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お揃い

何だろう…… お洒落にスーベニアと書かれた看板が目に付いた。

お店の人は奥に引っ込んでいて聞くに聞けない。

仕方なく碓氷さんに聞いてみる。

「スーベニアってどこの国ですかね? 」

「もうヨーロッパに決まってるでしょう! EUにも加盟してる国なんだから」

物知りな碓氷さん。まさかバカキャラやめたのか?

でもいまいち信用できないんだよね。適当に答えてないか?

「本当ですか? 」

「本当に決まってるでしょう! 常識だよ元気! 」

「ははは…… そうですか。てっきりオセアニアかなって」

「そんなことはどうでもいいからこれはどう? 」

「ナイフですか? いろいろなのが置いてあるみたいですね」

「そうなの。どれがいいか迷ってる」

まさかの光物好き。コハダやアジとはまた違った光物。

寿司ではなくナイフだから恐怖でしかない。全然欲しくないな。


「あの…… こっちにはもっとかわいらしいお土産がありますよ」

キャラクターグッズや大阪名物をあしらった変わり種。

時計や鉱物やアクセサリー類などお手頃価格で衝動的に買いたくなる。

手に取ると余計にその衝動が抑えられなくなるから危険だ。

まずいまずい。いくら修学旅行でも無駄遣いする訳にはいかない。

とりあえず何個も買わないで記念になるものを一つだけ選ぼう。

どれがいいかな……


「あの…… この夫婦茶碗などは? いい思い出になるかと」

「夫婦茶碗って何を考えてるの? 割れたらどうするの? 」

「その時は僕たちが別れる時かと…… 嘘? ははは…… 」

裏の値札を見ると五千円となってるので笑ってごまかす。

さすがに高い。僕だけで五千円。二人で一万円は高過ぎるよ。

二つで千円にしてよね。いくら伝統工芸品でも高過ぎる。

「もう元気! これがいいの! 」

我がままを言う碓氷さんも悪くない。振り回されたい。

そんな風に思うのはおかしいだろうか?


「こっちのお笑い芸人のうちわとか…… ここでしか買えないそうですよ」

この店限定と適当なことが書いてある。

「はいはい。好きに買えば」

うわ…… 一緒に買おうと言ったのにもう忘れたのか? 相手されていない。

「もう分かりましたよ。一緒に買いましょう」

こうしてほぼ無理やりお揃いのナイフを購入。

彼女が欲しいと言うからつい買ってしまったがどう考えても不要なもの。

処分にも困る商品だ。誰かにお土産としてあげる訳にもいかない。

大体お揃いだから僕が持ってなくてはまずいよな。


「どうするんですかこんな物騒なもの? 」

あまり聞きたくないが一応お揃いで買ったのだから聞いてもいいよね? 

「ふふふ…… 内緒」

碓氷さんは嬉しそう。掘り出しものを見つけて満足したのだろう。

しかし使い方も誰へのお土産なのかも答えないのでちょっと気がかり。

ストーカー気質の彼女に果たしてナイフなど与えていいものか?

ごめん光。もしかしたら僕はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。

どうもあの不気味な笑みは常軌を逸してる気がするんだ。

でも今は考えないようにしよう。すべて後回しさ。


「さあそろそろ戻りましょう」

そう言っていきなり手を掴む碓氷さん。

「でも碓氷さん…… 」

「ほら早く元気! もう遅いってば! 」

どうやら僕がのろいから迷ったり逸れたりしないよう手を繋いでくれたらしい。

これはとんでもない幸運。すべての引っ掛かりが吹き飛ぶほどのインパクト。

嬉しいか嬉しくないかで言えばもちろん凄く嬉しい。感動的だとさえ思う。

しかしそれと引き換えにとんでもないものを失う。そんな予感がするんだ。

考え過ぎだとは思うが今回のことがすべての悲劇の始まりになりかねない。


「急ぎ過ぎですよ碓氷さん。もう僕たち付き合ってるでいいですか? 」

一応は冗談のつもりでさらっと言ってみた。

「はいはい。好きなようにどうぞ」

おお…… 諦めにも近い感情。しかしこれは間違いなく認めた。

言い訳は通用しないぞ。面倒臭くなったから適当に答え適当にあしらっただけ。

そんな言い訳は通用しない。さあもう二人は試練を乗り越えて結ばれる。

そうに違いないんだ。

恋人気分を味わう。この時間がずっと続いてくれたらな。


「朱里! 元気君! 」

僅か五分の間だったけど恋人のように振る舞えた。

さすがに仲間と合流しては二人っきりの甘い時間を楽しんでいられない。

もう大丈夫と踏んだのか固く繋いだ手を離す碓氷さん。

どうやら僕はまだ彼女の本当の恋人にはなれないのだろう。


「どうしたの二人とも? まさか二人っきりを楽しんでた? 」

冗談を言うゴシップクイーン。未だに名前が思い出さないが余計なことを。

どうせ否定するんだから言わないで欲しい。僕たちの関係が終わってしまう。

「ははは…… どうだろう? ねえ元気君」

しかしはっきり答えようとはせずただ顔を赤らめる。

これはおかしい。彼女はそう言うタイプじゃない。何かある。きっと何かある。

自分で自分が信じられない。情けない話だ。まさか……

それが何か今は分からない。だから何とかしてみたい。


こうして三日目を終える。

残すところあと一日となった修学旅行。寂しい気がする。

しかし碓氷さんとは随分仲良くなれた。

これがすべてである以上今回の旅は大成功と言える。

誰が何と言おうと僕たちはもう繋がっている。

忘れるはずがない思い出。碓氷さんだって僕のことを気に入ってくれたはず。

後は帰りの新幹線で二人っきりを楽しむしかない。

そこで親密になって互いが掛け替えのない存在になれたら。


今だって僕にとって碓氷さんは神聖な存在。でもきっと彼女は違うんだろうな。

ただ同じ班のメンバーとして仲良くしてるだけ。

そうしてくれるのはありがたいが僕たちはそんな上辺だけの関係じゃないはず。

二人の間にある高い高い壁を打ち壊さないといけない。

しかしそれにもやはり難しい面があって。


「ほら…… 」

お昼で全日程を終え新幹線で帰るだけとなった。


               続く

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