余り者同士でペアに
修学旅行で京都へ。
碓氷さんと二人っきり。夢にまで見た瞬間。
間違ってはいけない。相手はミツキちゃんではなく碓氷さんだ。
これは夢や幻なんかじゃない。
窓側か通路側かで譲り合っているところ。
きっと碓氷さんは車窓からの風景を楽しみにしてるはずだ。
僕はただ碓氷さんだけを見ていたいから通路側でいい。
新婚旅行? 不倫旅行? 二人旅?
そのどれでもない。ただの修学旅行さ。
でも今二人の関係は確実に進展している。自分ではそう信じている。
昨日までは光を取り合っていたライバルだったけど今は同じ班の仲間。
変な誤解が解ければ僕たちはきっと幸せになる。今だってその兆しはあるんだ。
今月のすべての運をこの修学旅行で使い果たしてもいい。それくらいの覚悟。
僕はツイてる。最高にツイてる。
この運気を逃さないよう慎重にそれでいて大胆に。
へへへ…… 知り合いの占い師にでも相談するかな。
「どうしようか碓氷さん? 」
同じ班になるのも奇跡的だがまさか席まで隣になるなんて信じられない。
これこそ神の思し召し。どれだけ願ったことか。
最悪山田軍団になっても仕方ないかなと思っていた。
うまく行けば女子の隣になれるかなと夢みたいなこと考えてた。皆魅力的だしね。
うちのクラス…… 特にうちの班は美人揃いだから。
しかしそれが何と本命の碓氷さんだ。しかも元気君と上機嫌。
「そうだ。窓側と通路側ならどっちがいいですか? 」
せっかくの二人だけの空間。誰にも邪魔されたくない。
そうしないとイチャイチャできない。それが今の僕の考えられる限界。
「ほらそこ静かに! 」
奏子先生が騒がしい男どもに注意を与える。
当然他の客もいて周りに迷惑を掛けないのが常識。
ただ修学旅行では多少騒いでも仕方ないかな。
ああ…… まだ騒いでるよ。あっちは盛り上がってるな。
副担任とは言え男女ともに人気があって。
僕も奏子先生みたいに堂々としていたいな。
「どっちでもいい。元気君が好きな方を選んで」
そんな風に僕に任せてしまう。本当にいいのかな?
一緒の席で…… 膝の上に乗ってもらいましょうかね。へへへ……
でも腰を痛めるだろうからここは紳士に振る舞おう。
「だったら通路側で」
こんな時こそ度量の大きいところを見せないと。
それにしてもどうしてこうなったんだろう?
碓氷さんの隣を死守しようと連続ジャンケンに勝った訳じゃない。
ツイていた。ラッキーだった。何もせずに願いが叶ってしまった。
残りものには福来るってね。ラスワンくじみたいなもの。
御手洗さんが品がなく頭も悪くどうしようもない馬鹿は嫌だと。
仕方なく第一の山田を貸し出した。しかしそれでも嫌だ。華がないと無茶を言う。
いつもの取り巻きのように手足となって動いてくれる人を求めていたらしい。
しかしそんな奴はこの班にはいない訳で。どうするか?
考えた末に仕方なく運動神経抜群の第二の山田で我慢してもらうことに。
だが満足がいかない。否定された二人の山田は結局そのショックで消極的に。
仕方なく僕が無謀にもエスコート役を名乗り出る。
だが当然頭がいい訳でもなく運動神経も普通のただの山田。
もっと言えば並以下の第三の山田。選ばれるはずがないのに果敢に攻める。
しかし御手洗さんは応じるはずもなく立候補事態を無視する暴挙に。
そうこれが現実。修学旅行に来てまで現実を思い知らされる。
もう充分じゃないか。社会の荒波に揉まれ現実を知れたから帰ったっていい。
ただ第三の山田を弁えてるから勝手な行動をしない。
それは旅行先でも徹底するつもりだ。
自分を主張せずに誰かの意見に乗っかってついて行く。それが理想的な生き方。
これが僕の生きる道。
全然落ち込んでない。御手洗さんの求めてた優秀で素敵な男性にはなれないから。
それは初めから分かっていたこと。己を過信し過ぎてはいけない。
流れるように流されるように生きていく。そう決めたんだ。
とは言えいきなり入って来て引っ掻き回す御手洗お嬢様。我がままが過ぎるよ。
でも想定内。銃撃されたり暗殺されたり爆破されたりしてないから問題ない。
余裕だ。まだ余裕さ。トラブルはもっと先にあるのかな?
お嬢様の我がままに付き合ってる暇はないのさ。
「大丈夫元気君? 落ち込んでない? 」
僕をこの班に誘ってくれた大恩人のゴシップ好きの彼女。
名前は覚える気がないのでここではゴシップクイーンとでも呼んでおこう。
本当にいい人だ。優しくて物分かりがあり話しやすい。
「大丈夫。あの二人よりは落ち込んでないから」
「一緒にお願い! 」
何と御手洗さんとゴシップクイーンの彼女が一緒になる。
男女六人だから三対三で分けようと思っていたけど無理することもないか。
「俺たち一緒でいいや」
第一の山田と第二の山田がショックのあまりやる気を失った。
「すると僕は…… 碓氷さんしかないか。ははは…… 我慢するか」
つい格好をつけて生意気な発言をしてしまう。
最近ミツキちゃんとよく一緒にいるから女の子の扱いはできるようになった。
ただ特殊っぽいからな。あまり参考にはならない気もする。
「仕方ないな。じゃあ元気君と一緒でいいよ」
こうして余り者同士で一緒になる。
僕たちだけ席が離れてしまった。
二組が最後の二列に。僕たちは先頭列へ。ずっと後ろに山田兄弟の頭が見える。
たぶん身長が高い方だからスポーツ万能な第二の山田だろう。
うーん。遠い。遠すぎるよ。ねえ碓氷さん?
これも早い者順だから。仕方なく離れた席で楽しむことに。
窓側の席にぼうっと景色を眺める碓氷さん。
ああ僕たちは繋がっているんだね。運命の赤い糸で繋がっている。
そうとしか思えな。この一瞬一瞬を大切にしないとな。
ハイタッチを済ませて落ち着いた碓氷さんは寝不足気味なのかウトウトし始める。
嘘だろう? このままお喋りもせずに京都まで行けと言うのか?
残酷だよ。僕たちはお似合いだとばかり。いいコンビだと思っていたのに。
それはただの勘違いらしい。
続く




