最終回後編 嫉妬が愛に変わる時
<最終回後編> 嫉妬が愛に変わる時。あるいは愛が嫉妬に変わる時。
カラオケボックスの惨劇は寸前のところで回避された。
碓氷さんを説得し凶器も封印してどうにか最悪の事態は免れた。
碓氷さんの追及に恐怖のあまり正直に答えてしまう光。
だからって人を愛せない病気はないだろう? 何てことを言いやがる!
まさかのここに来ての逃げ。鉄壁のガードで逃げ切りを図ろうとする姑息な光。
おいおいそれはないよ。仕方ない。ここは僕から。
「光は根っからの女好きで好きと言う感情が欠落してしまったんだと。
すべては絵のため。素晴らしい作品が描ければそれでいい。個展を開くのが夢。
奴に好意を寄せるのは無駄なこと。いいところはあっても付き合えない。
そう言う芸術肌である意味本物の男さ」
親友だからそれくらいは分かる。問題は妹に手を出してないかだけ。
心配だったが告白で焦る奴を見る限りそれもなさそう。
ただの鈍感な妹思いの困った奴だ。
「ならどうして山田君はそれをもっと前に指摘してくれなかったの? 」
碓氷さんの指摘はもっともだがそれは僕と碓氷さんとの決定的な違いにある。
男女隔てなく明るく接するクラスでも人気の碓氷さん。
それに対して僕はずっと第三の山田として扱われそれに甘んじて来た。
勇気を振り絞って告白しても相手にされないどころかその存在さえ認識されない。
僕は彼女にとってただのハイタッチ要員の一人でしかなかった。
毎日触れ合っているのに認識されない悲惨な第三の山田。
そんな僕の話など聞き入れはしない。そう考えるのが常識。
「元気でお願いします。何度も指摘しようとしたさ。
でも親友を悪く言えないしライバルを蹴落とせない。だから見守るしかなかった。
でもどんどんエスカレートしてついには危ないストーカーに。
もうそうなっては無理。僕だってどんどん過激になり抱き着いたり手を繋いだり」
一応はフォローをしておく。その上でどうして無理なのかを説明した。
しかしまだ納得してないようだ。
「修学旅行では指摘できたでしょう? 」
碓氷さんは鋭い。でもあの時は浮かれていた。
隣同士になり愛を深めて行ったと思ったから。
だから光のことを考えて欲しくなかった。あの関係が終わるのが怖くて嫌だった。
その時の気持ちを素直に伝えるだけで充分だと。うまく行っていた。
しかし常に碓氷さんの頭には光がいた。
薄明りに光が灯るってね。絶対に勝てないと思っていたから……
修学旅行は一種の高揚感で関係が改善されまるで恋人のようになった。
しかし幸せな時間はそこまで。長くは続かなかった。
三年になり三人が一緒になりお互い逃げ道をなくした。
ハイタッチをしなくなった碓氷さんは光を巡るただのライバルに。
教室では常に息苦しかった。光を巡って対立する僕にとっては最悪の状況。
三月までは教室が違ってお互いが光を意識せずに済んでいた。
しかしドンドンおかしな方向に進んで行った。
「全部僕がいけないんです。責任を取りたいと思う。だから付き合って下さい!」
こうして再度告白する。
「ありがとう元気君。でも私…… 」
「だからいいんです。これはすべて僕の仕組んだ事。あなたは何も悪くない! 」
「そう…… だったらあなたのその強い気持ちを受け入れたいと思う」
「では本当にいいんですね朱里さん? 」
「うん。ありがとう元気君。私凄く嬉しい! 」
「朱里さん! 」
「元気君! 」
こうして二人は仲直りのハイタッチへ。
ついに想いが届いた。
ハイタッチを終え軽く抱き合う。
その頃にはもう観客は自らの部屋へ戻っていた。
「ふん。迷惑な奴らだぜ。前から付き合っていただろうが。
さあ帰るぞ。ミツキ。どうしたミツキ? 」
「うん…… 」
「それで元気君はこれからどうするの? 」
「光たちとご飯でも…… あれ…… いないや」
いつの間にか姿を消していた兄妹。
「気を利かせてくれたんでしょう。さあ食べに行こう」
そう言って腕を組む。いつもの明るい碓氷さんだ。
「ちょっと恥ずかしいですよ碓氷さん…… 」
「だから朱里だって! 」
「済みません。慣れないもので。へへへ…… 」
「行こう元気君! 」
「ハイ朱里さん」
こうして僕の告白作戦は大成功。奇跡の逆転劇を起こす。
土曜日。
奇跡の告白成功から一週間が経った。
念願の碓氷さんとの初デートの日。
ついつい浮かれている自分がいる。ああ今でも夢を見ているようだ。
それにしても長かった。どれだけの月日を要したことか。
ほぼ不可能だった片思いが粘りに粘って両想いに。願いが成就した。
最後まで諦めなかったのが勝因だろう。だがもちろん失うものもある。
ミツキちゃんだ。あの日から会ってない。もう僕に愛想を尽かしたのだろう。
ふう…… モテる男は辛いぜって冗談でも言えないよな。
そろそろ起きるか。碓氷さんとの待ち合わせに遅れたらシャレにならないからな。
ピンポーン!
突然の訪問者。こんな朝早くに誰だよ?
「ちょっと元気! ミツキちゃんが来てるよ! 」
大声で言わなくても聞こえてるって。それにしても何の用だろう?
一応両親には碓氷さんの件は内緒にしている。酷い奴だと思われたくないから。
「それで何だって? 」
「返したいものがあるって。ほら急ぎなさい! 待たせたら可哀想でしょう? 」
仕方ない急ぐか。でも返したいものって何だろう? 心当たりがないな。
そう言えば本を貸してたような…… 遊びに行った時でいいのに律儀だな。
ドアを開けると笑顔のミツキちゃんが。
笑顔のまま手を振り上げる。
「ハイ忘れもの! 」
<五年後>
物語は五年後へ。
エピローグへ続く




