第二十七話 明かされる過去
何処にでもいるはずの女性、桜名美姫はホロテイルジュの戦士シンデレーザーとして戦っていた。ダークストーリーズはトップであるママーハハの登場により勢力を増しつつあった。ダークストーリーズの新たな幹部ロバーズの正体は嘗ての美姫の恋人鴻野義重だった。そのことにショックを受ける美姫。一方のリーナ・ジーニアスは自身の力の変化に気付く。そのことをエメラルディアに尋ねると、エメラルディアから衝撃の事実を突き付けられる。焦りを覚えたリーナは三浦竹月の学校に押し入り、竹月を無理矢理連れようとする。そしてぶつかるリーナと竹月だったが、そこに次々とダークストーリーズの幹部とホロテイルジュの戦士が集結し、激しい戦いを繰り広げる。そしてリーナ、そして実・ファンタジアにピンチが訪れた時、エメラルディアが現れ戦士の姿になる。幹部達を圧倒し、撤退させたエメラルディアは美姫に衝撃の事実を告げる。エメラルディアは美姫の祖母である琴姫の弟、土ノ瀬真亜琴だった。
「エメラルディア様が、お祖母ちゃんの弟…?」
美姫はエメラルディアの正体にショックを隠せなかった。そして他の皆も疑問に思っていた。
「おかしくない?エメラルディア様って四十代くらいに見えるよ。かなり年の差姉弟ってこと?」
水原夜衣魚は鈴木林檎にエメラルディアの外見から年齢が合わない疑問をこっそり話す。しかしリーナはそれをしっかり聞いていた。
「そのことに関して、今から説明しようと思います。」
「やばっ、聞こえてた…。」
夜衣魚はリーナに話を聞かれていたことに焦ってしまう。そして夜衣魚はエメラルディアに話し掛ける。
「あの~エメラルディア様、私これから仕事があるので少し席を外しても宜しいでしょうか?」
夜衣魚は仕事を理由に同行を断る。
「はぁ…、やはり生活を捨てられないか。まあいい、来なくていい。」
エメラルディアは溜め息を吐きながらそれを許可する。
「私もここで失礼致します、リーナさんのせいで学校を抜け出してきているものですから。」
竹月もリーナに対しての当てつけを言いながら同行を断る。
「じゃあ私も行かない、糖分切れたし。」
そして竹月に便乗するように双見アラモードも同行を断る。
「風布花ちゃんももう帰ったら?もう疲れたでしょ。」
林檎は赤園風布花に帰るよう勧める。
「でも林檎さん、美姫さんの大事な秘密が…。」
「大丈夫、私が行くから。」
林檎は自身に任せるよう言って風布花を帰らせる。
「それじゃあ美姫さん、行きましょうか。」
「うん…。」
美姫は林檎に少し覇気のない返事をする。こうしてエメラルディア、リーナ、実、桃井剣二、浦賀輝弓、金山依斧、そして美姫と林檎はエメラルディアの城へと赴くのだった。
一方のダークストーリーズは、エメラルディアの出現に焦りを覚えていた。
「エメラルディアの野郎、何であいつが生きてんだよ。」
パンドラスは苛立ちを隠せなかった。ずっと姿を現わさなかったエメラルディアが寿命で死んでいたと思ったからだ。
「素っ頓狂な力を使う者達です。何かしらの小細工をして老化を防いでいるのでしょう。」
カイザードはパンドラスに自身の推測を話す。そしてパンドラスは、ある懸念を話す。
「エメラルディアが生きていたってことは、ダイヤレーザーも生きているってことか?もしそうだったらどうする?」
パンドラスが懸念していたことはダイヤレーザーも生きているかも知れないということだった。ダイヤレーザーはダークストーリーズにとって、エメラルディア以上に強力な戦士だった。しかしカイザードはパンドラスの考えを否定する。
「いえ、それはないでしょう。ダイヤモンドの指輪は今、シンデレーザーが持っています。ダイヤレーザーも生きているとは思えません。取り敢えず現在のホロテイルジュの戦士は全て確認しました。案ずることはないでしょう。」
カイザードはパンドラスにそう答える。そしてロバーズがカイザードの元を訪れる。
「カイザードさん、何で戦いから撤退したのですか⁉私はまだ戦えました。」
ロバーズはカイザードに抗議するが、カイザードはロバーズを宥めるように言う。
「あなたもエメラルディアの強さを見たでしょう。彼は他の戦士とは比べ物にならない程の星座や童話の力を使います。」
カイザードの言葉で、漸くロバーズは落ち着く。
「今はエメラルディアに気を付けろ、ってことだな。」
パンドラスはそう言ってカイザードの元を離れるのだった。
美姫と林檎はエメラルディアの元に来ていた。美姫と林檎が横に並び立つ。そしてリーナが話を始める。
「この空間は特殊な空間になっていて、体の老化が著しく遅くなるのです。」
「そうなんだ…。」
美姫と林檎はリーナの説明を受け、エメラルディアの年齢がおかしいことに合点が行く。そして林檎が尋ねる。
「それじゃあ、エメラルディア様は幾つなの?」
「生年月日から計算すると、エメラルディア様は御年87歳になります。」
「そう!なんですか…。」
林檎は驚いてしまうが、美姫はエメラルディアが祖母の弟だと知っているのでなんとなくわかっていた。
「それじゃあ、説明してもらいますか?」
美姫は改めてエメラルディアに説明を要求する。
「ああ、いいだろう。」
エメラルディアはそう言うとゆっくりと説明を始める。
「まず、ホロテイルジュは俺と姉の琴姫の二人で創設した組織だ。」
「でも、書庫の本にはエメラルディア様の名前など記されていませんでした。」
「それは、名前を記すのに抵抗があったからだ。」
「はい…?」
美姫と林檎はエメラルディアの言葉に唖然とする。確かにエメラルディアの存在は書庫のどの本を読んでも書かれていなかった。そしてエメラルディアは更に話を続ける。
「今からおよそ70年前、俺と姉さんは不思議なダイヤモンドとエメラルドの宝石を見つけた。俺達の体に反応するように眩い光を放つ宝石をな。」
「それが、力との出会い…。」
「ああ、そういうことだ。そして俺達の二つ目の出会いが、星座だ。」
「星座?」
「ああ、それぞれの宝石を夜空に掲げると公転周期など無視して星座が現れた。俺にはいて座、姉さんにはアンドロメダ座だった。」
「アンドロメダ座、それがお祖母ちゃんの星座…。」
美姫は祖母である琴姫の星座を知り、感銘を受ける。
「そして三つ目の出会いが童話だ。姉さんは童話が凄く好きで、よく分厚い童話集を作っていた。ある日、姉さんが作っていた一冊の本の文字が全て消え、姉さんの一番好きな六羽の白鳥の物語が刻まれていた。」
「六羽の白鳥…。」
美姫はその童話のことをよく知っていた。六羽の白鳥は美姫が初めて琴姫に読み聞かせてもらった童話だった。そしてその後もエメラルディアは話を続けるのだった。
星座、宝石、童話の三つに出会った琴姫、琴姫はダイヤモンドとエメラルドの宝石から指輪を作り、エメラルディアとなる前の真亜琴と共に肌身離さず身に付けていた。そしてある時人間界にダークストーリーズが現れた。
「ははは!ダークストーリーズの御前だ、ひれ伏せ人間共!俺様はダークストーリーズの幹部、デビルホーン様だ!」
「同じく、パンドラスだ。」
「同じく、ギルベアー。」
「同じく、バブルガスだよ。」
「同じくウィッチ・シスターズの姉、ウィッチ・レフター。」
「そして私は妹のウィッチ・ライター。」
「同じくダークストーリーズの幹部、スーター。」
「同じく、ウルフィンだ!」
「同じく、カイザード。」
「同じくフックガン、大海原が俺を呼ぶぜ!」
街に現れた十体の怪物はそれぞれ自身の名を名乗り、街を破壊しながら暴れていた。
「俺達の目的はこの世界を全てシナリオで動かすこと、そのためにこの世界の奴は全て俺達に従ってもらう。」
デビルホーンは先陣を切るようにそう言う。そして暴れるダークストーリーズの幹部達に人々は成す術がなかった。それは琴姫、そして真亜琴も同じだった。二人は物陰から怪物達を見つめる。
「なんとかあの怪物からこの世界を守る方法はないかしら?」
「何を言っているんだよ姉さん、そんなことできる訳ないだろ。」
琴姫は何も出来ない自分に歯痒さを感じていた。しかし琴姫の思いが通じたのか、ある奇跡が起きる。ダイヤモンドの指輪が光り出し、空が突然暗くなる。
「何だおい!」
「何で暗くなった?」
デビルホーンとパンドラスは突然の現象に戸惑っていた。そして琴姫が偶然持っていた本も光り出す。
「これは…?」
琴姫はこの時、今までの不思議な出会いに運命を感じていた。そして、琴姫はある決断をする。
「私、なんとかできるかも知れない。」
「え?」
琴姫の言葉に、真亜琴は疑問を抱く。琴姫はダークストーリーズの怪物達と戦うつもりでいた。
「無茶を言うなよ、あんな恐ろしい怪物相手に無事で済むはずがない。」
「でも、この指輪が光っているの。これは力を貸してくれるお告げなんだわ。」
引き留めようとする真亜琴を振り切り、琴姫はダークストーリーズの前に立つ。
「怪物さん達、そこまでよ!」
琴姫は立ちはだかるが、膝はがくがくと震えていた。
「何だいあんた、そんなに怯えて死にに来たのかい?」
バブルガスはそう言って琴姫を嘲笑う。恐くなった琴姫は指輪に祈っていた。すると琴姫の願いに呼応するかのように空にアンドロメダ座が現れる。
「アンドロメダ座…!」
そして本を開くと、本に刻まれた六羽の白鳥の文字も光り出す。その現象を見て、琴姫は完全に覚悟を決める。
「星座と宝石と童話が私に力を貸してくれる、あなた達と戦う力を!」
「はぁ⁉」
琴姫の言葉にバブルガスは呆然とする。しかし琴姫は勇気を振り絞って叫ぶ。
「アンドロメダ座、ダイヤモンド、六羽の白鳥、私に力を貸して!」
琴姫がそう叫ぶと空から不思議な高いトーンの女性の声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来て!」
ミラクルフォース、その言葉に琴姫は頼もしさを感じていた。そして思わず来てと叫ぶ。するとアンドロメダ座の最輝星が光を放ち、琴姫のしているダイヤモンドの指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、琴姫の体を包む。
「何?何が起こっているの?」
琴姫は戸惑ってしまうがやがて琴姫の体は光を放ち、その姿を変える。
その姿は煌びやかな白いドレスにダイヤモンドが散りばめられ、背中には白鳥の翼が生えていた。顔にもいつの間にか綺麗なメイクが施され、髪も綺麗に纏まっていた。
「この姿は…?」
琴姫は自身の姿に驚いていた。それは真亜琴も、そしてダークストーリーズの面々も同じだった。
「姉さんが、変わった…?」
「何だいその姿は?」
「まさか人間にそんなことができるとは…。」
バブルガスとカイザードは琴姫の姿に目を見張る。そんな中、琴姫は勇気を振り絞って歩き出す。
「おい、こんな奴ぶっ倒しちまおうぜ。」
ウルフィンは琴姫を見て闘争本能が湧く。そしてウルフィンは琴姫に向かって走り出し、鋭い爪で攻撃しようとする。
「喰らいやがれ!」
ウルフィンがそう言って腕を振り下ろそうとする。
「きゃぁぁ!」
琴姫はウルフィンに怯えながらも反射的に腰に備わっていたレーザー銃を手に取り、引き金を引く。するとウルフィンにレーザー光線が当たる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「え?」
琴姫はウルフィンに攻撃したことを驚く。そして自身に戦う力が備わったことを改めて感じる。
「ダイヤモンド…、レーザー…。」
琴姫はその瞬間、あることを閃く。
「ダイヤレーザー!」
琴姫は自身の力、その戦士としての姿をダイヤレーザーと名づける。
「ダイヤレーザー?」
「どうでもいい、やっちまおうぜ。」
ダークストーリーズの幹部達はダイヤレーザーに対し一斉に攻撃しようとする。その後のことは真亜琴もよく覚えていなかった。ただ気付いた時には怪物達が皆、ダイヤレーザーの前に倒れ込んでいた。それが、琴姫の初陣だった。
「それが、ホロテイルジュの始まり…。」
美姫はエメラルディアから琴姫が初めて戦った時のことを聞き、妙に安心する。今まで琴姫を優しいお祖母ちゃんだと思っていたので琴姫がホロテイルジュの戦士だと知った時はショックを覚えたが、琴姫も戦士になった時は自分と同じく戸惑っていたことを知りやはり優しいお祖母ちゃんだと感じたからだ。
「それで、ホロテイルジュを創設したんですか?」
林檎は更にエメラルディアに尋ねる。
「ああ、それから俺と姉さんはホロテイルジュを創設した。」
エメラルディアはそう答え、ホロテイルジュ創設の時の話をするのだった。
ダイヤレーザーとなってダークストーリーズとの初陣を飾った琴姫。やがて琴姫はもう一冊白紙の分厚い本を作る。その本を真亜琴が手に取ると、またページに物語が刻まれていた。それは真亜琴の一番好きな童話、アリババと40人の盗賊だった。
「凄いじゃない真亜琴!これで真亜琴も戦えるわね。」
琴姫は真亜琴にも童話の力が宿ったことに喜んでいた。しかし真亜琴は戦う自信がなかった。
「俺には出来ないよ姉さん、姉さんみたいに戦えない。」
「何言ってるの真亜琴、この力であのダークストーリーズと戦えるのよ。」
琴姫は消極的になる真亜琴を励ます。そして真亜琴にも戦う機会が訪れる。ある日、ウルフィンが明確に人間を襲って暴れていた。
「お前、何か憎んでたりしてないか?」
ウルフィンは捕まえた人間にそう尋ねる。
「はぁ⁉そりゃまあ憎んでるやつはいるさ。今の世の中にな!」
その人間は激動の時代で不自由な生活を強いられていることに対しての不満をぶつける。それがウルフィンにとって恰好の餌食だった。
「いいねぇ、それこそいい悪意だ。」
ウルフィンはそう言うとその人間の頭に手を翳す。するとその人間に黒いオーラが覆われ、そこから怪物が産まれる。
「うわ、何だこれ⁉」
その人間は自身から産まれた怪物に驚く。そしてそこに駆けつけた琴姫と真亜琴も目を見張っていた。
「何だあの怪物?」
「あぁ?この怪物はマリスって言うんだ。人間の悪意から産み出した都合のいい怪物って訳よ。」
ウルフィンは真亜琴に答える。そして真亜琴は怪物が増えた事実に膝が震えていた。
「真亜琴、しっかりして。」
「でも…。」
琴姫は真亜琴の背中を押す。そして琴姫はまた戦おうと本を開く。
「アンドロメダ座!ダイヤモンド!六羽の白鳥!」
琴姫はダイヤレーザーとなり、ウルフィンとマリスに立ち向かう。
「姉さん…。」
真亜琴はダイヤレーザーが戦う様子をハラハラしながら見ていた。
「さっきから何だあのお膝がくがくボーイは?」
ウルフィンは真亜琴を疎ましく感じ、標的にする。
「ここで地獄に送ってやる!」
ウルフィンは勢いよく真亜琴に襲い掛かる。
「真亜琴、本を開いて!」
ダイヤレーザーは真亜琴に向かってそう叫ぶ。そして真亜琴は勇気を振り絞って本を開く。
「いて座!エメラルド!アリババと40人の盗賊!」
真亜琴がそう叫ぶと空が暗くなる。その現象にウルフィンは驚き、攻撃の手を止める。
「何だ?まさか、こいつもか!」
ウルフィンは真亜琴に警戒する。そして空にいて座が浮かび上がり、空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「き…、来て!」
真亜琴が空にそう叫ぶといて座の最輝星が光を放ち、真亜琴のしているエメラルドの指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、真亜琴はその姿を変える。
「俺も、変わった…。」
真亜琴は変わった自分の姿に感動する。その姿はエメラルドが散りばめられた煌びやかな装甲を身に纏った仮面の戦士だった。
「くそ、厄介な奴が増えたな。」
ウルフィンは気怠そうにそう言うと真亜琴に襲い掛かる。しかしその瞬間、真亜琴は腹部に思い切り拳を打ち込み、ウルフィンは軽く吹き飛ぶ。
「何だこいつ…?」
ウルフィンは真亜琴の強さに驚く。
「俺は、えっと…、エメラル…、エメラルディア!」
真亜琴は自身の戦士の姿をエメラルディアと名づける。
「エメラルディア?そんな奴に、俺が負けるかよ!」
ウルフィンはそう言ってエメラルディアと戦う。しかし最初の真亜琴の怯えとは裏腹にエメラルディアはウルフィン相手に優勢になる。
「あれ、戦えてる…。」
エメラルディアは自身の強さに手応えを感じる。それはダイヤレーザーも感じていたことだった。
「真亜琴、決めちゃいなさい!」
「え、どういうこと姉さん?」
エメラルディアはダイヤレーザーの言葉に戸惑うが、突然本能的に理解する。そしてエメラルディアは左手を高く挙げる。
「いて座!」
エメラルディアがそう叫ぶと空に再びいて座が浮かび上がり、弓矢が召喚される。そしてエメラルディアは弓矢を持って構える。
「秘弓・閃光の一射。」
エメラルディアはウルフィンに向かって弓矢を放つ。
「あぶねっ!」
ウルフィンは寸前のところで避ける。そして矢はマリスに当たり、マリスは消滅してしまう。
「くそっ、分が悪くなっちまった。ここは退くか。」
ウルフィンはそう言って人間界を去る。こうして真亜琴は初陣を飾るのだった。
ダークストーリーズと戦う力を得た琴姫と真亜琴。二人は本格的にダークストーリーズと戦うことを決めていた。しかし、彼らの家族に賛同する者は誰一人としていなかった。
「あなた達、何を言っているの?」
「怪物と戦うなど、ふざけるな!」
母親からも父親からも反対された琴姫と真亜琴は必死に説得を試みるが、結局納得してもらえず勘当されることとなった。
「はぁ…、わかって貰えなかったわね。」
「そりゃあ危険なことをしようとしているわけだし、仕方がないよ。」
琴姫と真亜琴は酷く落ち込んでしまう。そして二人は家を飛び出し、ダークストーリーズと戦う拠点を探す。すると古びた洋館を見つける。
「姉さん、ここって…。」
真亜琴はその洋館が気になっていた。それは琴姫も同じ気持ちだった。二人は恐る恐るその洋館に入る。
「人がいる気配がしないわね…。」
「この洋館、誰も使ってないのかな…。」
二人は不気味な洋館の中を見渡しながら徘徊する。すると洋館に謎の足音が響き渡る。
「「誰⁉」」
二人が驚いて振り返ると、そこには老人がいた。
「おやおや、客人かね。」
その老人はフランクに二人に話し掛ける。琴姫は恐る恐る老人に話し掛ける。
「あの、ここはお爺さんの洋館なんですか?」
「そうじゃのう。けれどもうわしはここを手放す。良かったら好きに使いなさい。」
「え、いいんですか?」
二人は勝手に侵入した洋館の主である老人から幸運にも洋館を譲られ、この洋館を拠点にすることとなった。
「真亜琴、ここでダークストーリーズと戦うための組織を発足しましょう。」
「そうだね姉さん、名前は何にしよう?」
「そうねぇ…。」
二人は組織を作ることを決める。そして琴姫は自分達が使う星座、宝石、童話の名前を掛け合わせ、ある名前を閃く。
「そう、ホロテイルジュにしましょう。」
「ホロテイルジュ?」
「そうよ、星座のホロスコープに物語のテイル、そして宝石のジュエルでホロテイルジュよ。」
「なるほど、いい名前だね。」
真亜琴は琴姫の提案したホロテイルジュの語感を気に入る。こうして二人はホロテイルジュを発足することとなった。
それからの二人の能力の向上は著しかった。琴姫は元々星座や童話に対する造詣が深かったため、アンドロメダ座の他にも様々な星座の、六羽の白鳥の他にも様々な童話の力を次々に引き出して行った。真亜琴も琴姫に星座や童話を教えてもらいながら琴姫ほどではないにしろ様々な星座や童話の力を引き出して行き、いつしか二人はダークストーリーズにとっても強力な敵となっていた。
「奴らも人間界の侵攻を諦めてくれるといいね、姉さん。」
「ええ、でもまだ彼らは諦めないと思うわ。」
二人は著しく強くなっていたものの、流石に飽くなき野望を持ったダークストーリーズの前に辛くなって行った。そんな二人に転機が訪れる。不思議な力を秘めた宝石は二つだけではなかった。二人は三つ目の宝石、ペリドットを見つける。
「凄いよ姉さん、これでまた指輪を作ればまた戦力になる。」
「ええ、でも…。」
二人がペリドットの宝石を見つけたのは良い物の、一つ問題があった。そのペリドットの宝石は二人には反応していなかったことだ。つまり二人にはペリドットの宝石を扱えなかったということだ。
「どうしよう、姉さん…。」
「そうねぇ…。」
琴姫は一応ペリドットの宝石から指輪を作ったが、それを嵌めることは琴姫にも真亜琴にも出来なかった。
「ダメだ姉さん、どうやら宝石は選ばれた人にしか使えないみたいだ。俺達じゃどうしようもない。」
「やっぱり、この宝石を扱える人を探すしかないわね…。」
二人は戦力を増やすためにも、ペリドットの指輪の資格者を探した。そしてなんとか二人はペリドットの資格者を見つける。最初のペリドットの資格者となったのは三十代の中年男性だった。琴姫と真亜琴よりも年上だったがとても腰が低く、いつでも元気に挨拶や返事をしていた。琴姫は彼にペリドットの指輪と新たに作った分厚い白紙の本を与え、ペリドットの戦士にした。戦いに対しても非常に積極的で、星座や童話の造詣はなかったが必死に努力してなんとか二人に勝るとも劣らない戦力となっていた。
「すみません、こんな戦いに巻き込んでしまって…。」
「いえ、自分は世界を守るお役に立てて感無量です。」
巻き込んだことに罪悪感を覚える琴姫に、ペリドットの戦士は無邪気に答える。そして暫くは三人でダークストーリーズと戦っていた。ペリドットの戦士が活躍したのは戦いだけではなかった。ペリドットの戦士は宝石の発掘においても力を発揮し、多くの不思議な宝石を見つけていた。
「琴姫さん、この宝石は違いますか?」
「あら、これはサファイアの宝石ね。ありがとうございます。」
「いえ、自分にはこれくらいしかできないので。」
ペリドットの戦士のおかげでサファイア、アクアマリン、ラピスラズリの宝石を見つけることに成功し、更にその資格者も次々に発見された。
「これでホロテイルジュもより強力な組織になりますね、琴姫さん。」
「ええ、あなたのおかげです。」
琴姫はペリドットの戦士に感謝する。ペリドットの戦士はある意味でホロテイルジュの陰の功労者となっていた。そして琴姫はもっとホロテイルジュの戦力を拡大し、ダークストーリーズの撃滅を心に誓う。しかし、ホロテイルジュに与えられた至福の時はそう長く続くものではなかった。運命は残酷にも、ペリドットの戦士を最初の戦死者に選んだ。
「今日こそお前の息の根を止めてやる!」
「きゃぁぁ!」
ある日、デビルホーンとの戦いに苦戦し、疲弊していたダイヤレーザーはデビルホーンの攻撃をまともに受けそうになる。
「琴姫さん危ない!」
ペリドットの戦士はダイヤレーザーを庇い、デビルホーンの攻撃の餌食になってしまう。そして倒れ込むペリドットの戦士。
「しっかりして下さい!」
「いえ、琴姫さんが無事ならば必ずホロテイルジュに勝利が訪れます…。」
必死に声を掛けるダイヤレーザーだったが、ペリドットの戦士はそう呟いてダイヤレーザーの腕の中で力尽きてしまう。ダイヤレーザーは涙が止まらなかった。これが、初めてホロテイルジュが完全に敗北した瞬間だった。
ペリドットの戦士には妻子がいた。彼が戦うことを決めた時には彼の妻にも琴姫と真亜琴が共に挨拶に赴き、必死に説得していた。ペリドットの戦士が死んだ時、彼の家へ行くのは二回目になった。そして二人は彼の妻に彼の死を報告する。
「あなた達が主人を巻き込んだせいよ!ダークストーリーズもそうだけど、ホロテイルジュなんて組織があるから主人は…。」
ペリドットの戦士の妻は声を荒げながらそう言い、まだ幼い我が子を抱きかかえながらポロポロと涙を溢す。その姿に、琴姫も真亜琴も何も言葉を掛けてあげられなかった。
ペリドットの戦士の家からホロテイルジュの本拠地である洋館までの道のりは激しい豪雨に見舞われていた。琴姫と真亜琴は傘を差して俯きながら歩く。
「俺達、命を預かってるんだよね。俺、そのことを忘れていたよ。」
「ええ…。」
真亜琴は暗い口調で琴姫に話し掛ける。琴姫は相槌を一つ打つと、何も言わなくなった。その時雨音が激しく響いていたのと地面がびしょびしょに濡れていたのでわからなかったが、きっと琴姫は泣いていたと真亜琴は思った。
その後も宝石は発掘し、遂に十二個の宝石が集まった。しかし、戦士はその後も加入と戦死を繰り返していた。戦力は次第に増して行きダークストーリーズに対しての脅威となっていたが、ホロテイルジュとダークストーリーズの戦いは依然としていたちごっこの状態が続いていた。そして戦士との別れを繰り返す度、琴姫から笑顔が消えて行った。
琴姫と真亜琴はホロテイルジュの在り方を巡って度々口論をするようになった。戦士が命を絶つ度に琴姫は戦士が戦いに身を捧げることに疑問を感じていた。ホロテイルジュの戦士は皆洋館に住むようになり、戦うための生活をしていた。しかし琴姫はホロテイルジュの戦士にも普通の人としての生活をして欲しいと考えるようになった。一方の真亜琴は、あくまでも戦士として生活することに拘っていた。
「ダメだよ姉さん、ダークストーリーズとの戦いはどんどん激しくなっている。拠点をバラバラにしてもダークストーリーズが現れた時に対応できない。」
「でも家族との時間や、普通の人としての生活を大事にしないと何のためにダークストーリーズと戦っていると言うの⁉」
「全てはダークストーリーズを撃滅させ、この世界を守るためだろ?そのためには尊い犠牲だって…!」
「今のあなたは命を軽んじているわ、こんなの戦争と変わらないじゃない!」
「しょうがないだろ!」
二人の口論は日に日に激しくなり、ホロテイルジュは毎日暗い雰囲気が漂うようになっていた。そしてある日、琴姫はダイヤモンドの指輪を持ったまま、洋館から姿を消すのだった。




