第二十八話 ダイヤモンドを受け継ぐ者
何処にでもいるはずの女性、桜名美姫はホロテイルジュの戦士シンデレーザーとして戦っていた。ダークストーリーズはトップであるママーハハの登場により勢力を増しつつあった。ホロテイルジュのトップであるエメラルディアの正体は美姫の祖母、琴姫の弟の土ノ瀬真亜琴だった。そしてエメラルディアは美姫にホロテイルジュを創設した当時の話をする。嘗て不思議な宝石を見つけた琴姫と真亜琴は星座と童話の力を使いダークストーリーズと戦う。そしてホロテイルジュを創設する二人。やがて戦士も増えて組織として戦力を拡大したが、戦死者も続出するようになり琴姫と真亜琴の考えはすれ違ってしまう。そして琴姫はダイヤモンドの指輪を持ってホロテイルジュから姿を消してしまうのだった。
エメラルディアから琴姫がホロテイルジュを抜けた理由を聞いた美姫、そして鈴木林檎。二人はホロテイルジュを抜けた琴姫に自分達を重ねていた。
「やっぱり、お祖母ちゃんも今のホロテイルジュに疑問を持っていたんだ…。」
美姫はそう呟く。そしてエメラルディアは琴姫が姿を消したその後の話をする。
琴姫が失踪した後のホロテイルジュでは混乱に陥っていた。
「琴姫さんがいなくなったって、本当ですか⁉」
ある女性が真亜琴に尋ねる。その戦士は琴姫を慕っている戦士だった。
「ああ、姉さんは戦士でいることが嫌になったんだ。」
「そんな、真亜琴さんが無理強いするようなことを言うからじゃないですか?」
「黙れ!」
真亜琴はその女性に思わず怒鳴ってしまう。真亜琴にとって耳の痛い言葉を言われたからだ。
「真亜琴さんは戦士であることに固執し過ぎです。もう戦争時代じゃないんですよ。」
女性は真亜琴にそう言い放つとその場を立ち去る。そして真亜琴は悔しさを噛み締めるのだった。
その後真亜琴は星座と童話の力を振り絞り、今の空間と城を築いた。少しでも長く戦い続けるために体の衰えを遅らせるためだ。そしてもう一つ、真亜琴は他の誰かと意見がすれ違うことに嫌気を覚えていた。だから自分だけの空間を作ることによって他人と距離を置くという目的もあった。いつしかホロテイルジュで真亜琴の本名を知る者はいなくなり、皆が真亜琴のことをエメラルディアと呼ぶようになった。
琴姫が姿を消してから四十年程過ぎた頃、ホロテイルジュは相変わらず戦士の交代を繰り返しながらダークストーリーズと戦っていた。真亜琴は完全に本名を捨て、エメラルディアを名乗るようになっていた。そしてエメラルディアは自身のいる空間から少しでも出ることを避け、司令塔のような役割を果たすようになった。流石に四十年も過ぎると琴姫を知る者は居なくなっていたが、しかしエメラルディアに反発する者も多く、エメラルディアは組織を統率することに疲れを覚えていた。
「はぁ…。」
エメラルディアは思わず溜め息を吐いてしまう。エメラルディアはそう言って一人椅子に座る。そんな時、ふとエメラルディアの元にある戦士が訪れる。
「エメラルディア様、お電話が。」
「電話?」
エメラルディアはその言葉を不思議に感じる。洋館の電話番号、つまりホロテイルジュの所在地を知る者は戦士以外にいなかった。
「電話なんて、掛ける者が…。」
エメラルディアは不思議に感じながら洋館に戻り、電話に出る。すると電話越しに聞こえた声は意外な人物だった。
「真亜琴、元気?」
「姉さん⁉」
エメラルディアに電話を掛けたのは琴姫だった。久し振りにその声を聞き驚くエメラルディア。
「姉さん、今どこにいるんだよ!」
「えっと…。」
エメラルディアは琴姫に問い詰めるが、琴姫は答えようとしなかった。
「やっぱり、戻る気はないんだね。」
「…ええ。」
琴姫は少し言葉を詰まらせながら答える。どうしてもホロテイルジュに戻るつもりがなかった。そして琴姫は話を逸らす。
「それより、まだ戦ってるの?もう随分年だと思うんだけど。」
「生憎だけど戦ってるよ。なんとか年を取らないようにしているからね。」
「あら、どうりで声が若いままだと思ったわ。」
「そんなことどうでもいいでしょ。そんなことより用件は何?」
エメラルディアが琴姫を急かし、琴姫は漸く本題に入る。
「そうそう、実は私に孫が産まれたの。二人目の孫よ。」
「何だよ姉さん、こっちは結婚したことも知らないのに孫、しかも二人目って。」
琴姫がエメラルディアに伝えたかったのは孫が産まれたということだった。しかしエメラルディアにとっては琴姫が普通の生活をしていることで自分への当てつけのように聞こえた。
「何だよそれ、姉さんに孫が産まれようがこっちには知ったことじゃない。じゃあ切るね。」
「待って真亜琴!」
琴姫を冷たく突き放して電話を切ろうとするエメラルディアだったが、琴姫がそれを慌てて止める。
「実は、その孫にダイヤモンドの指輪が反応したの。」
「…え?」
エメラルディアは琴姫の言葉に耳を疑う。
「私はその子を最強の戦士に育てようと思う。実際戦うかどうかはその子次第だけど、でもあなたの言うような戦いだけの子になんかしない。私はちゃんと自分の生活も大事にして、他の戦士の事情にも気を配れるような優しい戦士にしたいと思ってる。そうなったらきっとホロテイルジュの切り札になるわ。」
「…そう、でもそんな戦士になんかできるわけない。戦士である以上、自分の生活なんて捨てるしかないんだから。」
琴姫は産まれた孫を戦士に育てようと考えていた。しかしエメラルディアはできないと否定する。
「まあ期待していて、それとそれまで頑張って戦ってね。陰ながら応援しているから。」
「ちょっと姉さん⁉」
琴姫は最後にそう言い残し、電話を切る。これが、琴姫とエメラルディアの最期の会話だった。
「それが、姉さんとの最期の会話だった。」
「そう、なんですか…。」
エメラルディアは長く続いた話を漸く終える。美姫は琴姫が自身に託していた想いを感じ取り、涙を浮かべていた。
「やっぱり、お祖母ちゃんは優しい人だったんだ…。」
そしてエメラルディアは美姫に話す。
「どうやら姉さんはお前にホロテイルジュの話をする前に死んだようだが、姉さんの言う通りお前はホロテイルジュの切り札となる力を持った訳だ。」
エメラルディアは美姫が、琴姫の言う通りホロテイルジュの
「お祖母ちゃんは生前にいつも言っていた、ちゃんと他の人に気を配れるようにしなさいって。お祖母ちゃんは最初から、私を強いだけじゃない戦士に育てようとしていたからなんだね。ずっとお祖母ちゃんを信じていて良かった。」
美姫はずっと祖母の琴姫が無慈悲に自身を戦わせようとしていたのではないかと考えていたので、琴姫は優しい戦士にしようとしていたことが嬉しかった。しかし、林檎は一つわからないことがあった。
「あの、一つお尋ねしてもいいでしょうか?」
林檎はエメラルディアに尋ねる。
「何だ?」
「美姫さんのお祖母さんは戦うだけじゃない戦士を目指していました。そしてその通り美姫さんも私達も普段の生活と両立させながらダークストーリーズの幹部を倒し、結果を残してきました。それでもどうしてあなたは戦いに専念することに固執するのですか?」
林檎が気になっていたのはエメラルディアが尚も戦いに固執していたことだった。しかしエメラルディアは強く言い放つ。
「今、ホロテイルジュが一番強くなっているからだ。」
「「…え?」」
美姫と林檎はエメラルディアの言葉に首を傾げる。
「最初から言っているだろう、今は初めて宝石の分だけ揃っているからダークストーリーズを倒す絶好の機会だと。確実にダークストーリーズを倒すには組織力が必要不可欠なんだ。」
エメラルディアはあくまでダークストーリーズを撃滅する機会を逃したくない一心だった。それには美姫も林檎も理解こそすれど賛同はどうしてもできなかった。
「今、戦いに身を捧げるのはお祖母ちゃんの理想に反します。やっぱり私は戦うためだけの戦士にはなれません。」
「行きましょう美姫さん、やっぱり話が通じないです。」
美姫と林檎はそう言ってエメラルディアの元から離れようとするが、エメラルディアは二人を止めるように叫ぶ。
「時間がないんだ!」
「え、何?」
二人は驚いて立ち止まってしまう。そのエメラルディアの叫びは感情が籠っていた。
「早くしないと、戦士が減るんだ。」
「それ、どういうことですか…?」
美姫はエメラルディアの言葉が気になり尋ねる。そしてエメラルディアは悲しい顔を浮かべながら話す。
「リーナが美姫にペリドットの指輪を近付けた際、美姫の体が反応したそうだな。」
「はい、確か私はお祖母ちゃんの戦士としてのDNAを受け継いでいる可能性が高いからですよね?」
「ああ、そして恐らくその時ペリドットはより強い戦士としてお前を選んだ。」
「それって…。」
美姫はエメラルディアの言葉に何か嫌な予感を感じていた。そしてエメラルディアの言葉で、それは確信に変わる。
「もうじきペリドットの資格は美姫に渡り、リーナはペリドットの資格を失う。」
エメラルディアの言葉で、美姫と林檎は目を丸くしてしまう。そしてその場にいたリーナ・ジーニアスは重い雰囲気に耐えられなくなってしまう。
「エメラルディア様、ここで失礼致します。」
リーナはそう言うと早足で美姫と林檎を追い越し、部屋を出る。林檎は、そのリーナの様子を気に掛ける。
「美姫さん、先に帰ってもらってもいいですか?私ちょっとリーナのところに行きます。」
「うん、わかった。」
林檎はリーナの元に行くことを決める。そして美姫は林檎を見送ってエメラルディアの元を後にするのだった。
一方、リーナは実・ファンタジアの部屋で黄昏れていた。
「リーナ、あの人達に知られちゃった感じ?」
「…ええ。」
リーナは実の問いに覇気のない声で答える。
「いずれ彼女達にも知ってもらわなければならないことはわかっています。それでも少し弱みを見せているような気分ですね…。」
リーナは戦士でなくなるという事実を知られることが自身のプライドとして許しがたいものだった。
「まあ私達はエメラルディア様に拾われてから今日まで戦士として育って来たからね。」
実はリーナを慰めるようにそう言い、そっとリーナを抱き寄せる。
「実、何を…?」
「だってリーナ、こうして欲しかったんでしょ?」
リーナは一瞬戸惑ってしまう。しかし実はリーナの気持ちを見透かすように言う。
「やはり、こういう時は実の方が一枚上手ですね。」
リーナはそう言って実にキスをする。そして二人はベッドに行き、実はリーナをゆっくり押し倒すように横たわる。
「リーナ、大好き。」
「私もです、実。」
そして二人はゆっくりと顔を近付け合う。
「何やってるの?」
その瞬間、林檎が部屋に入って来て二人に話し掛ける。
「あ。」
「鈴木林檎…。」
リーナと実は固まってしまう。そして気まずい気持ちは林檎も同じだった。
「えっと…、後で来るね。」
林檎はそう言って部屋を出ようとするが、リーナが引き留める。
「別に構いません、ご用件をどうぞ。」
「あ、いいんだ…。」
林檎は気まずい雰囲気のまま部屋に再度入る。しかしリーナと実は林檎を軽く睨み付けていた。
「あなたも見てしまいましたね、私達の関係を。」
「あ、ごめん…。」
「大問題だよ、桜名美姫に続いてあんたにまで見られるなんて。」
「美姫さんも同じ目に遭ってたんだ…。」
リーナと実は林檎に自分達の関係を見られたことを気にしていた。しかし林檎はなんとか二人を励まそうとする。
「まあ、別に気にしなくていいよ。女同士っていうならあんた達だけでもないし。」
「まさか、私達と桜名美姫と赤園風布花以外にもいると言うのですか?」
「…は?」
林檎はリーナの放った言葉に違和感を覚える。自分達のことを言うのは問題ないのだが、何故美姫と赤園風布花が挙がったのか疑問に感じる。しかし林檎は突然察する。
「もしかして、美姫さんと風布花ちゃんが何かしてた?」
林檎はリーナに美姫と風布花のことを尋ねる。
「彼女らは洋館で不埒な真似をしようとしていたのです。」
「なるほど…。」
林檎はまた風布花が美姫にキスをしようとしていたことを察する。
「わかった、私からもあの二人に言っておくね。」
林檎は美姫と風布花に説教することを心に決める。そして林檎はリーナと実に話を続ける。
「まあ、女同士でいうと夜衣魚もその気が出て来たし、アラモードと竹月ちゃんも普通に付き合ってるんだよね。」
「うっそ~、あのパフェ女と優等生ちゃんが付き合ってるの⁉」
林檎は水原夜衣魚、双見アラモード、三浦竹月について話す。実はアラモードと竹月の関係に驚いてしまう。
「そう言えば三浦竹月と戦っているところに双見アラモードが乱入した際、恋人と言っていたような…。」
リーナは竹月と戦った時のことを思い出していた。
「じゃあホロテイルジュって女同士で恋愛を繰り広げている感じなんだ~!」
「まさか私達だけではないとは…。」
何故か実は酷く興奮し、リーナは酷く落ち込んでしまう。どちらにしろ二人の様子は林檎にとって鬱陶しいものだった。
「あの~、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?私恋愛の話をしに来たんじゃないので。」
「すみません、取り乱しました。」
「そっか、これじゃないもんね。」
リーナと実の二人は一旦落ち着き、林檎は話を始める。
「リーナ、ペリドットの資格の件なんだけど…。」
「ああ、その話ですか。」
リーナは林檎の話に呆れるような口調で返す。
「リーナは戦士の資格を失ったらどうするつもりなの?」
林檎はリーナにそう尋ねる。そしてリーナは答える。
「戦士の資格を失う前にダークストーリーズを倒せばいいだけのことです。」
「じゃあダークストーリーズを倒したら、その後はどうする?」
「それは…。」
リーナは急に林檎の問いに答えられなくなる。今まで世界を守るために戦って来たつもりであったが、その後のこととなると何も思いつかなかった。
「人は戦いだけが全てじゃない、多分美姫さんのお祖母さんが言いたかったのはそれだと思う。戦うことを目的としたら世界は守れない、ちゃんと守るべきものが何かを考えないとダメなんだと思う。」
林檎はそう言ってリーナを諭す。そしてリーナもその言葉は胸に響いていた。
「三浦竹月にも似たようなことを言われました、私は守られる者のことを考えていないと。」
リーナは竹月にも言われていたことを思い出す。しかし林檎は咎めるようなことは言わなかった。
「うん、でも正直仕方がないところもある。エメラルディア様に引き取られてから二人共ずっと他の人と接して来なかったんだもんね。」
「やはりそのことも知っていましたか。」
「前に風布花ちゃんが教えてくれたんだ。」
林檎は風布花からリーナと実が両親を失いエメラルディアに引き取られていたことを聞いていたため、二人が戦いのことしか考えられなくなっていた事情を察していた。そしてそれは竹月も同様だった。
「竹月ちゃんもそのことを知ってる。だけど流石に学校に押しかけるのは許せなかったんだと思うんだよね。」
「そうですね、私が焦り過ぎていました。」
林檎の言葉で、リーナは漸く自身の行いを戒めていた。
「でもさ、実際戦いが終わったら何をすればいいの?私達は戦いしか知らないしさ。」
実はふと林檎に尋ねる。そして林檎は優しく実に答える。
「もっと色んな人達を見ればいいと思う。みんなが何をしているのか、何を大事にしているのか、それに気を配ったら?そうすれば多分、今私達がエメラルディア様に従えない理由もわかるから。」
林檎はそう言い残し、二人の元を後にするのだった。林檎が去った後、リーナと実は少し深刻な雰囲気になっていた。
「今まで考えたこともなかったなぁ、戦いが終わった後のこととか。」
「ええ、私達は戦いに身を捧げることを心に誓った身であるので歴代の戦士の方々と同じように戦死をするものだと思っていましたから。しかしあの方々はダークストーリーズを倒し、平和な世界で日常を送ることを確信しています。それが私達とあの方々との違いなのでしょう。」
リーナと実は美姫達がホロテイルジュを抜けた理由を理解しつつあった。そして二人の気持ちに変化が訪れるのであった。
一方その頃、ダークストーリーズではエメラルディアの登場に未だ沈んだ様子だった。
「はぁ…、かったりぃな。」
パンドラスは寝転びながらそう呟く。パンドラスはエメラルディアの登場ですっかり意気消沈していた。するとそこにカイザードが現れる。
「エメラルディアがどれだけ強かろうと、あなたのやることは決まっているはずですよ。」
「ちっ。」
パンドラスはカイザードを疎ましく思い、カイザードを睨み付ける。
「あのなぁ、エメラルディアがまだ生きてるんだぞ!しかも強さもそのまんまだ、どうやってモチベーション上げろってんだよ。」
パンドラスは立ち上がるとカイザードにそう言い放つ。そして再び寝転んでしまう。
「はぁ…、わかりました。今度は私が行きます。」
カイザードはパンドラスに呆れるようにそう言うと人間界へ赴くのだった。
それから数日後、美姫はいつものように仕事に励んでいた。美姫は自身の祖母である琴姫のことが知れて少しすっきりした気持ちだった。するとそこに美姫の上司が話し掛ける。
「桜名、最近どうだ?」
「え、何もないですけど…?」
美姫は突然上司から気を遣うようなことを言われ、戸惑ってしまう。
「いや、最近どこか思い込んでいるような感じだったからな。この前会社に押しかけて来た女性のこともあるし、何かお前が仕事以外のことで大変なのかと思ってな。」
「あ、いや…。」
美姫は少し図星を突かれた気分だった。美姫はホロテイルジュのことと仕事を混同しないように気を付けていたので、それを悟られることは失態に感じたのだ。
「すみません、最近私用で立て込んでて。でも必ず終わらせて仕事に専念するので。」
美姫は慌てて弁解するように答える。
「そうか、まあ無理はするなよ。」
「ありがとうございます。」
美姫の上司は励ますように言う。そして美姫は再び仕事に励む。しかし突然、ある女子社員が慌てた様子で駆け寄って来る。
「大変です!会社に謎の怪物が押しかけて来てるんです!」
「何だって⁉」
美姫の上司は酷く驚く。しかし美姫はあまり声を出さないだけでそれ以上に驚いていた。
「何で会社にダークストーリーズが?」
美姫は急いで怪物が来ているというところまで行こうとする。
「桜名、どこに行く?」
「あ、いや…。」
しかし上司に止められ、美姫は戸惑ってしまう。今ここで美姫が仕事を放棄して戦いに行けば、エメラルディアの思うような戦士になってしまうと感じたからだ。しかし会社にダークストーリーズが来ている以上、このまま見過ごす訳にも行かなかった。
「すみません!急に私用を思い出しました!」
美姫は叫ぶようにそう言ってオフィスを飛び出すのだった。
「さて、この建物の中にシンデレーザーがいるはずです。」
カイザードは以前屋上で美姫と会った建物であることを頼りに美姫が勤めている会社を押しかけていた。
「さあどこですシンデレーザー、さっさと出て来なさい!」
カイザードはそう言って暴れる。そしてそこにいた者はカイザードの姿に慌てふためいてしまう。カイザードはふと一人の中年男性の頭を掴み、睨み付けながら尋ねる。
「こんな会社で働いて、あなたも大変でしょう。ここで思いの丈をぶつけたらどうです?」
「な…、何⁉」
その男性は戸惑うが、カイザードに唆され鬱憤を話す。
「ああ、上司にはどやされ部下からは忌み嫌われこちとら大変なんだよ!趣味もバイクくらいしかないし、もうこの世界をぶっ潰したいくらいだ!」
男性の魂の叫びのようなものにカイザードは笑みがこぼれる。
「いいですねぇ、その悪意を使わせて頂きます。」
カイザードはそう言うと男性の頭に手を翳し、マリスを産み出す。そしてそこに美姫が駆けつける。
「カイザード、何やってる訳⁉」
「おやおや、やはりここにいましたかシンデレーザー。」
カイザードは読み通り美姫が来たことに微笑む。しかし美姫は苛立つようにカイザードを睨み付けていた。
「こっちは一回も敵陣に踏み込んだことなんてないっての!」
美姫はそう言いながらカイザードとマリスに向かって走り、二体の首を掴む。
「ここから出てけー!」
美姫は窓を開き、カイザードとマリスを突き落とす。そして自身も窓から飛び降りる。
「あなたもなかなかやりますねぇ。」
カイザードは落下しながら美姫に嫌味を言う。
「あんたらを倒すためだからね!」
美姫はそう返すと、本を開く。
「おとめ座!ダイヤモンド!シンデレラ!」
美姫はそう叫んでシンデレーザーになり、再び本を開いてカボチャの馬車を召喚する。カボチャの馬車はカイザードとマリスに突撃すると地面に着地する。そして地面に叩きつけられるカイザードとマリスを横目にシンデレーザーは馬車に無事着地する。
「ふぅ…。」
無事に着地したシンデレーザーは一息つく。
「おのれシンデレーザー…!」
カイザードは悔しさを噛み締めるようにそう言うと、マリスの尻を蹴り上げる。
「ほら、シンデレーザーに対抗しますよ。」
カイザードがそう言いながらマリスの尻を蹴り上げると、マリスはバイクに変形する。カイザードがそのバイクに乗り込むと、どこかへ走り出す。
「ちょっと待ちなさい!」
シンデレーザーもカボチャの馬車でカイザードを追いかける。そしてシンデレーザーとカイザードは人気のない場所に行き着く。
「はぁぁ!」
シンデレーザーは馬車から飛び出しレーザー銃をカイザードに放つ。
「くっっ…。」
カイザードはシンデレーザーの攻撃に後ずさりながらもマリスと共にシンデレーザーに襲い掛かる。
「はぁぁ!」
カイザードとマリスも共にシンデレーザーに蹴りを打ち込み、シンデレーザーとカイザードは一進一退の攻防戦を繰り広げる。するとそこに、光の穴が現れそこからエメラルディアが現れる。
「エメラルディア?」
「何でここに?」
カイザードとシンデレーザーは共にエメラルディアの登場に戸惑う。そんな中、エメラルディアは本を開く。
「いて座!エメラルド!アリババと40人の盗賊!」
エメラルディアがそう叫ぶと空が暗くなり、いて座が現れる。そして空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「我が元に!」
エメラルディアがそう叫ぶといて座の最輝星が光を放ち、エメラルディアのしているエメラルドの指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、エメラルディアの体を包む。やがてエメラルディアの体は光を放ち、戦士へとその姿を変える。
「エメラルディア!」
エメラルディアは名乗り、マリスに向かってゆっくりと歩き出す。
「いっかくじゅう座!」
エメラルディアはそう叫ぶとユニコーンの角の幻影を纏った拳を打ち込む。続いてエメラルディアは本を開く。
「ジャックと豆の木!」
エメラルディアがそう言うとマリスの足元から巨大な豆の木が現れマリスを巻き込んで伸びる。豆の木に絡まったマリスは身動きが取れなくなる。
「美姫、決めろ。」
「え?」
シンデレーザーは突然のエメラルディアの言葉に戸惑うが、マリス目掛けてレーザー銃を構える。
「レーザーストライク!」
シンデレーザーの放ったレーザー光線はマリスに直撃し、マリスは消滅する。
「くそっ、これは分が悪い。一旦退きましょう。」
カイザードはそう言って人間界を去る。そしてその場にいたシンデレーザーとエメラルディアは元の姿に戻る。
「あの、エメラルディア様…。」
美姫はエメラルディアに話し掛ける。
「何だ?」
「あの、助けて頂きありがとうございました。」
美姫は少し戸惑いながらそう言う。そして美姫は会社に戻ろうとする。しかしエメラルディアは美姫を引き留める。
「待て美姫。」
「はい?」
「ダークストーリーズはもう、お前の日常にまで踏み込んでいる。それでもお前は今の生活を続けるというのか?」
エメラルディアは美姫にそう尋ねる。エメラルディアの言葉は尤もだった。ダークストーリーズに勤務先の会社が知られた以上、これからも狙われることは確実だった。しかしそれでも美姫の決意は揺るがなかった。
「はい、もう無茶なことをしているというのは薄々気付いていました。でもやっぱり、私は今の生活を大事にしたいんです。」
美姫は優しい表情でそう言う。その言葉に、エメラルディアは琴姫の面影を重ねていた。
「やはり、姉さんそっくりだな。」
エメラルディアは美姫にそう言う。そしてエメラルディアはある話をする。
「そうだ、余談なんだが…。」
「はい…。」
「姉さんは多分、お前がペリドットの資格者であることを知らなかったと思うぞ。」
「…え?」
美姫はエメラルディアのその言葉に耳を疑ってしまう。しかしエメラルディアにはそう考える根拠があった。
「姉さんはホロテイルジュの指輪はダイヤモンドしか持っていなかったし、お前にペリドットの資格もあることなど知り得なかったはずだ。」
「あ…。」
美姫はエメラルディアの言葉に思わず納得してしまう。しかし一つだけ引っ掛かることがあった。
「じゃあ、何でお祖母ちゃんは私にペリドットの指輪をあげようとしたんですか?」
美姫はエメラルディアにそう尋ねる。美姫にペリドットの資格があると知らない琴姫が何故ペリドットの指輪をあげようとしたのか、美姫はそれがわからなかった。しかしエメラルディアが返した答えは単純なものだった。
「多分、普通にお前にペリドットの指輪を買ってあげようとしただけだろう。姉さんは普通に宝石好きだったからな。」
「そ、そういうこと…。」
美姫はその答えに拍子抜けしてしまう。思えばペリドットは美姫の誕生石であったのだ。
「まあそう言うことだ、それじゃあな。」
エメラルディアはそう言って美姫の元を後にする。そして美姫も唖然としながら会社に戻るのだった。




