぞ。

うわ…… まずい。徐々に怒りが込み上げてるよう。これは本当に困ったな。

ただのクイズだって言うのに大人げない。まだ高校生だけど。

それでも二人っきりなら引き延ばしも可能だった。


「たぶん。これは席の移動を頼んだんですよ。

隣の人と相性が合わない時もたまにありますからね。そんな時は我慢しない! 」

自分を例に出す。でもどちらかと言うと僕が嫌がられた訳だが。

「ほらつまらないことはいいからさっきの答えを聞かせなさいよ! 」

どうも僕を蔑ろにしている気がする。雑。とにかく雑。

僕の扱いはもっと丁寧でなくちゃ困る。

そんな態度に出ていいのかな? 答えを教えてあげないよ。

そんなかんなで二人きりの時間は本当に僅か。


こうして長い長い三泊四日の修学旅行が終わりを迎える。

特別な二人の時間の終焉。

当然浮かれ気味の彼女もここまで。

明日からは元気君とも元気とも呼んでくれないだろう。

よくて山田君だ。もう山田被りも解消される訳で。不便はなくなる。

もう山田三人とも相手にしてくれないだろう。

それほど日常と非日常には大きな違いがある。

収穫は光の気持ちがはっきりしたことぐらい。

光の奴碓氷さんを僕の彼女だと勝手に勘違いしてる。本当に困るよな。

こうして非日常から退屈な日常へと移っていく。


帰宅。

「ただいま。いや疲れたな…… 」

「元気遅いよ! 」

「はあ? 」

修学旅行から戻って来てすぐにミツキちゃんに会いたくなった。

でも彼女も忙しいからな。きっと迷惑になるだろう。

だからここは我慢して。そう我慢に我慢を重ねてミツキちゃんを忘れることに。

でもなぜかいる。


「お帰り元気。それでお土産は? 」

ミツキちゃんは我が家で暮らしてるのではないかと言うぐらい自然。

「ちょっと出かけてきます」

そんな風にまるで自分の家であるかのような反応。一体何を考えてるのだろう?

きっと何も考えてないんだろうな。


気分転換に外を歩くことに。

実際のところ僕は疲れてるんだよね。三泊四日の旅を終えたばかりでクタクタ。

でもそれを言えば怒るか泣くかするだろう。

それも仕方ないと受け入れるほど人間できてないさ。


                 続く

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