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五分の猶予

手洗いうがいを入念に行いドリンクも調達しやることもなくなったので戻るか。

念のために見回りをしてから中へ。

慎重になっている? いや何となく嫌な予感がしてるんだよな。

こう言う時は必ず当たる。しかしそれが具体的に何なのか分からない。

僕でも光でもなくもちろんミツキちゃんでもないとしたらそれは……


「元気! 」

二人揃って僕に助けを求めやがった。分かるけどさ自分たちで解決してくれよ。

僕はあくまで共通の友人でただ告白の場所を提供してるだけ。

ほぼいなくても成立する存在。ただのマイクの一つとでも思ってくれたらな。

頼られても本当に困る。ただの見届け人の役割しかない。

僕だって重苦しくって逃げようとした訳で。さあどうする? どうすればいい?

このおかしな関係に終止符を打つのに何を躊躇うと言うのか?

もう僕たちの未来が目前に迫っているのに誰一人一歩も動き出せないと言うのか?

さあさあ…… 二人で何とかしろ!

僕を巻き込まないで欲しい。それは当然の欲求だけど我がままなのかもな。


「どうしたんだよ光。マジな顔して。いつものようにふざたらどうだ? 」

ついおかしなアドバイスをする。

「いやでも…… この雰囲気おかしくないか? 」

「はあ何を言ってやがる? 大丈夫か? ドリンクでも持ってこようか? 」

逃げる口実をつい探してしまう。

もはや告白合戦と言うより逃亡合戦。この後も大事な告白があるんだからさ。

兄妹の重苦しい告白は急いで済ましてこっちにマイクを渡して欲しいぜ。

センシティブな問題で辛いのも分かるが長引けば長引くほど言いにくくなる。

もうそろそろタイムアップだぞ。まさか延長戦をしようって気じゃないだろうな?

付き合いきれないぞ。さあ早く! つい急かしたくなる。


「ほらミツキちゃんも喉が渇いただろう? 何が飲みたい? 」

ここではあくまで裏方に徹する。

ただその能力は低いのでトラブルを引き起こすことになるのだが。

仕方ないさ。それが第三の山田の実力。

「お構いなく」

「光は? 」

「俺もいい。どうも雰囲気と言うか臭いと言うかさ…… 」

あのいつもふざけてばかりの光が。これは珍しい。何事にも動じないはず。

「悪い! さっきオナラをしたんだよ。飲みすぎかもな」

「そう言うんじゃないって! お前だって分かってるくせに! 」

どうやら今日の光は余裕がない。それは初めから分かり切っていたことだけど。

ここでふざけてからかってもいいがきっとミツキちゃんが睨みつけるに違いない。

これ以上余計なことはしない方がいい。分かり切ってるんだけどね。

ミツキちゃんがなかなか告白に踏み切らないから。それは光の性でもある。


「よしでは一曲」

こうして最悪の雰囲気を吹き飛ばす。

全員で歌える曲を選んだが今回は誰も参加しない。歌ってるのは僕一人。

いつもだったら恥ずかしくて遠慮するが今回は違う。傍観者としての余裕がある。

ここで僕もテンションを上げておかないと二の舞になりかねない。

たぶん今日中に報告する訳だから。


五分の猶予を与えた。これで僕のできることはもうないはず。

後は二人の問題。仮に家族が崩壊しようが兄妹関係が破綻しようが関係ない。

そこまでの覚悟がない限りこのようなことに関わるつもりはない。

ちょっと無責任だと思うがそれが僕だから。いや…… 責任自体は取るつもりだ。

ミツキちゃんと幸せになることがその責任の取り方。

しかし今回の重い雰囲気を見ていると自分も怖くなって来た。

ただ二人は特殊だからな。兄妹で告白することは想定外。


「お兄ちゃん…… 」

さあ始まったぞ。修羅場の予感。ミツキちゃんを唆したのはこの僕だからな。

悪ふざけで済むはずがない。光はどうするつもりだ。

僕としてはこの段階でも即刻中止を願っている。

確かに告白の練習もしたしすべてが無駄になるかもしれない。

それでも兄妹関係が破綻するよりマシだろう?


そうか。今日は土曜日だもんな。破綻するのは常に土曜日と決まっている。

ちくしょう! 破綻も修羅場も僕には止められない。

ミツキちゃんの願いを聞き入れたのが間違いだったらしい。


「どうしたんだよミツキ? また元気が何かしたのか? 」

告白をかわそうと僕を囮に使う光。いやそれはさすがに無理がある。

はっきり告白させてしっかり断るのがお前の役目だろう? それがお兄ちゃんさ。

ほんの僅か兄妹プレーをしたのでつい上から目線になってしまう。

「おい光何を言ってるんだよ! 」

つい口出しをしてしまう。これで完全に告白のタイミングを失ってしまった。

下を向くミツキちゃん。大きなため息をついている。もしかして僕の性?

いやそれはあまりにも無茶苦茶だ。二人がきちんとしないのが悪い。

主役二人がきちんと劇を進行すればいいのに観客に振るからついアドリブで対応。

ここは一度仕切り直すしかないか。


とりあえずトイレと逃げる光。まさか奴も頻尿なのか?

そんなお兄ちゃん大っ嫌い! と言われなければいいが。

まあそうなったらそうなったでいいか。

いや待てよ…… 本当に光を一人にしていいのか?

見間違いでなければ女子トイレに入ったのはあの方……

でも大丈夫。いつもつけられてるからいきなり限界でない限り危険はないだろう。

光が気づかないぐらいだから心配ない…… と思うだけ。


「ちょっと光が心配だから…… 」

「ダメ! 」

念の為に追いかけようとしたがミツキちゃんに止められる。

トイレに行くだけの奴のどこが心配なのか説明のしようがない。

ただ何となく嫌な予感がするだけ。

ここ数日の彼女の様子がおかしいから気になっている。


「でもミツキちゃん…… 」

「いいからここにいて! お願い! 」

おいおいこれ以上僕を困らせるなよ。頼られてもどうにもならないぞ。

僕はただの第三の山田で基本的には相談されるよりする側だからな。


                   続く

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