4-1 疎外 僕はここに含まれていない
休暇にはそれぞれのクラブが試合や演奏会などを催すので、学園内はちょっとした祭りのように賑やかだった。どのクラブも、皆熱心に活動している。
僕はどのクラブにも所属していない。同じ熱量で参加できる気がしないからだ。「ポイントを稼ぐのに熱心なだけだ」と、青鸞は醒めた目で彼らを見る。
シティでは社会活動への貢献度が、住民としての評価に直結するらしい。僕にはまだ、よく分からない価値観だ。
青鸞は、そもそも評価される側ではなかった。
グラウンドでは、球技の試合が行われていた。
大勢の生徒が入り乱れ激しく動いているはずなのに、そこには奇妙な「秩序」があった。
本来なら、ぶつかり合いや競り合いが起きるはずの場面でも、彼らは相手の考えが分かっているかのように滑らかに互いを回避し、まるで最初から決まっていたかのようにパスを繋いでいく。
感情を抑制し、洗練された動きで相手との衝突を確実に避ける彼らは、僕の知らない特別なルールで動いているかのようだった。
青鸞はというと、この日は「気が乗らない」と言って朝から部屋に籠ったきりだった。「人が多いところは、アルゴリズムの計算が煩雑はんざつになって疲れる」と言っていた。彼が人混みを嫌うのには、単なる性格以上の理由があるらしい。青鸞は時々、僕にはよく分からない難しい表現をすることがあった。
それなので僕たちはいつも、人の少ない林間エリアへサイクリングに出かけたり、湖にボートを浮かべたり、あるいは部屋で暇潰しにボードゲームをしたりして休暇を過ごす。
青鸞のいない休日を持て余した僕は、学園内を所在なく歩く。
展示室に飾られた風景画も、争いのないスポーツも、どれも整いすぎているように見えた。僕の目を引くものはどこにもない。
歓声が遠くに響く中、僕はひとり、この賑やかな空間から切り離されたような感覚に陥っていた。
夜。
いつもなら、とうに眠っている時間。
僕は部屋のベッドに腰かけて、外部端末の画面を見つめていた。青鸞に教えられたパターンコードを入力すれば、ダミィコードが作動する。
部屋には、僕ひとりきりだった。琥珀はいない。どうやら、部屋へは戻らず直接出かけたようだ。監督生候補ともなると準備の手伝いなどがあるのかもしれなかった。
兄がいないことへ安堵する。
昔から、兄に隠し事をするのが苦手だった。
というより、兄の前ではどんな秘密も、明らかにされてしまうのだ。壊してしまった玩具も、こっそり食べてしまった砂糖漬けも、友達との喧嘩だって、全部兄には知られていた。
昨夜聞いた「兄の夜間外出」の話が頭をよぎる。
初めて知った「兄の秘密」の片鱗を、自分の中でどう扱っていいものか持て余していた。兄はいつも清廉潔白で、隠し事などないものだと思っていた。
――でも、本当にそうだったのだろうか。
思考の深みに嵌まりそうになり、振り払うように頭を振る。
約束の時間はもうすぐだった。
教えられたコードを入力しようとして、また違う不安がよぎる。
――もし、失敗したら……。
実行しないための理由ばかりが、次々に浮かんでは消えた。
僕が待ち合わせ場所に現れなかったら、青鸞はどう思うだろうか。「鶉は怖がりだな」と笑って済ませてくれるだろうが、もう二度と、彼の企みには誘ってもらえなくなるだろう。短い付き合いだが、青鸞がヘマをするところなど考えられなかった。
その青鸞が問題ないと言うのだ。
「怖いのか?」と、からかう青鸞の声が頭の中で再生される。
――怖くなんかない。
僕は息を止め、コードを入力する。
画面が一瞬だけ黒く塗りつぶされ、すぐに何事もなかったかのように平穏な待機画面へと戻る。
――これで、僕は透明人間になった。
僕は静かに立ち上がり、扉へと向かう。
恐る恐る、一歩、部屋の外へと踏み出す。
何も起こらない。
恐れていた警告音も、管理AIからの通知もなかった。それでも、皮膚の内側が静かに沸き立つのを感じた。




