元気のくせに生意気!
ポッキーのチョコが手にくっついてベタベタする。
これで服でも汚したら最悪。座席にまでついたら厄介。
急いで手を洗うかウエットティッシュで拭うかしないと悲惨なことに。
僕が小学生の男の子なら仕方ないかもしれないが高校生だし。
これ以上情けない第三の山田は演じたくない。
大体碓氷さんの前で失敗したくない。騒ぎ出せば光だって起きるだろう。
しかしそんな状況で碓氷さんがおかしな行動に出る。
「あの碓氷さん? その手をどうするつもりですか? 」
「あなたが周りにくっつけそうだから取ってあげようかと」
何と母性本能をくすぐられたらしい。ああ幸せだ。
碓氷さんと二人っきりだったならどれだけよかったか。
もはや既成事実を作って逃げられないようにしてもいい。
でも善意に漬け込むのはやはり間違っている。
「でもその手だってチョコ塗れ…… 」
お互いに間抜けなことをしてる。そんな自覚がある。彼女には本当にあるのか?
「もう舐めた方が早い! 」
そう言って禁断の手を使う。意外にも軽いノリの碓氷さん。
頭がそこまでよくないので後先も相手の気持ちも考えずにやってしまう。
ついに頬を舐める暴挙に。一体何を考えてるんだろう?
もはやはしたないを超えている。想像を遥かに超えたプレーに言葉もない。
好きでもないどうでもいい奴の頬を舐めますか?
お嬢様プレーしていたがさすがにこれは相応しくありませんよ。
「あの碓氷さん…… これってどう言う意味? 」
真意を聞きたい。でも聞いたら後悔するんだろうなきっと。
「気にしない。こっちの方が早く取れると思っただけ。
面倒臭がりの碓氷さん。一体どんなサービスなんだよ?
喜べばいいのか驚けばいいのかまったく分からない。意味不明で思考停止に陥る。
「あの…… 唇もまだ取れてないんですが…… 」
「はあ? 何を言ってるの? 自分で取りなさい」
さすがの碓氷さんもこっちの思惑には気づくか。ただの馬鹿ではないらしい。
でも勢いで唇を重ねたって何の問題もない。僕だって全然気にしない。
「好きなんです! 」
まずい。ついすべてすっ飛ばして告白してしまった。
焦ってばかりで情けない。どうせ嫌われてる。光がいれば余計に嫌われるからな。
でもいい雰囲気だったからつい……
「何だ元気もポッキー好きなんだ。でもごめんもう食べちゃった」
そんな風に正直に言うところも好きだ。
きっといきなり告白されて焦ってるんだろうな。
分かるよ。碓氷さんに告白する奴は大体短い付き合いで多くが一目惚れ。
彼女を知れば知るほど恋愛の対象にならずしまったと離れていく。
存在を認識され随分経ったからノーマークだったのだろう。
ただのハイタッチ要員。でも修学旅行ってそんなものだと思うが。
あの子がどうしたとか格好いいとかいつも以上に盛り上がる訳で。
大体彼女は光に夢中だから。それ以外の男からの告白は正直嫌なのだろう。
分かるんだよ。僕はずっと彼女を見て来たのだから。
グッと堪えて言わないようにしていたけどもう無理。
ただこれを言えば彼女も周りも気づくかもしれない。
危険極まりないし僕たちの運命さえ決まる恐れも。だがそれでもこう言いたい。
好きでもない者から向けられる好意ほど気持ち悪いものはない。
ストーカーにはきっとグサッと来るだろう。
この際ポッキーだってどうでもいい。手につこうが頬につこうが服につこうが。
ただ二百円弱で買える最高の商品だとは言いたい。
「あの碓氷さん…… 君が抜けてますよ」
「どうでもいい元気なんて元気で充分! 」
もう何を言ってるのやら。それでも悪くないと思ってる自分をお許しください。
「仕方ないな。景色でも見ましょうよ碓氷さん」
こんな風に落ち着いて余裕を見せる。
そうなればあっちが逆に焦ることに。
「元気のくせに生意気! 」
ついに飛び出した悪口。くせにはないよ。いくらんなでも酷い。
「それはないよミツキちゃん。僕と君との仲じゃないか…… 」
まずい…… ついいつもの癖で…… どうしよう?
「誰それ? 」
碓氷さんは許してくれない。
「いえ…… ちょっとこっちの話で…… 」
うわ…… いつもミツキちゃんに言われてるから勘違いしてしまった。
碓氷さんとミツキちゃんを間違えるなんて…… 僕って本当に最低だな。
「ええ? ミツキ? 」
反応したのは光。でもまだ寝ぼけてる。余計なのが入って来ると混乱するだけ。
とにかく今はどう言い訳するかそれだけだ。
「それでミツキちゃんって誰なの? 」
お隣さんが責め立てる。だがどうすればいいんだ?
寝てるとは言え近くには光がいる。悟られたら終わりだ。
そもそも悟られ方も大事で。難しい。さすがに真実は語れないし。
僕の付き合ってる女の子とも光の妹とも言えないからな。
碓氷さんがどんな風に誤解するか分かったものじゃない。
「ねえ聞いてる? 」
追及の手が緩まない。最悪だ。喰いついてしまったよう。
いくら新幹線内で動きが制限されてるからって拘り過ぎだよ。
だが絶対に言えない。最悪二人に嫌われることに。しかもきっと修復不可能に。
「ははは…… 何を言ってるんですか? 」
どうにか笑ってごまかそうとしたが無駄のよう。
「もしかしてミツキちゃんって元気の恋人? 」
ズバリ突く抜け目のない碓氷さん。
どうせ第三の山田なんかどうでもいいと思ってるくせに。
認識だってしてもらえなかったんだから。今はスルーする時。
「そんなことより到着してからのことをもっと話し合いましょうよ」
「はいはい。それで誰? 」
うわしつこい。さすがはストーカーだけあるな。
いやいや関心してる場合じゃない。ここはどうにか逃げ切らないと。
光が覚醒する前にこの話題を終えないと危険だ。
「実は…… ミツキってのは僕の妹でして」
まずい適当に嘘を吐いてしまった。
しかしこれしか思いつかなかったから仕方ない。
続く




