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Miracle Force Princess  作者: ロマンス王子
第三章 最終決戦編
33/35

第三十三話 希望と不安の最終決戦前夜

 何処にでもいるはずの女性、桜名(さくらな)美姫(みき)はホロテイルジュの戦士シンデレーザーとして戦っていた。ダークストーリーズはトップであるママーハハの登場により勢力を増しつつあった。しかしダークストーリーズの幹部の一人であるロバーズがカイザードを倒したことで状況は一変、ロバーズが独断の侵攻を始めてしまう。ロバーズはマリスの大群を暴れさせ、街を混乱に陥れる。そんなロバーズに対抗するためホロテイルジュは十二人全員で挑む。嘗ての恋人であるロバーズと戦うことに少しだけ気が引けていた美姫だったが、赤園(あかぞの)風布花(ふうか)の言葉で決意を固める。そして戦士の資格を失ったリーナ・ジーニアスのペリドットの指輪を授かった美姫はシンデレーザー・ウイングタイプへとその姿を変えロバーズを攻め立てる。そして戦闘不能になったロバーズを生け捕りにしようとするホロテイルジュ一同だったが、そこにママーハハが再び現れるのだった。

「久し振りだなホロテイルジュ。」

 ママーハハは巨大な体でホロテイルジュの一同を見下しながらそう言う。

「ママーハハ様、ホロテイルジュの連中を痛めつけました。さあママーハハ様、奴らに止めを!」

 ロバーズは傷ついた体で先ほどまでの態度とは裏腹にママーハハに(へりくだ)る。しかしママーハハはロバーズの暗躍を全て見抜いていた。

「ロバーズ、カイザードとフックガンを消し去ったのは貴様だな?」

「ママーハハ様、何故それを…?」

 ロバーズはそのママーハハの言葉に背筋が凍える感覚を覚える。

「ママーハハ、最初からロバーズのことに気付いていたんだ。」

 皆はママーハハが全てを見抜いていたことを察する。

「ここがお前の最期だ、ロバーズ。」

 ママーハハはそう言うと黒みがかったオーラをロバーズに放つ。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ロバーズはオーラに包まれ苦しんでしまう。

「我を裏切るとどんなことになるのか、今思い知らせてやる!」

 ママーハハはロバーズに怒り狂っているようだった。そしてロバーズは次第に体が消えかかって行く。

「ギジュ…。」

 シンデレーザーは消えかかるロバーズを見守るしかなかった。そしてロバーズはふとシンデレーザーの方を向く。

「美姫、一緒に地獄に行こう。俺を一人にしないでくれ!」

 ロバーズはそう言って懐からナイフを取り出し、シンデレーザーに襲い掛かる。

「ギジュ…!」

 シンデレーザーはロバーズの目に狂気を感じる。

「美姫さん危ない!」

「避けろ美姫!」

 皆は慌ててシンデレーザーに向かって叫ぶ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 しかしロバーズはシンデレーザーを目掛けて勢いよくナイフを振るう。シンデレーザーは避け切れず、思わず目を瞑ってしまう。そしてグサッという音が聞こえる。

「え…?」

「嘘…?」

 皆はその光景に驚いてしまう。そしてシンデレーザーが目を開くと、そこにはエメラルディアの姿があった。エメラルディアはシンデレーザーを庇って背中を刺されたのだ。

「エメラルディア様…?」

「うっ…!」

 困惑するシンデレーザーに向かってエメラルディアは倒れ込み、シンデレーザーはエメラルディアを抱き留める。

「エメラルディア様、どうして…?」

「家族だから、かな…。」

 問い掛けるシンデレーザーにエメラルディアはそう答え、次第に力尽きてしまう。

「「エメラルディア様!」」

 リーナとピーターシザーズは慌ててエメラルディアの元に駆け寄り、エメラルディアを抱きかかえる。

「リーナ、(みのり)、エメラルディア様をお願い。」

 美姫はリーナとピーターシザーズにエメラルディアを託し、ロバーズを睨み付ける。ピーターシザーズは(みのり)・ファンタジアの姿に戻り、リーナと(みのり)はエメラルディアを安全なところに運ぶ。

「ギジュ…!」

「美姫、お前は悪運の強い奴だ。精々ママーハハの前に苦しむがいい。」

 ロバーズはそう言い残し、消滅してしまうのだった。そしてママーハハは消滅したロバーズを取り込み、その場に佇む。

「邪魔者は消えた、そして我の糧となった。今こそこの世界を支配する時だ!」

 ママーハハがそう言うと、空が漆黒の闇に包まれる。

「みんな、行くよ!」

「ああ!」

 シンデレーザー、キルビーレオン、サファイアロード、アックシトリナー、マーメイデスト、ツインスウィーテス、ポイズノーム、フルムーンハイヤー、レッドバイトゥースの九人はママーハハに立ち向かう。

「温いわ!」

 しかしママーハハは黒い強力なオーラを放ち、九人は一歩も近付けない。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 九人は吹き飛ばされてしまう。そしてママーハハは九人を睨み付ける。

「今日まで強くなってくれたことには感謝するぞホロテイルジュ。特にシンデレーザー、ロバーズを攻め立てたその姿には感動した。だが所詮は温い人間の集まりに過ぎない、我がここで制裁を下す!」

 ママーハハは怒り狂い、また黒いオーラを放つ。

「美姫、みんな!」

 そう言ってキルビーレオンは皆の前に両手を開いて立ち、ママーハハの攻撃を一手に受けてしまう。

「ぐっ…、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そしてキルビーレオンのルビーの指輪が砕け散り、キルビーレオンは桃井(ももい)剣二(けんじ)の姿に戻ってしまう。

「剣二!」

「剣二さん!」

 サファイアロードとアックシトリナーは思わず剣二の名を叫ぶ。そして他の皆は思わず絶句してしまう。

「そんな、まさか…。」

 剣二もその現実に絶句してしまう。

「よくも剣二の指輪を!」

「許さん!」

 サファイアロードとアックシトリナーは怒り狂ってママーハハに突撃する。

「なるほど、今の我にはホロテイルジュの力の根本を断つ力があるのか。これはいい。」

 しかしママーハハには二人の怒りなど伝わらず、ママーハハはまた黒いオーラを放つ。

「ぐっっ…!」

「俺達もか…!」

 サファイアロードとアックシトリナーもママーハハの攻撃を喰らってしまい、それぞれサファイアとシトリンの指輪が砕け散り浦賀(うらが)輝弓(きゆみ)金山(かなやま)依斧(いおの)の姿に戻る。

「輝弓君、依斧君!」

 シンデレーザーは思わず二人の名を叫ぶ。そして戦士が減ってしまったホロテイルジュはピンチに陥ってしまう。

「みんな、一旦退くぞ。」

 剣二は皆に撤退を指示する。しかしシンデレーザーは素直に聞き入れられなかった。

「でもママーハハをこのままにする訳には!」

「いいから退くんだ!このままじゃ全滅だぞ!」

 剣二はなんとかシンデレーザーに言い聞かせ、皆は撤退をする。

「待て、ホロテイルジュ!」

 ママーハハは追いかけようとするが、突然疲労感を覚える。

「くっ…、この世界に長居し過ぎたか。」

 ママーハハは撤退するホロテイルジュを追うことを止め、人間界を去ることにするのだった。



「エメラルディア様、エメラルディア様!」

「しっかりして下さい、エメラルディア様!」

 リーナと(みのり)は必死にエメラルディアに話し掛ける。しかし今のエメラルディアには声を出すのも一苦労だった。

「今まで戦いに巻き込んですまなかったな、リーナ、(みのり)。」

「そんなこと言わないで下さい!」

「エメラルディア様がいたから、今まで私達は幸せだったんです。これからも一緒に生きて下さい!」

 リーナと(みのり)は謝るエメラルディアに生きるよう訴えかけるが、エメラルディアは首を横に振りリーナと(みのり)の腕を掴む。

「今まで己の人生を捧げ戦って来たんだ、戦死するのは本望だ。最期にお前達に看取られるのなら、何も後悔はない。」

 エメラルディアはそう言って空を見上げる。

「姉さん。あの世で一緒に見守ろう、この戦いの行く末を。」

 エメラルディアは最後に琴姫に対してそう言うとゆっくりと目を瞑り息絶える。

「エメラルディア様、エメラルディア様!」

「やだ、死んじゃやだよー!」

 リーナが体を揺するが、何も反応はない。そしてエメラルディアの体はエメラルドのような輝きを放ち、消滅してしまうのだった。

「エメラルディア様…!」

「うわーん、エメラルディア様ー!」

 リーナはポロポロと涙を溢し、(みのり)は泣きわめいてしまう。そしてそこに、元の姿に戻った美姫達が駆けつける。

「リーナ、エメラルディア様は?」

 美姫はリーナにエメラルディアのことを尋ねるが、リーナは俯いて首を横に振る。

「…エメラルディア様は遺体も残らずに消滅してしまいました。恐らくあの空間に長くいたせいで普通の人間の体では無くなっていたのでしょう。」

 涙を溢しながら話すリーナの姿に、その場にいた全員が悲しい気持ちになる。そして、皆は誰一人として何も言えず解散するのだった。



 ママーハハはダークストーリーズの本拠地に戻っていた。

「ふぅ…、やはり人間界に順応するのはまだ先か…。」

 ママーハハは以前ホロテイルジュの戦士達に姿を現わしてから永い眠りについていた。その間にロバーズに始末されたバブルガスとカイザード、そしてフックガンを取り込み、より強力な力を得て復活した。その力を持ったママーハハは人間界への順応に時間が掛かるようで、長居することが出来ないようだ。

「それにしても、ここも閑散としたものだな…。」

 ママーハハは幹部がいなくなったダークストーリーズの城に違和感を感じていた。

「まあいい、人間界を支配すれば我の思うままだ。あとはパンドラスだけか…。」

 しかしママーハハは再び世界の支配を企む。そしてパンドラスを探そうと再び人間界に赴くため、休眠を取るのだった。



 ママーハハの去った世界は至って平和だった。朝にマリスの大群が大暴れしていたのが嘘のように街の人達は平和な日々を送っていた。リーナと(みのり)はエメラルディアがいた空間にある自身らの部屋で荷物を纏めていた。

(みのり)、荷物は纏め終わりましたか?」

「…まあね。」

 リーナと(みのり)は覇気のない声で言葉を交わす。

「この空間はエメラルディア様の力で成り立っていました。エメラルディア様亡き今、この空間もいずれ消え去りますからね。」

 リーナと(みのり)が住まうこの空間はエメラルディアが作り出したものだった。それ故にエメラルディアが消滅すると消えてしまう。(みのり)は少し俯く。

「エメラルディア様…。」

(みのり)、私達はもうエメラルディア様のいない世界を生きなければなりません。」

 リーナはエメラルディアを亡くしたことで元気を無くす(みのり)を励ますが、リーナ自身も元気を出せずにいた。



 リーナと(みのり)の二人は洋館を出て街中を歩いていた。

「はぁ…。」

「どうしました?(みのり)。」

 ふと溜め息を吐く(みのり)にリーナは問い掛ける。

「何か、平和だなぁって思って。」

 (みのり)はそう答える。街は先ほどまでダークストーリーズと戦っていたとは思えないほど平和な光景が広がっていた。

「そうですね、でも平和な方がいいではないですか。今は平和に見えても、またいつママーハハが襲って来るかわからない危険と共にあるのですから。」

 リーナはそう話す。そして二人は共に少し俯いてしまう。そんな時、水原(みずはら)夜衣魚(よしみ)鈴木(すずき)林檎(りんご)が通り掛かる。

「リーナ、(みのり)、そんな浮かない顔してどうした?」

 俯くリーナと(みのり)に夜衣魚は軽い調子で話し掛ける。

「いえ、ただママーハハがまた襲って来ると思うと少し憂鬱で…。」

 リーナは夜衣魚に今の心情を吐露する。すると夜衣魚は、リーナの顔を少しつまむ。

「そんな顔しないの!今はママーハハが来ていないんだから、この平和な時を楽しまないと。」

 夜衣魚はそう言ってリーナを元気づけようとする。そして林檎もリーナに話し掛ける。

「リーナ、戦士の資格を失ったら普通の人間として生きるって決めたんでしょ?だったら後のことは私達に任せて。」

 林檎はそう言いながらリーナの肩に手を置く。しかしリーナと(みのり)には懸念していることがあった。

「しかしママーハハは、既に三つの宝石を砕いているのです。ホロテイルジュの戦士も数が少なくなってきました。」

「そうだよ、あんなに戦士が束になって掛かっても敵わなかったのにこれからどう倒すっていうの?」

「まあ、それはそうなんだけど…。」

 リーナと(みのり)の言い分に、林檎も言葉を返せなかった。すると夜衣魚が割って入るように話す。

「でも、まだ戦士なら私達が残っているよ。」

 夜衣魚はそう言って明るく振る舞う。しかしそれでもリーナと(みのり)の不安は拭えない。

「よし、じゃああそこに行こうか。」

 夜衣魚はふとあることを思いつき、リーナと(みのり)の腕を引っ張ってどこかへ連れて行く。

「ちょ、ちょっと。」

「どこに行く気?」

 リーナと(みのり)は戸惑うが、林檎は夜衣魚がどこに連れて行くのかなんとなくわかっていた。

「まあ、あそこか。」

 そして四人はある場所へ向かうのだった。



「いたいた、おーい!」

 夜衣魚達四人が着いたのは双見(ふたみ)アラモードの行きつけであるスイーツショップであった。そして勿論そこにはアラモード、そしてアラモードの恋人である三浦(みうら)竹月(たかつき)がパフェを楽しんでいた。

「って、またパフェか…。」

 (みのり)はまたパフェを食べることに呆れてしまう。

「元気?アラモード。」

 夜衣魚はアラモードに話し掛ける。

「うーん、微妙かな?」

「ママーハハの脅威の後ですからね。」

 アラモードと竹月はそう答える。しかしその言葉とは裏腹に二人は楽しくパフェを食べていた。

「その割には呑気にパフェなんか食べてるけど?」

 (みのり)は呆れながらアラモードに尋ねる。

「呑気って言われるのは心外だなぁ~。」

 アラモードは真顔でそう返す。そしてアラモードはパフェを食べながら語り出す。

「ママーハハにもし世界を支配されたら自由にパフェを食べられなくなるかも知れない。だから今、この一口一口が大事なの。」

「はぁ…。」

 リーナはアラモードの言い分に呆然とするが、取り敢えず皆でパフェを食べることにする。

「それで、今って私以外に誰が戦えるの?」

 (みのり)はふと今のホロテイルジュの戦力を尋ねる。そしてアラモードが答える。

「えーと、美姫さんでしょ、それと夜衣魚に林檎に竹月ちゃんに風布花ちゃん、そして私かな?」

「男性陣全滅かい。」

 林檎は戦える戦士が女性しか残っていないことに不安を感じてしまう。

「だって剣二さん達が真っ先にママーハハの攻撃受けちゃったんだし、仕方がないじゃん。」

 夜衣魚はそう言ってママーハハとの戦いを振り返る。しかし明るく振る舞う夜衣魚にも、リーナはどこか違和感を感じていた。

「水原夜衣魚。」

「何?」

「あなたも不安を感じているのではありませんか?」

 リーナの言葉に、夜衣魚も余裕気な表情を保てなくなる。

「本当夜衣魚ってすぐ気持ちが態度に出るよねぇ~。」

 林檎は夜衣魚を煽るようにそう言う。夜衣魚も開き直ってしまい、今の心情を吐露する。

「…まあ正直、ママーハハに勝てるかって言われたらそりゃあ不安だよ?剣二さん達も戦えなくなったのに、私達だけでどうやって戦うっていうの。」

「うわぁ、さっきまでと言ってることがまるで違う…。」

 (みのり)は夜衣魚の言動に軽く引いてしまう。そんな会話を交わしながら、六人はパフェを食べるのだった。



 一方その頃、ママーハハ以外で唯一生き残ったダークストーリーズの幹部であるパンドラスはとあるビルの屋上から街の景色を眺めていた。

「はぁ~あ、俺はこれからどうすればいいんだよ。」

 パンドラスは溜め息を吐きながらその場に寝転んでしまう。そして青空を見上げるパンドラスに、輝弓が見下ろす形で現れる。

「よっ、パンドラス。」

「うわっ、てめぇ!」

 パンドラスは輝弓が現れたことに驚く。そして起き上がると剣二と依斧がいることにも気付く。

「…何しに来たんだよ、お前ら。」

 パンドラスは気怠そうに尋ねる。

「別に、ママーハハ以外の幹部で後生き残っているのがお前だから何してるかなぁ~と思ってさ。」

 輝弓は軽い口調でそう答える。しかしその言葉をパンドラスは信用出来なかった。

「ふざけんな、三人で来やがって俺を倒しに来たんだろ。」

 パンドラスはそう言って立ち上がり、構える。しかし剣二達三人が何もしなかった。剣二はパンドラスに話し掛ける。

「悪いが本当に何もするつもりはない、というかもうそんな力はないんだ。」

「…は?」

 剣二の言葉にパンドラスは耳を疑う。

「ママーハハの攻撃で俺達三人は指輪の宝石を砕かれた。もう本にも物語が書かれていない。だから戦う力がないんだ。」

「そんなことがあるのかよ。」

 パンドラスは軽く驚く。しかしこれでパンドラスは剣二達に対して警戒を解くのである。

「それで、お前はママーハハの元に戻らない訳?」

 輝弓はふとパンドラスに尋ねる。

「戻る訳ねぇだろ。」

 パンドラスは不貞腐れるように答える。そしてパンドラスはゆっくりと語り出す。

「ママーハハ様は俺以外の幹部の力を取り込んだ、だからホロテイルジュの宝石も砕けるんだろ。ああなったママーハハ様はもう自分しか見えてねぇ、多分ついて行っても死ぬだけだ。」

「うわ怖ぁ…。」

 輝弓はママーハハに恐怖感を覚える。

「今、ママーハハが何をしているかわかるか?」

 剣二はパンドラスに、今度はママーハハの動向を尋ねる。

「ああ、多分今のママーハハ様は力を使い過ぎた反動でこの世界に長居出来ねぇ。今はダークストーリーズの城に戻って体を休めているはずだ。そして次にママーハハ様がこの世界を襲いに来るのは、早くて明日だ。」

「…そうか、ありがとう。」

 剣二はパンドラスに感謝を告げ、パンドラスの元を去ろうとする。すると剣二はふと足を止め、パンドラスの方を振り向く。

「そうだ、パンドラス。」

「何だ、まだ何か用か?」

「お前は、もうこの世界を支配するつもりはないのか?」

 剣二が気になったのはパンドラス自身のことだった。パンドラスもダークストーリーズの幹部であるため、世界を己のシナリオ通りに動かす野望はあるはずだった。そしてパンドラスは答える。

「ママーハハ様がいる以上、そんな出しゃばった真似は出来ねぇよ。それにママーハハ様は俺も取り込むつもりだろうしな。だから取り敢えずはママーハハ様とお前らの決着を見届けてやる。俺のしたいことは、それからだ。」

 剣二達三人は、パンドラスの言葉にどこか安心感を感じながら去るのだった。



「…ということで、ママーハハは明日現れるかも知れない。」

「わかった。」

 剣二はパンドラスから得たママーハハの情報を電話で美姫に告げる。情報を得た美姫はママーハハとの決戦に気持ちが高まっていた。

「それじゃあ、桃井達はもう戦士の力を失っているんだから休んで。」

 美姫は剣二達に労いの言葉を掛ける。しかし剣二も美姫のことが心配だった。

「お前こそいいのか?お前も元恋人の最期を見届けてしまったんだからな。」

「え?」

 美姫は剣二の言葉を意外に感じていた。

「何急に?あんたからそんな心配してくれるような言葉をもらうなんて思わなかった。」

「俺を人でなしみたいに言うな。俺もお前を戦いに巻き込んだ責任くらいは感じているからな。」

「へぇ~。」

 美姫は当てつけるような口調で剣二の言葉に反応する。しかし美姫は剣二に対して感謝の念を感じていた。

「でも、桃井と出会わなかったら私はお祖母ちゃんを想いを継ぐことなんて出来なかった。お祖母ちゃんが戦っていた事実も全部知らずに過ごしていた。だからあんたには感謝しているんだよ?」

「だったらもう少し態度に出して欲しいものだな。」

 剣二は美姫に皮肉を言うようにそう返す。

「じゃあ、ここからは私達に任せて。」

 美姫はそう言って電話を切る。

「美姫さん、今の剣二さんからですか?」

 電話を終えた美姫に風布花が話し掛ける。美姫はこの時、風布花の家を訪れていた。

「うん、ママーハハは早くて明日来るかもって。」

「そうですか…、意外と早いですね。」

 風布花はママーハハとの戦いを憂鬱に感じる。そんな中、風布花の部屋をノックする音が響く。

「風布花、入っていい?」

「お母さん、いいよ。」

 部屋に入って来たのは風布花の母親だった。そして母親は美姫に話し掛ける。

「美姫さん、良かったら夕食を食べて行きません?いつも風布花がお世話になっているので。」

「あ、すみません。それじゃあお言葉に甘えて。」

 風布花の母親は美姫を夕食に誘う。美姫は頻繁に風布花の家に通い詰めていて、すっかり風布花の家族とも仲良くなっていた。そして美姫と風布花、そして風布花の母親の三人は共に食卓を囲み、夕食を取る。

「そう言えば、今朝怪物騒ぎがあったのご存知ですよね?」

「あ、はい…。」

 美姫は風布花の母親の言葉に動揺する。風布花の母親は未だホロテイルジュもダークストーリーズもその存在を知らなかった。

「最近怪物が現れるようになって、本当物騒ですよね。私も風布花も心配で…。」

 風布花の母親は不安を吐露する。その言葉に、美姫は前向きな言葉を投げ掛けざるを得なかった。

「あの、大丈夫です。いずれ怪物もいなくなります。ね、風布花ちゃん。」

「え?あ、はい!」

 風布花も一瞬戸惑うが、美姫に同意する。

「そうですか?それならいいんですけど…。」

 風布花の母親は半信半疑ながらもそう答える。そして美姫と風布花は、ママーハハとの戦いに意気込むのだった。



「それじゃあ風布花ちゃん、私そろそろ行くね。」

「…はい。」

 夕食後、風布花は美姫を見送る。しかし風布花はいつも以上に美姫と別れるのが心細かった。

「そんな寂しい顔をしないの。大丈夫、必ず私達が勝つから。」

 美姫はそう言って両手で風布花の頬を挟み、風布花の頬にキスをする。風布花は少し笑顔になる。

「美姫さん、絶対ママーハハに勝ちましょう。」

「うん。」

 風布花もママーハハと戦う意志を固め、美姫を見送るのだった。



 美姫は風布花の家を去り、暗い夜道を歩く。すると、河原にひっそりと佇むリーナを見つける。

「どうしたのリーナ?」

「桜名美姫…。」

 美姫はリーナに話し掛ける。リーナは少し物悲しい様子だった。

「昼間、水原夜衣魚達と会って(みな)でパフェを食べました。」

「パフェってことは、みんな一緒だったみたいだね…。」

 美姫はリーナ達が合流していたことを悟る。

「やはりあの人達も、ママーハハ達と戦うことにどこか不安気でした。」

「まあ、桃井達の指輪が砕かれたんだからね…。」

 美姫は夜衣魚達が不安を感じていることに同情する。そして美姫はリーナに気持ちを尋ねる。

「リーナはどう思う?私達が勝てるかどうか。」

「正直、勝てると思います。確かに戦士が減ったのは痛手ですが、複数の星座や童話の力を引き出したあなた方は既に多くの幹部を撃破しました。ママーハハにも勝算はあると思います。」

 リーナは美姫達に希望を見出していた。しかしそれでもリーナの顔は晴れる様子がなかった。

「そう言っている割には、まだ悲しそうな顔をしているけど?」

 美姫はリーナの悲しそうな様子に問い掛ける。そしてリーナはゆっくりと語り出す。

「私は力を失い、戦士ではなくなりました。もう戦おうと思っても、あなた方に身を委ねるしかありません。」

「うん…。」

「世界の命運が掛けられている時に戦えないとは、私はなんと無力なのでしょう。」

 リーナはそう言って泣き崩れる。リーナにとって一番の悔しさは、もう戦士として戦えないことだった。そんな泣き崩れるリーナを美姫は優しく抱き締める。

「リーナ、もう決心したはずでしょ?私に全てを任せるって。リーナはもう何も心配しなくていいから、私達がママーハハに勝って変えるのを待って。」

「…はい。」

 リーナは美姫に抱き締められながら泣き続ける。そして美姫の言葉で、リーナは改めて美姫達に世界の命運を託す意志を固める。そんな戦士達の不安や戦う意志が入り混じったこの日の夜は、太陽が昇っても明けることはなかった。



「力が溜まったか…。」

 一方、ママーハハは自身の体に本来の力が溜まるのを感じる。

「そろそろ行くか…。」

 ママーハハはそう言って人間界へ赴く。そして人間界に赴いたママーハハが力を発揮しするとママーハハの発する黒いオーラが空を覆い、空は怪しげな色に染まる。

「おいでなさったか、ママーハハ様。」

 パンドラスはビルの屋上からママーハハの巨体を眺める。そしてパンドラスの元に、再び剣二、輝弓、依斧の三人が駆けつける。

「あれはママーハハの力か?パンドラス。」

「何か昨日より雰囲気ヤバくね?」

 剣二と輝弓はパンドラスに尋ねる。

「ああ、昨日は取り込んだ幹部達の力を上手く扱えなかったってのもある。だが力を溜めたおかげでより強力な力を得た。あれがママーハハ様の本当の力と言えるかもな。」

 パンドラスはいつになく真剣な目つきで語る。

「俺達が早まらなければ、この戦いに備えることが出来たのに…。」

「悔いるな依斧、ママーハハを倒すためなら美姫達だけで十分だ。」

 戦えないことを悔いる依斧を剣二は励ます。そして剣二もパンドラスに並び、ママーハハを見つめる。

「頼んだぞ美姫、みんな!」

 剣二は美姫達に希望を託すのだった。



「この人間界は(じつ)に個性的な生命体で溢れかえっている。是非とも我のシナリオで動かしたいものだ。」

 ママーハハは人間界を見渡しながらそう言う。そしてママーハハは視線を前に向ける。

「その前に、まずはパンドラスを取り込んで完全な力を手に入れるか…。」

「そうはさせない!」

 パンドラスを取り込みに行こうとするママーハハに、美姫の声が響き渡る。そしてママーハハが見下ろすと、そこには美姫達六人の姿があった。

「この世界を、あんたの好きにはさせない!」

「この世界に生きる者はみんな、シナリオで動かないの!」

「この世界を荒らす者、(わたくし)達が排除致します!」

「あなたを倒して、幸せな未来を築きます!」

 夜衣魚、林檎、竹月、風布花の四人がママーハハに向かって叫ぶ。そしてアラモードは真剣な眼差しでパフェを食べている。

「ママーハハ、ちんけな人間なんて一捻りだとか驕り高ぶらないでよね!」

 そして最後に美姫が啖呵を切り、ママーハハと六人は対峙するのだった。

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