最終回前編 愛の証
結局僕のしたことは残酷で中途半端なものだった。
それが愛のカタチと格好つける気もない。
「何をやってるんですか碓氷さん! 」
彼女の中で光への愛がいつの間にか僕への嫉妬に変わったのだろう。
それはもっと前からのことで。それでもどうにか抑え続けていたはずだ。
だが三年生になり三人が同じクラスになったことで悲劇の歯車が動き出した。
それはもう誰にも止めようがなかった。
誤解に次ぐ誤解で碓氷さんの精神はバランスを崩してしまった。
僕も耐え切れずに毎日が辛かった。それでも部員集めで忙しかったから。
昼休みには逃げるように屋上に。そこで華ちゃんにも出会えた。
碓氷さんはきっと耐えられなかったのだろう。
僕がどんなに配慮しても光が勝手に絡んでくる。僕が止めようとお構いなし。
それを見て碓氷さんはどんどんおかしな方向に勘違い。もう限界を迎えていた。
その兆候が一昨日ぐらいから見られていた。
変化に気づけたのに告白にばかり気を取られて碓氷さんを蔑ろにした。
これは明らかに僕のミス。読み違い。
結果的に危険な存在を放置してしまった。
その罰は受けようとは思うがそれは刺殺されることじゃない。
真実をありのままに伝えて…… 二人で幸せになること。
確かに一度は考えたさ。嫉妬に狂って殺されたいと。
でもそれは比喩でしかない。誰が絶望の中で刺されないといけない?
絶望の中で全員が悲劇的な結末を迎えてしまう。
結局僕が甘く見過ぎていたことですべてがおかしな方向へ。
紆余曲折あって二人はようやく結ばれる。そんな理想を描いていた。
でもそう簡単ではなかったよう。そして今がある。
ミツキちゃんは落ち着いたのかただ震えるだけ。
「ほら大人しく! 碓氷さんは思いっきり誤解してるんだ。
僕は光のことは親友だしクラスメイトだし仲間だと思ってるけど愛してはいない。
恋人とも憧れの人とも思っていない。ただモテるところだけは憧れてるけど」
本心をぶつける。今更偽っても隠しても意味がない。
それを信じるか信じないかは彼女次第。
「はあ? この私を説得するつもり? あなたが好きなのは彼でしょう?
嘘を吐かないで! 今二人で愛していたじゃない! 」
碓氷さんは凶器を下ろそうとせず説得にも応じるつもりはないらしい。
まあそれはそうか。いくら真実を言っても今までが今までだからな。
どうやらいくら言っても無駄らしい。
仕方ない。ここは痛みが伴うが受けて立つとしよう。
「碓氷さん…… 僕が好きなのは変わってない。ずっとあなたが好きだった。
だから何度も告白したじゃないか! なぜ受け入れてくれないんだ? 」
もう碓氷さんの鈍感さを突く。すべての元凶は彼女の鈍感さにある。
ちっとも僕の想いに気づかずに悪い方に向かっていった。
「受け入れないって…… でも今好きなのはこの男でしょう? 違うの? 」
碓氷さんは嫉妬から光に刃を向けずにその相手である僕に。
それはすべて計算の内だった。ただあまりにも展開が遅かった。
ノロノロ関係を続けていたものだからミツキちゃんに心変わり。
「今だって僕は碓氷さんが好きだ。朱里さんが好きだ! 」
ついに告白する。実際は明後日の月曜日にする予定だったのに。
雰囲気も最悪なこんな修羅場で告白することになるなんてね。
ははは…… やはり僕は神に祝福されてないらしい。
今更分かり切ったことだが。それでももう少しだけでもマシならな。
殺されかけた相手に告白する展開とはどれだけマゾなんだよ僕は?
でもこれはこんな極限状態だから生まれた感情なのかもな。それは否定できない。
「さあそんなものは捨てよう。碓氷さんには似合わない。
大体それは僕たちが修学旅行の思い出の品として一緒に買ったもの。
夫婦茶碗だと直接的過ぎるから夫婦ナイフを購入したんじゃないか。
これは僕たちの愛の証のはず。それを僕に向けるなんてどうかしてるよ! 」
「でもこれは…… 」
必死に考え込む碓氷さん。でも僕の言ってることは間違ってない。
告白したのは一度だけではない。想いを受け入れてくれないのは碓氷さんの方。
その鈍感さは光にしろ碓氷さんにしろ大罪と言える。
人々を惑わす鈍感さ。プラスに働かずマイナスにばかり働いてしまった。
「さあそのナイフを渡して。ゆっくりこっちへ」
「でもそれは…… 」
「話し合いはそのナイフを捨ててからでもできる。僕を信じて!
これは人を傷つけるものじゃない。愛の証だろう?
それともしもの時のために殺傷能力の低いのを選んだ。実際問題危ないから」
近づいて受け取りに行こうとしたところを混乱した碓氷さんが投げてしまう。
おいおい何てことを。危うく足に刺さるところだったじゃないか。
「ああごめんなさい。でも山田君だからこれでいいでしょう? 」
相当舐められているな。
「今は山田君ではなく元気でお願いしますよ碓氷さん」
「だったらそっちも朱里で」
「はい? はい! 」
こうして悪くない雰囲気になった。
でもよく考えると襲撃者とターゲットの関係。これで本当にいいのか?
まあ細かいことはいいかな。
思い出の夫婦ナイフの片割れをフタしてその後でグルグル巻きにして封印。
これでどんなに狂っても刺殺することもされることもない。
そう言えばもう一つどうしたんだっけ? 探してもなかったんだよな。
「碓氷さん…… いや朱里さん僕はずっとあなたのことが好きです! 」
改めて告白。興奮も治まったことだしここでぜひいい返事を貰いたいな。
本当は明後日屋上でと考えていた。
まさかこんなタイミングで告白するなんてさすがに思わなかったな。
「私は…… 今あなたを刺そうとしたのよ? 」
「はい。知ってますよ」
「だったらなぜ…… 」
「すべてはあなたを振り向かすための芝居。だから朱里さんはちっとも悪くない!
悪いのは僕の方なんです。できれば早く返事を頂けないかと」
この状況で催促とかあり得ない。引かれただろうな。できれば惹かれてくれたら。
「分かった。その前にあなたは私のことどう思ってるの? 」
光に問い詰める。
「クラスメイトで元気の恋人で素敵な女性」
恐怖のあまり正直に答える光。
「はっきり! 好き? 嫌い? 」
初めからこうすればいいのになぜか消極的。
クラスではハイタッチして愉快な存在の碓氷さん。
「光君? ねえ! 」
「済まない。誰も愛せない。俺は人を愛せない病気なんだ」
逃げやがった。恐怖のあまり自衛の言い訳。
そんな訳ないだろう? 光はただの遊び人。だからこそ本当の愛に気づけない。
毎日のように女の子にモデル頼み込んでるものだからその辺が欠落したのだろう。
続く




