逃げ道確保
土曜日の昼前。今日は朝から雨がぱらつく生憎の空模様。
ただ屋内だから問題ないさ。
さあそろそろ行きますか。
ミツキちゃんと待ち合わせのカラオケボックスへ。
さすがにいくらサプライズだと盛り上げたところで光は光。
待ち合わせよりも早く来ることはない。マイペースで鈍感だから。
そんな風に言えば奴は元気が気にし過ぎで敏感なんだと返すだろう。そんな奴だ。
五分前になってもう一度確認。
しかし現れない。焦らすだけ焦らす気らしい。それとも事前に察知されたか?
土曜日の午前中と言うこともあってそこまで人がいる訳ではない。
だが両隣は埋まっている。
光が来るまでカラオケして待つしかなさそう。
でも僕って音痴…… リズムと音感が取れないので苦手だったりする。
別に誰もまともに聞いてないさ。
ついドリンクに手が伸びる。
「ちょっと元気…… 飲み過ぎ! 」
ドリンクバーの元を取ろうとするがすぐに気持ち悪くなる。
濃いんだよね…… 考えれば分かるがどうしても四杯飲もうとしてしまう。
水やお茶を挟まずにドリンクバーだけで渇きを癒すのは悪手だ。
では景気づけに一曲。
マイクを片手に歌い出すとノック音が。
「悪い…… 遅れた」
店員さんかと思いきや光だった。タイミングがいいんだか悪いんだか。
しかしよくここだと分かったな。もしかして漏れてる?
これでカラオケは終了。ここからはお待ちかねの告白タイムだ。
つい勢い余ってマイクを投げてしまう。
「元気ふざけないの! 」
「ははは…… 悪い。つい手が滑ったんだ」
タイミングを計っているミツキちゃん。
緊張の一瞬。ドリンクバー取りに行ってる間に告白を済まされては困るので待機。
何だか飲んだらトイレに行きたくなったな。でも僕が邪魔をする訳には行かない。
あと十分は我慢しよう。それまでにはすべて決着するだろうさ。
いつの間にか重苦しい雰囲気に。沈黙が支配する。
聞こえて来るのは部屋のガチャガチャと外から聞こえる爆裂音。
どうやら光の奴も何かを察知したのかドアを完全には締めずに警戒しているよう。
まあ当然か。サプライズと言ってしまったから必要以上に警戒もするだろうさ。
では改めて説明するか。でも自分で言うと聞かないんだろうな。
「お兄ちゃん…… 」
「ミツキ…… 」
そう言って二人は兄妹だと言うことも忘れて見つめ合った。
やはり光もすべて理解した上でここに来たのだろう。
すると僕は余計なことをしたのか? お節介な奴めと後で言われそう。
でも二人のことを考えればお膳立てぐらいはしてやる。
それが親友であり恋人でもある。
何もカラオケボックスで告白することもない。
うるさくてマイクを通さなければ聞こえるものも聞こえない最悪の状況。
それでも思いを伝えるのにマイクは使うべきではない。
地声でなければ意味がないだろう?
ただ手渡した以上これを使って何かパフォーマンスしてくれたら。
「お兄ちゃん…… 」
「ミツキ…… 」
「元気…… 」
可哀想だからと僕の名前を呼ぶ律儀なミツキちゃん。
そんなことしてないで早く告白しろよ。怖気づいたか?
やはりもっと静かなところで告白すべきだった。
恥ずかしがるから。タイミングを逸してしまってるじゃないか。
「悪い…… 喉乾いたからドリンク」
適当な言い訳をしこの場を離れる。ミツキちゃんを見ていると居た堪れなくなる。
それにもう僕は必要ない。告白しようがしなかろうが知ったことじゃない。
仮にできなくてもそれは心の内に仕舞い込めばいい。
想いを封印し二人が付き合ってることを光に報告する。それでいい。
ああもう怖くて見てられないよ。
出てすぐに中の様子を探る。
どうも二人ともそのまま。いつもどうしてたんだこいつら?
そんな感想が出て来る今日この頃。
きっと光がそうなる前に止めていたんだろうな。
アーもう早く! どうして…… ミツキちゃん!
あれほど告白の練習を重ねたのに。一人前の女優になれるようにと演技指導した。
後は実戦でその開花した実力を遺憾なく発揮すればいい。それだけなのに固まる。
テストでもあるましいなぜもっと肩の力を抜けない?
後先を考えずにただ告白すればいい。それだけでいい。でもそんなこと言えない。
仕方ない。ドリンクバーに。その前にトイレだな。もう限界。
うーん。こっちまで緊張する。だからなのか喉も乾くしトイレの回数も増える。
まさか頻尿? そんな高校生は嫌だな。
指を一つ一つ洗って時間を稼ぐ。情けないがこれも仕方ないこと。
でも光が鈍感を通り越して何も気にしてないならこの状態でも問題ない。
うーん。戻りたくない。このまま逃亡しようか?
第三の山田だからそれくらい許してくれるよな。
いや…… でもダメだ。この後二人のことを許してもらわないといけない。
ここで印象を悪くすればそれさえも反対されかねない。
軽く考えていたがこれはまずいかも。僕はどうしたらいいだろう?
仕方ない。これくらいが限界だな。さっさと戻るとしよう。でも嫌だな……
そんな風にトイレから出ようとした時見覚えのある女性がトイレに入って行く。
うーん。どうも覚えがあるぞ。誰だ? 僕の知り合いの女子って限られている。
ミツキちゃんが限界を迎えてトイレ休憩?
それはないよな…… 声ぐらいかけるさ。するとまさか……
ははは…… あり得ない。そんなことあり得ない。でも……
待つこと十分。
周りの客と防犯カメラのプレッシャーから逃げるようにドリンクバーへ。
僕って怪しいの? 私服はダサいとか? ミツキちゃんはいいと言ってくれた。
つい不安になってしまう。でももうどうでもいい。
重苦しい雰囲気だとしてもセーフティーゾーンに逃げ込めばいいのだ。
だがさすがに部屋を完全には締めきれない。僕の逃げ道までなくなりそうだから。
しかし…… どうだろうここの雰囲気は?
続く




