元気君
修学旅行当日。
忘れ物はない。あっても戻ってる暇はない。
さあ出掛けよう。僕たちの冒険へ。
大げさだな…… でもついはしゃいでしまう。
うう…… ちょっと寒いな。まだ朝は寒いんだよね。
どうやら遅れずに済みそう。主人公は遅れてやって来るは格好いいが迷惑だから。
大体僕は第三の山田だし。
おっと…… 清々しい朝にネガティブなことはよそう。
「おはよう元気! 」
「あれお前生きてたのかよ? 」
光はてっきりミツキちゃんの手料理でダウンするかと思いきや問題なさそう。
どうやら毎日のように実験させられてるから耐性ができたか?
昨夜の前夜祭で出されたミツキちゃんからの贈り物。
それを食べてしまったばかりに今腹の調子が悪い。胃薬が必要になるなこれは。
「あれ? もしかして…… 」
光の班にはどこかで見た方が……
名前までは思い出せない。確か碓氷さんと間違えて告白したような気がする。
うわ…… あっちも覚えてるっぽいな。
「それじゃあ俺たちは向こうだから」
今から点呼を取るそう。さすがに今いない奴は遅刻決定だろうな。
そう言えば碓氷さん遅いな。まさか急病でいけない?
嘘だろう? 僕悲しくなって来た。
「元気君! おはよう! 」
ついに登場。ギリギリの碓氷さんは上機嫌で修学旅行に。
きっと僕との旅行が楽しくて眠れなかったんだろう。
困るよな。団体行動なんだからさ。気をつけなくちゃ。
これはあっちについてからも先が思いやられるぞ。
「ほらタッチ! 」
喜びのハイタッチを披露。
ついでに光もその中に入れてやる。巻き込むのも僕の優しさ。
「おいおいお前んとこの女子は元気いっぱいだな」
呑気に感想を言うがそれはお前のストーカーだぜ。きっと今日だって……
どこにでも姿を見せる恐ろしい人。知ってて放置してる気もする。
「ああそうか…… 確か化物田華子さんだっけ?元気と同じ班なんだ」
そうやってキザに笑う。それを碓氷さんも喜んでるだろうな。
まったく格好をつけやがってむかつくな。それ以上はやめろっての。
あれキレてる? せっかくの修学旅行なのに細かいことを気にする碓氷さん。
「ちょっと元気君? こっちに来てね」
そうやって呼び出されたら有頂天になる。ああどれだけ幸せか。
元気君だって。もしかして僕たちはもう繋がってる?
「化物田って誰? 華子って幽霊でしょう? 」
意外にもズバズバと指摘されてしまう。
「ははは…… 碓氷さんの名を出しはいけないですから。
安心してください。これも碓氷さんのためですよ」
化物田など本名であるはずがない。だから怒るのも無理ないがこれも防犯の為。
変な虫がつかないようにこれでも気を遣っている。
ただ僕がたまに後を付けてるからどの口が言うのかとなる訳で。
ついでに言うと碓氷さんも光のストーカー。心配し過ぎだろうな。
この世界の奴は僕を含めてどこか極端なんだよな。
「あれ…… 化物田さんじゃないの? 元気から聞いたんだけどな」
まずい…… 嘘がバレてしまう。でも大丈夫さ。どうにか二人を説得してみせる。
「それで何でかな? 」
怒ってる。光の前で恥を掻かせたことで余計に怒らせてしまったらしい。
隣のクラスの冴えない男の戯言を気にするなよ。言えたらな。
「それが…… ほら光の奴はモデル選びの時知り合いを選ばない。
理由は本人の事を知っているから。それでは面白くないとそんな変なこだわりが。
本名を言えば光は興味を失いモデル候補から除外する。
だから碓氷さんの名前を出さなかったのさ」
適当に今思いついたことをまるで真実であるかのように耳打ちする。
ははは! 僕も酷い人間だな。
でもこれできっと碓氷さんは理解してくれるはずさ。
「おい元気! 俺がどうしたって? 」
「何でもない。さあ話はついたしまた次の機会に会おう」
これ以上二人を接近させてはいけない。
適当な名前を出したのは反省してるが仕方ないよね。
ホームには僕たちみたいな制服を着た中学生が。
ははは…… きっと修学旅行なんだろうな。
羨ましいけど目的地は同じだからな。
ついに出発。新幹線に乗り西へ。いざ京都へ!
目的地の京都と大阪。中学でも京都と奈良だったので若干飽き気味。
私立のくせに海外に行かせてくれない。
せめて沖縄にとも思ったが決まりは決まりらしい。
修学旅行ではなく卒業旅行として好きなところに行きなさいと諭された。
意外にも話の分かる先生。但し自腹と言うか自分らで計画し勝手にどうぞらしい。
要するに学校では卒業旅行は計画されてないそうだ。当たり前だよね。常識だ。
ふあああ!
昨夜は不安と緊張で眠れてない。新京都までは特にすることもないし……
乗り換えもなく一本と言うのも味気ない旅。でも修学旅行だから。
それにしても今回の旅は何か予感がするんだよな。いい予感と悪い予感。
碓氷さんとの関係が劇的に進展するのではないか。そんな気がする。
それはミツキちゃんとの関係の終わりを意味する。
ミツキちゃん本人が認めるならまだしも常識的に考えれば関係は解消される。
別にまだ正式に付き合ってる訳ではないからいいんだけどさ。
「元気君! 」
そんな風に呼んでくれること自体幸せ過ぎて死にそう。
だって碓氷さんにだよ。山田ならまだ分かるけど。下の名前で呼んでくれる幸せ。
そう言えばさっきも名前呼びしてくれてたな。どうしたんだろう?
心境の変化でもあったか? それとも環境の変化?
「碓氷…… 朱里さん」
碓氷さんが積極的に元気呼びするなら僕だってその気持ちに応えてあげるべき。
「もう! 何で元気君まで名前で呼ぼうとするの? 名字でいいよ」
「いいよと言われましても。では…… 碓氷さん」
「はい」
こうして新幹線で京都まで。
第三の山田としてではく今回は一人の人間として認識されている。
では気を取り直して京都まで数時間を有意義に過ごそう。
続く




