第十七話 可愛いあの娘と恐い野獣
何処にでもいるはずの女性、桜名美姫は新たな姿であるシンデレーザー・ワイルドタイプへとその姿を変える。そして美姫の後を追うように水原夜衣魚、鈴木林檎、双見アラモードも新たな力を引き出す。高校生のメンバー、三浦竹月も新たな力を引き出すべく高校のトランポリン部の練習に参加していた。そして竹月は練習の甲斐あって新たな姿、フルムーンハイヤー・ジャンパータイプに変わる。そして竹月はアラモードに告白し、二人は一夜を過ごすのであった。
アラモードと竹月が共に一夜を凄し朝を迎えた頃、アラモードはいつものように目を覚ます。すると、フライパンで何かを炒めるような音が聞こえて来る。
「ん…。」
「アラモードさん、お目覚めですか?」
竹月は朝食を作りながら起きて来るアラモードを迎える。
「竹月ちゃん、おはよう。」
アラモードは竹月に挨拶をしながら歩み寄り、そして後ろから優しく抱き締める。
「私、こんな感覚初めて。他の誰よりも竹月ちゃんを温かく感じる。」
「これが『好き』という感覚ですよ。」
二人はうっとりした表情を浮かべながら言葉を交わす。そして竹月が朝食を作り終えると、二人は共に朝食を取る。
「アラモードさん、意外と食材を揃えているのですね。」
「まあね、一応お母さんからちゃんと栄養を取るように言われているから。」
他愛のない会話を交わしながら、二人は笑い合う。そして朝食を取り終えると、二人は玄関に向かう。
「今日も学校?」
「はい、でも放課後なら空いております。」
「じゃあまたパフェ食べに行く?」
「はい、是非お供させて頂きます。」
二人はまたパフェを食べに行く約束を交わす。そしてキスを交わした後、竹月はアラモードの家を出るのであった。
一方、ダークストーリーズはスーターが倒されたことに危機感を感じていた。
「パンドラス、あのお方がスーターに命令したって本当かい⁉」
ダークストーリーズの幹部、バブルガスはパンドラスに鬼気迫る表情で問い詰める。あのお方とは姿を現わさず声のみでスーターに命令した謎の存在のことだった。
「ああ、間違いねぇ。あのお方は完全にスーターを見捨てたんだ。」
「そんな…。」
パンドラスの言葉に、バブルガスは落胆してしまう。
「きっとあのお方はホロテイルジュの進化に興味を持っている。極限まで強くなったところを叩くつもりだ。」
「じゃあ、私達はホロテイルジュが強くなるための餌にされるってことかい?」
バブルガスは思わず血の気が引いてしまう。どうやらあのお方は強い相手と戦うことを望んでいるようだ。そしてそこにウルフィンが現れる。
「おい、俺も捨て駒って訳かよ⁉」
ウルフィンもあのお方なる存在が現れたことに危機感を感じていた。
「ああ!こんなところに居られねぇな。」
ウルフィンは苛立ちを覚え、人間界に赴く。
「あ~あ、あいつ死ぬな。」
「どんどん仲間が死ぬねぇ。」
ウルフィンを見送りながら、パンドラスとバブルガスはウルフィンの死を悟るのだった。
明くる日、美姫と夜衣魚と林檎は洋館にある書庫でホロテイルジュのことを調べていた。三人が主に調べていたのはペリドットの指輪についてだった。
「う~ん。」
「謎ですね…。」
三人は調べれば調べる程頭を悩ませていた。歴代ペリドットの指輪の戦士について詳しく書かれてはいたが、文献に書かれていた最後の戦士は二十年も前にダークストーリーズとの戦いで戦死してしまい、それからの指輪の行方は一切書かれていなかった。
「こんなに本があるのに肝心な情報は何も書かれてないね…。」
「はい、ホロテイルジュがダークストーリーズから世界を守る組織だというのはわかるんですけど、力の起源について書かれている文献も中々見つかりませんしね…。」
美姫と夜衣魚はそれぞれ文献への愚痴が零れる。三人はホロテイルジュが秘密ばかりで掴みどころのない組織であることを改めて感じる。
「結局、美姫さんのお祖母さんに関することも見つかりませんね…。」
林檎は美姫の祖母についても情報が出て来ないことを言う。美姫の祖母である琴姫はホロテイルジュの創設者であるのだが、三人はまだそれが書かれている文献まで辿り着いていなかった。ここでふと美姫はあることを思い出す。
「そう言えば、最近風布花ちゃん見ないけどどうしたんだろう。」
美姫は小学生のメンバー、赤園風布花の姿を見ないことを気に掛けていた。美姫の言葉に、夜衣魚と林檎は動揺してしまう。
「え…、えっと、どうしたんでしょう?」
夜衣魚は動揺しながら答える。風布花は美姫にキスをされて以来美姫に好意を寄せているのだが、風布花が積極的に美姫をデートに誘ったり、キスを迫ったりしたことを林檎が注意し、更に林檎から美姫がキスをしたのが好意ではなく目を覚まさせるためだと知り、風布花はホロテイルジュに顔を出さなくなっていた。
「私、用事を思い出したのでここで失礼します。」
林檎は再び風布花を説得しに行こうと洋館を出る。そして美姫と二人きりになった夜衣魚は、ふと美姫に尋ねる。
「あの、美姫さん。」
「何?」
「美姫さんが私と寝ちゃったのって完全にお酒の勢いなんですよね?」
「ま、まあそうだけど…。」
美姫は夜衣魚の質問に動揺する。お酒の勢いで我を忘れ、淫らな行為に及んだことが美姫にとって許し難い失態であった。
「でも美姫さん、実際に女性から告白されたらどうします?」
「女性から?私は男の人としか付き合ったことないし、申し訳ないけど断るかな。」
「そう、ですよね…。」
夜衣魚は美姫の言葉に、風布花が美姫と付き合う希望がないことを感じてしまう。しかし風布花が好意を寄せていることを知らない美姫は夜衣魚の様子をおかしく感じ、目を細めながら夜衣魚を見つめる。
「夜衣魚ちゃん、もしかして私に告白しようとしてる?」
「別にそうじゃないですよ。まあ私も、美姫さんとだったらまたそういう関係になってもいいと思ってますけど。」
夜衣魚はそう言ってうっとりした表情を浮かべながら美姫にキスをしようとするが、美姫は夜衣魚の額を人差し指で突いて止める。
「私はもうあんな失態はしないから。」
「う~ん、美姫さんの意地悪。」
夜衣魚は口を尖らせながら言う。そして二人は再び書庫で調べものを続けるのだった。
一方その頃、風布花は一人街中を歩いていた。風布花は林檎から美姫について言われて以来、ホロテイルジュに顔を出すことが出来なくなっていた。
「はぁ…、これからどんな顔して美姫さんに会えば良いんだろう…。」
風布花は美姫が自身に好意を抱いている訳ではないことを知り、酷く落ち込んでいた。風布花は近くのベンチに座り俯いてしまう。そんな風布花に話し掛ける声が聞こえる。
「おい、誰かと思えばホロテイルジュのちびっ子じゃねぇか。」
「え?」
風布花がその声のする方を向くと、そこにはウルフィンがいた。
「あなた、確かダークストーリーズのウルフィン!」
風布花は慌てて鞄から本を取り出し、開こうとする。
「おいおい良いのか?また暴走しちまうぞ。」
「う…。」
風布花はウルフィンに言われて戦うのをやめる。ウルフィンも攻撃してくる様子はなかった。風布花は恐る恐るウルフィンに尋ねる。
「…何しに来たんですか?」
「別に何もねぇよ。俺はダークストーリーズにいるのが嫌になっただけだ。」
「ダークストーリーズに?」
風布花はウルフィンの言葉に耳を疑う。
「俺達のトップに当たる奴が遂に出て来やがって、捨て駒にされそうなところなんだよ。」
「ダークストーリーズのトップって、どんな方なんですか?」
「俺達ですら軽く引くくらい非情な奴だ。いつだって自分中心で動いている。」
「ダークストーリーズにも、そんな方が…。」
風布花はダークストーリーズのトップが動き出したことに危機感を感じると共に、ウルフィンに同情していた。しかし風布花はずっと周りからの狼の怪物と共にいる状況を恐れる視線が気になっていた。
「取り敢えず、私と一緒に来て下さい。」
風布花はそう言ってウルフィンの手を引き、人目のつかない所まで行くのだった。
「おい、こんなところまで連れて何の真似だ。」
ウルフィンは何の説明もなく連れて来る風布花に苛立ちを覚えるが、風布花は本を取り出して開く。すると本から文字が飛び出し、ウルフィンの体を包む。そしてウルフィンは老婆のような姿に変わるのだった。
「うわ、何だよこれ。」
「カモフラージュです。怪物の姿でいると目立つので。」
「だからってババァはねぇだろ。」
「狼はお婆さんに化けると相場が決まっています。それに成人男性に化けたとしても、私のような小学生と一緒にいるのは怪しまれるので。」
風布花はウルフィンを赤ずきんちゃんの能力で老婆に変え、周りの目を誤魔化す考えだった。
「あと、途中の自動販売機で買ったこれを。」
「あ?」
風布花はそう言ってウルフィンに缶コーヒーを渡す。
「あの、お口に合うかどうかわかりませんけど。」
「ありがとよ。」
ウルフィンはそう言って缶コーヒーを飲む。
「お前、こんなところでお小遣いを使って良いのか?」
「余計なお世話です。黙って飲んで下さい。」
風布花はウルフィンの問いにそう答えてウルフィンに寄り添い、同じく自動販売機で買った缶ジュースを飲む。そしていつしか街は日が沈みかけていた。ウルフィンはふと風布花に問い掛ける。
「おい、ちびっ子は家に帰る時間だろ。」
「あなたを置いて帰れません、いつ人を襲うかわからないので。」
「俺、まだ疑われてんのかよ…。」
ウルフィンは未だ警戒されていることに失望していた。
一方、林檎は風布花を探していた。また風布花の家を訪れた際に風布花の母親から風布花が帰って来ないと言われたのだ。林檎は母親を家に待機させ、すっと探していた。
「何処に行ったんだろう…?」
林檎は街中を走り回り、風布花を探し続けるのだった。
辺りが暗くなってきた頃、流石のウルフィンも寒さを感じていた。
「ひゃっくしょん!」
ウルフィンは思わずくしゃみをしてしまう。
「大丈夫ですか?」
風布花はウルフィンを気遣うが、ウルフィンは現状が歯痒かった。
「おい、いつまでこんなところにいるんだよ。」
ウルフィンは苛立つように風布花に尋ねる。しかし風布花も睨み付けるように答える。
「あなたは組織から逃げて来たんですよね?だったらそんな贅沢言わないで下さい。」
「何だよもう…。」
ウルフィンと風布花は少し険悪な雰囲気のまま過ごす。ウルフィンはふと風布花に尋ねる。
「おい、俺を警戒しているってんならホロテイルジュの連中に連絡したらどうなんだ?俺を倒すなり生け捕りにするなり方法があんだろ?」
「生憎、私も今はホロテイルジュに顔を出せないので。」
「は?」
ウルフィンがその風布花の言葉が気になる。
「お前、何かあったのか?」
「私ホロテイルジュで好きな人がいるんですけど、まあ脈無しって言われたというか…。」
「何だそれ?ホロテイルジュも恋愛とかすんのな。」
「放っておいて下さい。まあ、それでちょっと他の方々と距離を置いたというか…。」
風布花は美姫のことで林檎と一悶着あったことを話す。しかしウルフィンは恋愛をしたことがないため、特に共感することはなかった。
「まあ、お互い組織に戻れねぇって訳だ。」
「そうなりますね。」
ウルフィンと風布花はお互いの気持ちを決して分かち合うことはなかったが、お互いの境遇から少し心を開きかけていた。そしてウルフィンは自分の思いの丈を明かす。
「俺な、もう一度暴走したお前と戦いてぇって気持ちがあんだよ。」
「え?」
風布花はウルフィンの言葉に軽く驚く。
「何かこう、俺と同じ匂いがしたんだよ。」
「それは多分、おおかみ座の力で暴走したからです。」
「ああ、俺はそれだけが心残りなんだよ。」
風布花はウルフィンの心の内を聞き、少し距離が縮んだような気分になった。
「残念でしたね、戦えなくて。」
「まあな。」
ウルフィンがそう言うと、二人は少し笑い合う。するとそこに漸く林檎が現れる。
「風布花ちゃん!こんな時間まで何しているの!」
林檎は漸く見つけた風布花に思わず怒鳴ってしまう。
「林檎さん、今まで探してくれてたんですか?」
「だって風布花ちゃんのお母さんが心配してたし。」
「あ…。」
風布花は現状の説明に悩み、母親に連絡することをすっかり忘れていた。そして林檎は、風布花と共にいるウルフィンが化けた老婆が目に入る。
「ところで風布花ちゃん、そのお婆さんは?」
「あ、この人は…。」
風布花は老婆の正体がウルフィンだとは言えずに困惑してしまう。するとウルフィンが話に割って入る。
「わ、わしゃ日本を放浪している者じゃよ。丁度、宿を探しておったんじゃ。」
「そ、そうなんですか…。」
ウルフィンは即座に嘘を吐いて誤魔化す。林檎も少しおかしな点が気に掛かるものの、取り敢えず信じることにする。
「じゃあ、風布花ちゃんとお婆さんは今晩ウチに泊まって。」
「す、すみません…。」
「世話になるのぉ…。」
林檎は一先ず風布花とウルフィンを家に泊めることにするのだった。
そして林檎宅にて。林檎は風布花の母親に風布花を無事に見つけたことを連絡し、風布花は母親から小一時間説教されるのだった。そして風布花とウルフィンはずっと外にいたせいか疲れてしまい、すぐに眠ってしまうのだった。
翌朝、風布花が目を覚ますと、林檎が風布花とウルフィンのために朝食を作っていた。
「あ、林檎さん。すみません…。」
風布花はわざわざ自身のために朝食を作ってくれる林檎に対し申し訳なく感じる。
「別に、風布花ちゃんが無事に見つかったんだからこれくらいどうってことないよ。」
林檎はそう返すが、少し態度は冷たかった。そして風布花は黙々と朝食を食べ始める。林檎はふと風布花に話し掛ける。
「ねぇ風布花ちゃん。」
「はい。」
「美姫さんがしばらく見ないって心配してたよ。別に美姫さんに会うなって言ってるわけじゃないんだから、またいつも通り来たら?」
「…無理です。美姫さんと恋愛関係になれないのにどんな顔をして会えば良いんですか?」
林檎は美姫が風布花を心配していたことを話すが、風布花はまだ美姫に再び会う決心がついていなかった。
「…そう。まあ別に強制しているわけじゃないから良いけどさ。でも美姫さんは、そう意固地になってる人が嫌いだと思うよ?」
「…余計なお世話です。」
林檎と風布花はまた険悪な雰囲気になってしまう。そしてその会話を、ウルフィンは寝たふりをしながら聴いていた。
「なるほど、てっきり男連中の誰かが好きだと思ってたらあの女か。」
ウルフィンは風布花の好きな人が美姫だということを意外だと感じていた。そしてウルフィンが聴いていることも露知らず、風布花は朝食を食べ終え林檎宅を出る準備をする。
「じゃあ林檎さん、失礼しました。」
「うん、ちゃんとお母さんに謝ってね。」
そう言って林檎は風布花を見送り、風布花は林檎宅を出る。しかし風布花はウルフィンのことをすっかり忘れていた。
「あいつ、俺を置いて行きやがって。」
ウルフィンは風布花と共に出るタイミングを逃してしまい、林檎と二人きりになってしまった。
「さてと…。」
林檎は老婆に化けたウルフィンを起こす。
「朝ですよ、お婆さん。」
「お、おお。もうすっかり朝じゃな。」
ウルフィンは正体を隠しながらぎこちない口調で林檎の相手をする。そしてウルフィンも黙々と朝食を取る。
「あの、お婆さん。」
「な、何じゃ?」
ウルフィンは林檎から話し掛けられ動揺してしまう。
「放浪していたって言ってましたけど、どこを回ったんですか?」
林檎は興味深そうに尋ねる。
「そ、それはあれじゃよ。き、北の大地から南の島まで…。」
「へぇ~。」
ウルフィンは咄嗟に嘘を吐く。しかしウルフィンは話を盛り切れる自信がなかった。そして林檎は相槌を打つと近くにあった荷物に目を運ぶ。
「放浪している割には随分と荷物が少ないんですね。」
「そ、そうじゃな…。」
「それに都会の夜ですら寒い恰好をしていたのに、全国なんて回れるんですか?」
「え、えっと…。」
ウルフィンは思わず言葉を詰まらせてしまう。林檎の目はすっかり疑いに掛かっている目だった。そして林檎は本を開き、鏡を召喚する。
「鏡よ鏡、魔法の鏡。このお婆さんの正体を教えて。」
林檎が鏡に向かってそう言うと、鏡は狼の怪物ウルフィンを映し出す。
「ダークストーリーズの幹部か。」
「ちっ、バレちゃあしょうがねぇ。」
ウルフィンは騙すのを諦めて元の姿に戻る。
「随分と世話になったな。じゃあ俺は出るぜ。」
「…襲わないの?」
林檎は家を出ようとするウルフィンに尋ねる。林檎は本来なら人を襲うはずであるダークストーリーズの幹部が律儀に家を出ようとすることが腑に落ちなかった。
「生憎俺はもうダークストーリーズじゃねぇからな。俺もあのお嬢ちゃんと同じ、組織に顔を出せねぇ立場って訳だよ。」
「え?」
林檎はウルフィンの言葉に耳を疑う。
「何があったの?」
「ダークストーリーズのトップがお出ましになられたんだよ。あのお方は強くなったお前らと戦うことを望んでいる。だから俺は遅かれ早かれ捨て駒にされちまうってことだ。」
「ダークストーリーズのトップが…?」
「この前やられたスーターもあのお方の命令で潰されたようなものだ。また一人、ホロテイルジュの戦士が新しい力を引き出すことを見越してな。」
林檎はウルフィンの話から、ダークストーリーズの底知れない恐ろしさを感じる。
「ダークストーリーズって何が目的なの?この世界をシナリオにするって何?」
林檎はウルフィンに、ダークストーリーズの目的を尋ねる。
「ダークストーリーズがこの世界を支配したら、お前ら人間や他の生物はみんな生ける人形と化す。そうなったらダークストーリーズという作家が書く物語の登場人物として自由を奪われちまうって訳だ。」
「そんな、酷い…。」
林檎はダークストーリーズの目的に、改めてその酷さを感じる。そして林檎はまたウルフィンに尋ねる。
「あんたはどうしたいの?」
「俺は別に何もしたくねぇよ。死んだって構わねぇ。ただ一つだけ心残りがあるってだけだ。」
「そう…。」
林檎はウルフィンの返答に安堵の気持ちを覚え、朝食の片付けをする。
「何だかよくわかんないけど、心残りがあるならやってみれば?どうせこの世界に長居するつもりもないんだったらさ。」
「は?」
「勿論人を襲うのは許さないけど、出来ることがあるなら協力するよ。」
林檎の言葉に、ウルフィンは笑みがこぼれる。
「面白れぇ、だったら協力してもらうぜ。」
ウルフィンはそう言うと林檎に爪を突き付ける。
「…何の真似?」
「ちょっと付き合ってもらうぜ。」
ウルフィンは林檎を拘束して家を出るのだった。
ウルフィンは林檎を拘束しながら街中へ向かう。街の人はウルフィンの姿を恐れて逃げ惑ってしまう。そしてウルフィンは拘束した林檎に話し掛ける。
「おい、あのお嬢ちゃんを呼びな。またあの狼の力とぶつかりてぇんだ。」
「暴走した風布花ちゃんが目的?」
「いいから早くやれ。」
ウルフィンは林檎に、風布花を呼ぶよう急かす。林檎は携帯電話を取り出し、電話を掛ける。
「もしもし、ウルフィンに捕まった。助けに来て。」
林檎は電話で助けを呼ぶ。
「いいねぇ、これで俺も未練なんざありゃしねぇ。」
ウルフィンは満面の笑みでそう言うのだった。
一方、家に帰った風布花は案の定母親から酷く叱られた。
「はぁぁ~!」
風布花は部屋に戻るとベッドに飛び込む。風布花は林檎とまた険悪な雰囲気になったことを未だに引き摺っていた。しかし突然、ウルフィンのことを思い出す。
「あ、ウルフィンを林檎さんの家に置いて来ちゃった!」
風布花は急いで家を飛び出す。
「へへへ、遂にあの狼の力をまた味わえるぜ。」
ウルフィンは林檎を拘束しながら風布花と戦うことに期待感を抱いていた。するとウルフィンの前に何故か桃井剣二、夜衣魚、そして美姫の三人が駆けつける。
「林檎!」
「みんな!」
夜衣魚が林檎に話し掛ける。そしてウルフィンは林檎を睨み付ける。
「お前、騙しやがったな。」
「風布花ちゃんを戦わせる訳ないでしょ!」
林檎は風布花に連絡をする振りをして夜衣魚に連絡をしていた。そして夜衣魚は美姫と剣二を連れて駆けつけたのだ。
「ウルフィン、お前の好きなようにはさせない。」
「林檎ちゃん、今助けるからね。」
美姫と剣二がそう言うと美姫、剣二、夜衣魚の三人は一斉に本を開く。
「おとめ座!ダイヤモンド!シンデレラ!」
「しし座!ルビー!桃太郎!」
「うお座!アクアマリン!人魚姫!」
三人は叫ぶとそれぞれシンデレーザー、キルビーレオン、マーメイデストになる。
「シンデレーザー!」
「キルビーレオン!」
「マーメイデスト!」
三人はそれぞれ名乗るとウルフィンに立ち向かう。
「ふざけんな!ここで無駄死にしてたまるか。」
ウルフィンは絶対に風布花と戦いたい一心で林檎を拘束しながら最低限の力でシンデレーザーの相手をする。
「風布花ちゃんを絶対に戦わせない!」
シンデレーザーはそう叫んでウルフィンにレーザー銃を放つ。しかしウルフィンはそのレーザー光線を片手で受け止めてしまう。
「そんなもん効くか。」
ウルフィンは絶対に風布花と戦いたい気持ちでいっぱいだった。そんなウルフィンの気持ちを察するようなタイミングで風布花が駆け付ける。
「ウルフィン!何をやってるんですか!」
「風布花ちゃん、来ちゃダメ!」
風布花はウルフィンが仲間を襲ってる光景に驚く。シンデレーザーは風布花に近付かないよう叫ぶ。一方のウルフィンは風布花の到着に喜んでいた。
「来たかお嬢ちゃん、俺に狼の力をぶつけて来い!」
ウルフィンは風布花に戦うよう煽る。しかし風布花は暴走を懸念して戦うことが出来なかった。
「…出来ません。林檎さんを離して下さい。」
風布花は林檎を離すようウルフィンに頼むが、ウルフィンは頑として林檎を離そうとしない。風布花はウルフィンの目に本気を感じていた。
「…本気なんですか?」
「当たり前だろ、俺はお前と戦わなきゃ死んでも死にきれねぇ。」
風布花はウルフィンの言葉を聞いてある決断をする。
「皆さん、手を出さないで下さい。これは私とウルフィンの戦いです。」
「風布花!戦う気か⁉」
「風布花ちゃん、ダメ!」
風布花はウルフィンと戦うことを決める。しかし風布花が戦うと必ずおおかみ座の力で暴走してしまうため、皆は警戒していた。しかし風布花は皆の忠告を聞かず本を開く。
「やぎ座!パール!赤ずきんちゃん!」
風布花がそう叫ぶと空が暗くなりやぎ座が現れる。そして空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来て下さい!」
風布花がそう叫ぶとやぎ座の最輝星が光を放ち、風布花のしている真珠の指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、風布花の体を包む。やがて風布花の体は光を放ち、その姿を変える。
「レッドバイトゥース!」
風布花はレッドバイトゥースとなり、名乗る。
「行きます!」
レッドバイトゥースは勢いよく駆け出し、ウルフィンに突っ込む。
「いいねぇ、待ってたぜ!」
ウルフィンは林檎を投げ捨て、レッドバイトゥースと戦う。
「林檎!」
「林檎ちゃん!」
マーメイデストとシンデレーザーは急いで林檎に駆け寄る。
「私は大丈夫、でも風布花ちゃんが…。」
林檎はレッドバイトゥースを心配していた。
「えいっ、えいっ!」
レッドバイトゥースは小さな体で必死に拳を打ち込むが、力が弱くウルフィンはびくともしない。
「ほらほらどうした?こんなもんか?」
ウルフィンはレッドバイトゥースを煽る。
「私はこんなものでは…!」
レッドバイトゥースが思うようにダメージを与えられず悔しい思いをしてしまう時、突然空が暗くなりおおかみ座が現れる。ウルフィンはそれを見てニヤリと微笑むが、レッドバイトゥースは恐れていた。
「来たか…!」
「来ちゃった…。」
おおかみ座の最輝星は光を放ち、レッドバイトゥースの指輪に届く。そしてまたレッドバイトゥースは理性を失い、鋭い牙を立てる。
「グルルルル…!」
レッドバイトゥースは鋭い牙でウルフィンに噛みつく。
「これだこれだ!この凶暴さが欲しかったんだよ!」
ウルフィンは暴走したレッドバイトゥースと戦うことに喜びを感じる。
「もっと感情をぶつけろ!お前も我慢するな、あの女への想いを俺にぶつけて来い!」
ウルフィンは更にレッドバイトゥースを暴走させようとする。シンデレーザーはふとウルフィンの言葉が気に掛かる。
「ねぇ、あの女って何?風布花ちゃんは誰を想ってる訳?」
シンデレーザーの問い掛けにマーメイデストと林檎は答えることが出来ない。
「答えて!」
シンデレーザーは怒りを込めるように声を荒げ、林檎は致し方なくシンデレーザーに風布花のことを明かす。
「風布花ちゃん、美姫さんのことが好きなんです。でも私がやめた方がいいって言ったら風布花ちゃん、心を閉ざしちゃって…。」
「そういうことだったんだ…。」
シンデレーザーはその話を聞き、レッドバイトゥースの元へ駆け出す。
「美姫さん!」
「危険です!」
林檎とマーメイデストがシンデレーザーを止めようとするが、シンデレーザーは構わずレッドバイトゥースとウルフィンの間に入る。
「何だお前、邪魔だ!」
ウルフィンはシンデレーザーをどかそうとするが、シンデレーザーはその場を動かずにレッドバイトゥースを抱きとめる。
「風布花ちゃん、私への想いなら私にぶつけて!」
シンデレーザーはそう言ってレッドバイトゥースにキスをする。するとレッドバイトゥースは我に返る。
「美姫さん…?」
レッドバイトゥースはシンデレーザーの唇の感触を感じ取り、涙が零れる。そしてレッドバイトゥースの体は鋭い牙が消え、落ち着くのだった。
「美姫さん、ごめんなさい。私、美姫さんのキスが忘れられなくて…。」
レッドバイトゥースは涙を流しながら美姫に想いを告げる。
「いいの、人を好きになるのは悪いことじゃないんだから。」
シンデレーザーはレッドバイトゥースの想いを受け止め、きつく抱き締める。そして二人は抱擁を交わした後、ウルフィンの前に立つ。
「ウルフィン、ここからは正々堂々の勝負です!」
レッドバイトゥースはそう言って真珠の指輪を嵌めた左手を勢いよく挙げる。
「おおかみ座!」
レッドバイトゥースがそう言うと空が暗くなりおおかみ座が現れる。そしておおかみ座の最輝星が光を放ち、真珠の指輪に届く。そしてレッドバイトゥースの体は光を放ち、赤い頭巾が深紅色に変わり狼のような耳が生えた姿に変わるのだった。
「レッドバイトゥース・クリムゾンタイプ!」
「いいねぇ、ここから命懸けの戦いと行こうじゃねぇか!」
ウルフィンはクリムゾンタイプとなったレッドバイトゥースの名乗りに微笑み、本気の構えを見せるのだった。




