表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天上人  作者: 鬼木 有葉
第五章 エスメラルダの湖
85/196

二.儀式と供物③

「そこから離れろ!」


人々が口々に(さけ)んでいる。

少女は磔刑台(たっけいだい)にしがみついて(さけ)んだ。


「嫌だ! みんなもこんなこと止めてよ! お兄ちゃんたちは悪くないもん!」


「良い加減にするんだ!」


人混みを()き分けて1人が飛び出してきた。


「あいつらのせいで儀式が台無しになったんだ! 湖の龍に殺されたいのか?!」


「父ちゃんはっ!」


少女も負けじと声を張り上げた。


「父ちゃんは! あたしが死んでも良いの?! もし……それでも呪いが解けなかったら?」


「それ以上は言うな!」


バチィンーー

(はた)かれた(ほほ)がジンジンと痛む。


「言うもん! 何されたって、何があったって! 可笑(おか)しいのはみんなの方だもん!」


人々を見回し、少女は(さけ)んだ。


「あたし知ってるもん! エスメラルダさんって子どもたちを(かば)って死んじゃったんでしょ? そんな人がこんなことするわけないよ! でも、みんなは悪いこと、ぜーんぶあの人のせいにしてるんだっ!!」


「良い加減にしろ!」


父親が再び(こぶし)を振り上げた時、村のはずれから大きな鐘の()が聞こえてきた。

それは静まり返った村に、山に、木霊(こだま)していった。


「これ以上、彼女に手をあげてはならぬ」


人混みの中から杖をついた老人が現れた。


「龍神様に(ささ)げる(とうと)き生命じゃ。いや、(ささ)げずとも(とうと)き生命に変わりはせぬ。鐘が鳴ったということは……時が満ちたということじゃろう」


()ですか?」


怪訝(けげん)(たず)ねる1人に(うなず)いた彼は、歌うように口を開いた。


「『光と闇を黄金色(こがねいろ)の光が(つな)ぐ時、古き音色(よみがえ)り、道標(みちしるべ)とならん』。忘れはせぬ……ここに村を移す時、そう予言された。昼と夜を(つな)黄昏(たそがれ)の時、古の鐘が再び()(かな)でたのなら、故郷(ふるさと)(もど)ろうと……もう、ここに住み続けるには限界があるのかもしれぬな」


彼はそう言うと周りを見渡した。

(くず)れかけた木の家が互いに支え合うようにひしめき合っている。


「ですが、村長。その、我々の故郷は……湖に沈んでしまっているのですよね?」


「そうじゃ」


それを聞いた人々の間に絶望の声が広がった。


「じゃが……この子の言う通り、その責はわしらにあるのかもしれぬ。幼き生命を奪ってまで生き残ろうとしたわしらに」


「……」


「……謝ろう」


村長の低くしゃがれた声が沈黙(ちんもく)を破った。


「エスメラルダに……それで村が返ってくるとも分からぬ。呪いが収まるとも分からぬ。じゃが……()すべきことは()さねばならぬ」


村人たちは彼の言葉に躊躇(ちゅうちょ)しているようだった。


(だれ)か、わしと共に行ってくれる者はおらぬか?」


「……行きましょう」


重々しく口を開いたのは少女の父親だった。

ぽかんと自分を見上げる娘の頭に手を乗せ、彼は村長に向き直った。


「俺は謝らなきゃならない。こいつにも、エスメラルダにも……」


「それは私も同じです」


ふと群衆(ぐんしゅう)の後ろでか細い声がした。


「母ちゃん……」


少女は小さく目を見開いた。


「私は……もう自分に(うそ)をつきたくはありませんから」


彼女に続いて次々と人々が名乗り出た。


「村長」


1人が声を上げた。


「この村にいる全員、気持ちは同じです。どうかあなたと共に行かせてください」


人々は深く、静かに頭を下げた。

村長はしばらくそれを(しわ)の刻まれた眼で見つめていたが、ゆっくりと(うなず)いた。


「では皆の者、旅立ちの支度(したく)を。光が無くなる前に旅立とう」


***


時計台から村の様子を見つめていたラナンは長い尾を振った。


「まずいな」


「まずいわね」


アイリスも(まゆ)をひそめた。


「せっかくの毛並みが台無しだわ」


「ちげぇよ! あっちの方だろ?」


ラナンはそう言うと跳躍(ちょうやく)して人間の姿に(もど)った。


「こっちに注意を引きつける為に鐘を鳴らしたんだろ? ここへ来るどころか、広場に集まり始めてる……これじゃ、意味ねぇよ」


「大丈夫」


千里眼(せんりがん)を使い、村の細部を確認していたフォセが口を開いた。


「グロリオたちが出てきたけど、(だれ)も気づいていないみたい」


「なんだ、そうか」


胸を()で下ろすラナンの横でランジアが険しい顔をした。


悠長(ゆうちょう)に喜んでいられないわよ。あの人たち……湖へ行くつもりだわ」


「湖?」


首を(かし)げるラナンにアイリスが(あわ)てて説明した。


「そういえば、グロリオはまだ話していなかったわよね。今回の任務は原因不明の湖の拡大を食い止めることなの」


「ん? 湖が拡大してる理由は分かんねぇのか? なのに、それを止めるのか?」


「ええ」


アイリスは(うなず)くと、整った(まゆ)の間に(しわ)を寄せた。


「つまり、私たちは契約主である彼らが湖へ辿(たど)り着く前に、原因を探し出して湖の拡大を止めなくてはならなくなったのよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ