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二人だけの時間

新幹線で京都へ。

修学旅行で碓氷さんと同じ班で席は隣。行きがそうであれば当然帰りもそう。

僕たちはいつの間にか切っても切れない関係になっていた。

だからって無理に切らないで欲しい。


「ホラ眠くなったから何か話しなさいよ! 」

無視せずに構ってくれるだけ優しいと思う。

ただ出会った当初のような関係を築けてない。認識はされたけどね。

僕が必要以上に光にくっつくものだから機嫌が悪いんだろうな。

分かってるのさ。僕だってわざとやってるからそのくらい手に取るように分かる。

「何かって何ですか? 」

「まさかこの私にそれ聞いちゃうの? 」

言動はお嬢様そのもの。我がままでどうしようもない。

これではイメージダウンだ。

彼女から見た僕がイメージが悪くなるのは仕方ない。

でも逆に僕から見た彼女のイメージが悪くなるのは避けたい。

避けたいと言うか理想の彼女のままでいて欲しい。


どうも僕は同じ班の御手洗さんのようなお嬢様を苦手にしている。

お嬢様と聞くだけで恐怖で足が震える。おかしいが仕方ない。

碓氷さんだけはそんな風にならないで欲しかった。

でもこれも試練。彼女がそうしたいなら受け入れよう。

彼女がお嬢様なら僕は執事で行こう。従者だと格好悪いから。

どうぞお嬢様。お気に召すままに。


「今日の降水確率は…… 」

無茶ぶりされても困る。まだお話を聞かせてとかわいく言ってくれたらな。

「晴れでしょう? 雲一つない」

そんな風に言うけれど適当だから碓氷さん。車窓から見えてるのは限定的。

まあそれでも雷雨になるような天気でもなさそうだが。

「ご覧ください。富士山が間もなく見えて来るかと」

「はいはい。そう言うのじゃなくもっと面白いこと」

「そんなこと言っても…… 機嫌悪いんですね」

何気なく指摘してしまう。これはまた怒らせたか?

「誰のせいだと思ってるの? 」

「御手洗さんかな…… 」

「違う! もっと別の人」

「だったらあの男ども。きっと嫌らしいことを考えてるんですよ」

「それも違う。ほら早く! 」

うーん。酔っぱらってるのかな? 

それくらい支離滅裂だ。絡み酒か?


「やっぱり僕のせいなんですね? 」

「そう。元気君のせい。ははは! 」

そんな風に豪快に笑う。明るいのは間違いない。

「済みません…… 」

「元気! しっかりしろよ! 」

おっと…… 素が出ているぞ。それはそれで悪くないけど。

「きっと僕がストーカーみたいな真似したから…… 」

「違うって! そうじゃない! 」

どうやらストーカーは自分もだから大して気にしてないらしい。

いやいや軽く考え過ぎだよ碓氷さんは。僕は自覚があるからいいけど。

これ以上続けて取り返しのつかないことになったらどうする?

刃物でキラリとかさ。


「いつも碓氷さんで嫌らしい想像ばかりしてたから…… 」

「そうなの? 」

そんなはずないだろう? でも何だから碓氷さん寂しそう。

そうだよな。光に振り向いてもらえないんだもんな。

勝手な想像だけどこれって凄く辛いこと。

大丈夫。目の前には似たような素敵な男性がいますよ。

隣のクラスよりも隣の席の人。つまり僕が碓氷さんを幸せにしてみせる。

それが言えたらな。愛の告白ができたらな。

実際何度かしたしそれでも無反応だった。すっぽかされたこともあった。


「あの…… 碓氷さん! 僕は以前告白したはずですが」

「そうなの? 」

もう忘れてる? バカだからあり得るんだよな。

それにしても心臓がドキドキするな。隣に碓氷さんがいると思うと落ち着かない。

これってマイナスになってる気もする。


「元気君…… 」

「もう一度。僕は碓氷さんのことが会った時からたぶん昔からあなたのこと……」

緊張でどうしようもないがきちんと相手の顔を見て告白しないと失礼だ。

「うーん。そうだね。ふふふ…… 」

ダメだ。すでに夢の世界だった。今のは答えたのではなく寝言だった。

どうやら本気で酔っ払い疑惑が浮上してきた。

いや待てよ。もしかして今こそ眠れる姫を起こす時では?

ここは勇気を持って起こしに行こう。それが優しさ。

きっと彼女も求めているはず。求めてないはずがない。

でも酒臭そうだな。イカ臭い? もちろんあくまで想像だけど。


列車は間もなく静岡。富士山が見えるはずなんだけどな。興味ないみたいだし。

そう言えば僕って地理が苦手なんだよな。もしかして間違ってる?

ううう…… 突然手を繋ぎたい衝動に駆られる。どうしたと言うんだ?

いやその前にまずはおはようのキスをしたい。それから手を繋ごう。

近くにいればドンドン欲望が膨らんでいく。

こんなのダメだと分かっている。碓氷さんの同意があって始めて成立すること。

今勢いに任せて手を握ればとんでもないことになる。

仕方ない。景色でも見てるか。


奥まで田園風景が広がっている。

うわ…… 隣で寝息を立てて集中できない。さすがにきちんとは見られないよな。

碓氷さん越しの景色はどうしても薄暗くて敵わない。

ここはいっそのこと勝手にどかすと言うのもありかもしれない。


「あれ元気…… 」

光の呼び声。トイレでのついでに様子を見に来たのかと思ったが気配はなかった。

まさか違うのか? 光は一体どこにいる? 

「おい光なのか? 」

聞き違いなら仕方ないが僕を呼んでる気が。それとも幻聴?

碓氷さんと二人っきりの時間を満喫するつもりだったがどうもうまく行かない。


「やっぱり元気じゃないか! 」

そんな風に騒ぎ出したのは光。隣のクラスで目立たない存在の光。

「光…… 」

「偶然だな。まさか隣の隣の席だったとは」

光は通路を挟んでの奥の席に座っていたものだから気づかなかった。

しかしこれはまずい気もする。碓氷さんは絶対に奴の方に興味を示す。


「確か隣は化物田さんだっけ。ははは! そうだこっちも紹介するな」

「待った! 僕が答える! 」

光のお隣さんはまさかの人物。うーん覚えてないな。誰だっけ?

物覚えが悪い僕だから。碓氷さんほどじゃないけど。

でもきっと今なら思い出せる気がする。

あの屋上での出来事を思い出せ。そうすれば自然と彼女の名前が出てくるはず。

うーん。かなり変わった名前と言うか個性的と言うか。


「ワニさんでしたっけ? 」

「違げえよ! 誰だよそいつはよ! 」

おっと…… 適当に答えたものだから怒らせてしまった。

「そうだ! 姫子さんだ! タートル姫子さんだ! 」

「正解! それにしてもこの人何なの? 」

怒りからか僕を変な目で見るタートル姫子。

まるで一人だけ違う世界からやって来たよう。

深海へと引きずられていくそんなイメージ。


              続く

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